ダンテ先生概念   作:3ご

10 / 99
アルちゃんの憧れ2

「もう、ほんっっっっっっっっっっっっとうにかっこよかったんだから!!!」

 

 時刻は18:32分。

 便利屋68の事務所の中、アルは飲み物片手に今日の出来事を高らかに語りたくてうずうずしている様子だ。

 そんないつもの光景に深い息を吐く影が三つ。ソファで珍しく寛ぐハルカに、勝手に社長椅子に腰かけ両足を机に投げ出すムツキ。もうそろそろ帰るからと、10分程スマートフォンを充電しようとコンセントにアダプターを差し込んでいるカヨコ。

 今回も始まったかと、アルを見つめてはどうやって帰ろうかと思慮するムツキとカヨコ。反転してハルカは既に臨戦態勢。既に立ち上がり、食器を4つ分用意したかと思えば、自前の雑草をふんだんに使った茶葉にお湯を入れ始める。

 アルの「先生の本当に格好良かった話」はこれで96回目。最早ラジオ番組を作れる程のネタがてんこ盛りなのだが、如何せんどれも現実味を帯びない真のアウトローの大活躍なので、集客は見込めそうにない。というよりも、先生であるダンテのその手の話は、キヴォトスのどこに行っても盛大な盛り上げ話として扱われている為、需要に対しての供給が異常な量になっているのだ。

 

「アル、それ今回で96回目だよ。って、どんだけ先生の後を付ければ気が済むの……」

「くふふ~、カヨコっちんそんなこと言ってなんだかんだ楽しみになってるよね? 私はもう帰るから一人で聞いててよ~!」

「あの、すみません。もう全員分のお茶が入りました……」

「……ハルカちゃん、もしかしてわざと?」

「す、すみませんすみませんすみません!!」

「ムツキ、折角容れてくれたんだから無碍にしない」

「はいはーい! んまっ、この茶葉にも愛着が湧いてきたことだし、折角なら頂いてかないとね!」

 

 社長椅子の前に添えられた湯呑に口を付け、鼻から息を出しながらずずっと啜る。

 いつも以上の苦みに舌をぺろんと出すムツキの様子にハルカは再三の謝罪を繰り返すが、「メインはこっち。集中」とカヨコにソファに座らされ、両手を膝の上に置く。

 

「ちょっと、今の聞いていたの!?」

「ごめん社長。あまりにも早口で聞き取れなかったの。もう一度最初から聞かせてくれる?」

 

 絶賛96回目のやり取りにも関わらず、アルの顔は高揚に満ちていた。それは尊敬してやまない真のアウトローである先生の活躍劇を、早く皆に聞かせてやりたいという、表面張力ぎりぎりまで湧き出る逸る心。

 

「もう、ほんっっっっっっっっっっっっとうにかっこよかったんだから!!!」

「アル、戻りすぎ戻りすぎ」

「あらそうかしら? まぁいいわ」

 

 これはつい数時間前の出来事よ。あの水族館が入った大きなビルが目印の交差点の角。私は社長として、どうすればもっと便利屋に仕事が舞い込むのかを考えながらコンビニでこの前作ったチラシをコピーしている最中だったの。まぁ広報とも言うべきかしら? ひたすら路地に貼り付けとけば一人くらいは尋ねてくるのではないかしらと思ってね! 

 すると突然大きな爆発音がしたの。何事かと表に出ると、そこには墜落した戦闘機が横たわってて、その前にはダンテ先生の姿があったの! きっとシャーレの極秘任務に違いないのだけど、先生は後頭部を掻きながら「やっちまったぜ」ってただ一言ぼやくだけ。ここ、テストに出るレベルでアウトローポイントが高いと思わない!? 墜落した戦闘機の前で眉を顰めるのではなく、警戒して辺りに首を振る事も無い。こう、あーあって両手を広げるのが日常的なのにデンジャーな感じ、流石先生だわ!

 でも、問題はここからなのよ。先生の背後には何故か沢山のスケバンが集まってて、左を向けば暴走した大型トラック。右を向けば呑気に台も無く卓球に励む梅花園の子供が一人。寂しそうに球をラケットでコツンコツンとしてて、じっと先生を見つめてるの。そして上を見上げれば信号機にぶら下がって降りれなくなってる柴大将がいて「降ろしてくれ〜」って助けを呼んでいたわ! でもそれだけじゃなくて、戦闘機の奥からは恨み声を上げながらカイザーの私兵部隊が100人程迫って来てて──。

 

「ちょちょちょ待って待ってアル! え? 私が知らないだけで戦争とか起きてる?」

「えっと……戦闘機が一つと、スケバンが沢山と、カイザーの私兵が100人……ですか?」

「くっふふ~、大型トラックを忘れてるよ~! あと、どうして山海経高級中学校の生徒がいるの?」

「これは戦争などではないわ! 先生の日常よ! 真のアウトローのね!」

 

 まずスケバン達がこう叫んだのよ。「よくもウチらの仲間をひん剥いて、車に貼り付けて公道を走り回ってくれたな」って! 先生は一体何の事やらとぼけるのだけど、スケバン達が聞く耳持たずって感じだったわ! 

 それで一斉に彼女達が先生に向かって突撃するのだけど……ここ、凄いわよ? 先生はあろう事か梅花園の子供の元まで走って、卓球のラケットの片方をその子から受け取ったの! 子供は瞳を輝かせながら「遊んでくれるの?」って。先生は「俺でよければ、一緒に踊ってくれないか?」って、手に持った球を思いっきりスケバンに向けて打ち込んだの! 皆、言うまでもないわね? 先生の卓球の腕は本物よ? こう、一人一人のおでこに球を当てつつ、跳ね返った不規則なその弾道を逃す訳もない。スケバンはまた一人、また一人とその球の餌食になっていったの! しかもこれが物凄い連携プレイで、跳ね返ったその球を一回梅花園の子がトスを上げるように球を弾ませたあと、先生が思いっきりスマッシュを放つ……くぅ〜! ねぇ知ってる皆? 卓球の球って弾丸に劣るとも勝らない威力を発揮出来るのよ!? しかもリサイクル性も高いから費用も嵩張らない。今度導入してみようかしら!?

 

「くっふふ~!アルちゃんあのね、卓球の球で人は跳ねないと思うな!」

「うぅ……あの先生なら想像しやすいのが怖い……」

「むしろその山海経の子供の方がよっぽど怖いでしょ……」

「でも、アル様がやれというのなら……!」

「ハルカ、現実を見て。私達は爆弾を使えばいいじゃない」

 

 ここからが凄いのよ? 先生はスケバン全員を卓球の球の餌食にするんだけど、当然、彼女達は起き上がるわ。いくら弾速を超えた速度だとしても、質量が伴わない球なんて威力はたかが知れてるものね! でも先生はそこも折り込み済み。スケバン達は怖気付きながらじりじりと間合いを詰めるのだけど、そこで先生の決め台詞の一つ「チェックメイトだ」が入ったの! こう、指をパチンってして、卓球の球で弾かれた生徒が落としたライフルを軽く彼女達に向かって投げ込んだの! 一体どういうことなのかしらと首を傾げたその瞬間、けたたましいクラクションと共に彼女達に向かって暴走したトラックが突っ込んでいったわ! ライフルに視線を集中していた彼女達は突然の死角からの災厄に慌てふためくのだけど、トラックが通り過ぎた所には誰一人も立ってなかったの! ここ、アウトローポイントがかなり高いわ。だって、ダンテ先生といえばなんだかんだ最後には優しく助けてくれるじゃない? 普段面倒見の良い人がいきなり非情になる展開なんて映画でしか見た事ないわ! 「人を助けるのに、理由がいるのか」と問われた私達では想像も付かないでしょうけど、真のアウトローは心の中に悪魔を飼っているものよ。見習いたいわ!

 

「いくらなんでも先生酷すぎない?」

「くっふ──ほんとだね」

「うぅ……初めて先生と敵対した時の事を思い出します。あれは生きた心地がしませんでしたので」

「変な事を思い出させないで頂戴! もう過去の事よ!」

「私の爆弾を打ち返したの今でも覚えてるよ~! 皆で顔を合わせて冷や汗を掻いたよね~!」

 

 で、まだまだ展開は続くの。戦闘機の奥からカイザーの私兵が100人程押し寄せてくるそのタイミング。一緒になって飛ばされたライフルが回転しながらその四つ角の所まで戻って来たの。行先はどこかしらと目を凝らしているとね、なんとそのライフルは信号機にぶら下がってる柴大将を巻き込んで、小さな竜巻を起こしながら先生の元へと帰って来てたわ! 三半規管が狂った柴大将はおぼつかない足取りでダンテ先生の腰へと腕を預けるの! 普通なら倒れ込むのだけど、今日の柴大将はまるで別人のようだったわ! 「今回は先生の遊びに付き合ってやる」って腰から腕を離しながら先生の顔を見てにやりと口角を上げる。先生は「合言葉は覚えてるな?」ってハンドガンの片方を柴大将に預けたのよ! 

 

「え? 柴大将ってこの話で重要キャラなの? 突発的に出てきたのに」

「くっふふ~! しかも今回はってことは、前にも何かあったのかな?」

「わ、私……紫関ラーメンを爆破して……! 先生と仲がいいなんて聞いてません。うぅ……怒られるかな」

「大丈夫よハルカ。先生は昔の事を引きずったりするような人じゃないもの。それに、その後仲良くげんこつ貰ったじゃない」

「んもぅ、みんな、話の腰を折らないでよ! 良い所なんだから!」

「アル、いつも思うけど、よくじっと見てられるよね」

 

 もうここからクライマックス! 先生と柴大将はくるりと回転して背中を合わせて戦闘機の向こう側にいるカイザー私兵に向かって銃口を向けたの。梅花園の子供は意味を悟ったのかしら? 指を銃の形に変えて、両腕を交差させて彼らの中央で腰を下ろした後、三人一斉に「──ジャックポッド!」って銃弾を撃ち放ったのよ!! その二つの弾丸は青と赤の軌跡を描きながら互いに混じり合うと、現代の兵器でも説明が付かないような衝撃波を巻き散らしたわ! 当然、戦闘機ごとカイザーの私兵を葬り去られて、その道はまるで焼野原。柴大将は「下品な台詞だ」って言いながらハンドガンを先生に投げて渡した後、先生は少しだけ口元に笑みを残しながら銃をホルスターに仕舞い、三人で家路に乗り出したの! ここ、アウトローの最高峰だと思わない!? 二人の男と一人の少女が互いに手を取り合い、巨大な軍隊をたった一撃で葬り去るこの絵面! 包み込む夕焼けがまるでエンディングの様で美しかったわ! しかもね、先生は柴大将に「麺を撃つより、鉛玉を打つ方が得意なんじゃないか?」と問いかけるの。で、柴大将は「たわけぇ!」と一言だけ返して、三人仲良く夕日に向かって歩いて行ったわ! んも~~~~~! スタッフロールが流れた後の余韻を増幅させるおまけがあるなんて、どこまでアウトローなのかしら!! あ、でもその子供はどこからか現れたチャイナ服に黒のジャケットを着た生徒にすぐ連れてかれたの! 門主様、ここにいましたかって言ってたかしら? しかも先生に向かって「師匠! ここで出会うなんて」っても言ってたわね。これはきっと続編があるに違いないわ!

 

「ねぇアル、その女誰なの? 名前と見た目は?」

「くっふふ~、カヨコッち、目がマジだよ!」

「皆、やはり私達が目指すのはあの先生よ! 真のアウトローになる為にも早速卓球セットを買いに行かなくちゃね!」

「うぅ、アル様がやれというのであればやりますが……」

「アルちゃんまじ? 私達がどれだけ頑張っても卓球の球で人を跳ね飛ばせないと思うけどな~!」

 

 すると、事務所のインターホンが急に鳴り響いた。本日の来客予定は未定の筈だが、急な来訪者なんてものはこの界隈ではごく普通の事。

 

 アルはすぐさまソファに座り足を組み、威厳を放つ笑みを浮かべ、その前にはカヨコがけだるそうに腰かけ、ムツキはパンツを見せびらかすように無邪気に机の上にある両足を組み替える。ハルカは入口脇のセキュリティ端末に向かい、下階のドアロックを解除してから扉の横で待機。この姿勢が、彼女たちが相手に「舐められない」ためのフォーメーションである。

 一分後、扉を開いたのはまさに噂の人である彼の姿があった。

 ハルカは回り込んで背中をそっと押し、カヨコの隣に座らせた。カヨコはすぐさま姿勢をずらし、じりじりと距離を詰め始める。アルは相変わらずのかっこよさを放つ彼に瞳を輝かせ、ムツキはようやく自分の無防備さに気づき、乙女らしく足を下ろした。

 

「あら先生、今日はご依頼かしら?」

「ああ、今度山海経高級中学校って所に行くんだが、一人だとどうもな。お前らなら身分を偽ってもバレなそうだし、一緒にどうだと思ってな」

「ねぇ先生、それはありがたいことなんだけど──師匠って呼ばれてるの?」

「……んなもん、レイジョが勝手に呼んでるだけだ」

 

 用意されたお茶を口に含み、必死に話を逸らそうとする彼をカヨコは見逃さない。当の本人は、実は調子に乗って「師匠と呼べ」なんて台詞、こんな場面で漏らす訳にはいかないのだ。

 

「ねぇ先生! いつからいくの~?」

「別の地区なら爆弾を沢山持ってかなきゃ……」

「明後日だな。あと爆弾はいらねえぞ。あそこは外部の客には結構警戒してるからな、変なもん持ち込むなよ? ……おいハルカ、変なもん持ち込むなよ?」

「そうと決まれば準備はしっかりしておかなきゃね! 先生の依頼だもの! あ、あと先生、報酬はどれくらいあるのかしら? いくら先生の頼みだからといっても無料って訳にはいかないの」

「報酬は連邦生徒会から支払われる。つまり──でかい山って訳だ。嫌いじゃないだろ? こういう展開」

「ふふ、決まりね。請けない理由はないわ。だって私達は──」

 

 アルは静かに立ち上がり、壁に掛けられたライフルを抜き取って鋼鉄のボルトを引いた。澄み渡るコッキング音が、まるで新天地への号砲のように室内を震わせる。ここから始まる未知の世界、そこで出会うであろう新たな人々──そのすべてが、彼女の胸を熱く掻き立てた。あの男となら、地の果てでも、たとえ地獄の果てであろうとも臆する理由はない。真に目指すべき在り方を一つでも多く学び、自らの血肉へと変えると決めたその覚悟が、アルの瞳の奥で確かな炎となって燃え上がっていた。

 

「悪魔も泣き出す、便利屋68なのだから!」

 

 憧れの人物が提示した依頼は、彼女たちの胸奥を心から震わせる。その一語一語が羅針盤となり、行く手の迷いを払う光を放つ。

 そして今日も彼女たちは、いかなる束縛にも屈さず、己の信条を頼りに歩み続ける。その背に宿るのは、静かに燃える誓いと揺るぎない覚悟──見る者の目にすらはっきりと滲んでいた。

 

 





体調崩して熱出してました・・・
ですが、頭がおかしくなった状態でないと「アルちゃんの憧れ」は書けないなと思い、朦朧としながら書き上げたので褒めてください!

次回の「アルちゃんの憧れ」の舞台は山海経です!
二次創作だからこそ出来る展開ですね!
お楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。