ダンテ先生概念   作:3ご

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トリニティ領内

 トリニティ総合学園、言わずとしれたマンモス校だ。キヴォトスでは三本の指に入る程学生の人口も多く、優雅で清楚、品性を重んじる傾向の強い格式の高い学校である。その対となるゲヘナ学園とは犬猿の仲だ。

 そのトリニティには三つの派閥がある。順に「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」。その三つが連合として手を取り合った結果、トリニティ総合学園が生まれる形となった。当時、三つの学校は会談の形としてお茶会を選んだことから、その会談は「ティーパーティー」と呼ばれることになり、その名残が、生徒会という名で現在まで続いているのだという。つまり、ダンテはトリニティの歴史に名を刻むトップの組合から呼ばれた訳だ。

 

 七神リン曰く、ダンテがキヴォトスに来てから状況という状況に変化が起こったらしい。その変化とは至ってシンプルなものだ。シャーレとかいう超法規的機関が成立したことを脅威に感じているのではないか。そう推測する。下手したらエデン条約の調印に横やりが入るではないか、築こうとしている平和にヒビを入れられるのではないか。そういった考えがトリニティトップの根底にあるのではないかと、彼女は推測していた。勿論真相は直接本人に聞いてみないと分からないが、シャーレを絡ませるということはトリニティにとってそれなり意味とメリットがあるのだそうだ。

 当然、キヴォトスに来たばかりのダンテにとってはチンプンカンプンな言葉ばかりである。要はトリニティと仲が悪いゲヘナに「私はシャーレって強い友達がいるんだぞ!」というアピールと、シャーレに対して「お前危なそうだから自分達の領地で管理するわ。大事な契約が終わるまでな。もしゲヘナに取られて一方的に攻撃されたら厄介だからよ」というメッセージが込められているとリンは必死に説明する。子供を相手にするように。

 

 トリニティがそこまでシャーレに警戒する理由は一つ。ダンテそのものである。

 彼がキヴォトスに来てから二週間と少し、たったそれだけの期間にあまねく不良集団や犯罪者をシッチャカメッチャかのボッコボコのボコにしたからである。それこそクロノスから特集を組まれる程だ。

 卓越し切った戦闘能力は大国から見ても異常。トリニティ切っての戦闘マシーンである聖園ミカでさえ彼には勝てないのではないか? そんな噂が狼煙を上げる事自体、キヴォトスではダンテの存在は異常値と捉えられているのだ。

 

 午前10時30分。トリニティ総合学園近くの公園にて、ガゼボの中でぽつんとパンとコーヒーを食する大男が一人。屋根が付いていて、四方が開放された小さな建物の周りには色とりどりの花が咲いており、中にいる男は場違いな気分に苛まれながらも、迷子になって歩き疲れているためか背に腹は代えられなくとにかく座れる場所で休憩を取っていた。

 朝っぱらから大きな溜息を吐きながらペットボトルのコーヒーを一口、二口と喉に流し込み、レンジで温めたパンはすっかり冷えてふやけてヒナヒナのシナシナのまま、大きな口を開けて無造作に齧り付く。口をもぐもぐさせながらスマートフォンを開き、前日にアロナから作成して貰った「初めてのキヴォトス!~トリニティ編~」に再び目を通す。

 

「ダンテ、まだ落ち込んでいるのですか? 後、折角アロナがナビをしますと胸を張ったのに、断った癖に結局迷子になってるじゃないですか!」

「違うぜアロナ、あの時は誰の声も聞きたくなかったんだ。だってあんな観衆の目にさらされて、何もしてないのに逮捕されそうになったんだぜ? 普通落ち込むぜ」

「ダンテは目立つ先生ですから、日頃の行いなんてすぐに噂で広がるのですよ! それにアロナは知ってます、ダンテが凄く優しい人だという事を。それでいいじゃないですか!」

 

 

 時を遡る事数刻前。

 

 けたたましい轟音の目覚ましが部屋中に鳴り響いたと思ったら、今度は数発の銃撃が部屋中に飛び交い、辺りに静寂をもたらす。だがそれはあくまで一台目で、今度はさっきよりも数倍大きい目覚ましい時計が鶏よりも、まるで鼓膜が破けてもおかしくないような、音量で部屋が揺れるレベルのモーニングコールを部屋中に響かせた。流石に部屋の主も音の異常値に気付いたいのか、飛び上がるようにベッドから起き上がり、防弾仕様に包まれた緊急停止スイッチを押しに壁の一番向こうまで走り抜き、音を止める。

 額には雫になった汗と、珍しく肺を大きく膨らませる吐息。流石にやり過ぎだと愚痴がこぼれるも、彼女にそう頼んだのは自分だと先日の記憶を思い出し、部屋の明かりを付ける。

 

 ──おはようございます先生。いや、ダンテ。アロナちゃんのスーパー目覚ましはいかがでしたでしょうか! よろしければ毎日これで起こして差し上げても構いませんよ! えっへへ、あんな速度で飛び起きるなんて、私は優秀な相棒ですね!

 

 部屋の隅に備え付けられたスピーカーから可愛らしい声が聞こえる。ダンテはそれを耳に入れつつも、特に返事をせずにシャワー室に入り身を綺麗にし、すぐさま体を拭き上げ洗面所に用意してあった服に袖を通した。

 クルーネック型の真っ黒なTシャツの上にホルスターを巻き、ヴィンテージ調に仕上がったレザータイプのパンツ。ホルスターには護身用のガバメントが一丁と、それを隠す様に上から羽織る深紅色のショートレザージャケット。

 鏡に映っている自身の姿を確認する。タイトに仕上がった服にはヨレやほつれなどが一切なく、光沢感は高級感を出し、モデル顔負けのスタイル持ったダンテには相応しい恰好だ。寝起きは最悪だが前日は早く寝たおかげで顔周りはすっきりしており、輝く銀髪もさらさらに靡いている。

 

 部屋に戻り「おはようアロナ」とダンテが声を掛けると、その何倍もの声量で「おはようございますダンテ!!」と句読点を抜いた数倍の声量で返事がくる。アロナはもしかしたらダンテが怒っているのかもと若干の焦燥感が積もっていたが、特にそんなことは無さそうな雰囲気を醸し出していたので安心を憶えた。ただ、金輪際さっきみたいな起こし方はしないで欲しいとせがまれた為、朝一発目の仕事は作成したスクリプトの削除になった。

 

 連絡用のスマートフォン、財布、そしてアロナが入っているタブレットをバッグの中に詰め込み、足音が響くブーツを履き颯爽とシャーレから出ると、その足で駅方面へと歩き出す。

 とりあえずトリニティまでの道はスマートフォンのナビマップで事足りると判断したダンテは、今回は連邦生徒会の力を借りず、自分だけの力で目的地まで到着することを目標としていた。それは何よりも自由を愛する彼らしい行動だ。敵地へと送られ、ドンパチを繰り返した後に回収地点まで移動するという詰まらない任務に飽き飽きしていたダンテ。リンを説得し、やっとの思いで自由の翼の一手を得ることに成功する。

 中央線も、タクシーだって有効活用。元の世界に居た頃でもそこまで頻繁に移動することは無かった彼だが、それでも大人。事前準備は全部アロナに任せたが、これから大きな一歩を踏み出すと意気揚々だ。

 

「ダンテ、私が作成した資料は目を通しましたか?」

「いや、まだだ。そうだったな」

「移動中に見ちゃいましょう!」

 

 そんな中事件が起こる。

 

 ──トリニティ領内。

 学区内からは程遠い場所だが、あちらこちらでとんがり屋根の建物や、時計塔が目立つ。全体的に高い建物が多く、初めて来る者は首を痛める事必須だ。

 約束の時間より早めに到着したダンテはとにかく小腹が空いていた。かといってがっつり食べる時間でもなく、パンを一口齧ろうと近くのコンビニに立ち寄る。

 入店するや否や、挨拶の掛け声と共に店員の視線はダンテから離れようとしなかった。本人は特に気付かず、呑気に鼻歌を歌いながらパンコーナーまで足を運び、一時の楽しみの時間を共にする相棒を選別し始める。

 そんなダンテの姿を見て、店員はあるニュースを思い出していた。キヴォトスに舞い降りた悪魔の話題。女子生徒を悉く手にかけ、我が欲を満たし、自分勝手に好き勝手に破壊と混乱を巻き起こす者。今目の前で商品を選んでいる深紅のジャケットを着た大男は、そんな悪魔にそっくりな姿をしているのだ。

 手が震える、足が震える。腰は引けて今にも後ろに倒れて失神しそうだ。折角トリニティ内で気楽にアルバイトが出来る場所を見つけたのに。学校から距離がある場所で、友人や他生徒にばれないような場所を見つけたのにどうしてこんな不運が舞い降りる? 女子生徒の自問は続くが、繰り返した所で問題は解決しない。

 

 ──杏山カズサは判断を迫られていた。

 

 下手したら、レジ打ちのタイミングで銃を構えられ金銭を奪われるかもしれない。

 興味本位で検索したSNSの投稿で、ダンテが無防備なコンビニ店員に銃を向けている画像を見つけた事を思い出したカズサは居ても立っても居られなくなり、レジ下にある防犯スイッチにそっと指を掛けた。

 無論、ダンテにとってはただ人に指を指すように避難の指示をしただけなのだが、真実はしばらく闇の中だ。 

 

「アロナ、ここのコンビニにはストロベリーサンデーは置いてないみたいだぞ。他を当たるか? ……そうだな、食い過ぎはよくないよな」

 

 アロナとイヤホンで通話しながら視線を感じたダンテは、ちらりと店員のカズサに視線を向ける。カズサも丁度ダンテに視線を向けていた為、ばっちりと目が合ってしまった。

 思わず恐怖で目を逸らしてしまうカズサ。キャスパリーグとして番を張っていた時期があるとはいえ、今や平和と糖分を愛する放課後スイーツ部。牙は遠の昔に抜け落ちているのだ。そんな彼女の耳に残ったのは、ストロベリーサンデーというスイーツだけ。

 彼女はこれを隠語と判断した。きっと、お目にかかる女子生徒をスイーツの名前を借り表現しているのだろう。つまり、彼の欲に自身は該当しなかったということだ。これには安心を憶えたが、それだと他の生徒が犠牲になってしまう。

 ここで自分が止めなければ。

 カズサの心の迷いは断ち切れ、レジ下にある防犯スイッチを勢いよく押す。すると、けたたましいサイレン音が鳴り響き、警告灯のパトランプがビカビカに点滅を繰り返し始めた。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

 ダンテの反応は至って正常だ。

 特に何のトラブルなど起こっていないのにも関わらず、警告灯が響くなど日常ではあってはならないことだ。

 反面、カズサは犯罪者であるダンテが慌てふためく姿にほくそ笑む。コンビニ強盗を企て、挙句店員を手籠めにする気だった奴の計画に風穴を開けてやったのだと。魂胆と推察は的外れなのは後から判明するが。

 

「私は……トリニティのひとりの生徒として、私の日常を守る為……戦う!!」

「何の話だ!?」

 

 レジ下に収納されていた軽機関銃を取り出し、そのままレジ台を飛び越えて前のめりに無造作に発砲。

 30発を収納したマガジンの弾が尽きる程引き金を引いたが、軽やかなダンテのステップで全て避けられる。あまりの人間離れしたスピードに手元がさらに眩む。落ち着けと言葉を交わされ銃を取り上げられるカズサは、その反動でレジ台に背中を打ち付けられ呼吸をが難しくなり、背中の衝撃は圧迫感となり大きく咳き込む。

 

「くぅ……あ……あ……」

 

 銃を取り上げられ、尻餅を付き、足が震えて上手く立ち上がれないカズサは恐怖に屈していた。下から見上げるダンテの顔はまさに悪魔そのもので、思わず部皆の顔が思い浮かぶ。それは走馬灯と言うべき他ならない。

 ダンテは目の前で倒れている少女に手を差し伸べようとしたが、当の彼女は恐怖に視界が歪み、これからその拳で痛めつけられるという錯覚から抜け出せないでいた。

 

「ひ……や、やめ」

 

 そんな時、真横から衝撃音が響く。

 自動ドアはぐにゃりと曲がり、機動隊の恰好をした女子生徒が数人入り込んで来た。手に握り込んであるシールドにはKSPDの文字。

 散開した生徒の中心から、堂々とした威風をなびかせた生徒。大きな胸部を隠した紺色のシャツの上にロングコートを羽織り、両手をポケットに入れたまま瞳は睨みを効かせる。薄い金色の髪は片目を隠し、狂犬と恐れられた人物。

 

「ヴァルキューレ警察だ!! 一体何をして──貴様は……!?」

 

 コンビニ内部はハチャメチャに荒れており、ダンテの片手には軽機関銃。その目の前には息を切らし項垂れている可憐な少女。最悪な噂の尾ひれが付いた危険人物が最悪な事件を巻き起こしているその光景に──尾刃カンナのボルテージは瞬く間に頂点に上り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コンビニでカズサに「ア―シタ―」って適当に挨拶されたい人生でした・・・。
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