ダンテ先生概念   作:3ご

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ティーパーティー

「それで、早速問題を引き起こして来れられたと。全ては濡れ衣で、相手がただ勘違いしてヴァルキューレを呼んだと。ふむふむ、そんな話を信じろというのですか? キヴォトスに舞い降りた悪魔と名高い、シャーレの先生……ダンテ」

 

 午後12時20分。

 街並みが見える巨大なテラスの中心に、細長いガーデンテーブル。その中心にはマカロンやスポンジケーキ、包で丁寧に梱包されたチョコレートなどが飾り付けられている。ダンテの向かい側に座っているのは今回のホストの桐藤ナギサ、その横にはトリニティ屈指の戦闘力を誇る聖園ミカが座っている。ダンテは淹れられた紅茶を一口喉に通し、香りを楽しんだ後、ただ一言ものぐさな態度で口を動かす。

 

「でも本当なんだぜ? 俺はただコンビニで買い物をしようとしただけなんだ。それが急にサイレンが鳴って、店員が銃をぶっ放してきやがった。それを制圧するのは当然なんじゃないか? その後来た警察とも一戦交わったのは……反省してるけどよ」

 

 だが、その警察との戦闘も突然始まりの合図がなり、ダンテは先手を打たれる形となった。

 

 尾刃カンナの背後から投擲物がダンテに向かって投げられたと思ったら、カラカラと地面を転がり大量の煙を出す。その隙にカンナは懐に閉まっていた手錠を取り出しダンテの手首を抑えようとするも、その時点でダンテの姿は無く、カンナの行動は空振りに終わる。

 「どこに行った」と姿勢を低くし周囲に視線を向けるカンナ。その中で煙越しでも見える影がレジの方面へと向かって行くのが見えた。カンナの予想は大当たりで、コンビニ内で「動くな」という大男の声が聞こえ、生徒の口を塞ぐ声も漏れる。

 被害者を回収し損ねたカンナは、自分の手際の悪さを呪った。現場仕事を誰よりも経験し、様々な危険地帯を渡り歩いたという自信が仇となったのだ。今までのようなただの不良生徒であるならば、最初の一手、そもそもスモークグレネードを用意するまでもないだろう。だが、今回の相手は悪名高いシャーレの先生だ。

 じゃらじゃらとした小銭の音は、きっとレジの金庫からお金を奪っている音だろう。重たいファンの音は、機関銃のモーター音か、それよりも危険な爆発物か。煙のせいで視界が確保出来ず、状況が読み込めないカンナの額に焦りの水滴が滴り落ちる。

 数秒、十秒経っただろうか。高いアラート音が鳴り響いたと思ったら、今度は扉をバタンと閉める音がこだまする。今度はビニールのカサカサ音。そしてもう一度扉の音が聞こえると、今度は反応そのものが一切聞こえなくなっていた。

 煙が晴れ、視界が戻った頃にはそこはもうもぬけの殻。女子生徒は位置も変わらず、口元にはハンカチ。カウンターの上には小銭が数枚置かれているだけであった。

 

 尾刃カンナは憤る。

 

 悪戯に女子生徒を傷つけるだけ傷つけて乱暴して、気が済むまでコンビニ内部を荒らし回っただけ。そこには悪の美学もなく、犯罪者の野望も無い。ただの暴力だ。それも、自己の欲求を満たすためだけの災厄。今回は未遂で終わったが、もし到着が遅れていたらと考えると、腑が煮えくり返る。

 こんな奴は絶対に野放しにしてはいけないと、すぐに捜査に取り掛かるカンナだったが、彼女の思いとは裏腹に現実の展開は急を要した。

 一本の電話が鳴る。彼女が嫌いな上層部だ。正義を執行せず、利益の為だけに動く秩序の敵。簡単な内容だった。今回のコンビニの事件にはシャーレが関わっているので、捜査を打ち切りにするという指令だ。理由を求めるカンナだが、電話越しの声は冷笑混じった声で「謹慎処分を受けたいのか」と問う。思わず「激しく乱暴を受けた生徒がいるんだぞ」と声を荒げるカンナだったが、全く相手にされず電話を切られる事となった。

 現場から出て空を見上げる。これから大きな変化をしていくキヴォトスに憂いた瞳を向け、ただ悲しく、物思いに耽りながら次の現場に赴くのであった。

 

「何もしてないというのなら逃げる必要はありません。はぁ……とりあえず今回の件は揉み消しましたから、次からは気をつけてください」

「もみ消すなんて卑怯な事しなくていいぜ。俺にはきちんと理由はあるし、あの生徒もきっと理解してくれるさ」

「これから大事な調印式があるのです。不穏因子は排除しておくに限る、少なくとも全てが終わってから自首して頂けますか?」

 

 渋々、その提案を受けることになった。

 ダンテが恐れている事は一つ。リンやユウカにこの事実が知れ渡ると言うことだ。特にユウカは最近ダンテに慣れてきたからか、言いたい事を言いたい放題喋るようになり、ダメな事をしたら普通に怒られてしまう。怒った顔も可愛いとは思っているダンテだが、それ以上に情けなさや面倒臭さが勝ってしまうのだ。

 

「ふぅ、安心出来ませんね。ミカさん、どう思われますか?」

「えぇ!? ナギちゃんゲストの目の前でそんなこと聞く普通!? ん〜〜……かっこいいとは思う」

「ミカさん、お口にロールケーキをぶちこまれたいのですか? あなたの好みなど聞いていません」

 

 ダンテを前にして緊張しているナギサとは違い、ミカはどこも強張ることなくいつも通りの姿勢だった。それもそのはず、聖園ミカという人物は少しばかり腕っぷし、戦闘の面において自信を持っている生徒。

 ダンテもまた、そんなミカの様子に普段の生徒とは違う雰囲気を感じ取っていた。清楚で華やかな声と見た目、裏腹に感じ取る無邪気さは善とも取れるし悪とも捉えれる。この会合自体、どこか他人事の様に振る舞っており真剣さが感じられない。それは演技なのか本心なのか、掴み所が無い。

 

「雑談はここまでにして、本題に入らせて頂きます」

 ナギサは続ける。

 

「私達がシャーレの先生にお願いしたい事はとても簡単な事です」

「簡単なことだけど重要な事だよ! 耳をかっぽじってよく聞く事!」

「先にお手紙でお伝えしておいたとは思いますが。ダンテ、あなたには補習授業部の顧問になって頂きたいと思っております」

 

 リンから聞いた政治背景。それはシャーレとの関係性を作っておくこと。

 万が一ゲヘナが調印式を破ろうものなら、その場では必ず抗争になる。基本はミカを筆頭に戦略を組み立てていけばいいのだが、保険があると尚安心だ。それに、ダンテという保険がいるだけで調印式の成功率は跳ね上がる。

 

「補習授業部ね、話は聞いてる」

「この大事な時期に成績の振るわない4名の方がいらっしゃいまして……。トリニティは昔から文武両道を掲げる文化です。この歴史を守る為、当然一人もこぼしてはならない」

「エデン条約の件でもう本当猫の手でも借りたい状況になってるんだ! 私達も協力したいけど……どうしたもんかと。そこで目星を付けたのがシャーレなの。きっと怖ーい先生がくれば皆一生懸命勉強するかなって思ってさ! それに、なんだかんだシャーレの活躍って凄まじいし。噂は最悪だけど」

「頼みごとをするのに噂は最悪などと言ってはいけませんよミカさん」

「でも本当じゃん? それに、どんな形でも”先生”なんでしょ? 今どき珍しいよね、先生って。先の道を生きると書いて先生……導く人って意味であってるよね?」

 

 先生。

 一匹狼に近い生き方をしてきたダンテにとって、先生は無縁とも言える存在だ。そんなだからか、彼は苦虫を嚙み潰した顔で口を開く。

 

「……俺は先生になるつもりはないぜ」

 

 勿論、ダンテだって先生という存在は知っている。教鞭を振るい、時には生徒の導き手として、時には親愛なる隣人として。聖職者という役割を持った格式高い誇りを持てる仕事だ。それが彼自身に当てはまるかといえば、否定的な答えしか返って来ないだろう。そもそも、ダンテにとってシャーレの仕事はただの傭兵じみた銃撃戦ばかりだ。彼が考えている先生とは正反対。

 

「……あくまでも先生は……ですよね? ここに来られたという事は、シャーレとして、機関として関わるのは承知して頂けるという事でよろしいですか?」

 

 勝手な返事はシャーレの行政官の了承を得てからと理解しているダンテだが、どちらにしろ早いか遅いかの話。ここで単独で決定しても結果は変わらないと判断する。ナギサは目元を暗くし鋭利な瞳でダンテの返事を待つが、対照的にミカは好奇心旺盛な瞳でダンテの発言に飛びついた。

 

「なになに、もしかしてアウトローな道にでも進む感じ? やっぱり報告書通りの傍若無人っぷりだね!」

「報告書ってのがどんなのか気になるが、大方予想出来るな」

「いいえミカさん、私は想像以上にお話が出来る方だとお見受けしましたよ。シャーレの事情はともかく、先生が嫌なのでしたら監視役兼護衛という形でどうでしょうか? 私達の事情にもなりますが、ダンテにお任せしたいのは落第寸前の生徒の救済です。先生と言う名目が無くても可能な範囲だとは思いますが……」

「ああ、もうなんでもいいさ。一度請け負った仕事だ。きちんとやるさ」

 

 返事を了承と受け取った二人は、顔を見合わせて一度頷く。ナギサは手元にあった生徒リストをダンテに手渡しすると、彼は渋々と手に取り、中身の紙に数枚目を通した。

 

「ん……?」

「どうかしたの? ダンテ先生?」

 

 いじわるそうな目つきでワザと敬称で名前を呼ぶミカ。ダンテはバツが悪そうに一人の生徒を指し示した。

 

「いや、知ってる奴が一人いてな。落第生か……うん、結構良い子な感じがしたんだがな」

「え、なにそれ先生なんかいやらしい。もしかして既に手に掛けた子?」

「変な事言うな! そもそも俺はお前らが思ってる事なんてこれっぽっちもしたことがないんだぜ!」

 

ーー

ーー

 

 ──トリニティ学内。

 時刻は夜の8時。学校内でダンテがほっつき歩いていたらパニックになるからと、その落第生との約束時間は夜に指定されることとなった。

 集合場所は教室。約束の時間の30分前に来たダンテは、しばらく校内を見回った後、指定された教室に入り生徒を待つことにした。

 空き時間のタイミングを狙っていたアロナはダンテが椅子に着席するやいなやタブレットの画面を光らせ、ダンテの意識を彼女の空間へと遷移させる。

 

「おい、呼ぶなら呼ぶって言ってくれよ。びっくりしたじゃねぇか」

「びっくりするぐらい良いじゃないですか! ダンテ、先生を辞めるってどういうことですか!? アロナは何も聞いてないです!」

「そのことか……」

「そのことか……じゃないんです! ダンテは先生を辞めちゃだめです! まだまだ沢山続けるんです!!」

 

 両手をグーにし、彼の足元で首を上に曲げ抗議の姿勢を見せるアロナ。そんな彼女にニヒルとは程遠い、普段の生活でも見せない微笑みを口元に浮き出させると、両手でアロナの腋を抱え、そっと椅子の上に座らせる。そして自身は膝を着き、彼女の視線よりも少し下の位置で見上げるような姿勢を正すと、片方の手で泣きそうな彼女の頬を撫で、親指の腹で涙を拭った。

 

「すまないアロナ、泣かせる気は無かった。確かにお前に相談するべきだったな」

「全くです!! 急に決めるのはよくないです!! うぅ……どうして、なんですか?」

「だってほら、俺先生なんか向いてないだろう? 生徒を傷つける先生なんかどこの世界にもいやしねぇ」

「今は……今はまだダンテがどんなお人か皆知らないんです! 私だってまだまだ知らないことばかりなのに……でも、それでも優しい人だなって思っているんですよ」

「そう言われると嬉しいな。アロナは優しいんだな」

「ダメです、絶対ダメですからね! ……その、少し疑問に思ったことを聞いてもいいですか?」

「ん? いいぜ」

「ダンテは……普段は気さくにされてますが、どこか……その、自分の居場所を作らないように見えます」

「居場所? ……どうだろうな」

 

 ダンテの脳裏に、ボビーの穴蔵の光景が過る。

 力無き彼が守れなかった、路面のこべりついた泥のような腐った日常。掃きだめの深淵は酒と暴力と殺しの世界。でもどこか愛おしく、闇に這いつくばるしか選択肢が無かった彼にとって一種の青春。親代わりとも言える相棒も、普通の人間らしい平和の象徴だった彼女の特製ドリアも、全ては饗宴と血だまりと絶望の中に消えていった。

 その元凶は、もちろんダンテが討ち取る事になる。

 全ては終わった筈だった。筈だったのに、彼に残されたのは習性だ。大事な物が出来たら壊れる世界での生き方は、大事な物を作らない事。

 

「あ、どなたか来ましたね。とにかく!! 考え直してください!!」

 

 タブレットの画面が消えると意識は彼方へと飛ばされ、校舎の中。

 丁度扉が開くタイミングで彼はタブレットを閉じ、入り口の方へと視線を配る。

 

「やっぱりか」

「あはは、夜遅くにこんばんは、ダンテ先生。えっと……ご事情は把握済みですよね」

「いや知らないぞ」

「ええ!? あの時限定ペロログッズを強奪しに行ったじゃないですか!」

「いやまてあれはバレたら普通退学だろう。補習で済むのか?」

「あの日はテストだったんですよ」

 

 阿慈谷ヒフミ。

 それはダンテがこのキヴォトスに来てから出会った数少ない、まともに会話をしてくれる生徒。

 

「お前実は不良だろ……ファウストめ」

 

 

 

 




ヒフミってテンガロンハット滅茶苦茶似合うと思うんですよね。
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