ダンテ先生概念   作:3ご

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テロリストをやっつけろ!

 市街地に到着すると、待っているのは鳥の鳴き声さえも響かない静寂。何故か街灯も消え、奥底まで視線を伸ばしても一面の闇。

 敵はどこだと辺りに気を配るなか、一発の銃声が鳴り響くと、ダンテの耳元に切り裂く空気の音が響く。

 一撃で仕留めるつもりだったのか、慌てたのか作戦なのかは分からないが、その銃声を皮切りに今度はマシンガンや手榴弾。果てはグレネードランチャーまで撃ち込んでくる敵。

 彼にとってそのくらいの攻撃は何とも思わない。が、背後にいるヒフミやコハルは身を小さく屈め、恐る恐ると障害物の影から敵がいるであろう場所に視線を合わせる。

 四角の大きなビルの2階に二人。その下のエントランスの影に二人。

 テロリストと言うくらいだ、数はもっといるのだろうと、ダンテはハスミに訪ねる。

 

「ハスミ、敵は何人だ?」

「4人です」

「4人? へ、敵地に侵入するにしては随分とすくねぇじゃなーか。さては相当の腕利きだな? こりゃ楽しみになってきやがった。で、敵はどんな奴なんだ? ゲヘナのテロリスト集団とか何とか言ってたよな?」

「はい。あの忌々しい連中の名前は──そう、美食研究会」

 

 真剣なハスミの表情とは裏腹に、ダンテは言葉の処理が出来なかったのか、瞬きを何度も繰り返してはハスミの顔を見続ける。

 本来、テロリストと呼ばれる連中の名前は異質な事が多い。武力抗争を趣とした者は連合を名乗ったり、自由を求める者は解放軍と名乗ったりと、それが普通だ。普通なのだ。でもここはキヴォトス。そんな普通じゃあり得ない事が起きるのが当たり前な世界。

 

「……美食? 隠語か?」

「いえ、言葉通りの意味です。彼女達はキヴォトス中のあらゆる食を求め、日夜活動に励んでいます。時には重要人物を拉致し、時には気に入らない店を爆発し消滅させ、時にはこうやって他校の自治区に無断で侵入する……下劣極まりない、ゲヘナを象徴するような連中です」

「待てハスミ……なんだ、その。美食研究会って奴らは美味い飯を食うためだけにいきなり鉛弾を撃ち込んでくる連中だって言うのか?」

「ええ、それが彼女達です!!」

 

 爆発は段々と勢いを増していき、彼らの足元へと迫る。正義実現委員会のハスミの姿が見えたからだろう。残された時間はもう無いと判断した美食研究会は、追撃の手を緩めようとしない。

 ──マグロが熱風で!!

 風に乗って微かに聞こえた悲痛な叫びはきっと幻聴だと拒否したダンテは、とりあえず危ないからとハスミの肩を下げ、作戦を練ろうと話し合う。

 

「あの調子ではとすぐに弾は尽きるでしょう。その時がチャンスです。……ところで先生、あなたはその銃一つだけなのですか?」

「ああ、俺はいつもこれだ。ま、と言っても俺本来の武器じゃねーがな」

 

 懐から一丁の銃を出し、スライドを引き片方の手で構える。

 本来なら大型の二丁拳銃を両手に持つスタイルの彼だが、未だ最愛の出会いには至らず。こうして壊れやすいガバメントを使いにくそうに、まるで精密機器のように扱う。まだキヴォトスに来て間もない彼だが、既にかなりの数の銃を壊している。おかげで経理の人間から「そんなすぐ壊れます?」「もしかして横流ししてる……?」と変な噂を立てられては毎回ユウカが庇ってくれるのがお約束の流れだ。

 

 ──そう、だから例え不注意だとしても、その銃を狙撃で撃ち抜かれる訳にはいかなかった。

 

 ただ一言「気の緩み」という理由は、連邦生徒会の生徒達を納得させるには少々言葉が足りないであろうことは、ダンテ自身がよく理解している。お前みたいなのが気を緩めるくらいで銃を跳ね飛ばされる訳ないだろうというのはごもっともな意見だ。だからこそ、言い訳が難しい。

 

「やりやがったな……しかも下水に落ちるなんてよ。回収は難しい。ただでさえ散々言われてるのによ……許せねぇ」

 

 爆発の影響で車に刺さった鉄の棒を引っこ抜き、そのまま跳躍し車を乗り越え華麗に着地。片手で持った鉄の棒を肩に据え、隆起したアスファルトに片足を乗せながら標的の位置を割り出す。ターゲットは特に移動などはしておらず、同じ場所で次の攻撃の為に弾倉を込める。

 テロリスト達もさっきの一発で敵の武力の一部を削いだと希望を湧き上がらせる。が、一人の見た事のない人物が鉄の棒を一本こしらえ、車の影から出てきたのには驚きを隠せないでいた。もしかしたら陽動作戦なのかもしれない。そんな不安が脳内を過る。

 

「ダンテ、私が出る。これくらいの銃弾なら突撃してもダメージは少ないはずだ」

「ま、待ちなさいよ! 正義実現委員会のエリートとしてここは私が……!」

「皆で行けば大丈夫ですよ! こっちにはハスミさんやアズサちゃんもいますし、手分けして戦えば!」

「その前に作戦を……」

「いーや、お前らは引っ込んでな」

 

 彼女達が飛び上がろうとするのを片手で制すと、ダンテはさらに前進を続け、鉄の棒を無邪気に振り回す。

 それは、彼が新しい武器を手にする一種の儀式みたいなもの。どんな武器でも数分も使えば癖も戦力も全て把握する彼の才能と言ってもいい。まるで意思疎通をするかのように棒を鞭のようにしならせ、空を切る音は高速を超えたかまいたちを生み出し、前方の瓦礫に微かな切り傷を入れる。

 見た事のない光景だったのだろう。補習授業部やハスミは彼の演武に目が釘付けになっていた。そして彼の底知れぬ身体能力に僅かばかりの探求心が刺激される。それと同時に、今彼の元に飛び出せばひとたまりもなく切り刻まれるだろうという恐怖心も芽生え始め、飛び出しそうになっていたアズサは銃口を下に下ろし、ダンテの背中を見つめるだけになる。

 

「さぁ、楽しませてくれよ!!!」

 

 両腕を広げる挑発行為。それにどんな意図や罠があるか皆目見当も付かないテロリストのリーダーは、隣にいる部員と下にいる部員に一斉射撃の指示を出す。無暗に弾を浪費する理由を問いたい部員だったが、確かに遠くにいる人物は不気味だと、照準を定めた。冷静な判断よりも本能的な危機感が勝ったことを、まだ彼女達自身も気づいていない。

 

 遠慮はいらない、全力で撃ち込む──そんな合図が鳴ると、テロリスト達は持ち寄る武力を一斉に掃射。マシンガンやアサルトライフルなどの連射性能に優れた銃は、使い手により命中率のレンジが大幅に変わる銃だ。本来なら年端もいかない少女達では扱えるはずではないのだが、このゲヘナのテロリストは完全に手慣れている。ぶれのない射撃は確実に対象の元へと届きダメージを与える筈なのだが、今回は……相手が悪かった。

 片手に持ったただの鉄の棒は、最早飛行機のプロペラ。高速で回転する鉄の棒を貫通しようと銃弾たちは突撃するが、一個としてその先へは通れず軍門に下る。

 ハスミもヒフミも、アズサやハナコやコハルも、目の前の光景には「予想外」という言葉しか思い当たらない。さっきの演武を見る限り確かに接近戦に持ち込めばターゲットはひとたまりもないだろう。だが、その接近まではどうするつもりなのだろうか。鉄の棒が生み出す奇策とは如何なるものなのか。そんな期待と好奇心は「ただ棒を振り回す」という結果で終る──なんていうのは、まだダンテの全容を知らない者がいう言葉だ。

 

 力学を完全に無視した鉄の棒の力を緩めると、そこには大量の弾がべったりと棒に纏わり付いている。今にも重力に負けて落ちそうになる弾を今度は真横に薙ぎ払うように投げ出すと、銃で放つ速度など優に超えた弾丸の雨あられが、今度はテロリスト達に降りかかった。

 弾丸達はひしゃげると同時にそれぞれの銃を亡き者にすると、今度こそ重力の思い通りに地面に軽いた音を響かせる。

 テロリスト達は一瞬何が起こったのか理解出来なかったのか、呆然と立ち尽くすばかり。ターゲットのマグロもぼろぼろになりとても食べれた物ではない。が、リーダーは食べ物を粗末にするのは信条に反するのか、ぬいぐるみを抱える子供のようにマグロを抱きかかえ、とにかく逃げなければと脚を動かそうとする。

 ──逃げなければ。

 本能で感じる危機感に従い、号令と共に退散をしようとするテロリスト達だったが。

 

 ──易々と逃がすダンテではない。

 

 鉄の棒を無限の形に沿うようにくるりと回し、棒が天に向くタイミングで姿勢を低く沈め、左手と左足を一歩前に滑らせる。その動作は捕食者を彷彿とさせるような滑らかさ。そして次の瞬間、右足で地面を蹴り上げ、全身を大きく前方へと弾き飛ばす。鋭い加速で空間を切り裂きながら、ターゲットの元まで一気に距離を詰めた。

 テロリスト達の作戦では、もしここで敗戦が濃厚になる可能性も考慮し、逃げ道も当然用意していた。銃の射程距離を考え、およそ200メートルか300メートル。それくらいの距離があれば逃走までの時間も稼げるは当然の事。いくら超人的な生徒が出てきたとしても、逃げるくらいの時間は──。

 

 壁を破壊する轟音を置き去りにすると共に、一人の人物がリーダーに向かって突進していた。

 目的の物に向かって男は右手に持ってる鉄の棒を突き出し、勢いを出す為に右足も地面へと突き出す。

 リーダーは思わず持っているマグロを手放すと、その頭から棒が刺さり、壁に向かって串刺しにされる状態となった。

 

 ──スティンガー。

 

 いつ頃だっただろうか、ただの一太刀の突きをそう呼ぶようになったのは。

 銃の射程距離を僅か一秒にも満たない速度で移動し、狙われた被食者は気付いたら胴体に剣が刺さっており、何もさせて貰えずに身体中をばらばらにされる。

 ダンテ特有の必殺技。どんな悪魔でも串刺しにする力の一手。今回は相手が相手だからか、ただの脅しとしての一撃。勿論、キヴォトスには存在しない概念の技なので効果は抜群。

 

 ターゲットの彼女達はそのあまりの暴虐極まり無い戦闘能力に怯えたのか、リーダーは額に汗を滲ませながらも、冷静を装うように両手をパチンと勢いよく打ち鳴らし、降参の合図を唱える。

 

「はい! これは無理です無理無理! じゃあみなさん今日はここで解散するとしましょうか!」

「なるほど、良いアイデアですねハルナ☆ では足の速さ次第ですが、弱肉強食ということで!」

「生存率重視よ! イズミも早く逃げなさいよ! じゃあさっそくばいばい!!!」

「えぇ!? ちょ、ちょっと待って! 私だけ置いてかないでよー!」

 

 ばらばらになって他三人とは違い、イズミは慌てふためいて壁に激突。ふらふらと立ち上がるが、背後でじっと見つめるダンテに怯えたのか、大きな声を上げてその場を走り抜けるのであった。

 

「……誰を追いかけりゃいいんだ」

 

 あまりにも可愛すぎる犯人達に面食らったダンテだったが、とりあえず逃げたという事は戦闘終了の合図だという事。背後にいるハスミ達も走って彼の元へと駆け寄り、事態の収束に尽力する。

 

「小癪な……! 各自散開! 分かれて追撃を行いなさい!」

 

 背後からぞろぞろと湧き出るトリニティの正義実現委員会。

 地面を蹴る音を鋭く響かせながら、彼女達はテロリスト達の方向へとそれぞれ走り、全力で追いかけるのであった。

 

ーー

ーー

 

「皆様、お疲れ様でございました。無事事を荒立てることなく事態は収束し、余波もございません」

 

 深々と頭を下げるハスミの姿に、補習授業部の一度は身振り手振りで慌てふためく。やはり一般生徒からすれば正義実現委員会の副委員長は大きな存在で、その大きな人物に腰を低くされる展開など予想していなかったのだ。一部、隙間から見えた大きな谷間と、長い髪の毛が麗しい唇に煌きを添え色気を放つ姿に口笛を唱える者もいたが、幸いにも誰も真意には気付いていない。

 

「あはは……。と言っても戦ったのは先生だけですけどね」

「ダンテ、私もあの動きをしたい。どうやって訓練すればいいんだ?」

「あんなの無理に決まってるでしょ!?」

「でもちょっと気になりますよね?」

 

 まるで映画のワンシーンみたいだとはしゃぐ女子生徒達。瞳を輝かせながら身振り手振りであれが凄かったこれが凄かったと、年相応の興奮を見せる。

 面と向かって褒められるのに慣れてない彼は苦笑するしか選択肢が出ず、嬉しい反面、居心地悪く感じてしまう。「そういえばあいつらはどうなるんだ」と、視線を逸らしながら別の話題を振り、会話の流れをぶった切る。

 

「時期が時期なので、ゲヘナの風紀委員会に渡そうと考えています。そこで……すみません。先生にもう一つお願いなのですが、彼女達の引き渡しを引き受けては頂けないでしょうか。今回はやはり私達が能動的に動くのには少し印象が……」

「いいぜ、渡すだけなんだろ?」

「はい。私達は遠くから見守ってますから。……それと、恐らくゲヘナでもトップの人物が来られるかもしれません。ご用心してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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