ダンテ先生概念   作:3ご

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思惑

「さぁ、第二次学力試験まで残すところ後1日になりましたね! 皆様、さっきの模擬試験でも合格のラインまで漕ぎ着けれましたし、きっと大丈夫です!」

「やっとここまで来たんだな。長いようで短い日々だった。私も成長できたのかな」

「ふふふ、アズサちゃんの点数の伸びは凄まじかったですからね。コハルちゃんだって一生懸命努力して……ふぅ、終わるのは寂しいような……」

「ちょっと! まだ試験に受かった訳じゃ無いんだから気を緩ませないでよ! ま、まぁ一番危ないのは私なんだけどさ」

 

 昼下がり、和気藹々と部屋で談笑する4人の学生達。

 煌びやかな青春の1ページを過ごすのには少し忍びない場所ではあるが、当の本人達は一つの目標を達成出来ると確信した高揚感と、それまで出会う事のなかった、新しく出来た友人達との時間にそれぞれ胸の高鳴りを弾ませる。

 

「ねぇ皆。その……あの先生のことなんだけど」

「コハルちゃん? どうしました?」

「いや、あの。どうしたっていうか。どうして皆もっと関心を寄せないのかなって。だって見たでしょ!? 昨日の!?」

「ほう……。コハルはあの先生が気になるのか」

「あらあら? もしかして」

「違う!! 違うからね!!! あれ!? 私がおかしいの!?」

 

 コハルは椅子に腰掛け、手元にある水を急いで喉に流した後、話を続けた。

 

「美食研究会で見せたあの突進……もそうだし。まさかゲヘナの風紀委員長もコテンパンにしてさ」

「空崎ヒナだな。コハル、私は映像で彼女の戦いを見たことあるが、あんなもんじゃなかったぞ。きっと手加減していたはずだ」

「あはは……先生もきっとそこまで全力じゃなかったと思いますけどね。走って帰ってくる元気はありましたし」

「だとしてもよ!! 昨日は夜のテンションで浮かれてはしゃいじゃったけど、朝目が覚めて、冷静に昨日の事を振り返ってみたらおかしいことに気づいたの。皆は何も思わなかったの!?

「コハルちゃん……。うふふ、ですが、その強ーい先生を逮捕して牢屋に閉じ込めたコハルちゃんが一番さいつよって結論が出てくるのですが、どうでしょう?」

「何!? コハルやるな……」

「だからそうじゃないんだってば!?」

「ま、それは試験が終わってからでもいいだろう。最後まで気が抜けないのは確かだ」

「そうですね! あはは……でも、正直私も気になります」

「でしょ!? ふぅ、私だけ変なのかと思ったじゃない……」

「そういえば、ヒフミちゃんは最初からあの先生と仲良しな感じがしましたよね? 以前からのお知り合いで?」

「ええ!? えーっと……そのー……うーん…」

「おやおや? これはどストレートな不純異性交遊の香りがします! ヒフミちゃんもやることやってますね〜」

「ヒフミ……? えっちなのは死刑よ」

「違いますからね!? ペロロ様に誓って違いますからね!?」

 

ーー

ーー

 

「私はヒフミさんのことを、とても大切に思っています。私は彼女を好いている。それは間違いありません」

 

 太陽が僅かな傾きを見せ、広々としたガーデンテラスの中央にある、テーブル上の色とりどりのお菓子達が煌めきを見せる頃合い。

 似合わぬ席にぽつんと座る銀髪の大男と、背筋を伸ばし凛とした姿勢のまま、まるで絵画の1枚を切り抜いたと思わせる優雅さを兼ね備えた少女が1人。

 ナギサは眉も顰めず淡々と、それでいてどこか影を落とすような、目元まで暗がりが映りこんだ顔色で目の前の男を見つめていた。

 

「それなら何故あの部にぶち込んだんだ? まぁ、その代わり俺は楽しませて貰ってるがよ」

 

 甘々としたアイスクリームに苺を絡ませ、指ほどの大きさのスプーンで掬い、口を大きく開き1口で頬張る。

 キンと冷えたアイスの響きが脳天まで登りそうになるが、彼はお構い無しに更に1口更に1口と好物であるストロベリーサンデーを機械的に頬張り、この退屈で窮屈な話し合いをさっさと離脱しようと策を実行中。

 

「ある噂が、私の耳に入り込んで来ました。それは、彼女が一部の界隈で名を轟かせている漆黒の大犯罪者であるということ」

 

 そう言葉を並べた瞬間、ナギサの表情は悲しそうな雨色に早変わり。

 言いたくない内容だったのか、摘んでいたティーカップは小刻みに微動し、口元に運ぼうとしていたが思わずソーサーの上に座らせる。

 流石に両者が可哀想だとヒフミの弁を立てようとしたダンテだが、事実やったことはただの犯罪なので思わず口をつぐんでしまう他ない。

 

「ただの噂だろ?」

「ただの噂だから……です。火のない所に煙は立つものではないですから」

 

 ナギサは息つく暇も無く続ける。

 

「コハルさんは、ハスミさんを統制する存在です。事実、ハスミさんはゲヘナに強い憎悪を持っています。正直いつ爆発するか皆目見当も付きません。そうはならないようにするために彼女を選びました。勿論成績面でも都合が良かったので。

次にハナコさんですが、彼女は本来誰よりも優秀な才能を持っているのにも関わらず、試験では本気を出しておりません。何れはティーパーティーにも加入するようにと促したこともあるくらいです。そんな彼女が何故……急に破廉恥な痴態を犯したりするのでしょうか。きっと別の目的があるに違いないと、彼女を選びました」

 

 確かにハナコに関しては思春期の行動の中でも群を抜いていると、妙に納得してしまうダンテ。年頃の女子生徒に詳しい訳ではないが、あんな恰好で外を彷徨えるのは確かに別の目的がありそうだ。

 

「そしてアズサさんですが……そもそも経歴もおかしく、しかも他生徒とよく暴力事件を起こしていました。個人の戦闘能力も高く、統率が取れない存在です」

 

 ミカとの会話がふと頭に過る。

 ミカは、あくまでもアズサはアリウスとトリニティを繋ぐ架け橋だと言っていた。でもそれはミカの考えだ。ナギサはそういった話を聞いてくれないだろうと、相談もせずに独断専行している。

 

「ヒフミさん……あの可憐な笑顔の裏に何が隠れているかなんて、私は考えたくもありません。信じているからこそ、その仮面の裏に隠れてあるもう一つの顔があるなんて想像すらしないのです。証明など出来ない。所詮私達は他人ですから、心の本音など垣間見ることなど不可能なのです」

 

 深い息と共に言葉を吐き終えたナギサは、もう一度ティーカップを手に持つと、今度はゆっくりと口元へと運び静かに舌の上を滑らせる。

 

「噂では、まるで舞台で舞うマントのようだったそうです。大きな帽子で顔を隠し、反抗しようものなら闇から放たれる弾丸が頭部を貫き、尊厳と金品を奪われる。そして獲物を狩ったあとは、その屍の上で舞を見せたと言います。その踊りはまるで月の上を歩くように軽やかで、無邪気に楽しそうにしていたとか」

 

 あまりにも曲解されて意を唱えようとしたダンテだが、そんなものを今した所で弁が立たれる訳でもなし。

 だから、聞きたいことを一つ選んだ。

 

「それがお前の信じる答えか?」

 

 ダンテの思わぬ返答に曲がりそうになった背筋が張ると、ナギサは思わずお茶をこぼしそうになる。

 

「まぁいいさ。裏切り、反逆、政治の世界ではよく起こり得る話。それでも尚お前がその道を進もうというのなら──俺が止めてやるよ」

 

ーー

ーー

 

「お前ら、明日はついに試験日だな。気張って合格してこい!」

「えっへへ! 模擬試験でも十分合格ラインを果たせましたし、きっと大丈夫です! ダンテ先生も……いい感じに点数は稼げていましたね!」

「気を使わなくていいぞヒフミ。きっと俺は体育の先生だと思うんだ。他は専門外なのさ」

「体育の先生……? 何よそれ、死刑よ死刑!」

「コハルちゃん、流石に展開を先読みし過ぎです。流石の私でももう少し段階を踏んでいますよ。まずは体育倉庫から」

「ん? コハル、どうして体育の先生だと死刑なんだ? 今ひとつ関連性が」

 

 やがて夜になる頃合い。

 第二次試験の前日、最後の過去問を解き、無事に合格ラインを出した一同は、ここまですれば大丈夫だろうと安堵した雰囲気になっていた。

 

「あとはしっかり試験に合格し、堂々と補習授業部を卒業するだけですね。……最後は皆で笑ってお別れ出来るように、今までの成果を出し切りましょう!」

 

 ヒフミが片手を握り拳に変え熱弁するが、脇の席に座っていたアズサはどこか遠くを見るような目をしていた。

 

「そうか、合格したら皆とはお別れなのか」

「ちょっとアズサ! どうしてそうしんみりする訳!?」

「まぁ、合宿中も色々ありましたからね?」

「出会いがあれば別れもある。全ては虚しいものだな」

「そう悲観しないでくださいアズサちゃん。私もヒフミちゃんもコハルちゃんも、この時間は虚しいだなんて思っていませんよ? それに同じ学校なのですからいつでも会えます」

「そうよ! ま、まーぁ? 正義実現委員会のエリートの私は常に忙しいんだけど! ……い、いつでも遊びに来ていいわよ」

「そうですよアズサちゃん! まだ紹介してないペロロ様グッズは沢山あるのですから!」

「……うん」

 

 日にちとか、期間とか、親密度なんてものは、青春の物語の前では霞む言葉だ。

 彼女達はどんな時でも周りを信じて、目の前のことに切磋琢磨し、時には赤裸々に語り合った。その中で誰かの思惑であったり、疑いがあってもおかしくはない状況ではあったが、この4人はとにかくバランスが良かった。

 普段なら接することのない煌びやかな青春の光は、彼にとっても眩い光そのもの。もう少しだけこの物語の続きを見てみたいと、湧き出た心情に思わず驚きを隠せない。

 

「うふふ、ダンテ先生もいつでもトリニティに──と。すみません、先生はお辞めになられるんでしたね」

「なに? ダンテは先生を辞めるのか? 勿体ない。あれだけの戦闘力があれば立派な教師になれると思うが」

「よせよ、別にいいんだよ。……それより、明日に備えて寝なくていいのか? 待て、そもそも試験時間は何時からだ?」

「あ! あはは、まだ告知を見ていませんでした! 危ないです……」

 

 ヒフミがスマートフォンを手に取り、画面を指で滑らせながら検索を進める。淡い光が彼女の穏やかな横顔を照らす中、残る三人は焦燥と戸惑いを滲ませながら、静かに言葉を交わし始めた。

 どうすればダンテに「先生を辞める」という選択を撤回させられるのか――。

 その問いに答えを求めるように、それぞれが真剣な眼差しで顔を見合わせた。

 

「やっぱりこれしかないのではないでしょうか」

 

 ハナコはダンテの背中側に周り、彼の視界が入らない所でセーラー服のおへその所から下着が見える箇所まで布地を捲り上げた。コハルもアズサも、何故目前と異性がいる前でそんなことが出来るのか。と疑問が絶えない。

 ダンテも背中側で起きている事件なので視界には入らないが、どうせハナコのことなので何をしているのかは何となく想像が付く。突拍子もない行動のすべてが、『性』に基づいているのだ。

 

 ──あ、あの。

 

「んもう! エッジなのはダメなの! 死刑なの!」

「尖ってるぞコハル」

 

 ──皆さん。

 

「ダンテ、おへそが好きなのか?」

「とんでもねぇ言い掛かりはダメだぜアズサ?」

 

 ──大変なことが。

 

「うふふ、でしたら先生はどこが一番お好きなのですか?」

「お前……先生が答え辛い質問1位のレベルだぞそれ」

 

「あ、あの!!! 皆さん聴いてください!!!」

 

 ヒフミの急な大声で教室は静まり返り、視線は彼女に集中する。

 慌てふためくその顔の横に、震えた手でスマートフォンの光を皆に向け、口を開いた。

 

「し、試験範囲が変更されていて、しかも合格条件が90点になっています!!!! しかも……会場はゲヘナです!!!!」

 

 

 

 

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