下部にアンケートを設置しました。
皆様はデビルメイクライ2の小説を読んでいますでしょうか?
もし読んでいる人が多ければ、ダンテの底知れぬ戦闘力を遺憾なく発揮出来そうなので、ちょっとしたアンケートでございます。
例えば……
音速を超えた対戦車ライフルの弾丸が発射された後、軽口を叩きながらエボアボで弾を撃ち落とすダンテとかですね。意味わかんなくて好きなので。
「何よトリニティの裏切りものって! 一体なんなのよ! 全然意味わかんないんだけど!!」
場所はトリニティ学園の別館。時刻は深夜。部屋に集まりこれからの補習授業部について話し合う4人の女子生徒と、未だ硝煙の匂いが取り切れてない先生が1人。
状況の把握に頭がパンク寸前のヒフミと、ナギサのあまりの徹底ぶりに呆れ顔のハナコ。黙々とスポーツドリンクを飲みまくり、慌てふためくコハルを静観するアズサと、場を収めようと奮闘するヒフミ。そして自販機にあったコーラが案外美味しく、常飲しようか悩み中のダンテ。本当はワインなんかが手に入れば尚良しだが、生憎キヴォトスではまだ見かけていない。
第二次学力試験。
なんとかゲヘナの包囲網を突破した5人は、試験会場である廃墟へと辿り着く。そこには精々頑張る事だとナギサのメッセージの元、試験用紙が人数分用意されていた。
急いで試験部屋まで駆け抜ける5人。試験開始のタイマーを押し、さぁ挑もうとペンを取り出した瞬間、外からけたたましい轟音と共に爆風が窓から入り込み、建物一体を焼き尽くす。
一体なんだと慌てた5人は試験用紙を持ってひとまず脱出を図るが、それ以上に建物の倒壊と火の手が早く、夥しい火の手は瞬く間に彼女達を取り囲むと、ものの数秒後に手に持っている試験用紙は灰となって空に消えるのであった。
命からがら脱出し建物の外へ出ると、そこにはヘルメットを被り胸にさらしを巻いた生徒達。
ハナコ曰く、あれがゲヘナにいる最大火力を誇るテロリスト集団「温泉開発部」。手当たり次第に温泉が湧きそうな所を見つけては、住宅街だろうが公共施設だろうがお構いなしに爆弾を放つ狂気の集団。
ダンテはまさか美食研究会以外にも狂った生徒達がいるとは思わず、ここキヴォトスに来てから数えるのも馬鹿らしくなるくらい面を食った彼だが、流石にこれは度肝を抜かれた様子であった。
その後、なんとかトリニティ領内へと逃げ込む彼女達。そのタイミングで、ダンテのスマートフォンに七神リンから一通のメールが入る。内容は簡単だ、「ゲヘナから、シャーレの先生のせいで風紀委員会が壊滅状態にされた。この補填はどうしてくれる」というクレームだ。ひとまず顔文字一つだけ送り事なきを得た彼は、とりあえず一息付こうと普段は買わない自販機のコーラを買う。
「もし退学になったら……正義実現委員会には……もう」
コハルはショックのあまり地べたに座り、俯いたまま顔を上げようともせず、瞳を揺らす。
「無理よ……だって私、私バカなのに。90点以上だなんてとても……。折角、正義実現委員会に入って、ハスミ先輩の元で……うぅ、う」
様子を見かねたアズサがコハルの肩を抱き、そっとベッドの上へと座らせ直した。彼女の表情を見てハナコは胸に手を置き、まるで心臓を掴まれたような苦しい表情でコハルを見つめる。
ダンテもそんなコハルを見かねたのか、彼女の元へと寄り添い、膝を曲げ見上げるように顔を覗く。普段のコハルなら泣き顔を見られるのなんて恥ずかしくて顔を背けるはずだが、目の前に現れた先生の表情はどこか柔らかく、思わず甘えたくなりそうになる。
「コハル、どうせ最後だ。仲間を信じてみねーか?」
「へ……?」
片手で涙を拭い、もう一度彼の顔を見つめ直す。
「ここにいるメンバーはお前の味方だぜ? 勿論俺だってそうさ。俺が言ってもただの空虚な言葉にしかならねぇかもしれないが、お前はちゃんとした努力家だ。考えてみろ、最初に比べたら点数は5倍にまで膨れ上がってるんだぜ? しかもたった一週間でだ」
「ぐす、……無理よ。ここまですっごい頑張ったのに、これ以上なんて……」
「大丈夫だ、コハルならやれる。俺には分かるんだよ。お前なら絶対に乗り越えられる。……そりゃ一人じゃ無理だ。けど、折角出来た良い仲間がいる。信じるんだよ。あのゲヘナの包囲網を突破出来たのだって、普段の正義実現委員会の奴らじゃ絶対無理だろ? そうは思わないか?」
「……無理、だと思う」
「だよな。お前はちゃんと仲間を信じた。信じられた仲間はきっと安心してコハルに背中を預けた筈だ」
ヒフミに目配せすると「あの時は安心しました」と即答で言葉を返す。アズサに目配せすると「経路を確保出来たのはコハルのおかげだ」と言い、ハナコに目配せすると「精度の高い射撃で安心して移動来ました」と、微笑みながら言葉をした。
「返事はいい。コハル、どうにかこうにか行動しなきゃならねぇ」
「……うん」
空虚な「頑張る」という言葉ほど、虚しい物はない。まずは感情的に混乱した頭を沈めてから、それからどうするかは本人の決める事。彼はコハルを信じることにした。だからこそ、返事よりも行動が欲しい。
「よし、じゃあお前らはもう寝ろ」
「そうですね、ダンテ先生の言う通りです。皆様、もう部屋に戻って眠りましょう! 考え事は明日からでも出来ますから」
ヒフミは先に部屋に戻り全員分のベッドを整えると足早に扉を開け、アズサはコハルの手を繋いでゆっくりとした足取りで部屋を後にした。唯一、ハナコだけはもじもじと出ようか出まいか扉の前でうろうろしていたので、再びダンテはさっさと寝ろと促す。
「いえ……あの、伝えなければいけない事がございまして」
「なんだ? どうせまた伏字だらけの下ネタか?」
「いいえ、そうではなくて……あの、その」
高鳴る鼓動を押し留めるように、そっと両手を胸に添えながら、ハナコは精一杯の言葉を紡いだ。
「──私も先生の事、信じてますから!」
今度は両手で顔を隠し、風を切るように颯爽と部屋から出ていくハナコ。
どうして赤面する必要があったのだろうかと首を傾げるダンテだが、思春期というのは自らの気持ちを伝えるのに勇気と覚悟が必要だと、どこかの本で読んだことがあった。これもその手合いだろうと、飲み欠けのコーラを喉に通し、先程来た七神リンのメールに真面目な文章を送る準備をする。やるのは主にアロナだが。
ーー
ーー
その後も、補習授業部とダンテは第3次学力試験に向けて頑張り出した。
ハナコはそれぞれの得意科目を分析し、的確にアドバイスを送る。ヒフミはおよそ問題として出題されるであろう箇所を張り巡らし、定期的に模擬試験を行っては、それぞれの苦手箇所を分析しながら必死にペンを走らせる。
アズサは自らの知的好奇心を最大限に活用し、コハルは負けじと彼女達に後れを取らぬように必死に参考書に齧り付いていた。彼女の脳内にはダンテに言われた「仲間を信じろ」が常に駆け巡り、それも相まって成績は向上の一途を辿る。
当のダンテは彼女達の迷惑にならぬよう、少し離れた席で自分なりにキヴォトスの勉学に励みながら、彼女達の青春の一ページを捲るように眺める。
「俺は、何をやってるんだか」
嘲笑に似た笑いを自分に向けると、ニヒルで斜に構えた内なる自分が表の自分に指を向けて嘲笑う。
お前は悪魔を狩るのが使命じゃないのか? こんな所でどうして油を売っている。一緒にお勉強なんかやっちまってよ、エンツォやモリソンが今のお前を見たら何て言うか想像した事あるのか? ダンテ、とち狂っちまったのかってな。お前はペンじゃなくて剣を握り、血しぶきが降り注ぐ世界にいる癖に、年頃の少女達と楽しくやっちまってよ。早く目を覚まさねぇか? そんな具合だ。
当然、彼は自分が今何をしているのかは十分理解している。そもそもこんな政治が絡んだ組織に巻き込まれようが、例え「先生」の冠位を授けられようがさっさと無視して元の世界に戻る方法を考えればいい。この世界に悪魔の気配は感じない。いる意味など無い……。
なのに、心のどこかにいる自分とは違う何かが、色の違う、小さな小さな「魂」が──微かな言葉で、彼の内側に眠る悪魔に意思を投げかけてくる。
──す。
悲壮感に似た、けど熱い炎のような意思が、彼が持つ人間の部分をくすぐり、その場に留まらせるのだ。
「ダンテ先生! 凄いですよ70点です! 頑張りましたね!」
数秒程呆けている合間に、まるで向日葵を咲かせた笑顔のヒフミが、彼の元に駆け寄り模試の結果を両手で渡してきた。
最初は殆ど点数というよな点数を取れなかったダンテだが、連日行われている放課後スイーツ部との勉強会でめきめきと成績を伸ばし、今となっては高得点を連発。
その様子にハナコは頬を赤らめ(なんで?)、アズサは興味津々と答案用紙を覗き、コハルは負けてたまるものかと焦燥感を顔に出す。
「どうしたコハル? そんなに慌てなくてもまだ日数はあるんだぜ? はっ、まぁ焦るよな」
「くぬぬ……! 絶対に負けないんだから! 負けないもん!」
小難しい詭弁は己に相応しくない。要は、彼女達の青春の光に充てられた、ただそれだけのことだ。
良い子が寝静まる頃合いの、闇に染められた街。血の匂いの滴る路地裏で、血の混じった泥を踏みながら重たいブーツの音を響かせ、耳障りな死の笑い声に向かって鉛玉を喰らわす。そして夜が明けると同時に事務所へ戻り、返り血を浴びた愛銃にメンテナンスを施した後、また日が沈むまでひと眠りだ。
世の中には、太陽の下に生きる人間と月の下に生きる人間がいる。彼の生きる日常は月よりも漆黒で、内臓がぶちまけられ壁中に張り巡らさられた肉片の世界。
認めなくなかったのかもしれない。
今の時間は、少しだけ──心地よい。
「コハル、ちなみに負けたら一番高いピザを食わしてくれよ」
「ちょっとなにそれ!? 一応先生でしょ!?」
「よくわかんねー小難しい言葉を並べて来るな。理解できそうにねぇ。頼むぜ」
「くぬぬ……! じゃあ私が勝ったら一日中正義実現委員会の仕事を手伝ってもらうから!」
ーー
ーー
──最終学力試験まで、残り1日。
トリニティ校舎内にある、とある解体中の校舎にて。
青白い光芒が差し込む内部にて、相対する人影が二人。
一人は腰まで伸ばした銀色の髪を靡かせ、もう一人は黒いマスクと帽子を装着した、長身の線が細い人物。
「アズサ、日時が変わった」
「日時……?」
「明日の午前中だ。約束の場所で命令を待て」
「ま、待ってサオリ、明日は……」
「何か問題が?」
「ま、まだ準備が出来ていない。計画よりも日程を早めるのはリスクが大きすぎる。せめて……あと一日」
アズサの声を遮るように、サオリと呼ばれた人物は命令を彼女に伝える。
「いや、明日決行だ。これは確定事項、しっかり準備をしておけ」
アズサは返事をせず、ただサオリを見つめる。
「明日になれば全てが変わる。私達のアリウスにも、このトリニティにも、不可逆の変化が起きる事になる」
サオリは窓越しの夜空を眺めながら、さらに続けた。
「ティーパーティーの桐藤ナギサのヘイローを破壊する……そのためにお前はここにいるんだ。あの時……百合園セイアのように。お前の実力は信頼している。上手くやれ」
アズサは軽い返事をし、サオリに背中を向けた。サオリはその態度に不信感が過ったが、これまでのアズサの実績を考慮してそれは杞憂だと自身に言い聞かせる。そして彼女の背中越しに「合言葉」を唱えるように、自分達の理念を確認する為に、幼少の頃から言い聞かせられていた言葉を彼女に浴びせるであった。
「vanitas vanitatum 忘れてないだろうな? 全ては虚しいということを」
ーー
ーー
最後の授業が終わり、夜、皆が寝静まる時間帯。
喉が渇いたからと、自販機で飲み物を買いに廊下に出る。青白い月明りが世界全体にブルースクリーンを施している情景の中、仄かに浮き出る白色の明かり。静寂の中奏でる仄かなノイズ音と風が運んでくる土の匂いが心地よく、思わず窓から月を眺めるくらいには穏やかな時間だ。
そんな中部屋に戻ろうとすると、部屋の前で暗い影が2人佇む。
「あ、ダンテ先生。まだ起きてらっしゃったのですね」
「ヒフミこそ。もしかして子守唄でも歌って欲しいのか? 明日も早いんだぜ?」
「あはは、やっぱり眠れなくて……」
「まぁ、とにかく部屋に入れよ」
「うふふ、そうやってダンテ先生は女子生徒を部屋に誘導するのですね。手慣れていらっしゃる」
「……そうか、夜だと初手から仕掛けてくるんだな。いいから二人共入れよ」
部屋に入れると、ヒフミは遠慮がちに近くの椅子に座り、手に持っているペットボトルのお茶を口に含むと、どこか肩の力が抜けたように胸を撫で下ろしていた。きっと緊張しているのだろう。、もし、全てが上手くいかなく、最悪の結末になってしまったら──。そんな誰もが幸せにならない望まない結末。脳裏に過らない訳がない。
対するハナコは部屋に入り次第直行でダンテのベッドに腰かけていた。こちらは遠慮がちな演出をしているだけで、内側に見える欲望を最優先。同じくペットボトルのお茶を一口二口と喉に通すも、口元から溢れた雫はそのままで、わざと首元まで垂らし、じっとりとした横目でダンテを見つめる。
やれやれと肩を竦んでいると、今度はドアのノック音がしたと思ったら、この合宿中で一度も彼の部屋に足を踏み入れたことの無い人物が扉を開け、両手を前にしてもじもじと立ち尽くしていた。
「みんな何してるの……」
「コハルちゃんまで……あはは、やっぱり眠れないですよね」
「明日は試験なのに何してるのよ。ハナコまでいるし……はっ!?」
「変な想像はするなよ?」
「うふふ、コハルちゃんも大人になる時が来ましたね」
「誤解を招く言い方もするなよ?」
「アズサもいないし……まぁ、最後だからとやかく言えないけどさ」
「あはは……要は皆様緊張しているということですね。明日こそ何も無く安全に試験を受けれるかどうかも定かではありませんから……」
その言葉を受けたハナコは「これから本題なのですが」と立ち上がり、皆の視線を集中させる。
「実は先ほど、シスターフッドの方々と少し会って来たんです。あ、先生分かりますか?」
「ああ……えっと、マリーって子がいたな。一度教室に尋ねてきたあのまんまシスターの子だな?」
「ええそうです! ダンテ先生と一切視線を合わせなかったですよね? マリーちゃんを怯えさせるなんて、各方面に知られたら怒られるどころの騒ぎではなくなりますから。流石の私もあの時は少し緊張しましたよ」
ー
ある日教室で勉強していると、様々な爆発音が校内を響かせる中、アズサの誘導の元そのシスターは教室に現れた。
内容はただ一つ、御礼を言う為である。
「アズサさんには感謝しておりますとのことです」
当然の事をしたまでだと、特に得意げにもならずに淡々と受け答えするアズサに、補習授業部の一同は微笑んだ。華やかなお嬢様の集まりのようなトリニティであるが、その影は暗く、陰湿でじめじめとしている。
「えっと……あなたがダンテ先生ですね」
「知ってるのか? まぁよろしく」
「はい……知ってます。えぇ……」
声は彼に掛けているのに、視線を一向に合わせようとしない彼女の顔を覗くように伺うダンテだが、悉く視線を外され内心若干傷つく。
「で、では私は失礼しますね!」
ー
「まぁそれはいいとして、明日私達が受ける予定の第19分館についてなのですが……」
「ま、まさかまた場所が変わって!?」
ハナコ曰く、その日に「エデン条約に必要な重要書類を保護する」という名目でティーパーティーからの要請があり、建物全体を正義実現委員会として守る厳戒態勢に入ったとのことであった。そしてそれは本館も例外ではなく、まさにトリニティ最高のセキュリティが付いている状態である。
「戒厳令……聞くのは初めてです。って、まさかその中を突破しないと試験を受けられないということですか!?」
「つまりは、そういうことです。建物の出入りすら許されない状況ですから」
「ちょっと待って!? ていうことは正義実現委員会を敵に回せってこと!? ほんとに言ってるの!?」
「ご名答。例え知り合いやハスミさんに理由を説明しても無駄でしょうね。戒厳令に背いての行動は、明確な離反と同義ですから。ふぅ、そこまでして私達を退学に追い込みたいということですか。あの猫ちゃんは」
慌てふためく二人をよそに、ハナコはただ冷静に事実を語る。そんな彼女の言葉を遮るように、本日二度目のノックが響いた。
「私のせいだ」
見かけないと思ったら、開口一番理解の出来ない言葉を口に出すアズサ。
その唇には震えが伴い、片腕を抱きしめるように胸に寄せ、宝石のような麗しい瞳はほんのりと赤く充血している。
「みんなにずっと隠していたことがあった。……トリニティの裏切者は私だ」
アズサの言葉に、一同は言葉を出せず、ただ彼女を見つめる。
「私は元々アリウス分校の出身。今は書類上の身分を装って、トリニティに潜入している」
「えっと……何それ? アリウス?」
「アリウス分校、かつてトリニティ連合に反対した、分派の学園です。今はキヴォトスのどこかに身を潜めてひっそりと過ごしていると聞きましたが……」
「私はずっとアリウス自治区にいた。アリウスの任務を受けて、今はこうして学園に潜入している。その任務は──桐藤ナギサのヘイローを破壊すること」
──暗殺の任務。
懺悔するように、アズサは静かに瞳を伏せた。言葉を紡ぐたびに、罪の重みが胸を締めつける。
アリウスは、ティーパーティーを消し去るためなら、どんな手段も厭わない──。ティーパーティーのミカを騙し、彼女を“和解の象徴”という嘘で縛り、学園へと送り込んだ。そして明日の朝、アリウス分校の生徒たちがナギサを狙い、学園に侵入する。
それを阻止するため、彼女はずっと動いていたのだ。
「よくわかんないけど、アズサはティーパーティーをやっつける為に来たんでしょ!? それなのに守るってどういうことなの!?」
「……桐藤ナギサがいなくなれば、エデン条約は取り消しになってしまう。あの平和条約が無くなれば、キヴォトスは混乱に落ち、またアリウスのような学園が生まれないと思えない……だから……」
「だとしても、その本心をどうして私達に話したのでしょう? 黙っていれば任務の遂行に支障は出ません」
「それは……」
アズサはダンテの方を向き、続ける。
「……アリウスの軍勢が押し寄せてくるなら、私一人じゃ到底手に負えない。でもダンテなら、きっと全部倒してくれる。止めてくれると思ったんだ」
「……アズサ」
「ダンテ、私を逮捕して収監して、トリニティを救って欲しい。ダンテの力ならどんな生徒が相手でも負けはしない」
アズサはゆっくりと膝をついた。彼女の肩は震え、指先は固く組まれたまま、祈るように微かに揺れている。
互いを信じることを拒否したティーパーティーの面々、その溝が深まり、ナギサは疑心暗鬼になり、裏切者を探すという暴挙に出る。
アリウスもトリニティも裏切り、そして補習授業部を欺いた。最終的に残るのはただの虚無。その最悪な結末を迎えると理解していても、どうしてアズサは走り続けることを選んだのか。
補習授業部はある種の舞台のようなものだ。本来ならアズサのようなスパイはこんな目立つ舞台にいてはいけない存在。だが、そんな舞台でも任務は遂行出来る、時間はいくらでもあった。それに、本心など喋る必要もなかったのだ。
暗殺者はただ黙々と、対象を抹殺する事だけを考えてればいい。
「俺には分かるぜ。暗殺なんて稼業を任されるくらいだ、きっと地下深い世界で生きてきたんだろ? 本来分かり合えない筈の世界に来て、面食らって、何もかもが新鮮だった筈だ。でも内側には影を落としている。それが本来のお前の姿だからだ。だが、そんな暗い影のお前が、どうして今まで居た世界を否定する事が出来るのか……なぁアズサ」
──楽しかったんだろ?
隠していた感情の欠片が心に刺さり、アズサの瞳を滲ませる。
考えない様にしていた言葉を、こうもあっさりと篭絡されるとは思わなかった彼女は、眉を下げ、床に数滴の涙を滴らせた。
「うん……この楽しい時間を、私は手放せなかった。皆で一緒に勉強して……深夜の冒険も楽しくて……。まだ行きたい所ややりたい事も沢山……」
怯えながら、アズサはそっと皆の顔を伺った。
裏切者である自分を、受け入れてくれるはずがない。そこには軽蔑の視線と、失望の表情があるに違いない──。だが、彼女の想像とは裏腹に、突き刺さるような拒絶の眼差しはどこにもなかった。
一緒に瞳を潤ませたヒフミは、背後からそっとアズサを抱きしめる。そして、優しく、新しく出来た友人の名前を囁いた。
ハナコは静かに彼女の頭を引き寄せ、胸元でそっと撫で、コハルは震える手をそっと包み込むように握り、ぬくもりを伝えていく。
アズサは、信じられない気持ちのまま、ただ目を見開いた──。
「たとえ全てが虚しい事だとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない。誰にも自らをさらけ出せず、自暴自棄になってテストでわざと点数を落としたり……。もういいやって思ってた私も、皆と出逢って、学園の楽しさを理解出来たと思います」
欺瞞に満ちたトリニティでの生活に終止符を打つべく、ハナコもまた、堕天の道を選ぼうとしていた。
それを止めたのは紛れもなく補習授業部での皆との出会い。
「私も、もっと皆と遊びたい。海に遊びにいくとか、ドリンクバーで粘って夜更かしとか。それを諦めてしまいたくないです」
「私も同じ気持ちです!」
「私だって!」
「アズサちゃんも……同じ気持ちですよね?」
「……うん」
そう口々にする面々に微笑みを返すハナコ。
「ここには、正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人。ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます」
「へ、偏愛って……」
「その上、キヴォトスに舞い降りた悪魔と名高いシャーレのダンテ先生までいるんですよ? ナギサさんをアリウスの手から救い、尚且つ試験を合格する。これくらい楽勝だとは思いませんか? きっと、トリニティくらい、半日で転覆させられますよ!」
ハナコの発言に目を見開く三人と、ニヒルに口元を曲げる補習授業部の先生。
「作戦は任せたぜ、ハナコ」
ダンテからの指令に、思わず歓喜する彼女は、部屋を響かせるように高らかに叫ぶ。
「うふふ、任されちゃいました! 私達補習授業部、今こそ皆で力を合わせる時です、行きましょう!」