ダンテ先生概念   作:3ご

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次回の更新は1月の後半からスタートさせます!


アルちゃんの憧れ

「もう、ほんっっっっっっっっっっっっとうにかっこよかったんだから!!!」

 

 時刻は午後13:30分。

 場所は便利屋68事務所内。応接用のソファに座るのは右から平社員のハルカ、その隣に室長のムツキ、向かい側には係長のカヨコがおり、三人とも興奮し切った社長のアルを見つめては、小さな溜息を吐くのであった。

 それもそのはず、アルの「先生の本当に格好良かった話」は既にパート68まで展開されており、アルを尊敬してやまないハルカでさえノリにノれない状況まで来てしまっていたのだ。

 久しぶりにまともな昼食に在りつけて暖かいお茶まで啜っているというのに。と思う三人だったが、なんだかんだ毎回この話は驚きと興奮を僅かに与えてくれる為、いざ耳を傾けようとすると聞き入ってしまうのが特徴だった。

 

「社長、それ今回で69回目だよ?」

「くふふ~、アルちゃん本当にあの先生の事が大好きなんだね!」

「アル様、お茶が冷めてしまいます。折角育てた雑草を焙煎してお淹れしたのに……」

「ぶっ……! ハルカちゃんこれ雑草茶葉なの!?」

「ちょっとハルカ……流石にこれは」

 

 「うえ~」と舌を出し目元をバッテンにして湯呑をテーブルに置こうとするムツキだが、先ほどアルが一気に飲み干しており、今は二杯目だ。

 本人の体調に何も問題は無さそうだった為、まぁ大丈夫かと再び両手の中に湯呑を収める。カヨコも同じ判断をしたのか、「まぁ言われなきゃ飲めてたし、いいか」と二口目三口目と口に含み喉に通した。当のハルカは「すいません」を何度も連呼し席を立ち頭を下げるが、ムツキの「いいから、アルちゃん話聞かないと拗ねちゃうから」となだめられ、再び大人しくソファに座り込む。

 

「ちょっと、今の聞いていたの!?」

「ごめん社長。あまりにも早口で聞き取れなかったの。もう一度最初から聞かせてくれる?」

 

 カヨコの包み込むようなウィスパーボイスは、いくら聞きなれているとは言え常に破壊力抜群。アルは「こほん」と仕切り直すように咳ばらいをすると、「じゃあもう一度最初から」と再び社員達を一瞥。胸に手を当て、頭の中に閉じ込められた記憶を引き出し、宙に思い描くように口を開き言葉を紡ぐ。

 

「もう、ほんっっっっっっっっっっっっとうにかっこよかったんだから!!!」

「アル、戻りすぎ戻りすぎ」

「あらそうかしら? まぁいいわ」

 

 

 あれは先日の出来事よ。私はいつもみたいに電話で依頼が舞い込むのを待つのは非効率だと感じたから、然るべき所に宣伝をしに行く途中だったの。まぁ営業というのかしらね? 

 で、ブラックマーケットに入る入り口の手前の並木通りあるじゃない? あそこを歩いていたらね、偶然にもダンテ先生を見つけたの。いつもみたいに深紅の革ジャンを着て堂々と歩いてて格好良かったわ! しかもすれ違う人にはきちんと半歩譲りながら歩いていたの! まずこの時点でポイント高いわね! 流石はアウトローの大先輩よ!!!

 で、問題はここからなの。ダンテ先生の行く先にいくつかの難所が用意されててね。まずはスケバン同士が銃を向き合わせて喧嘩してたの。発砲済みだからなのか薬莢が散らばってたわ。

 だからかしら、その真横で御婆さんが薬莢に躓いてミカンの箱を盛大にひっくり返してしまったのよ! ミカンがコロコロ転がる頃合いで丁度スケバン達の奥に居たサラリーマンのバッグがひったくられる瞬間で、しかもダンテ先生の方角へと走って来てたわ! でもそれだけじゃなくて、ダンテ先生の目の前にある木の上に、降りられなくて泣きわめいている子猫がいたの! しかもその奥からカイザーのヘリコプターが先生の名前を恨むようにマイクで叫んでて──!

 

「ちょっとちょっと待って待って社長! え? 何? 情報量が多すぎて頭の整理が追い付かないんだけど」

「えっと、スケバンが二人とお婆さんが一人。ひったくりが一人と被害者が一人?」

「カイザーのヘリが一機と猫ちゃんが一匹ですね。あとミカンさんって人が何人かでコロコロしてます」

「ミカンは人の名前じゃないでしょ……」

「情報量が多いのは承知の上よ!」

 

 先生はね、まず両手を肩に寄せて「やれやれ困ったぜ」と溜息を吐いたの。まずここでポイントが高いわね。冷静に物事を俯瞰している証拠よ、見習いたいわ!

 その後まずスケバンを通り過ぎてダンテ先生の横を勢いのまま通り過ぎようとしたひったくりをね、こう、顔も向けずに横蹴りで一発で打ちのめしたのよ! びっくりだわ。人間真っすぐ勢いよく走っていても直角で曲がる事なんて可能なのね。それに蹴りで人が壁に埋め込まれるのを初めて見たわ! あんな事が可能なのね!

 

「くふふ~、あのねアルちゃん、あの先生だけしかできないと思うなぁ~」

「そんな事無いわ! あのねムツキ、アウトローはどんな時でも諦めないの!」

「アル様が言うなら努力するしか……」

「ハルカ、現実を見て。無理な物は無理でしょう?」

 

 その力学を無視した蹴りを受けたひったくりから、バッグが天に向かって投げ出されてたの。それをどうするのかしらって見ていたらね、なんとサッカーボールを蹴るようにバッグを蹴り飛ばしたの! 絶対中にあるIT機器は破損したと思うわ! それだけじゃなくて、対峙してるスケバン達の頭を一直線に打ち抜いていったの! 

 当然不意を突いた一撃だったからスケバン達は前のめりに倒れていったわ! でも凄いのはここからで、そいつらが持ってたライフルが綺麗に一直線になってミカンが転がる先に並べられるように落ちていったの! 当然お婆さんは大助かりよね! 不良と犯罪者を痛めつけたと同時にちょっとした困りごとを助けるだなんて流石は先生だわ!

 

「待って待って社長! えっと、なに? 流石に盛ってない!? ……いやあの先生だったらあり得るかもだけどさ」

「残るは猫とカイザーのヘリだね~!」

「うぅ、あの先生でしたら簡単に想像出来てしまうのが怖い……」

 

 ここで先生の本領発揮よ! 

 すぐさまお婆さんに駆け寄りミカンを箱に入れてあげた先生はただ一言「このミカン、一個だけくれないか?」って!お婆さんも快く彼にミカンを一つ渡してたわ! 見返りを強く求めるなんてアウトローのすることじゃない、そこら辺を弁えてるなんて流石だわ!! しかもそのミカン、一口齧って出た言葉がね「てめぇらにもこの甘さを味合わせてやるよ」って言ったの! 何のことか分からなかったけど、数秒後その意味がはっきり分かったわ! 先生はあろうことかそのミカンを握りしめて、こう、肩と腰をぐーっと半回転させて、突風が巻き起こるくらいの勢いでミカンをヘリコプターに投げ飛ばしたの! 知ってる皆? ミカンってヘリコプターのコックピットを撃ち抜けるみたいよ!

 

「いやいや待って社長。いくらあの先生でも流石に石とか混ぜてるって。ありえないって」

「うぅ、あの先生でしたら簡単に想像出来てしまうのが怖い……」

「私達、最初はあの先生に敵対しようとしてたんだよね」

「怖い事言わないで頂戴ムツキ室長。話を続けるわ。ここからがクライマックスよ!」

 

 当然、ミカンで撃墜されたヘリコプターは悔し台詞を吐きながら墜落していったわ。道路の真ん中だったから猶更迷惑だったわね。爆風はかなりの範囲まで広がったわ! お婆さんは無事だったしミカンも回収してたけど、問題は木の上にいる猫ちゃんだったの! 当然、爆風の勢いは強いから派手に吹き飛ばされてね。流石にあんな上空から落ちたらひとたまりも無かったと思うわ。でもこの後の展開は分かるでしょ? 先生はそこまで折り込み済み。天高く舞い上がった猫ちゃんに向かって一気に跳躍した後、何事もなかったように着地してこう言ったの! 「可愛らしい雨が降りそうになってたな。大丈夫か?」ってね!! あの一瞬でそこまで計算出来るなんて……! もう……! こう……! ミャーって私が鳴きそうになったわよ!!

 

「あの先生は運が極端に悪いよね……」

「確か美味しいストロベリーサンデー屋さんを見つけたとか言ってたけど、後日行ったら美食研究会に爆破された後だったんだっけ? あれ正直笑ったよねー!」

「うぅ、その後鬼の形相で追い詰めてましたよね……あれは正直怖かったです」

「ちょっとちょっと、話はまだ続くのよ!」

「本当に? もうお腹いっぱいなんだけど……ていうか、社長もよくじっと見てられたよね」

 

 その後先生は空を見てこう言ったわ!「今日の天気は晴れのちヘリコプターに時々猫ちゃんってか? ついてねぇぜ」ってね! 正直この台詞はもっと言い回しがあったと思うんだけど、影で見守っている以上何も口出し出来なかったわ! 正直ダサいから、今度会った時に議論するつもりよ! で、先生が向かった先は何だったと思う? 違法カジノ? それともブラックマーケット内部の銀行かしら? いいえ、先生が向かった先はスイーツショップだったの! 道を歩くだけで悪人をばったばったとなぎ倒し、困っている人を助ける強き人物が向かう先はなんとファンシーなお店。しかも外観のファンシーさに面食らってたのか「まじかよ、カズサの奴」って小言を吐いていたのポイント高いわね! よく映画で見る場面だわ!

 

「社長、そのカズサって子は誰なの?」

「くふふ~、カヨコっち目元がまじになってるぞ~!」

「あまり聞いた事ありませんね」

「私もよく知らないわね。今度先生が来た時聞いてみたらどうかしら?」

「そうする。じっくり聞かないとね」

 

 そのファンシーな店に入ったから、当然私も後を追ったわ! あ、お婆さんのミカンを箱に入れ終わってからね! で、中にいる先生はじっくり悩んだ後、お財布を見てこう言ったの!「ギリギリだな」って!

 私的にこの部分のポイントは凄く高いわ! なんたってあれだけの力を持ちながら、それに溺れる事無く清貧な生活を送ってるという事実! しかも先生は借金がかなり多い。言いたい事理解出来るかしら? 普段はズボラでお金に無頓着。でも強大な力を持ってそれを弱者の為だけに使い、我が欲の為に使おうとしないこの崇高な精神が!! 私達も真似るべきだと思わない? まぁ既に資金繰りには困っているけど。で、私はどうしてこんな所でストロベリーサンデーを買っているのかしらって疑問に思ってたの。もしかしたらどこかに行く途中の土産として買う必要があったんじゃないかしらって。でもそれは違ったわ、先生は買い物を済ませた後、元の道に戻っていったの! つまり、先生はただ買い物に来ただけだったってこと! ここもポイントがうなぎ上りよ! ただ買い物に来ただけでそこまでの事件に巻き込まれるなんて普通じゃないわ! これこそが真のアウトローの姿、道なのねって思わずその場でメモしちゃったくらいなんだから!!

 

 

「ほんっと、あの先生は歩くだけで色々巻き込まれるんだから」

「カヨコ、私達はやはりあの先生を目指すべきだわ。計画を練らないといけないわね」

「アルちゃん本当にやるつもり!? まず向かってくる人を力学無視して直角に蹴り込める!?」

「アル様がやるというのなら私も付いていきますが……せめてミカンじゃなくて爆弾を使わせて頂けると」

 

 すると、事務所のインターホンが急に鳴り響いた。本日の来客予定は未定の筈だが、急な来訪者なんてものはこの界隈ではごく普通の事。

 アルはすぐさまデスクに座り足を組み、威厳を放つ笑みを浮かべ、その横にはカヨコがけだるそうに立ち、ムツキは無邪気にテーブルの上に爆弾を広げ弄り始める。 ハルカは扉の元まで向かい、セキュリティスイッチを押して下の階の扉を開けると、事務所入り口で待機し始めた。これが彼女達の舐められない為のフォーメーションである。

 一分後、開かれた扉の先に現れたのは、噂の先生であるダンテの姿であった。

 アルは思わぬ来客に歓喜の声を上げながらハルカに茶を出すように指示し、カヨコはダンテの背後に、ムツキは隣に座り、アルは向かい側。お茶を出し終わったハルカはアルの隣に座り込み、全員で来客をおもてなしする準備を整える。

 

「ふふふ、今丁度ダンテの噂話をしていたのよ? あのファンシーなスイーツ屋さんに行った日の事」

「くふふ~、アルちゃんダンテになりたいって止まらなくてね~! 本当に困った困った~」

「ダンテ、カズサって子誰なの? ねぇ先生……カズサって子誰なの?」

「ダンテ先生、そ、その……そのお茶の茶葉は雑草を焙煎したものですけど、お口に合いますでしょうか?」

「待って待て待てお前ら情報量が多いぜ! まずこのお茶は飲んでも安全なのか? ファンシーなスイーツ屋さんに行ったのをなんで知ってる? あとアルはどうして俺になりたがってる? カズサについては……カヨコなにかやりそうだから教えれねーな」

 

 何とかその場を抑え、口を潤す為に再びお茶を喉に通すダンテ。この際なんの茶葉を使っていようが関係ない。そもそも茶葉なのだろうか。

 

「今日俺がここに来たのは依頼だ。……美食研究会の奴ら、俺のお気に入りのストロベリーサンデー屋さんを潰すのはこれで5度目だ。もう許してやらねえ」

「先生、依頼という事は報酬は用意しているのでしょう? まずはそこからよ」

「ピザ食べ放題はどうだ?」

「乗ったわ! 美食研究会を見つけて捕まえればいいのね? お安い御用よ。なんたって私達は──」

 

 長いコートを羽織り、布を風になびかせながら、一瞬の迷いもなく武器を手に取る。鋭い視線が周囲を貫き、体はすでに臨戦態勢へと切り替わっていた。

 憧れの人が自分たちを信頼し、頼りにしている──その事実が胸を熱くさせる。彼女たちの心には、揺るぎない使命感と、追い求めてきた崇高な夢がさらに燃え上がっていた。

 目指すは真のアウトロー。誰にも縛られず、自らの信念に従い生きる、自由そのものを体現する存在。

 

「悪魔も泣き出す、便利屋68なのだから!」

 

 憧れの人物の言葉は、彼女たちの胸に深く刻まれていた。その一言一言が、彼女たちの道標となり、迷いを振り払う力を与えてくれる。

 そして今日も彼女たちは、誰にも縛られず、自らの信じる道を歩む。その背中には、誓いと覚悟が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

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