ダンテ先生概念   作:3ご

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※注意。

※一部に残酷な描写を含みます。







深紅の会合

「興味深い結果です。成程……これがあなたの言う”主”の力ですか」

 

 円形の広間は暗紫の照明に包まれ、重なる円環の光が薄紅色の床を照らしている。中央には白いドレスの女性と、それを守るように寄り添う長身の人影。その少し離れた位置に、タキシードを思わせる黒い上着の影と、杖を頼る首無しの人物。合わせて四人。

 まるで舞台のように照らされた円環の内側では、白いドレスがかすかな輝きを放ち、後ろに立つ男性の黒衣とともに強いコントラストを生み出している。薄暗い照明の中、壁面には制御装置らしきものが見え、電子音が低く反響していた。

 

 広い会議室とは呼ばれるが、その雰囲気は神殿めいた厳かなもので、音のない張り詰めた空気が流れている。足元をなぞる円形の光はさらに場の静寂を際立たせるように見えた。

 白いドレスの女性は身じろぎもせず、しかし彼女を囲む人々の様子には、どこか緊迫した警戒の色がうかがえる。床の円環が浮かび上がるほどに、四人の足下に長い影が伸び、それが静まり返った空間にもう一つの円を描いている。ここはゲマトリアの会議室と呼べるべき場所。

 

「ええ、その通りです。あの子達の傷も自然に癒え、腕を捥ぎ取った生徒の肩からまた新しい腕が生える。あなたから見ても興味深い現象ではなくて?」

「勿論、大変興味深い事柄ではありますが……。悪戯に弄ぶのはあまり良い趣味とは思えませんね」

「あら? アビドスの生徒を利用し、神秘の裏側を覗こうとしたあなたにそれを言われるとは心外ですね。黒服」

「……それは”まだ訪れていない未来の話”なのでしょう?」

 

 黒服と呼ばれたその者は、緊張を緩和させる仕草を取った。

 ネクタイの帯を締め、再び彼女に視線を戻す。

 

「クク……そうでした。この世界ではまだその未来は訪れておりません」

「ベアトリーチェ、もうそろそろ話をしてもよい頃合いなのではないでしょうか。いつどこで、貴女がその力を手に入れたのかを教えて頂けないか」

「おお──ついに謎が解明される。本来の物語から逸脱した存在、伏線の回収がなされるのであろうか!」

「そういうこったぁっ!」

 

 興奮に弾んだ声が室内にこだまする。そこには待ちわびた真実に手が届くかもしれない期待と好奇心が入り混じっていた。彼らの目が一斉にベアトリーチェへ向けられると、彼女は一瞬だけ肩をすくめるように身体を揺らし、まるでその視線さえ玩具のように扱っているようにも見えた。

 

「良い。それは、私の作った教義を改造した話にも繋がる」

 

 そんな視線を一身に集めながら、ベアトリーチェはゆっくりと唇を開いた。浅黒さが残る唇に付着していた血の痕を、舌でゆるやかに舐め取る。その仕草だけで、場の空気がさらに張り詰め、誰もが話を遮らぬよう息を潜める。

 

「始まりは──そう、以前の世界であなた達に追放されたことから始まりました。その力は色彩に対抗する力、どんな存在でも次元の彼方へと飛ばす力。モナドの絶対者に唯一対抗出来得る手段」

 

 その語り口は、さながら確固たる自信と嘲笑を帯びている。まるで彼女にとって過去の悲劇や追放は、今や誇らしさと復讐の歓びに変わっているかのようだ。ひときわ強くなったその殺気にも似た威圧感が、壁際の者を射すくめる。空気が重く、威圧の圧力が肌をじりじりと刺してくるようだった。

 

「……私達にあれを使わせることを、あなたが行ったという事ですね?」

「ええ、要はそう言う事です。私は自身の存在を高次へと昇華させるため、生徒を生贄にし色彩と同化するつもりでいました。まぁ──今思えば、あんな些細で小さな存在を高次と捉えてしまった自分がとても恥ずかしく思います」

「なんと……! 絶対者を小さなと表現するか……!」

「そういうこったぁ!?」

 

「次元の狭間で、私は彷徨いました。時間の概念があるかも分からない空間を、ひたすらに」

 

 彼女は瞳を下げ、珍しく物悲しそうに眉を顰める。

 

「本当に──奇跡を信じました。私はそこでとある者と出逢ったのです。次元の狭間の中で”世界を創造”し、大いなる力を蓄えている存在。あの色彩ですら些末に見える程の圧倒的な……!」

 

 天を仰ぎ、両手の指を絡ませる。

 安らぎに似た微笑は、あまりにも場に似つかわしくない。

 

「その者は、私の復讐心に気付き、優しく──包み込むような口で私に語り掛けたのです。ただ一言──力を与えると。そして、私の中にキヴォトスでは決して得る事の出来ない力が宿りました」

 

 あまりにも突飛な内容に、黒服は反応に困っていた。

 確かに次元の狭間に追いやる技術は得ている。だからと言って、その中に絶対者である色彩を超える力が隠されていたなど、理解が出来なかったのだ。

 

「勿論、条件がありました。その者はキヴォトスという世界に興味を持ち、そこに導いて欲しいと言葉を発したのです。その時の私は次元の狭間を抜け、元に戻る事など造作もありませんでした。私は御主の──嚮導者となって、再び元のキヴォトスに舞い降りたのです」

 

 絡ませた指の先には、恍惚の笑みを浮かべる淑女。

 黒服達は未だに信じられないといった顔で彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「そして元のキヴォトスに戻った私は、まず一番最初に──シャーレの先生を殺しました。大人のカードを限界まで使用しておりましたが、呼び出した生徒は悉くこの授かりし力の餌食になったのです。ええ、それはもう愉悦の極みにございました」

 

 ベアトリーチェは瞼を閉じると同時に、当時の凄惨な光景をまざまざと思い出していた。狭い室内に銃声と悲鳴が入り混じり、床には瓦礫と血が飛び散っていたあの瞬間──それは彼女にとって、ある種の陶酔を伴う愉悦の時間でもあった。

 

 彼女は、血まみれの姿で負傷していた暁のホルスに狙いを定める。片腕が上がらないという絶望的な状態に陥った彼女を、まるで小石でも蹴飛ばすかのように足を振り上げると、容赦なく壁へと叩きつけた。その衝撃でコンクリートの破片が崩れ落ち、彼女の背中から絶望的な呻きが漏れ出す。ホルスの身体は壁にめり込み、ズルリと血の跡を引きずりながら力なく落ちた。

 その横で、今にも崩れ落ちそうな意識を奮い起こし、ゲヘナの風紀委員長が必死に突進する。だが、それは無策な特攻にすぎない。ベアトリーチェの目には、その焦りと悲壮感が、まるで滑稽な踊りのように映った。彼女は手を伸ばし、その首を鷲掴みにする。血管が浮き出るほど首を締め上げたまま、落ちていたホルスの銃を拾い、至近距離で風紀委員長の腹部を何発も貫通させた。

 

 瞬く間に弾丸は彼女の体を蜂の巣にする。呻く暇さえ与えず、血が床へと飛沫を描くと、ベアトリーチェは無造作にその身体を放り捨てる。事切れた人形のように、風紀委員長の身体は勢いのまま床を滑り、そのまま動かない。

 

 残虐きわまりない結末を目撃した最後の一人──彼は血まみれの腹をどうにか押さえ込みながら、震える手で懐から最後の切り札となる大人のカードを取り出した。薄れゆく意識のなかで、必死にその輝きを周囲へ張り巡らせようとする。しかし、ベアトリーチェの眼には、それもまた虚しい悪あがきにしか映らない。

 

 床を赤黒く染めたまま立ち尽くす彼女は、すでに獲物を仕留める表情でにじり寄ると、そのカードを握る彼の手首を鋭利な爪で切り裂いた。痛みにのたうつ彼の首筋へさらに容赦ない一撃を放ち、血飛沫が飛んだ瞬間、ベアトリーチェの唇から妖艶な咆哮がこぼれる。

 

 赤黒い液体が、床と壁と遺された命を撫で回すように広がる。コンクリートの破片や倒れた人々の死骸が散乱するなか、ベアトリーチェの静寂だけが、まるでその瞬間を支配する女王のごとく場を凍りつかせていた。

 

「成程。ですが、私達はシャーレの先生を知りません」

「そうですね。まぁ、私の計画を全て打ち破った者。という位置づけでした。憎むのは当然でしょう? 黒服、あなたの計画は彼に壊されたのですよ? まぁ、あなたは……いえ、あなた達はそれでも”先生”ならよき理解者になると言って聞きませんでしたが」

「ちなみに、その後のキヴォトスはどうなったのか」

「物語の主人公が居ないお話なんて、破滅に向かうのは当然でしょう? 生徒の恐怖に色彩は導かれ、神々の星座が顕現。アビドスのある生徒は神秘が反転し恐怖となって姿を変えておりましたが──御主は、全てを飲み込んだのです。色彩も同様に、シャーレの先生の死体も、反転した生徒も全て」

 

 飲み込んだ。

 想像は広がる事無く、彼らはただ頷くだけだった。

 

「絶対者を──飲み込んだと?」

「絶対者は絶対者であるが故。だが、それを超えたという事はその順位が入れ替わっただけのこと。不思議ではない」

「貴女が別の世界のベアトリーチェだという事は理解しました。ではこの世界の貴女はどこへ?」

「邪魔なので殺しました。この世界は二つの存在が遍在すると歪みが出るそうなので」

 

 様々な情報の元、なんとか整理を付かせようと頭を捻る黒服に、ベアトリーチェは微笑む。

 

「では、この世界のシャーレの先生はどうされたのですか?」

「その者の魂は、御主自らのお力で消滅させました。キヴォトスの窓は見つけるのが困難な分、出入り口が一つしかありませんから。とても簡単でしたよ?」

「つまり、この世界にはもう主人公は存在しないという訳ですか。──あぁ、なんという悲劇」

「そういうこったぁ……」

 

 ──もし、邪魔する者が現れたとしたら。

 

 黒服のその言葉に、片方の眉をピクリと上げるベアトリーチェ。

 

「もうこの世界に、私と御主を止める存在などおりません。仮にまたシャーレの先生が復活したとしても、キヴォトス最高の神秘をけしかけても御主、いえ──私にすら敗北するようでは、何度やっても同じ結果でしょう」

 

 場に、再び静寂が戻る。

 黒服は理屈を組み立てるために頭を捻った。しかし、常識的に考えれば、こんなことはあり得ない。そもそもベアトリーチェが話した内容──そして、死に瀕した者を蘇らせた力、あるいは奇跡的に回復させる力など、荒唐無稽も甚だしい。にもかかわらず、それが実証されている以上、事実として認めるしかない。

 

「ベアトリーチェ、その御主という者の正体は?」

 

 彼女は口元に笑みを浮かべ、誇らしげに御主と呼ばれる者の正体を明かす。

 

「あの御方は──宇宙を創造し、世界を創造する」

 

 ──その名前は。

 

 

 

 

 




前回の話、投下するか結構悩みました。
描写的に不快感を感じる方が居るのは百も承知ですし、作品の評価や読者様が減ってしまうだろうなと。

色々な面を天秤に掛け、悩みに悩んだ結果。

もういっか! 自分が描きたいお話書いちゃえ☆だって無償だし☆

という結論になってしまったのでこのまま我が道を行きます!
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