今回の題は、私がただ何となく書きたいなって思って考えたお話です。
トリニティ編でも出していた二人の生徒。赤髪の生徒と車いすの生徒のお話です。
まじでただ単に書きたいなと思っただけなんで、適当に書き連ねていきます。
トリニティ編を書いてる途中で、その後のアリウスの生徒のお話を書きたいなという願望が生まれ、作中でちょっと出してました。
オリキャラ生徒が二人出ます。
執筆というのは自己満足が殆どだとは思いますが、その中でもかなりの自己満足で書くお話です。
ブルアカのクロスオーバーでこれをやる意味は?と問われると、一ミリもやる意味はないと断言出来ますが、ただ書きたいから書くってだけなんで暖かく見守りください。
本当に自己満足なので、合う合わないがあると思いますが、お付き合い頂けると幸いです。
赤髪の生徒
「ピザって食いもんはどこの世界でも変わらねぇもんだな。焼きあがった生地の香ばしい香り、口の中に充満するチーズ。そして決め手はペパロニだ。チーズの甘さと対照的な塩味はまるでエボニー&アイボリーだ。そうは思わねえかマリー?」
「はい先生。とりあえずジンの飲みすぎだということは理解出来ました。あの、ちょっと、お酒臭いので距離を置いて頂けると……」
「連れねえな。お前が極秘裏にって態々俺の所に持ってきてくれたんだろ? なら、盃に付き合うのが筋ってもんじゃねえか」
「筋……でしょうか? 私は日々頑張っている先生を労おうと贈り物をしただけなのでお付き合いする理由は特にないのですが……」
「おい、グラスが空だぜ。あと氷も頼む」
「ああもう──いい加減にしてください!」
美女の前で飲む酒は一人で傾けるそれとは訳が違うのさ。なんたって孤独を癒す薬でなく、純粋に酒の輪郭が舌に残る。
特に、マリーみたいな清純清らかな子の前で飲む一杯は背徳感も相まってアルコールの純度が高くなりやがる。そう、グラスに残った数滴の美酒を眺めては、彼女の視線に瞳を合わせるのがこの刹那の楽しみだ。
「とか言って、早速お酌するその姿嫌いじゃないぜ。お前も実は好きだな?」
「全く好きではありません! あぁ……聖職者ともあろう方がなんでこんな……」
「おい、これ見てみろよ。ナギサの奴頑張ってるみたいだな」
「話を逸らさないでください!」
彼の指先で端末の画面がぱっと明るくなった。
光に浮かび上がった映像は、数日前に撮影されたものだ。
荒れ果てた灰色の路地。
スラム街の中心で、湯気の立つ鍋を囲み料理をよそっている学生たちの姿がある。
胸元のエンブレムはアリウスのものに偽装されているが、目を凝らせばわかる。整った所作、制服の縫製、背筋の伸びた立ち姿。そこに立つのは、紛れもなくトリニティの生徒たちだった。
アリウスとトリニティ。
その亀裂は、未だ深く、固まった傷跡のように街の空気にこびりついている。
マダムが姿を消したことで、拠り所を失ったアリウスの生徒たちは、迷いの中で右往左往していた。けれど長年かけて植え付けられた憎しみは、人の手で容易く拭いきれるものではない。
水面下で澱のように溜まり続け、ゆっくりと形を変えながら、今も燻り続けている。
きっと、これは時間の問題だ。
急激な変化も、劇的な和解も望めやしない。
積み重ねるほかに方法はないのだと、彼は無言で画面に目を落とした。
「しばらく見ねえ内に随分進めたみたいだな。ただ紅茶を啜ってたって訳じゃなさそうだ」
「ナギサ様は先生と違って約束を守られるお方ですから」
鋭い一言に、わずかに空気が震えた。
髪が揺れ、マリーは唇をきゅっと引き結ぶ。尖った言い方なのはわかっている。けれど、彼女にも刺を手放せない理由があった。
思い返すのはあの日の光景。
華やかな衣装に身を包み、照明を浴びてステージへと踏み出した瞬間。
客席のざわめき、楽器の余韻、眩しいほどの熱気。恍惚とした意識の中で、世界がひとつに溶け合った。
苦難と歓声が交差した、そのただ中一番近くで支えてくれたのは、隣に立つ大人の手だった。
不安に震える肩にそっと触れ、前を向かせてくれた、その温度。
あの日の記憶が、まだ胸の奥に生々しく残っている。
「まだ根に持ってんのか。質に出した訳でもねえのによ」
「ムス……! ずっと根に持ちますから!」
学内の片隅。
夜を模した照明が、花弁のように柔らかく広がっていた。
イルミネーションの光が反射して、彼女の頬を淡く照らす。その明かりの下で、マリーはそっと一枚の写真を差し出した。
それは、誰にでも渡せるものではない。先輩でさえ手にすることを許されなかった、大切な一枚。けれど、彼だけには、なぜか差し出すことができた。
ステージに立ったあの日より、もしかしたら勇気が必要だったのかもしれない。
胸の奥がきゅうと締めつけられるほど怖くて、もし受け取ってくれなかったらと思うと、足が震えた。けれど、もし今、ほんの少しでも気持ちを伝えることができるなら。
その淡い願いが、少女の背中を押した。
指先が触れ合う刹那、光の花びらがぱっと弾ける。
「きちんと戸棚に閉まったからいいだろ?」
「それはそれで渡した意味が──うぅ、まさかシャーレのコルクボードに飾るなど思いもしませんでしたよ」
「大切な生徒の大切な贈り物だ。いつも見えてるところに置くのが正しいもんじゃねえか」
「ふーん……。先生、お手伝いに来られた方々が皆その写真を撮って、どこかに漏れたのをもうお忘れですか?」
「ああ、普段見れないマリーの素顔っつうので一時期話題になってたな。ま、皆忘れる頃合いだろ」
「私はずっと覚えてますけどね!」
「なにより、普段見れない姿なら今見せてるじゃねえか。あの温厚で奉仕の心を忘れない清貧な彼女が頬を膨らませて目つきを尖らせてんだ。舞台の華やかな笑顔より俺はこっちの方が好きかもな」
そんな口説き文句が彼女の耳にしっかりと入る最中、来賓室の扉が徐に開かれた。
由緒正しきトリニティの重厚な扉をノックもせずに開く人物などひとりしかいない。そいつは既にダンテがいることなど周知済みで、突然のラッキースケベを期待していたに違いないのだ。
桃色の淡髪に清楚な瞳。けれど口元はどこか無邪気さを醸し出す。
歩けば牡丹。しゃべれば彼岸花も枯れる下世話な言葉選びは、むしろ生命の象徴とも言えそうだ。
「ダンテ先──あらあら? あらら? これはいったいどういう……! 純潔を体現された彼女があろうことか成人の鼻息荒い大の大男のグラスに禁忌のお酒を注いで……? まぁ、なんということでしょうか!」
「ハナコさん違うんですこれはあの」
「しかもまだお日様が登り切ったお昼。そこにはあるのは肩を温めあった二人のぬくもり。私は見てしまったのです! 先生の○○○をマリーさんがその手に取り、こう、えっと、激しく──」
「おう、ハナコか。まぁ隣に座れよ。焦んなって」
魔界の帝王をその手で打ちのめし、伝説の魔剣士の名を継ぐ一人の男でさえ、手を焼く生徒は存在する。
ハナコっていう生徒は、実に厄介だ。これまでにも下品な冷やかしや皮肉を吐く連中は山ほどいた。だが、どれも聞き飽きた類いの言葉ばかりで、笑いを引き出すどころか、挑発と受け取ることさえあった。
「どこそこに何を突っ込むだの」「食い物に例えるだの」芸のない台詞なら、掃いて捨てるほど耳にしてきた。
そんなもの、彼の心に微塵の揺らぎも生まれなかったはずだ。
けれど、同じ内容でも、言う人間が変われば状況は一変するらしい。
あの天真爛漫な顔で、無邪気な声音で、表情豊かに畳み掛けられれば、脳内の警報が一斉に鳴り響く。
大の男が、額にじんわり汗を滲ませるほどに。
「先生、ここから先はR指定でしょうか?」
「……だな」
「また、その大きな手で私の口を塞いで声を出せなくするのでしょうか?」
「お前ワザと言い回し変えてるな?」
「な!? 先生、ハナコさんにそのようなことを!?」
「またベッドに押し倒して、大人の怖さを私に教えるおつもりでしょうか?」
「先生!! 最低です!!」
両耳に耳栓をするように一気にジンを煽ると、力なくソファの背もたれに寝そべり瞳を閉じる。
美女の麗らかな美声ではあるが、方や瞳を鋭利にさせたお説教。方やR指定の向こう側にたどり着きそうな大人の話題だ。
静かになるまで目をつむってるかとリラックスし始めたが、両頬をつつかれては反応せざるを得ない。
「うふふ、寝かしませんよ先生」
「先生、何かご弁明はおありでしょうか」
扉が閉まる音が、乾いた余韻を残して部屋に響いた。呆れを隠そうともしない仕草で鼻を鳴らし、マリーは足早に部屋を後にしていく。その背中を、彼は思わず目で追った。
だが、酔いが回りきった体は意志に反して重く沈み、椅子から腰を上げることすらままならない。女の尻ひとつ追いかけられないほど飲んでしまった自分に、情けなく息が漏れる。
隣では、女神のような微笑みを湛えたハナコが、楽しげに彼の反応を待っていた。
その無垢を装った視線に、彼はわざと悪魔めいた笑みを返す。
「ようハナコ、楽しんでるか?」
「はい、とっても」
「たまにはいいじゃねえか。酒くらいよ」
「はい? あ、そういえばここに来たのには理由がございまして」
「話逸らすなよ。ま、少し付き合ってくれてもいいんじゃねえか?」
うふふ、お任せくださいと。彼女は頬を赤らめながら瓶を取りゆっくり液体を注ぐ。
もしかしたら最近相手をしてやれなかったから寂しくさせてしまったのかもしれないと、横目で彼女を見る。
嬉しさを隠しきれないのか、彼女の表情はどこか誇らしげだった。けれど、瓶の口を支える指先だけは妙に繊細で、触れれば崩れてしまいそうな危うさを帯びている。光沢を帯びた滑らかな動きが、目を離せないほど色気を孕んでいた。
もし、元の世界で出会っていたなら。
その想像を、彼は深く胸の内に沈めた。
「先生、実はお伝えしたいことがあり、本日は足を運んだのですが」
「なんだ? 態々改まって」
「……いえ、やはり明日にします。明日はお酒は飲まないでくださいね?」
ーー
ーー
毛布……といえば聞こえはいい。それは布地と形容してもさほど差が無く、くたびれすぎている。
光芒が差し込む天井はついに見飽きてしまった。瓦礫が埋もれるただの倉庫だった場所は、今や沢山の銃火器が横一列に並び、中心ではドラム缶の中で焚火をしている者さえいる。
仄かに香るスープの香りに釣られ目を覚ました彼女は、くたびれた毛布を無造作に脇に投げ、空腹の音と共に身を起こした。
彼女の起床に視線を合わせる生徒達。幼き眼を向けられた彼女は慣れた光景だと、軍用の服に身を通しながらあくびをかました。
「アマネ先輩、仕事を取ってきました。どうやら密輸依頼みたいだけど……」
着替えを終えたアマネと呼ばれた彼女は濡れたタオルで顔を拭きながら、後輩の話に耳を傾け割れた鏡へと視線を落とした。
特徴的な赤髪が、ひびの線を縫うように揺れる。
鋭い眼差しはいつもどおりだが、眠りの浅さが影を作り、目の下には薄く隈が滲んでいる。
大丈夫。へっちゃらだ。
そう胸の奥で呟き、己を叱咤する。
今回の仕事も、いつもと同じように終わる。
報酬さえ得られれば、食料の確保にも困らない。時間もできる。
それなら睡眠の一欠片くらいは、ようやく手に入るはずだ。
両頬をぱんと叩いて意識を引き締め、背後に立つ後輩たちへと向き直る。
「他に条件は?」
「えっと、カタコンベのルートを教えろとのことでした」
その言葉に、彼女の眉がぴくりと跳ねた。
「何? またか? あいつらアリウスに来ようとしてるのか? こんな何もない土地に」
「目的は分かりませんが……」
「まぁいい、んな情報いくらでも教えてやるよ。それよりも報酬はいくらだ」
差し出された見積書を受け取り、ざっと目を走らせる。
紙面に並ぶゼロの数に、思わず息を飲む。
後輩の顔を一度だけ見やり、再び紙面に視線を戻した。
条件はいくつか記されていた。
アリウスの開拓でもしようとしているのかと、おかしな条件に口を曲げる。
何度か顔を合わせたことしかない、あの怪しい大人。
薄暗い影のようにまとわりつく存在が、この土地へ明確な興味を示し始めている。
予兆は以前からあった。だが、こうして文章として突きつけられるのは初めてだった。
「あ、アマネ先輩。今回は流石に……私達以外からも意見を──」
「トリニティの施しを受けた連中の意見を聞くのか? 私は嫌だね」
「ですけど、シズク先輩だって……」
「あいつの話はするなって言っただろ?」
「す、すみません……」
不機嫌を隠さない声音に、後輩は気まずそうに目を伏せ、そそくさとその場を離れていった。
シズク。
その名前を聞くだけで胸がざわつく。視界の端に、まるで本当にそこに立っているかのように彼女の姿が浮かぶ。忘れたはずの記憶が、勝手に押し寄せてくる。
喧嘩をした。
ずっと一緒にいて、未来を作っていく。そんな当たり前のように思っていた日々が、たった一度の言い争いでひび割れた。
原因は自分だ。
彼女は向こう側へ行き、自分はここへ残った。それを止めたわけでも、話し合って別れたわけでもない。きれいなものなんかじゃなかった。ただのすれ違い。なのに、投げた言葉は思った以上に深く刺さった。
「それは食べ物を食べれることよりも、大事なことなの?」
ただの疑問だったはずなのに、反射的にきつい言葉で返してしまった。言わなきゃよかった。飲み込めばよかった。
それでも……譲れないものがあった。
夜になると、あの最後の背中がフラッシュバックする。
もう自分の足では歩けないのに、「自分の道を行く」と言って車椅子を押していく姿。遠ざかる背中を、呼び止められなかった。
あの日の夜、涙が止まらなかったのを、今でもはっきり覚えている。
「じゃ、荷物を取りに行くか」
「今回は誰が同行しますか?」
「いや、私一人でいいよ。この前のと同じ、ただ荷物を運ぶだけだ」