ダンテ先生概念   作:3ご

73 / 99
絶賛大スランプ中。
試しに一人称の書き方変えてみたら面白かったので、なんとか克服したいですね。




衣替え

「と、言う訳だ。先生、理解したかい?」

「いーや、全く」

「ふむ……先生ともあろう御方が概要すら掴めないとは。もしかしてあまり乗り気ではないということだろうか」

「俺が生徒の抱えている問題をあしらうと思ってんなら大きな間違いだぜ、セイア」

「それが先生の務めだもの。以前聞かせてくれたお話だね。かくして魔剣は各地へと飛び、闇の力で雲を切り裂く。世界に光芒を差し込んでは天に剣を掲げ、己の名をその地に刻む……まるで物語みたいな人生さ。そんな主人公がこんな重大なミッションを断る訳がないということかい?」

「何言ってるかわからねえが、正解だ。概要は大まかに頼むぜ? 細かい話は苦手なんだ」

「先程のもだいぶ大きな項目に分けて説明したつもりだが……ふむ、原因は横にいる彼女かな?」

 

 セイアの視線の先には、花飾りを髪に添えて上機嫌に揺らしているお姫様がいた。

 ダンテに見てもらうのを楽しみにしているのが誰の目にもわかる、全力のおしゃれアピール。

 本人はというと、周囲の声などまるで耳に入っていない様子で、今の自分に許される範囲の「楽しい」を存分に味わっている最中だ。

 

 その姿はまるで、騒がしい世界の端でひとりだけ別の季節をまとっているようで、ダンテの注意がついそちらへ流れてしまうのも、仕方のないことだった。

 

「ミカ、今はね、とても大切なお話の最中なんだ。相変わらずだね。言葉にしてようやく理解するタイプだったかな?」

「だってだって、先生に久しぶりに会えたのがうれしかったんだもん!」

「近所にいる犬を思い出してしまったよ。その犬はね、私を見かけると涎をまき散らしながら突進してくるんだ」

「かっちーんっ! セイアちゃんあのね、言葉には刃が宿るんだよ? 喋ってから気付くタイプだったっけ?」

「君に言われずとも気付いているさ。ミカ、今は忙しいナギサの代弁行為を行っているんだ。君はナギサの邪魔をしたいのかい?」

「何それいじわる!? セイアちゃんサイテー。先生に言いつけてやる!」

 

 小鳥がさえずりを交わしながら喧嘩している風景に、とりあえず肩を竦ませて反応だけ見せた。

 確かにミカとは久しぶりだ。色んな意味で不安定だからたまには顔を見せてやりたいところだったが……。

 

「まぁミカは放って置こうとしようか」

「放らないで!? えっと、もしよかったら私から説明しようか?」

「ふむ。珍しいね。どんな風の吹き回しだい?」

「説明くらい私にだって出来るよ!? それに……ほら、私も一枚嚙んでたし」

 

 ミカは席に腰を下ろすと、細い指先でそっとティーカップを持ち上げた。薄い磁器が触れ合う音すら立てず、香り高い花の気配をふわりと口元へ招き入れる。

 

 その所作は、まるで静謐な絵画の一片のようだった。

 写真に収めればそのまま飾れる──そんな端正さがある。

 しばらく目を奪われていた彼と視線が重なると、ミカははっとしたようにまつげを揺らし、頬にほんのりと色を差した。

 

 纏う空気を動かすように息を吸い、そっと口を開く。

 

「先生、今のトリニティ……いや、ティーパーティの動きはね、アリウスを救うことなんだ。具体的には教育。それには食育や一般的な生活教育も含まれてるの」

「生活教育ってのはあまり聞かない言葉だな」

「うん。健康で文化的な最低限度の生活……って感じかな。アリウスの子たちは毎日碌な食べ物もなくて、お風呂にだって数日に一度。ごちそうがお湯だなんて信じられる? そんな環境の彼女達だから最初は抵抗が凄くてね……まぁ、トリニティに深い憎しみを持つように教育されてきたから当然なんだけど」

「だが、もうあのハエ女は地獄へ落ちたんだ。好きにしたいって奴だって出てきてもおかしくはねえ」

「うん。でも……人はそう簡単に環境を変えられない生き物。罠だって思ったんじゃないかな。しかもトリニティが相手とくれば話は別。でもね、ナギちゃんは対話を何度も試みたの。何度撃たれてもめげずにさ。流石だよね」

「へぇ、ここで茶を啜ってるだけじゃなかったみたいで安心したぜ」

「んもう、先生、ナギちゃんには優しくしてね? で、そんな感じで活動してたんだけど、そもそも対話すらさせてもらえない集団と出くわしたの。それだけじゃなくて、その集団は他の仲間を唆してせっかくナギちゃんが加護していた子たちも引っ張っていったんだ。スラム街や広場が戦場になるほどにね」

「また振り出しに戻りやがったって訳か。誰が牽引している」

 

 面倒な山――という言い方が、先生として完全な失言であることくらい、彼自身よくわかっている。

 何度目かもわからない週休六日の生活にすっかり飽き飽きしていた彼にとって、これは願ってもない退屈しのぎになるはずだった。少なくとも、話を聞くまでは。

 だが、いざ耳にしてみると、状況はそう単純ではない。

 これはただの鎮圧任務ではなかった。生徒を説得し、少しでも良い方向へ導かなければならない仕事だ。

 「勝手に前を向け」が通用しない、このキヴォトスという世界で、それがどれほど骨の折れることか――彼は嫌というほど身に染みて知っている。

 

 ──こりゃ一月の休暇を貰わないとな。

 

 ただでさえ冷酷な算術使いに休日もシャーレに突撃される始末だ。ここいらで大仕事をして先生の威厳を取り戻しておくのも悪くはないだろう。

 彼は背を曲げ前のめりになり、ミカの話に再び耳を傾ける。

 

「さぁ、誰がボスかはまだはっきりしないんだ」

「ま、誰でもいいさ。要は俺に反乱の鎮圧と、その首謀者を探し出して沈めろって話だな?」

「先生としてもっと言葉を選んだ方がいいけど!?」

「何を今更。さて、それならまず準備でもするか。ミカ、アリウスのカタコンベはどれくらい開通している」

「えっと、常に変化する場所だからはっきりとした座標はまだ割り出されてないっぽい……。そこはセイアちゃんが詳しいんじゃない?」

「ふむ、解析班に既に動いて貰っているよ。けど、どうしてそんなことを気にするんだい? ナギサと共に行動すればいいじゃないか」

「ダメだ。俺は先生としてじゃなく、一人の大人として潜入した方がいいだろう。先生としては名が広がってしまっているのは厄介だ。相手に警戒を抱かせる必要はねえだろ?」

「へ~! 先生ってそんな回りくどいやり方することもあるんだ! こう、ずっこーん! バキューンバキュンバキューンって感じなのにね」

「鎮圧っつっても、ただ頭ごなしに力づくでやりゃいいってもんじゃない。俺は弁えてるんだぜ、ミカ」

「ふむ、先ほどの沈めるという言葉は聞かなかったことにしよう。きっと先生なら上手くやれるはずだ。……ナギサを頼んだよ」

 

ーー

ーー

 

 古めかしい建物がずらりと並ぶ、トリニティの繁華街。

 放課後になると、学校を終えたお嬢様たちが文字どおり羽を伸ばせる憩いの場へと姿を変える。

 ギター1本を掻き鳴らし、即席の演奏で群衆をときめかせる者もいれば、愛想よく風船を配る着ぐるみの姿もある。

 そのすぐ隣では、どこぞの派閥同士が銃を片手に世間話に興じている──危険と平穏が奇妙に共存する、キヴォトスではすっかりお馴染みの光景だ。

 そんな慣れた光景を横目に堂々と歩く影が一つ。

 相変わらず派手な深紅のコートを靡かせ、日光が銀色の髪を反射させる姿。

 

 ──こんな奴が賑やかな回廊を闊歩するもんだから、生徒は大人しくなるしか道がない。

 見てみろよ、銃口を向け合った派閥が口に手を当て「おほほ」と微笑を交わし合い始めやがった。そりゃ当然さ、今ここで派手に撃ち合おうもんなら、銃弾よりも数倍痛い鉄拳が飛んでくるんだぜ。無理もないさ。

 

 鈴の音と共に奥の扉へと消えたその影に安堵した派閥の生徒達は、そっと胸を撫で下ろす。今日はこのくらいにしてやると互いに唾のような捨て台詞を吐きながら一同は解散。仲裁をしていた一人の生徒が赤の男に気付いたのか、小走りで背中を追い、扉の奥へと姿を消す。

 以前から気になってた……いや、もしかしたら淡い心でも持ってるかもしれない。彼女にとって、後の用事なんてどうでもいいのさ。しかも珍しく服屋に入って行ったんだ。気にならない方がどうかしてるってもんだ。

 

 扉が閉まりきる前に、男はすぐさま服を手に取った。

 

 店構えからして、時代に置いていかれた感じの服屋だ。看板は色あせ、ショーウィンドウには年季の入った革ジャンが一張羅みたいな顔で鎮座している。けれど中に並んでいるのは、妙に主張の強い服ばかりだ。

 分厚いデニム、無駄に金属パーツの多いベルト、使い込む前提みたいなレザージャケット。

 年代物をさらに一段階無骨にしたような、着る人間を選ぶ服たちが、堂々とハンガーにぶら下がっている。

 流行を追う気は最初からない。

 「似合うかどうかは知らんが、着るなら覚悟しろ」─罫線そんな無言の圧が、店全体から漂っていた。

 

 それでも、赤いコートの男は迷いなく棚を眺めている。

 よりにもよって、ここを選ぶとは。

 センスがいいのか悪いのか、その判断だけはまだつかない。

 

「潜入とは言ったものの、さてどうするかね」

 

 手に取ったレザージャケットを遠慮なく羽織る。とりあえず金額など無視するのは彼の良いところでもあり悪いところだ。見てみな、店主が睨みを効かせてるが、こいつはびくともしない。

 

「先生、こんな所で何をなさってるんですか?」

 

 抑揚の効いた落ち着いた声。

 大きな両翼を丁寧に折り曲げ、棚に触れないよう細やかな気遣いを見せる。

 風船のように膨らんだような胸部は垂れ下がらず上を向き、刹那の間、倫理が飛びそうになったのは内緒の話だ。

 

「ハスミか。買い物か?」

「それはこちらのセリフです。まさか、万年金欠で借金過多なあの先生が、服を買いに来ているのに驚きを隠せなかっただけです」

 

 信じられ無いと口元に手を添える彼女。

 

「そうですね、先生は大人ですから。ボーナスでも出たのでしょうか?」

「んなもんシャーレにあると思ってんのなら大間違いさ」

「そうですか……」

「憐れんだ顔で見るくらいなら服をどうするか考えてくれよ。どうもトレンドマーク以外はピンと来やしねえ」

「確かに先生といえば赤のコート……それ以外の選択ですか? 何か大事なご用事でも?」

「仕事で必要なだけだ」

「週休5日を謳ってたあの先生が──仕事とおっしゃいましたか!?」

「6日だ。間違えんな」

 

 この男を気安く揶揄えるのは、キヴォトスの生徒たちくらいのものだ。

 しかもハスミは、その中でも距離の測り方を心得ている。踏み込みすぎず、引きすぎず。冗談として成立する一線を、感覚で掴めるタイプだ。

 そんな彼女は、迷いなく店内を見渡し、すぐに先生に似合いそうな服へと手を伸ばした。

 動きに淀みはなく、選ぶ基準もはっきりしている。さすがと言うべきか、こういう場面では実に頼もしい。

 

 ──ただし、問題がないわけではなかった。

 

 予想はしていた。

 頭では理解していたはずだ。

 それでも、実際に向き合ってみると、その「想定」はいとも簡単に裏切られる。

 

「先生、次はこれを着てください」

「ん? ああ、俺もこっちの渋い色のジャケットがいいと思ってたんだ。気が合うな」

「先生、次はこちらです。……ええ、一見着慣れ無い色合いですが。念の為」

「ま、物は試しって奴だな」

「先生、お次はこちらのコートを羽織ってください」

「……お前、もしかしてそこのラックの全部持ってきたってのか? 面倒だから戻してこい」

「ですが……先生」

「なんだ」

「……全部お似合いです。まるでモデルさんのような」

「モデルか。じゃあ次はギャラの話だな。着せ替え人形にしちゃ安すぎる」

「ここは全て私がお支払い致します!」

「間に受けんなよ」

 

ーー

ーー

 

 照りつけていた太陽はいつの間にか角度を変え、街を赤く染める夕日へと姿を変えていた。

 片方は恍惚とした表情のまま額に汗を滲ませ、もう片方は深いため息をひとつ吐き、腕を組んで天を仰ぐ。

 

『とても……お似合いです」

 

 深緑のライダースジャケットは、肩から腰にかけて無駄なく落ち、動くたびに柔らかく皺を作る。

 派手さはないが、着る人間を選ぶ服だ。

 色落ちしたデニムも、使い込まれたベルトも、どれもが自然に馴染みすぎていて、逆に目を引く。

 ──似合ってしまっている。

 新しい服なのか、昔から着ていた服なのか、その区別がつかないほどに。

 

「昔、こんな服を着てた記憶があるな。どこだっだか、確かデュマーリ島だった気がし無いでもないが、どうでもいいか」

「どこですか? ……それよりも、どうしてスカーフを外されたのでしょうか。お似合いでしたのに」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。