ダンテ先生概念   作:3ご

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一旦の別れ

 サンクトゥムタワーから遠く離れた外郭地区。無機質なビル群を抜けた先には公園が広がっており、時折遠征した生徒の休憩所や遊び場となっていることが多く、今日も様々な声が入り飛び交い、青春の園を築く。

 きゃっきゃうふふと、額から迸る汗の軌跡がきらめきと共に地面に降り注ぎ、地面に埋め込まれたスプリンクラーは太陽の光に反射して虹を描きながら、祝福と共に少女達の思い出の1ページに些細な演出を施す。

 

 ほんの少しだけ、彼女達の記録を覗いてみようではないか。

 

 本日の種目は、決められた白線の中、大きめの柔らかいボールを投げて相手の身体に当て、外野と内野で陣地にいる人達を先に0にするのが勝利条件である究極のサバイバルデスマッチ「ドッジボール」。

 今ここに揃えられたのは4人の生徒と大人が一人。通常なら2対3や一人外れて2対2など、公平を期するルールを決める筈なのだが、俺は大人だからと1対4を申し出る心の広い寛容なルール構成に、野心を燃え盛らせる少女が4人。

 銃は無しだが、煙幕はありという異質なルールで戦いの火ぶたが落とされる。当然ながら、有利なのは4人の生徒の方であろう。彼女達は互いに作戦を立てながら、如何にしてあの強靭な大人を打ち破ろうかと画策する。

 一人は、全裸で行けば視界が塞がれ視覚を奪う事が出来るのではないかと提案したが、死刑宣告をされた為断念。

 もう一人は、ルールを無視して地面に地雷を設置するのがよいのではないかと提案したが、地雷如きであの大人の動揺を誘う事が出来る訳がないとして諦める。

 正義に身を包んだ少女は両手両足禁止令のルールを追加しようと提案したが、それだと手加減して貰えないとして却下。ここですかさず狂い鳥のキーホルダーを四つ手にし、天に祈る提案をした少女がそれぞれ一個ずつその願掛けを手渡すが、喜んだのは一人だけなので効果は0だ。いや、そもそも何をしても効果は0なのだ。

 

 埒が明かない。

 どのような策も通じないのなら、残るは正面突破だ。

 4人の視線が重なり合い、絆が一つになる。

 

 そんなこんなで始まった1対4のドッジボール大会だが、内容は戦慄を極めた。

 

 桃色の髪の露出魔はまさにボールを当てられる刹那の瞬間、己の大きく膨らんだ胸を利用し、衝撃を和らげようとする。

 吸収した力から弾まれたボールを丁寧にキャッチし、全身全霊のカウンターを披露する……はずだった。が、投げられた死をも連想する剛速球は大人である立場の輪郭など露知らず、少女にすら手加減もない。回転に回転を重ねたそのボールは彼女の服を削ぎ取り、ご丁寧にも可愛らしい下着が日の光を浴び出すと、思わず両手で胸を支え込みその場にうずくまる。

 勿論ボールは地面に転がりながら、再び大人の手に舞い戻った。その様子を見て桃色の髪の生徒が抗議の目を向けると、大人は訝し気な顔で問い返す。

 そもそも人に見せるのが好きな性分ではないか。あまりにも酷い大人の問いに、少女は抗議を声にして、被害者意識を前面に押し出しながらこう答えた。

 

 ──今日は見せる用の下着ではないと。

 

 少女の高らかな声に居心地悪そうに頬を掻く大人はとにかくルールだからと、彼女を外野に向かわせる。その前に着替えをさせて欲しいと懇願した彼女だが、大人の命令でそのままになりなさいという言葉に動揺と興奮を覚えながら、彼の背中に視線を這わせた。

 

 陣地に残る二人の少女は、身体を震わせながら彼の手にあるボールに視線を集中させる。

 

 ──絶対に守る。

 

 白銀の髪色をした少女はおかしな狂ったカバ……じゃなくて鳥のリュックを抱えた生徒を庇いながら必死に交戦するが、どんな一手、どんな仕込みも軽く打ち破られ、弾速と相変わらずの速さで投げ込まれたボールに為す術もなくぶち当てられ、ぶつぶつと反省の独り言を呟きながら外野へと退場。

 鳥のリュックを背負った少女は最終兵器にと、ルールをガン無視してデコイを巻き散らしたが、敢えなく全てなぎ倒される。そして最後の抵抗にと太陽に向かって手を翳しながら青春の物語──と奇跡を交差させボールに向かって突撃するが、避けられるはずもなく撃沈。おでこに当たった衝撃で地面に突っ伏す彼女が見た最後の霞がかった光景は、焦りを帯びた大人の顔。駆け寄り身体を持ち上げられる所で意識は途絶え、鳥が沢山いる夢の世界へと旅立つのであった──。

 

ーー

ーー

 

 ひんやりとしたおでこの感触が暖色に変わる頃合い、彼女は見知らぬ天井を視界に収めながら、上体を起こす。チクタクとレトロチックな時計は静かに時を刻み、静まり返った部屋で一人であることを覚えさせた。

 時刻はお昼の一時。

 辺りを見回す。大きめのパソコンが一台と、ディスプレイが数台。大窓から見えるD.U地区の眺めは絶景で、思わず見惚れる。

 さらに辺りを見回すと、応接間も兼ね備えた大きなローテーブルとソファ。そのテーブルの上には、以前皆で必死に悩んで決めた大好きな先生へのプレゼント──黒と白の双銃が無造作に置かれており、傍らには清潔な布巾が一枚。

 そして──その奥には見慣れない大剣が一本。壁掛けのギターハンガーが鍔に重なり、丁寧に飾り付けられていた。

 口を大きく開けた髑髏の飾りは異質さを晒し出し、鋭利な刀身は不吉さを醸し出す。触ってみたいという好奇心が湧き出るが、無駄に危険を犯す事も無い。

 

「お、目を覚ましたか。いや悪ぃな」

 

 扉の音が開くと同時に掛けられたその声色が耳を通ると、胸の中にあった僅かな不安が安堵へと移り変わる。

 自然とおでこに延ばされた手に抵抗の余地など見せる筈もない。少女にとってプライバシーゾーンというのは敏感な部分だが、彼女は先生を信頼しきっているからか、借りてきた猫のように静かな振舞いだ。

 冷えたシールを剥がし、体温を測ろうと手を添えられるのさえ、少し頬が染められるだけで嫌な感情など湧き出もせず、黙って視線を彼の瞳に向ける。

 暖かいその手のひらを感じるのは、これで何度目だろう。

 きっと自分は今呆けた顔をしている筈だ。そう意識をしても、僅かな時間だけだからこそ何も言わずに、精いっぱい長い時間、触れて欲しい。意識もしない願望が形となって自身を大人しくさせていることなど、ここにいる二人は気付きもせず、時計の針の音だけが進む。

 

「大丈夫ですよ、先生!」

 

 無意識の願望の中に、彼の困り顔など求めていない。申し訳なさそうな顔よりも、ニヒルに口を曲げ飄々とする彼の方が好きだ。

 思わず元気な声を上げてしまったからか、手は離れ。

 その代わりに大好きな表情に戻ってくれるのなら、そちらの方が大歓迎だ。

 

 「ふぅ」と憑き物が取れた息を吐いた彼は、彼女の隣に座り込む。

 数秒見つめ合う二人の視線は一向に外れようとせず、にらめっこの状態が続いたが、彼女──阿慈谷ヒフミの純粋無垢な瞳に根負けした彼は先に視線を逸らし、ローテーブルにある白の銃身を布切れで磨き始めた。

 

「でも、先生とは球技はしない方がいいかもしれません。何をしても勝てる未来が見えませんから」

「だな。……んなら、今度はゲームにしてみるか? あれだと平等だろ」

「うーん、トランプとかですか? でも先生そこら辺のゲームはかなり苦手なんじゃ……。コハルちゃんにもアズサちゃんにもオセロで負けてましたし、テーブルゲームは却下ですよね」

「雑魚みたいに言うじゃねえか」

「言い方を変えましょう。私達には決して勝てないと」

「ぐっ……! 今度こそ大人の力を見せてやるよ」

 

ーー

ーー

 

「と、いうことで先生。ミレニアムに行く前に私達が遊びに来た訳なのだが」

 

 一時間後。

 爽やかに流した汗をシャワーで洗い流した彼女達は、彼のお昼ご飯であったビッグなピザを一枚ずつ頬張りながら談笑の真っ最中。

 12切れあったピザの輪郭は残す所4切れ。1人2切れずつ食べたのだが、まだ彼は1枚もあり付けてない。当然残りの4切れで腹が膨れる筈もなく、夜ごはんまでお腹を鳴らしながら我慢する事になる。反面、少女たちのお腹事情は常に深刻だ。カロリーの高いピザという食べ物は時には大敵とも言える。が、沢山運動して死線を潜り抜けた彼女達も腹ペコであった。本能に訴えられた生存欲求に従うとあら不思議、残りの4枚もなんのそのペロリである。

 

「なぁ、俺の分は残ってないのか」

 

 シャワーから戻って来たばかりの彼はそれを予測していたのか、オフィスの椅子に座りながら好物であるアイス、ストロベリーサンデーを小刻みに口に運びながらそう彼女達に訴えかけていた。

 少女たちはご丁寧に口元を布巾で拭い、爽やかな笑顔で「ごちそうさま」と声を振りまく。

 

「ところで先生、ミレニアムにはどうして行くの? どんな理由で呼ばれた訳?」

「ああ、よく知らねーが、どうも学園に企業が肩入れしているらしくてな」

「えっと、銃を卸したりしてるのならトリニティでも普通ですけど、先生が態々行かなきゃということは、何か悪いことでも起こってるということですか?」

「リンが言うには、関わってる企業がカイザーコーポレーションっていう所らしくてな。知ってるか?」

「うふふ、カイザーはキヴォトスに住んでる者ならそれなりに知られた名前ですよ? ただ、よい噂はあまり聞きません。最近はアビドス周辺で幅を利かせていたみたいですが、 ミレニアムまで進軍してしまいましたか」

 

 ジャージ姿に不服を感じていたハナコは、好奇心が燻ぶられたのかスマートフォンで情報を収集し始める。

 

「ふーむ、ニュースにもなってますね。ミレニアム内部で変なお金の流れがあるそうです。そして摘発された人は……恐らく、身代わりなのでしょう。カイザーがやりそうなことですね」

「悪徳企業って所か。どの世界でも同じようなのが湧き出てくるもんだ」

「先生は企業と戦ったご経験は?」

「二つほど潰したぜ」

 

 獣の首を帯びたあの男、そして魔界の門をこじ開けた者を忘れる筈もない。

 もし同じような手合いならば、今度こそ手遅れになる前に潰す。

 

「ダンテ、ミレニアムに行くなら銃を改造して貰えばいい。腕の良い部があると聞く」

「あ、聞いた事がありますよ! 確かエンジニア部ですよね? 銃火器を作ったり、噂ですけど宇宙に行くために戦艦をも構想したりしているだとか」

「へぇ、いいな。俺のマジの射撃に耐えられるならそりゃ有難いことだぜ」

「マシンガンみたいに連射しても本気じゃないのおかしいわよ……」

 

  アズサはふいに思いついたように黒いハンドガンを手に取った。艶消しのナイトロカーボン仕上げが光を吸い込み、彼女の白い指先をくっきりと浮かび上がらせる。

 まず、スライドを半インチほど引いてチャンバー・チェック。真鍮色のケースが覗かないことを確かめると、スライドリリースをそっと戻した。金属が噛み合う乾いた音──微かに高いその響きで、潤滑油がまだ行き届いていると判断する。

 少女とは思えないその軽やかな扱いに、そういえばここはキヴォトスだったと、脳内で改めてこの世界の異常さに口元を曲げる彼。

 

「あ、そうだ。ダンテ、この銃に名前は付けているのか?」

「名前? いや、特に付けてねーな」

「可哀そうだ。物には記憶が残る……らしい。己の名前さえ分からず仕舞い、きっと何者かなど理解出来ないだろう」

「へいへい、んなら、お前達が付けてくれよ」

「え? いいの? 先生の持ち物なのに」

「いいんだよ、お前達がくれた物だ。好きに付けてくれ」

「はい先生! パンティー&ストッキングなんてのはどうでしょうか!?」

「剥くぞお前」

「皆さま聞きましたか!? 裸にして縛り上げ、公衆の面前でおっぱじめるぞって言いましたよ!?」

「そこまで言ってねーだろ」

「死刑!!!!」

 

 コハルの決め台詞が部屋に轟くと、場が一気に和んだ。

 当の本人は赤面を醸し出すが、その反応もセットなのだ。

 

「じゃあ、ミレニアムに着いたらこの紙を渡してくれ」

「これは?」

「設計書です。先生は物の扱いがあまりよくないので、皆で保管しようと決めていたのです」

 

 ペロロ印のケース入ったその紙を受け取ると、早速中身を確認する。彫られる名前の文字を読むや否や、ばつが悪そうな顔で彼女達を見つめる彼。

 

「……名前の由来だけでも聞いてもいいか?」

「うふふ♡ 本当は光と闇の意味を込めた名前──Luce & Ombraにしようかと思ったのですが、それだと詰まらないとは思いませんか?」

「先生の事を考えたら、よく放課後スイーツ部とお菓子を食べてるのを見かけたの! だから銃身の色を考えたらこれしか思い浮かばなかったのよ!」

「ふふ♡ 苺もお好きでしょうから。放課後スイーツ部の方とも一緒に決めたのですよ? 満場一致で決まりましたね。私達から異論は出ませんでした」

「あはは……。私は凛々しくも逞しい、ペロロ&ジラが良いと提言したのですが、その名前の方がしっくりきたので諦めました。ってほっとしないでください!」

 

 まぁいいさ──。

 

 腹も膨れた頃合い、彼女達との時間も残り僅かだ。

 今生の別れなどではないが、ミレニアムに着いたらきっと忙しくて会う暇も無くなるだろう。

 それならば、記憶に残る思い出の一つでも作れはしないか。そう考えた彼の手にはトランプ。にやける生徒達。

 

「そう笑ってられるのも今の内だぜ。今日の俺は違うんだ。え? 前もそんな事言ってたか? ──覚悟しろよ」

 

 

 

 

 

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