ダンテ先生概念   作:3ご

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エンジニア部

「あなたが噂の先生か。……ふむ、ネットで見るのと実際の姿はそこまで変わらないが、言われている程乱暴そうな人ではなさそうだね」

「確かにね。もっとこう……おらついてる印象があったけど、案外落ち着いてるね」

「説明しましょう! 二人は先生に対して非常にビビっておりましたが、こうして会ってみると想像したより普通の人で安心したそうです!!」

 

 白い天井トラスが高く張り巡らされた広い格納庫。陽射しは天窓からほぼ直角に降り注ぎ、床に明るい格子影を落としている。

 壁面にはブルーのラインと「HANGAR 3」の大きな数字。同じ階層をぐるりと囲む手すり付きのキャットウォークがあり、中央の作業エリアには作業台、その上に積層された金属パーツらしきブロックが鎮座する。

 左手には脚立とダンボールが無造作に置かれ、右奥には簡易パレットに載った箱材。全体は整頓されつつも稼働の気配が漂い、青灰と金属の無機質な色調の中に、午後の光だけが暖かいコントラストを添えていた。

 ただいま、お昼時である。

 作業台の上にはペパロニチーズピザと、チャバスコが一本。香ばしいチーズの香りはダイレクトにお腹の虫を鳴かせるが、残り二枚のピザを無碍に奪う訳にもいかず、ただ黙って彼女達の反応に耳を傾ける。

 

「説明は必要ないよコトリ。ああ、確かにアポを取られた時は内心ビビッてはいたとも。だが、ユウカはそういった面での配慮に長けてる人物。彼女が大丈夫と言えば大丈夫なのさ」

「でもウタハ先輩、念の為にタレットを用意しておこうって言ってたよね?」

「ヒビキ、それは喋らない約束だろう? ほら、先生が怪訝な目でじっと見てる」

「説明しましょう! ウタハ先輩は先生がいつ暴走してくるか分からないので、迎撃の準備を丹念に行っておりましたが、まさかの後輩から暴露されるという展開に内心冷や汗が止まらない状況であります!」

 

 格納庫の四隅に備え付けられたタレットの銃口は彼に向けられている。が、そんな些細な抵抗を見逃す彼ではない。最初から彼女の魂胆には気付いてはいたが、知らぬ顔で接するのがしたたかな大人というもの。であるが、まさかの後輩から暴露される展開など予想もしていなかった彼は、どんな顔をすればいいか分からず、とにかくピザを見つめる選択肢を取る。

 

「まぁ、私達に予定があるくらいだから、きっと武器の改造とか何かかな。どうなの、先生?」

 

 漆黒のツインテールには獣の耳がのぞき、頭には銀色のゴーグル。肩を落とした白いジャケットは内側だけが鮮やかなレモンイエローで、襟元にのぞく黒いキャミソールは細かなレースが縁取りを描く。

 ヒビキと呼ばれた彼女はピザボックスへ視線を移す。薄いラベンダー色の瞳がわずかに細まり、長いまつげが影を落とした。湯気とともに漂うチーズの香りに、くすりと唇が緩む。滑らかな指先、人差し指と親指でピザの縁をつまみ、チーズが糸を引くのを確かめながらそっと引き上げる。網タイツ越しの膝がわずかに内側へ寄り、慎重に、けれど嬉しげにピザを支える手首が傾く。チーズがとろりと伸び、赤いペパロニが揺れるたび、彼女の獣耳が小さくぴくりと動いた。

 

 あまりにも美味しそうに、けれど艶やかにピザをつまむその姿に喉を鳴らした彼は、残り一枚をなんとか食わしてくれないかと、威厳を放つように姿勢を正す。

 だが、現実は残酷だ。

 

「最後は私が貰おう」

 

 紫がかった銀髪を肩より長く垂らし、制服を乱すことなく着こなすその姿はいかにも技術畑の生徒らしい。

 表情は涼しげで、薄紫の瞳は常に半分ほど伏せられ、次の発明でも投影しているかのように静かに瞬く。

 一切れを持ち上げた瞬間、チーズが細く糸を引いた。彼女は慌てる様子もなく、反対の手で箱のふちを利用して糸を絡め取る。まるで回路の配線を整えるかのような正確さ。そのまま口元へ近づけ、蒸気を逃がすため一拍置いてから、前髪を揺らさぬ程度の浅い息で冷ます。

 

「やはり、チーズの量が多い」

 

 などと文句を言いながら薄く微笑むと、彼女は食べ終わったボックスの蓋を静かに閉じた。

 

「ところで先生はもうお昼は済まされたのですか?」

 

 柔らかい杏色の髪がくしゃりと揺れる。黒縁メガネの奥で琥珀色の瞳が細められ、満腹の余韻に頬がわずかに紅潮していた。白いブラウスの胸元はボタンが一つ外れ、碧いネクタイが無造作に揺れる。肩掛けの黒コートは裏地と袖口に鮮やかなブルーのテープが走り、ファー付きフードがもふりと広がる。

 コタマと呼ばれたその生徒は、蒸気で柔らかくなったペパロニチーズピザを平らげたばかりの指先を、念入りに拭い取っている最中だ。よほど美味しかったのだろう、満足そうな顔は至福のひとときを超え、のんびりモードへと移行していた。

 

 最後の一枚を食べられた彼は、小さな溜息を吐き、肩肘を作業台に着きながら「まだだ」と呟いた。

 どこか何か言いたそうな彼の表情に戸惑う彼女達。いつの間に無礼を働いてしまったのかと互いを見合うが、勿論心当たりなど無く、首を右往左往させる。

 

「あの、ここに食べかけのビスケットがあるのですが……」

「いらねえよ。つうか食べかけかよ」

 

 ひぃっと両手を顔の前でふさぐコトリ。急な後輩のピンチに焦りを覚えたウタハは彼女を庇うように前へ出ると、彼に対して臆することなく声を上げる。いや、実際は内心ビビッてはいるのだが、それよりも大切な後輩を危険な目に遭わせる訳にはいかないのだ。

 

「待ってくれ。彼女も悪気があった訳じゃないんだ」

 

 ──やはり、ネットの噂は真実だったのか。

 彼女の脳裏に浮かぶ様々な憶測。最適な対応を計算している最中、その横にいた後輩がまさかの対処に打って出る。

 

「つんつん」

「んだよ、くすぐったいだろ」

「つんつん……つんつん」

「……何してんだお前」

「二人共、大丈夫みたい。つんつんしても怒らないよ!」

 

 ほっと胸を撫で下ろしたコトリはすかさず彼の元へ歩み寄ると、ヒビキの動きに沿うようにお腹辺りをつんつんし始めた。あまりにも己とは真逆の硬さに、思わず両手で口を覆う。

 

ーー

ーー

 

「銃の改造?」

 

 作業台の上に出された黒と白の双銃を前に、彼女達は一斉に首を傾げ始めた。

 形状は一般的なガバメントだが、使用されているパーツは所謂高級品。ガンスミスが手入れをしたのか、最早手の付け処が無いその造り。サブとして、護身用の武器としては申し分ない出来だ。

 

「ああ、俺の使い方だと普通の銃は持たないもんでね。この銃はトリニティの特注品。贈り物として受け取ったんだ。……出来るだけ長く使いたい代物だからな、今よりももっと堅牢に出来るのならそれに越したことはない」

「なるほどぉ! それで人を殴ったりしてるということですか?」

「んなわけあるかよ」

 

 苦笑しつつ彼は立ち上がり、ワークベンチに置かれていた別のガバメントを二丁ひょいと拾い上げた。

 

 「この銃、借りるぜ。撃てる場所はあるか?」

 「奥の壁際にマンターゲットがある。好きに試してくれ」

 

 格納庫のさらに奥――照明も届きにくい広い陰の空間。壁際には簡易防音ボックスのような仕切りがあり、そこに胸部ターゲットが一枚吊るされている。

 彼はその遠い的へ体の正面を向け、両手でガンスピンを一度。銃口が静かにターゲットへ合わさった瞬間、ヒビキの直感が跳ねた。咄嗟にスマートフォンを掲げ、録画モードに切り替える。

 

 「──普通の銃じゃこうなるってこった」

 

 刹那、格納庫に炸裂音が轟いた。

 

 数発などというレベルではない。スライドが戻る暇もなく、銃口からはほとんど閃光の奔流が噴き出す。マンターゲットは紙屑のように破砕され、金属骨組みさえ霧散した。

 撃ち終わり際、引き金が粉砕。スライドは後方へ吹き飛び、内部のリコイルスプリングがビヨンと空へ吐き出される。まだ火薬の匂いが立ち込める中、彼は壊れた銃を苦笑交じりに掲げた。

 

 「……な? だから強化って話になるわけだ」

 

 ハンドガンでマシンガンをも超える銃撃など、当然彼女達は見た事がない。一体一秒間に何発の銃弾が放たれたのか、そもそも弾数という概念は何故仕事をしていないのか。

 だが、それ以上に刺激されたのは好奇心。とにかく問題点だけが浮き彫りになった状況に、コトリは早速その壊れた銃を拾い上げ、原因の究明に取り掛かる。

 

「せ、説明出来ない……! ですけどわくわくします! 最近は何に使うのか分からない発明が多かったですから、これは大仕事ですよ!」

「トリニティの生徒は理解していたんだな。だからこそ、等身の大きな銃にしたのだろう。……ふむ」

「ねぇ先生。今まで先生の射撃に耐えられた銃ってあるの?」

「……あるぜ。だが、どうしてかこのキヴォトスには持ってこれなかったんだ」

 

 45口径の芸術家が、彼のためだけに鍛え上げた双子の銃。

 冥府の闇を裂く白と黒の相棒──エボニー&アイボリー。

 中世さながらの煉獄で繰り広げられた弾幕は、数知れぬ悪魔を地に伏せさせてきた。

 

 だが今、この世界にはその姿がない。

 移動の途中で消えたわけでも、破損したわけでもない。ただこちら側の法則が、双子の銃を持ち込めなかったのだ。

 ダンテ自身にも、はっきりとした手がかりはないのだ。

 

 ウタハも早速彼から受け取った設計書に目を通し始めた。

 

「うーん……もともと連射向きじゃない構造だから、まずフレームを厚く補強。スライドも割れやすい後端を一体成形に変えて──」

 

 小声で独り言をつぶやきながら、ペン先でタブレットにメモを走らせる。

 画面に映るガバメントの3Dモデルが、彼女のタッチに合わせて色を変え、負荷の高い箇所を示す。赤い部分が少なくなるまで、ウタハは何度もパーツを太らせたり形を調整したりした。

 

「つまり、見た目は昔ながらの拳銃でも、中身はちょっとしたミニガン用フレームってわけだ。こうでもしないとさっきのには耐えられないだろう」

 

 肩越しにのぞき込んでいたコトリが思わずため息をつく。

 

「それ、本当に片手で撃てます……?」

「撃つ人が普通じゃないから、銃が合わせるしかない。重量は多くなるが、仕方ないだろう」

 

 ウタハは苦笑し、タブレットを保存して立ち上がった。

 

「材料の発注、お願いできる? 明日の朝までに試作をプリントしたい」

「了解。……あ、先生、この名前は彫るの?」

「名前? ……決められたしな。折角なら彫ってくれ」

 

 図面の脇にメモされた銃の銘を見て、ヒビキは設計書と彼の顔を何度も見比べる。やがて抑えきれないらしく、頬をふくらませてニヤニヤと笑い出した。

 

「ぷくく……スイーツじゃん、この名前。先生のハードロックな雰囲気と真逆だよ? でもトリニティの子たち、先生と一緒にいてこれを選んだんだね」

「物には記憶が残ると言う。トリニティの生徒は先生の記憶に残って欲しかったのかもしれないな」

「説明しましょう! つまり、二人は先生にもきちんと人間性があって安心した。ということですね! あ~怖い人じゃなくてよかったぁ~と安堵しております!」

 

 コトリのまとめが図星だったのか、二人は隠し切れない動揺を見せた。

 

「ま、そこは私たちに任せてよ」

 

 ヒビキは銃のスライドに刻まれた銘を指でなぞり、表情をきゅっと引き締める。

 

「──よし、マイスターの腕の見せどころね。甘い名前でも、刻み方はビターに仕立て上げる。っと、その前に」

 

 彼女はポケットからメジャーを取り出し、彼の身体を測る様にスライドを伸ばし始めた。

 さも当然の如く触れ合う距離に戸惑いを見せたが、何のそのと、股下から背中、そして頭のサイズを測り始める。

 

「あれ? ユウカ先輩から聞いてない? 先生に新衣装を作ってって彼女から依頼が来てたんだ。私、これも得意だからね。腕が鳴るよ」

「新衣装? ……何も聞いてないな」

「きっと、暴走車両の件で時間を取られていたのだろう。私も詳細はそこまで聞いてないが……どうも、戦闘服らしい」

「あ、もしかしてあのお面もそれに関係してます?」

 

 コトリが指さしたその先には、光沢を醸し出した丸みを帯びたヘルメットのような鉄仮面。

 その顔にどこか見覚えがあるものの、なかなか輪郭を思い出せず、首を捻る。

 

「魔改造の銃に戦闘服……これは、ロマンだね」

「俄然やる気が出てきましたね! パーツは早くても夕方に届くでしょうし、先に衣装作っちゃいますか」

「通信機能も搭載か。一般的な周波数よりも帯域が大きいのには理由があるのかな? ついでにBluetoothで音楽を聴けるようにしたりとかも入れちゃう?」

「ダメだ。ユウカは仕様書外の機能は絶対に入れるな、だそうだ。まぁ、きっと極秘の任務か何かに使うのだろう」

「ってことは、俺が駆り出されるってことだな。ま、そもそもその為に来たようなもんだし、作るならしっかり頼むぜ」

 

 ダンテは踵を返して出口へ歩き出したものの、ふと何かを思い出したように足を止め、一瞬その場に静止した。

 

「ただってのは気が引ける。お前達も何かに困ったら俺の所を訪ねてくれてもいいぜ」

 

 

 

 

 




銃の名前はオリジナルです。
ちなにみ、今作は今の所は銃だけオリジナル、それ以外は原作準拠に設定しています。

(エボアボは出ないというより、出せなかった。というのがより正しい表現ですね。勿論「誰が」って…ね)

名前当てれたらすげーなって思います。
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