ダンテ先生概念   作:3ご

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あの日、私たちは少女と出会い、影を見た。

「と、いうことで私達は廃墟に来た訳なんだけど……! まさかここまで警備ロボットがいるだなんて話は聞いてないんだよ!」

「連邦生徒会長が行方不明になってから制御が効かなくなったみたいで……あ、先生もう少し姿勢を低く」

「お前らと違って図体でけえんだよ。最早ほふくしてんだよ。これ以上は地面に埋まるだろ」

 

 崩落した高層ビルが交差点を塞ぐように傾き、ガラスの外壁は砕けて蔦が絡む。舗装は割れ、縞模様の横断歩道も瓦礫で途切れがち。倒れた電柱からは黒いケーブルが蜘蛛の巣のように垂れ、遠景には朽ちた超高層ビル群が霧に霞んでいる。文明の骨組みだけが残り、静けさと緑がひっそりと支配する廃都の一角だ。

 ここが何故廃墟になっているかなど、現在のキヴォトス人で答えられる者などいない。つまり、人類の記憶から消されていると言って過言ではなく、隙間風と共に無機質なロボットが徘徊するのみ。

 

「まどろっこしいな。適当に姿を見せて、撃ってきたらやり返すじゃダメなのか?」

「ダメ! 私達だってそこまで戦闘得意な方じゃないし、先生は今銃も持ってないでしょ? もし撃たれでもしたら大変だよ!」

「そうです。先生にもしもの事があるといけませんから、ここは大人しくやり過ごしましょう」

「……ご心配どうも。だが生憎、俺は銃なんざなくともこの世界の脅威くらいなら鉄の棒一本ありゃ解決出来るもんでね。ちょっくら暴れてくるぜ」

 

 匍匐姿勢から腕に力を込め、一気に前転―逆立ちのフォームへ。反動を利用して空中へ跳ね上がる。

 二人の静止は彼方へと消え、着地は警備ロボットの目の前。警告音をあげようとした機体の頭部を、拳で掴むように叩き落とすと胴体だけが後方へ弾かれた。

 ガガガ。いかにもな擬音を奏でる頭を指先でスピンさせ、頭上より高く宙に放り投げる。その頭目掛けて胴体を回し足の先で蹴り飛ばすと、頭部は飛翔弾のごとく別のロボットに突き刺さり、小さな爆炎が連鎖した。

 

「わっ……! 人間業じゃないよ!」

「驚いてる場合じゃないでしょ! 他のロボットがわらわらと集まって来てる!!」

 

──侵入者。

──侵入者、排除。

 

 5体か6体のロボットの持つアサルトライフルの銃口が彼に向けられ、躊躇なく火花が散らばる。

 足元にある鉄棒の先を軽く踏んづけ、勢いで打ち上げられた鉄棒は高速に回転しながらロボット達の銃弾を全て跳ね返すと、彼の手の中に吸い込まれるように着地。手首の唸りと共に鉄棒の先は無限を描き、地面が抉られる程の突風が巻き起こった瞬間──誰の目にも止まらぬ速さで、いつの間にかロボットの胴体を鉄棒が貫いていた。

 いわば、ただの突進と言うべき技だろう。だが、正確無比な一撃は必殺と捉えても過言ではなく、一方的な串刺しを「スティンガー」と呼ぶ者も多い。

 

 音速の攻撃、そして視認して知覚する以前の段階であるのにも関わらず、敵は己の懐まで攻めてきている──。

 認識は束の間、ロボットの視点はいつの間にか地面の先。上を見上げれば己の胴体。他の機体は宙でばらばらにされており、地面に落ちる金属の音だけが鳴り響く。

 一体はまるでサッカーのリフティングをするように何度も蹴り上げられ、もう一体は片手に首を掴まれじりじりと潰され、もう一体は胴体に棒で刺されたまま必死に振りほどこうと必死に抗っていた。

 だが、抵抗も束の間、数体は一気に宙に放り投げられ重なり合うと、男は勢いよく飛翔し、全身を回転させ地面に向かって思いっきり踵を振り下ろす。するとロボット達の四肢は捥げ、胴体は真っ二つになり霧散。

 目元まで着地したその男が見下ろす先には、己の顔。ニヒルに口元を曲げた男の顔を保存しようと躍起になるシステム。だが、大きなブーツの踵が無残にも頭部を粉砕すると、映像は闇に沈み、エラー音だけが虚しく鳴り続けた。

 

「こ……」

「っこ……」

 

 彼の背後に駆け寄る二人。

 彼女達は一方的な戦闘の跡……いや、惨状だ。果てしなく蹂躙されたロボットだった物を見て、一瞬言葉を詰まらせるが。

 

「「怖っ!!!!」」

 

 二人同時に発した声に、ダンテは肩を竦め「ご注文が多いことで」とだけ返す。

 

「な、何もそこまでしなくても……」

「先生って容赦ないんですね……」

「んだよ、ロボットが目障りだったんだろ? 別にいいじゃねえかよ」

「いやほら、ミレニアム生徒にとってロボットは友達というかペットというか」

「我儘いうな。我慢しろ」

 

 流石は噂通りの先生だ。と二人の脳内に浮かび上がるネットでの書き込みの数々。

 やれ誰かを孕ませたとか、やれコンビニ強盗をしでかしたとか色々書かれていた。まぁ所詮は噂だ。尾ひれは付いて周るものだと認識していた二人だが、案外真実なのではないかと、背中を震わせる。

 互いに身を寄せ合い頬を合わせるその姿は、紛れもなく小動物。振る舞いが悪かったのかもしれないと小さな反省を繰り返したその時──けたたましいサイレン音が周囲に響き始めた。

 

「流石に、数が来ると厄介だ。おら、あの工場に一旦逃げ込むぞ」

 

ーー

ーー

 

「で、お姉ちゃん。結局そのG,Bibleってどこにあるの?」

「多分ここの廃墟だよ! ヴェリタスの力も借りて座標を特定して貰ったから間違いはないと思う。といっても正確な座標番号までは分からなかったけどね」

「え!? ……その、どういう経緯?」

「普通の地図には存在しない場所ということ。そしてこの廃墟は地図には存在しないでしょ? 最後にG,Bibleが稼働された情報を合わせたら、ここにしかないって」

 

 延々と続く連絡通路を進むあいだ、モモイとミドリは肩を寄せて小声の相談を続けていた。ダンテは彼女たちの囁きを背中で聞き流しつつ、視線だけで通路の隅々を警戒する。 

 機械油や冷却水の匂い、それだけなら工場特有の空気だ。だが、ここにはそれとは別の、言葉にはならない圧が潜んでいる。

 静かすぎる、と彼は感じた。金属の梁が軋む音ひとつなく、換気ファンすら回っていない。耳に触れるのは自分たちの靴音と、遠くで途切れ途切れに点滅する非常灯のノイズだけだ。

 

 神秘と呼ぶには生々しく、無機と呼ぶにはどこか脈動している気配。

 キヴォトスにおいてもなお未知とされる領域、あるいはこの世界とは隔絶した何かが横たわっている。彼の経験が告げるのは、説明のつかない何かが確かにここへ巣食っているという事実だった。

 

「なぁモモイ。そのG,Bibleってのはどんな代物なんだ?」

「あ、先生にはまだきちんと説明してなかったね」

 

 足を止め、その場にしゃがみ込むモモイ。さすがに疲れたのだろうか、足を伸ばしながら大きく息を吐き出す。彼女の様子を見て休憩の頃合いだと判断し、ミドリにも目配せをした。

 床をトントンと鳴らすモモイの手招きに従い、横へと腰を下ろす。

 

「えっとね、簡単に言うと……キヴォトスには昔、伝説的なゲームクリエイターがいたの。そしてその人が作った、最高峰のスタイリッシュアクションゲームがKivotos May Cry。略してキヴォメイだよ!」

「ああ、さっき部室で出たあれか。んで、お前らはその二作目を作って叩かれたと」

「うぐっ! わ、私達だって頑張ったんだもん! って今はそれはいいんだよ! で、その人が在学中に作ったのがG,Bible。詳細は知らないけど、その中には最高のゲームを作れる秘密の方法が入ってるんだって!」

「なんだかインチキ臭いな。どうせ広告か何かじゃないのか?」

「ち、違うもん! G,Bibleは絶対にある! それを手に入れれば、最高のゲーム……Kivotos May Cry3が作れるはず」

 

 確信に満ちた眼差しを向けてくるモモイを、これ以上からかう気にはなれなかった彼は、再び立ち上がり周囲に目配せをする。

 とにかく、目的があるのならここでじっとしていても仕方がない。その彼の背中に身を奮い立たせた姉妹は同じように立ち上がり、彼の跡を追うその時──。

 

 ──接近を確認。

 

 連絡通路に響いたその謎の声にビビった姉妹は、彼を挟み込むように身を寄せる。

 彼自身も、その謎の声に眉をひそませ警戒の姿勢を見せた。

 

 ──対象の身元を確認……。

 

 ……才羽モモイ、資格がありません。

 

「え、ええ!? どうして私の事知ってるの!?」

 

 ……才羽ミドリ、資格がありません。

 

「わ、私も……?」

 

 ──対象の身元を確認……。

 ──対象の身元を再確認……。

 ──対象の身元を

 ──対象の

 

 エラー、エラー発生。

 対象を危険人物として指定。危険レベル5で対応。

 即座にロックモードを起動。対象をメイン施設への侵入を防ぐため、防護シャッターを起動。

 

 金属壁が轟音とともに前後から降り、わずかな灯りさえ奪い去った。閉ざされた通路には密閉された鉄の匂いと、機械の冷たい息づかいだけが残る。

 姉妹は彼のコートの内側へ隠れるように身を顰め、当のダンテは彼女達を庇うように姿勢を低くし、来るかもしれない攻撃に警戒の色を出す。

 

 ──身元照合・一次確認……

 ──照合失敗、再試行……

 ──身元照合・二次確認……

 ──照合成功。

 ──警戒シークエンス。危険レベル7……最高警戒態勢へと移行。

 

「せ、先生……怖いです」

「心配するな。例え暗闇の中でも俺は見える」

「い、一体何が起きてるの!?」

「さぁな、俺が聞きたいくらいだぜ」

 

 ここにいるのが自分ひとりなら話は早い。だが今は、ふたりを守りながら戦わなければならない。

 そう腹を括った瞬間、足もとをかすめる微かな気流に気づく。ダンテは素早く身をかがめ、床に耳を寄せる。

 

 ──下から……風?

 

 闇の中、わずかな空気の揺れが地下へ通じる隠し通路の存在を告げていた。

 

「なぁ、この下から風が吹いてないか?」

「え? ……あ、本当ですね!」

「そうは言っても、こんな金属の塊をどうすれば……銃弾だって跳ね返しそうだよ!」

「まぁ見てなって。おい、少し離れてろ」

 

 彼が一歩前に出る。暗闇の中、姉妹には何も見えない──次の瞬間、爆ぜるような衝撃音。視界のないはずの床に、直径二メートルほどの穴が開き、白い光が漏れた。

 ダンテは二人を抱え込み、そのまま穴へ飛び降りる。ふわりと浮遊感、そして柔らかな着地。足裏に伝わるのはコンクリートの感触。上を見上げると、開いた床が遠い天井のように霞んでいた。

 

「わわわ! ふぅ……こんな事、ゲームでも中々体験出来ないよ」

「うぅ……心臓がドキドキしてる」

「無事だな? さて、じゃあさっさと行こうぜ。どうも警戒されてるっぽいのなら、意外にもこの施設は大当たりな気が──」

 

 振り返ると、ひんやりした円形ホールの中央に、手術台のような白いリクライニングシートが一基だけ据えられていた。

 

「あ、あれって?」

 

 周囲の床は割れたタイルと二本のケーブル、壁面のモニターは黒いまま沈黙し、天井の亀裂から差し込む淡い光だけが台座の少女を浮かび上がらせていた。長い髪を垂らした彼女は深い眠りに落ちているかのようで、その静けさとは対照的に、足元には荒れた草がわずかに芽吹き、無人の研究施設が放置され続けた時の流れを物語っている。

 

「女の子?」

 

 薄く射し込む光を浴びて、少女は静かに目を閉じている。長い漆黒の髪が胸元まで流れ、まつげの影が白い頬に落ちる。背には六角形の白いサポートパネルが付き、淡い水色の発光ラインが縁をたどる。肩と鎖骨がかすかに露わになり、呼吸の気配すら感じさせない眠り──まるで時間ごと封印されたような、無垢で儚い横顔だ。

 

「こいつを守ってたのか?」

 

 一歩、また一歩と近づいたその瞬間──。

 

 ──警戒発令。

 ──警戒発令。

 ──これにより、防御シークエンスを発動。

 ──防御シークエンスを発動。

 繰り返す。

 ──これにより、防御シークエンスを発動。

 

 無機質なアナウンスが反響するたび、壁面パネルのランプが血のような赤に染まっていく。足もとではリング状のフロアが少女を包むように円球の防護壁を起動させる。

 モモイとミドリは顔を見合わせ、思わずダンテの背中へ身を寄せる。

 

 「せ、先生! これってまさか――」

 「防衛シークエンスだそうだ。つまりこいつには触れるなって合図だな」

 

 ──周囲に危険が及ぶため、職員、および戦闘員は退避。

 ──周囲に危険が及ぶため、職員、および戦闘員は退避。

 繰り返す。

 職員、および戦闘員は退避。

 

「な、なんかやばそうじゃない!?」

「何が始まるの!?」

「お前ら、下がってろ」

 

 ──全システム集中……

 

 ・・・50%

 ・・・80%

 ・・・99%

 

 ──エネルギーの満充電を確認しました。

 これにより。

 

 

 プロトコル……ドッペルゲンガーを起動します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、自作を読み返したりしたのですけど......
なんかこう、もっと書き込めたなーってところとか、自分よくこれ思いついたなって場面とかたくさん出てきて、トリニティ編は思い返すと無我夢中だったなって。
ミレニアムもだいぶ無我夢中ですけど、トリニティは表現の為に読むと心が痛くなる場面とかもあって、それがよくも悪くも感情的になったりとか。

後、評価投げてくれてありがとうございます!
高得点くれたりするとまじでモチベ上がりまくる。
その方にとって高得点であること、つまりは楽しんでくれた証だと思うので、期待を裏切らないように、好奇心を刺激してダンテの魅力を存分にこれからも描きまくります!
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