ダンテ先生概念   作:3ご

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ミレニアムのダークヒーロー

 夕日が悠々と、眼を擦るようにのんびりと弧を描く頃合い。

 ダンテはユウカとの約束があるからと、部室を出て廊下を歩いている真っ最中であった。

 正直、アリスに対して心配な部分はあったが、モモイが「大丈夫だよ、私達に任せて!」と胸を張ったので信用しない訳にはいかず、肩をすくめながら部室を後にすることになった。

 あの黒い影。彼女から湧き出た得体の知れない謎。もし己が知る通りのドッペルゲンガーであるのなら側を離れる訳にはいかないが、悪魔特有の匂いなど微塵も感じなかったのが現状だ。下手に説明しても信じる訳もなし。もし何かあれば壁を全て突き破って一直線に駆けつければいいと、楽観的に口笛を吹き始める。

 

 廊下ですれ違う生徒は様々で、軽い会釈をする者、黄色い声を上げるメイド服の生徒に、やたらとトレーニングに誘う生徒が一人。

 トリニティと違い陰でこそこそ話をする訳でもなく、普通の反応を見せる生徒達が新鮮だった彼は、ようやくこの地、キヴォトスでの普通に出会ったと脳内のイメージを塗り替える。

 

「先生、お疲れ様です!」

 

 ひたひたと軽い足音が近づく。遠くの曲がり角を抜けて現れたのは、深い紫紺のポニーテールを揺らす少女だ。

 小走りの勢いそのままに、肩口から続く白い袖をふわりと膨らませながら、仄かにはにかむ顔を見せる。

 

「ゲーム開発部はどうでした? きちんと部活動してました?」

「聞いて驚け、早速新入部員が加入したみたいだ。あいつらもやる気満々らしい」

「え!? こんな短時間で!? ……先生、嘘とか吐いてませんよね?」

 

 彼は「さぁな」とそっぽを向く。

 その仕草を見たユウカの目が細くなる。鋭い視線が回り込み、逃げたつもりの視線を捕えようと迫ってきた。廃墟へ向かう直前、彼女が見せたあの容赦ない生徒会としての姿が脳裏をよぎる。

 威圧感というより、叱られる前の子どものような居心地の悪さ、彼は必死に目線をさまよわせ、気配を消すことに専念した。

 

「まぁいいです。で、とりあえず先生の衣装が完成して部屋に届く時間帯なので、ミレニアムでの先生の部屋に向かいましょう!」

「部屋は分かるんだが、衣装は何のために用意したんだ?」

「そ・れ・は、部屋でお話し致しますね!」

 

ーー

ーー

 

  ここはミレニアムタワー最上層の一室。

 エレベーターを降りて廊下へ一歩踏み出した途端、視界に広がったのはSF映画のセットのような光景だった。壁面を走るメタリックなパネルと光のライン、そして人型クリーナーロボットが静かに往来する通路。その奥では、壁一面を覆う巨大な水槽──に見える映像がゆらめいている。

 「本物か?」と確かめるように指先で触れると、ざらりとした壁材の感触が掌に返ってきた。すぐ隣で見ていた彼女が口元を手で押さえ、「ホログラムですよ」とくすりと笑う。

 

「トリニティとは大きく違うもんだな」

「勿論です、文化もテクノロジーも違いますから。私達はそこまで現実的な物質に拘りは持ちませんし、それに水槽というのは眺めて愛でる物。小さな子供と同じです!」

 

 特に同意もせず静かに歩く。廊下の突き当りには小さなドア。

 感知センサーが反応し「IDを照合・完了」と画面に文字が浮かび上がると同時にドアが左右にスライドする。

 目に飛び込んで来たミレニアムを見渡せる景観と共に、左を向けば小型の空気清浄機が数台、そして床を這う真ん丸なお掃除ロボットが、壁にハマったまま身動きが取れないでいた。

 二部屋を合わせたような広い空間。大窓の麓にはソファが二つ、ガラステーブルを挟み込むように敷かれ、その手前の部屋には大きなダイニングテーブル。ダイニングテーブルの向かい側には綺麗に整備されたキッチンがあり、コンロの数は4つ、その脇には大型の冷蔵庫が音もなく内部を冷やしている。

 

 「物が少なくて整っている部屋って、やっぱり気持ちがいいですね。さすがミレニアムタワーの上階です。先生、ここは普通の生徒が泊まれる場所じゃないんですよ? 乱雑にしたらダメですからね!」

 

 返事もせずに室内へ踏み込んだダンテは、ダイニングテーブルの上に置かれた細長い段ボールに目を留めた。

 「開けてみてください」──ユウカに促され、梱包をさっと解くと、中から一着の衣装が現れる。

 

 「それが先生の役目、そしてお願いしたいことです」

 

 キッチンでコーヒーを淹れながら、ユウカは振り向きもせず告げた。

 

 「話が見えねえな」

 「簡単です。先生にはあるものを回収してきてほしいんです」

 

 コーヒーメーカーの低い振動音が部屋にこだまする。ユウカは角砂糖の袋を取り上げたが、ダンテが手を振って「ブラックで」と示す。無言でカップを差し出し、向かいの椅子に腰を下ろす。

 

「ここなら誰にも聞かれるリスクは無いですから、お話し致します。記録に残すのも厄介なので、口頭でしかお伝え出来ませんので、覚えてください」

 

 湯気が立ち上るカップにゆっくりと口を付けた彼女は、ほんのりと香る上質な豆の味わいに長い睫毛を伏せながら、口を開いた。

 

「まず結論から。カイザーコーポレーションがある実験を行っているそうです。で、その実験に必要なのがミレニアム自治区にある4つの博物館に展示されている──聖遺物」

「聖遺物? テクノロジーの世界でいきなり骨董品が出てくるとはな」

「ええ、骨董品です。ですが、ただの骨董品ではありません。内部には未だ解明出来ないエネルギーのような何かがあり、カイザーはそれを欲しがっているそうです」

「どうして欲しがっている?」

「……あくまで、憶測に過ぎません。ヴェリタスのハッキングで得た情報なのですが、彼らはその力を使って世界を掌握しようとしているとか。あ、ヴェリタスというのはホワイトハッカーの部活です」

「またぶっ飛んだ話が浮かんできたな。だが、嫌いじゃないぜ」

 

 衣服をソファに放り投げ、椅子に座り彼女が淹れてくれたコーヒーに口を付ける。芳醇な香りが鼻孔を揺らがせ、暖かい感触が喉を通った。久しぶりの逸品物に目線を落としながら、彼女の説明に耳を傾ける。

 

「おっしゃる通りです。が、現実に一つの博物館に強盗が押し入り、聖遺物を奪われています。小賢しい事に、犯行に及んだ下っ端には何も告げず、お金だけを渡していました」

「じゃあ、どうしてカイザーだと分かったんだ?」

「C&Cの協力の元、わざと取り逃がした犯人の追跡を行ったのです。その先は、カイザーの暗闇が蔓延る地下施設。襲撃して幹部の一人は牢屋に入れれたのですが、その幹部にすら詳細な情報を持たせていませんでした。仮に、カイザーそのものを下っ端のように扱う者がいるとするならば、その先は公的機関に相談して対処をする他ありません。ですが、これも先に先手を打たれていたのです」

 

 小さな溜息を吐きながら、彼女は続ける。

 

「先手?」

「簡単に言うと、賄賂ですね。不適切なお金の流れ──キックバックと言うべきでしょうか? 見つけはしたものの、司法の判断は彼らの味方でした。もう、これ以上はにっちもさっちもいかなくなってどうしたものかと頭を悩ませていた矢先──先生が来ましたからね。トリニティでのエデン条約が終わり次第、相談しようと決めていたのです」

「待てよ……話を戻すが、何故その4つの聖遺物があると世界を掌握出来る? 兵器って訳でもなさそうだ」

「……ミレニアムの生徒会長、そして──ヴェリタスの部長は、所謂天才というべき人物。ミレニアム切っての大天才であるその二人が、突如として力を蓄えだしたその聖遺物を調べ上げました。まぁ結論を言いますと、解読困難。ですが、そのお二人は一貫して同じ結果に行きつくことになったんです。それが──その4つの聖遺物が交わったその時、このキヴォトスを滅ぼす力を顕現させると」

 

 二人の沈黙の間を、カップの湯気が立ち上る。

 真剣な眼差しの彼女は、最後の一口を飲み干した後、再び視線をカップに移し、憂いた瞳を見せた。

 

「ここまでなら、その二人に任せてればいいと思うでしょう? ですが……ミレニアムの生徒会長である調月リオ──先輩は、帰宅中の所を襲われ、そのまま行方不明になってしまっています。ヴェリタスの部長である明星ヒマリ先輩も誘拐されそうになりましたが、運よく居合わせたC&Cがこれを防ぎ、ヒマリ先輩は危険だからと、その身を隠すことになったのです」

「重要人物の誘拐ね。──なら、同じC&Cのアスナも噛んでる内容なのか?」

「そこが、理解出来ない所なんです。アスナ先輩を否定する訳ではありませんが、同じC&Cであればネル先輩の方がよっぽど脅威になる筈。なのにアスナ先輩を狙ったということは、まだ私達が知らない何かを、敵は把握しているということ」

 

 彼の飲み切ったカップに目を配り「もう一杯飲みますか?」と促す彼女。だが、話の整理に集中したかった彼はそれを断ると、彼女はシンクの中に容器を入れ、水で満たすと再び椅子に座り込んだ。

 

「突如として力を蓄えだしたその聖遺物って言ったが、いつ頃からだ」

「うーん、先生がキヴォトスに来る少し前でしょうか? サンクトゥムタワーに私が訪れた少し前ですね。あの時は連邦生徒会長もいなくなってて焦りましたよ。ミレニアムで問題が起こってるのに連邦生徒会がだんまりだし。しかも防衛室だって協力を拒否しましたからね。あったまきて抗議しに行った所だったんです!」

 

 頬を膨らませる仕草に瞳を奪われそうになったが、今はそんな状況ではない。

 

「で、俺にその聖遺物をカイザーより先に奪って来いと?」

「その通りです! あ、ちなみにこの作戦はほんの一部の人しか知り得ない情報なので、無暗に喋らないでくださいね?」

「じゃあ、あの衣装は所謂変装って所か」

「はい、その通りです。先生には──」

 

 嬉々として立ち上がった彼女は、ソファに放り出された衣装を手に取り、両腕いっぱいに広げた。

 足首まで届く深い紫のロングコート。光沢のある生地は角度によって僅かに赤味を帯び、襟と袖口、そして裾まわりには渦巻く唐草模様の刺繍が重厚な銀糸で縁取られている。内側には朱色の裏地が走り、歩くたびに血潮のような赤がちらりと覗く。

 コートの前を留めるのは二列に並ぶ銀のメタルボタン。その下に重ねられたベストは濃いカーマインに黒の蔓草柄が織り込まれ、胸元には繊細なレースのアスコットタイ。結び目には深紅の宝石を嵌め込んだ金のブローチが輝き、襟元の装飾チェーンが両肩を緩やかに繋ぐ。

 下半身はコートと同素材のスラックスが流れるシルエットを保ち、足もとには細めのブーツ。甲には透彫りの銀細工が配され、つま先とヒールにほんのりと金のアクセントが差している。クラシカルな意匠と妖しげな色彩が溶け合い、貴族めいた気品とどこか禍々しい気配を同時に放つ装いだ。

 ソファに残る銀の仮面は頭部をすっぽりと覆う大きさ。鱗のように見える外郭は丸みを帯びたシルエット。

 

「ふふ、この衣装はかの有名なゲーム、Kivotos May Cryに登場した主人公のコスチュームなんですよ? 伝説の魔剣士の衣装。見られたら目立ってしまいますが、逆にそれが先生の正体を隠します。しかもこの衣装は特注の特注品。エンジニア部に予算を割った結果、彼女達はとても良い仕事をしてくれました。通信機能に防水防火、何故かBluetooth機能まで付いてるんですから!」

「よく分からねえが……悪くないデザインだ」

「かっこいいでしょう!? かっこいいですよね!? 先生に絶対に似合うと思うんですよ! 早速着てみてください! あ、服の上から着用出来るようにはしてますが、コートは脱いでくださいね? あと髪の毛は邪魔なのでジェルで固めましょう! オールバックにすれば目にも入らないですし」

 

 仔猫の笑みのまま、ユウカはダンテの背中に周り込み、腕から袖を通させた。

 彼女は掌にジェルをなじませると、前髪から後ろ髪に、手櫛を使って綺麗に彼の髪の毛を整えていく。

 そして出来上がった彼の新コスチューム。あまりのかっこよさに両手で口元を塞ぐ仕草を取る彼女の反応。気恥ずかしさで居心地悪そうに肩を竦める彼の様子など目に入らない彼女は、ひたすらに高揚した高ぶりを吐露していた。

 

「正装に近いので、クラバットとかを付けようかなとも考えたんですが、冷静に考えれば任務に余計な物など入れない方がいいと思って。──ぁぁ、似合います! かっこいい! 足元は細目のブーツ。何より胸にあるアミュレットが良い味出してます!」

「あ、ああ……。どっかで着た事ある感じだな」

「おお、どこかに同志がいるということですね!?」

「そういう意味じゃないんだが……まぁいい」

「というか先生、オールバックもとてもよく似合っています! ぐぬぬ……写真を撮れないのが惜しい」

 

 最先端のテクノロジーをふんだんに使った彼女の言う通り、正装によくある関節部分の着心地の悪さなど微塵も感じず、身体を捻る。

 所々ストレッチ素材を使用したそれは、可動域の広さも設計思想に織り交ぜられていたのか、腕を回してもシャツの乱れどころか、布の軋む音すら鳴らない。

 

「先生、そのまま動かないでくださいね? ──よしっと。きゃああぁぁぁぁ!? モノクルがこんなにも似合うなんて!!! う、鼻血出そう」

「元気な奴だな。さっきまでは暗い顔してたのによ」

「どんな状況であろうと、切羽詰まって良い事などありませんから。あ、先生次はこれ、この白い手袋を嵌めてください! あと杖も持って、その杖に寄りかかる様な姿勢で……うぅ、変な事件さえ起きなければ写真撮り放題なのに……」

 

 

 

 

 

 

 




へへ、衣装関係は設定資料集コンプしてるおかげですんなり書けたぜ。
電子版と実物両方持ってるの強くないですか?(一冊で十分

そういえば、皆様はカプコン展には行きました?
プロジェクションマッピングしたダンテが異常にかっこよくてついつい何十枚と写真を撮っちゃって、ダンテがプリントされてるグッズとか買い荒らしちゃいましたね。
まじで楽しいのでおすすめです!
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