ダンテ先生概念   作:3ご

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恐怖の塔 ー前編終わりー

「やはり君の勘は素晴らしい。こうも敵に出くわすことなく最深部にまで進めるとはな」

「そうかな? 適当に歩いてるだけだけど」

「きっと君なら私を塔に導いてくれるだろう。全ては彼らの為、ミレニアムの古の技術にアクセスするにはまだアイテムが足りないがね」

 

 ミレニアム自治区の外れ。連邦生徒会長が禁足地に指定した廃墟のさらに奥へ、二人は足を踏み入れた。石造りの回廊は崩れ落ち、冷たい霧が床面を這い、遠くで機械の残骸が風に軋む。

 調月リオの行方に関する情報を得る条件として、アスナは軍服の男の計画に肩入れせざるを得なかった。だが真の理由は別にある。──あの病院に横たわる人々を救う術が、この危険の奥に眠ると彼が言った。その言葉を信じるしかなかった。

 瓦礫の影でセンサーライトが点滅し、薄青い光がアスナの頬をかすめる。胸中の不安を押し込め、彼女は拳を握りしめた。目的はひとつ。塔へ辿り着き、古の技術を解き放つこと。その先に待つ結果が光か闇かは、まだ誰にもわからない。

 

「その古の技術を発動するのに、聖遺物が必要なんだよね?」

「そういうことだ。既に鍵は手に入れてるのだが……肝心の門が不在でね」

「……どういうこと?」

 

 アスナの問いを無視するかのように、彼は足取りを緩めず廃ビルの闇へ消える。ひび割れたタイルを踏むたび、破片が乾いた音を立て、かつて研究所や病院だった建物の回廊に反響した。埃にまみれた自動扉を抜けると、唐突に視界が開ける。そこは、荒れ果てた公園跡だった。

 焼き切れた鎖だけを残すブランコの骨組は、黒錆に覆われて月並みな夕陽を吸い込み、砂場だった一帯は爆薬で抉られたような焦げ土が斑に広がる。

 

「ここだ」

 

 砂場を越えた先の広場。緑の蔓が絡まる茂みの中央に、赤いポストがぽつんと立っている。焦げ跡でまだらになった胴体の中央がくり抜かれており、男が手を差し込むとカチッ、と乾いた金属音が廃墟の静寂を切り裂いた。

 直後、背後の砂場が唸りを上げて開き、モーターの低音と共に地面の一部がスライドする。現れたのは古びた昇降機。錆の縁取りが鈍く光り、長く閉ざされていた地下への入口が口を開けた。

 

「中に入ろう。何、ここからは特段危険でもない。何度か足を運んでいるからな」

 

 彼はそう言って昇降機へ踏み込み、薄闇に身を溶かしていった。アスナは唾を飲み込みながら後に続き、くぐもった機械音の中、ゆっくりと地下へ降りていった。

 

「ねぇ、あの人たちの人体実験って、誰がやってるの?」

「このタイミングでその質問か? ――やはり勘がいい」

 

 それ以上、軍服の男は口を閉ざした。

 不信を飲み込みつつ、アスナは愛銃を点検する。金属の肌が昇降機の淡いランプを鈍く返し、気持ちを引き締める鏡となった。男はその様子を承知しているはずだが、警戒する素振りすら見せない。

 やがて昇降機が深層に到達し、重い振動とともに停止する。扉の奥に立ちはだかるのは、氷柱がびっしりと縁取る異形の門──冷気と沈黙が溶け合ったような、不気味な構造物だ。

 男は迷いもなく扉を押し開き、アスナを招いた。

 

 ──その瞬間、視界がひらける。

 

「うそ……」

 

 地下に広がるのは、街と呼ぶにはあまりにも無機質な機械都市だった。数え切れないドローンがコンテナを抱え、東西へ滑るように往復している。頭上には空などなく、岩盤の割れ目に沿った発光鉱脈が青白く脈動し、闇の天蓋に擬似星図を描いていた。

 中央でそびえる塔は、芯を貫くエネルギー柱を淡く震わせ、光を天井へ照射する。割れ目の鉱石がその光を散らし、星屑の幻影が静かに浮かぶ──まるで夜を知らない地下の民に与えられた、人工の星座だ。

 ビル群のガラスは地下河の蛍石色の灯を映し、ハイウェイのネオンは血管のように脈打つ。磁気車両がレールを無音で裂き、地熱が吹き上げる白煙を淡く照らしていく。

 ここに夜明けはない。巡回照明だけが都市の呼吸に合わせ、紫紺から群青、そして淵のような黒へとビルの稜線を沈める。たとえ最奥が闇に染まろうとも、水晶塔の微光は消えず、街全体がまるで生命の息吹を囁いているようだった。

 

「私と彼女は、その塔に対するアプローチに対して意見が分かれてね。私はオリジナルの探求、彼女は模倣という選択をしたのだ」

「……彼女?」

「付いてきたまえ。そこの貨物車から中に向かおう」

 

 荷台むき出しの貨物車がリニア軌道に吸い付くように滑り出す。速度計の数字が跳ね上がるたび、周囲のネオンラインが細い光の縄となって後方へ流れ去り、冷えた地下気流が頬を刺した。

 左手には積み重ねられたコンテナが暗い影を落とし、右手には無数のドローンが編隊を組んで行き交う空中レーンが折り重なる。遠近感を狂わせるほど高くそそり立つ塔は、近づくにつれ淡い蒼光を脈打たせ、塔底に開いた巨大な搬入口が漆黒の喉のように口を開けて待ち受けている。

 

「邂逅せし災いの広間……そう書かれた文献があってね。おっと、そんな話はどうでもいいな」

 

 貨物車のハッチが開くと、冷たい石の匂いが胸に刺さった。足を踏み出した先は、地下都市の機械光とは一変した、禍々しい聖堂めいた空洞だ。

 

 天井まで伸びる逆さ柱が所々で折れ曲がり、黒ずんだ岩肌を露わにしたまま吊り下がる。その合間を縫うように、黒鉄の燭台が鎖で垂れ、揺れる炎が灰の壁面を妖しく舐める。両脇には滑らかな曲線を描く双階段。手すりは石から削り出され、爪痕のような溝が何本も走っている。

 階段が合流する奥の祭壇では、翼を広げた石像が威圧的に鎮座する。

 石像を囲むように立てられた尖塔には小さな松明が等間隔で灯り、芯が爆ぜるたび影が像を歪ませる。

 機械仕掛けの都市を背に、古代の闇へ足を踏み入れたような隔絶感──塔の心臓部は、まるで石と火で組んだ巨大な祭壇が丸ごと埋葬されたかのごとき異景だった。

 そして、石像の前で机を広げ、画面に視線を這わせる人物が一人。

 無機質な平面に資料端末を並べ、黒いスーツに身を包んだ少女が滑るような所作でデータを捌いていた。赤い瞳はモニターの光を受けても揺らがず、長い漆黒の髪が足元まで帯のように流れる。

 ──秘書然とした静けさと即応の気配が同居する。

 卓上に映し出される蒼いホログラムが石像の燃える松明と交差し、少女の表情を一瞬銀色に染めた。その刹那、扉の向こうでわずかな物音。彼女は顔を上げながら、訪問者を無言のまま正対。

 彼女──調月リオは作業卓の前から歩み出ると、黒のスーツに揺れる長髪を払い、淡い笑みだけをアスナに向けた。

 

「まさか、ここであなたに会うなんて予想外。久しぶりねアスナ」

「リオ……!」

 

 照明の火が揺れるたび、リオの赤い瞳は石像の炎を映して深さを増す。

 

「色々説明したいのは山々なのだけれど、今は遠慮して頂戴。ジェネラル、どうして彼女をここに?」

「とある人物からのアドバイスだ。彼女の神秘……運命さえも手元に引き寄せるその能力、我々には必要だろう?」

 

 リオはわずかに肩をすくめ、「合理的ね」と唇を曲げてアスナの困惑を置き去りにした。

 

「確かに、これ以上人体を用いた実験は無駄だものね。あなたはそれが嫌で彼女を連れてきたのでしょう?」

「私は君と違って良心があるからな。汚染された人物を回復させるその粒子──ここは魔力としよう。それの行き先を辿るなど小さな穴に針を通すようなもの。門を開くためとはいえやり過ぎだ。おかげで聖遺物が必要になったではないか」

「そう、つまりあの博物館から聖遺物を盗んだのはあなただったのね。納得したわ。でも、それでも私は突き進む。例えどれほどの人が私を憎んだとしても、世界の終わりを見るよりかはマシなのだから」

 

 リオが再び端末に向きかけた瞬間、アスナの震える声が石壁に反射した。

 

「……リオ、あの女の子苦しんでたよ」

「ええ、理解しているわ」

「……他にも沢山、苦しんでる人がいた」

「仕方のないことなの。犠牲は付き物よ」

 

 銃口がリオへ向けられた刹那、背後で短い足音。

 ざらりとした床にアスナの体が叩きつけられ、ライフルは弧を描いて転がる。

 

「加減しなさいトキ、彼女は味方よ」

「リオ!! どうして……こんな酷いことを」

 

 炎の揺らめきが石像の翼を紅に染める。リオの横顔は硬く、しかし迷いはない。

 

「アスナ、あなたも協力して頂戴。あなたが協力してくれればもう犠牲は出さないわ。私には目的があるの。このキヴォトスに舞い降りようとしている悪夢、それを払いのけるのならどんな手でも使う。あなたも見たでしょう? 苦しんでいる人達を。その悪夢のせいで彼女達は傷つき、この世界で生きていくのすら困難になった」

 

アスナはゆっくりと身を起こし、無言でリオを射抜くように見据えた。瞳に宿るのは揺るぎない決意――かつて三人だけで任務に挑んだあの日と同じ、澄んだ光だった。

 

「私を罰するなら後でいくらでも受けるわ。でも、その前に救わなければならない世界がある。その為には力が必要なの」

 

 ──このキヴォトスにどんな災厄が舞い込もうとしているのか、それを知り……対抗するために。

 

ーー

ーー

 

「ミドリ」

「なんですか先生?」

「人生ゲームってのは要は運ゲーだろ? どうして俺ばっかり貧乏くじを引く羽目になる」

「……すごい、ここまで運が悪い人初めて見ました」

「凄いよ先生! 最早才能だよ!」

「パンパカパーン! 先生の借金が60,000,000円にまで膨れ上がりました!」

「0を多く付けてくれて助かったよ、アリス。ユズとモモイは煽ってるってことでいいんだな? とりあえず……借金の祝いに顔面にケーキでも奢ってやろうか。おっと遠慮するなよ、苺付きの贅沢でお高いのだ。好きだろ? 生憎、シャーレの給料が出たばかりで潤っててね。なに、ファミレスがいい……だって? 悪かねえな、あのドリンクバーってのには興味があってね」

 

 

 




やっとこさメインストーリーのバックボーンを書き終わった感じですね。
ここからは後編。そしてゲーム開発部が大活躍……するはず!

メインストーリーの更新は来月からです!
それまでの期間は……日常風景と、バージル先生概念でも書こうかな。
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