カイラル通信を繋ぐためオーストラリア大陸を横断しなくちゃならないので、少し執筆がまばらになります。
作戦会議!
「絶対にG.Bibleを手に入れて最高のキヴォトスメイクライを作ってユウカにぎゃふんと言わせるんだから! ね! ミドリ、ユズ、アリス……そしてダンテ先生! ユウカの追求から逃れ、そしてエンジニア部から魔剣・パパーダを入手したアリスがいれば100人力だし、先生がいるのなら鬼に金棒だよ! そうして私たちはG.Bibleを手に入れる為にもう一度廃墟に来て、ものの見事にオートマタに囲まれて大ピンチな訳だった訳なんだけど……なんと先生がたった二丁の拳銃でこの前みたいにあっという間にオートマタを蹴散らすなんて! まるでゲームの主人公みたい。で、アリスが導かれるように工場の奥の端末に歩いたと思ったら、なんやかんやで私のゲームガールズアドバンスの中にある大切なセーブデータを消してそこにG.Bibleが入ったって訳なの。中身を見ようと思ったらパスワードが掛かってて、その解除をヴェリタスにお願いしてた訳なんだけど……。呼び出されたついでに、先生と皆と一緒に来ちゃった!」
「チュートリアルみたいな説明をありがとなモモイ。話が長いぜ。で、どうなんだヴェリタス達」
壁一面を占めるモニター群が薄光を吐く部室。彼は缶飲料を片手に近くの回転椅子へ腰を下ろし、前屈みの姿勢でマキ・コタマ・ハレに視線を向けた。突然の来訪者を前に、三人はそれぞれ動揺を隠せない。マキは手鏡で前髪を整え、コタマは彼の顔を凝視したまま硬直。ハレは頬を染めつつ視線を泳がせ、乙女らしい照れが部室の空気を甘く染める。
「あ、そ、その……初めまして。ふー……やっぱりモモチューブで見るのと現実で見るのは全然違うね」
「モモチューブ? 言っておくが、あんなの面白半分に切り取ってるのばかりだぜ。まず、噂の殆どは出鱈目だからな」
「それは理解してるよ。ただ、その……動画で見るよりも──」
かっこいいなって、思っただけ。
その一言を直接告げるのは気恥ずかしいらしく、ハレは小さく身じろぎしてから視線をモニターへ戻し、言い訳めいた咳払いを落とした。
「ま、あのファイルの中身を見るのなら、鏡ってのが必要だね! セキュリティファイルを取り除いて中身をまるごとコピー! 暗号化されたシステムを開くのに最適なツールなんだけど……今、ここには無いんだ」
「え!? じゃあどこにあるのさ!?」
「この前生徒会に取り上げられてしまいました」
「不法な用途の機器の所持は禁止って、ユウカがね」
「え~そうなんだ……。あ、先生はユウカとよく話をしてますよね? 取り返せませんか?」
「ユウカは仕事になると鬼の側面が出ちまいやがる。可愛いらしいことこの上ねえが、この俺でも説得は難しいだろうよ。大体、ツールならもう一度作れはしないのか?」
空になった缶をひょいと放り、部屋の向こう側に置かれたごみ箱へ正確にシュート。乾いた音が響いた瞬間、ヴェリタスの三人は思わず手を打ち合わせた。部室の端から端へ空き缶を決めた者はこれまでおらず、彼が初の成功者だったのだ。
そんな些細な行動すら新鮮で、どうしてもそっぽを向くことが出来なかったハレは、彼の疑問に口を開いた。
「鏡は部長しか作れないの。……ヒマリ部長、まだ行方不明でさ。私達じゃ作れない。先生はヒマリ部長の所在とか知らないよね?」
「いーや、目下捜索中だ」
「そうなんだ。今、ミレニアムは大変だよね。部長の不在にカイザーコーポレーション、そしてレッドグレイブっていう人物。ヒマリ部長さえ見つかれば色々と解決しそうなものなのに」
「……ま、どうにかなるだろ」
レッドグレイブという単語がハレの口から出ると、ダンテはさも知らん振りをかましながら肩をすくめる。
知っているのはセミナーとエンジニア部だけ。情報漏洩の為口外禁止と口酸っぱくユウカから言われているためか、知らない振りも一苦労。ネットを開けばどこもかしこもレッドグレイブの記事ばかり。彼にとっては予想外の反応だが、それもユウカの作戦の一部らしい。
「ああもう、鏡を早く取り戻さないと、部長が帰って来たとき怒られちゃう!」
マキは両手で頭を抱えながらも、視線だけはダンテへと何度も滑らせていた。その横目企みを装っているのか、口元は少し浮ついている。
「なるほどね、呼び出された時点で何かあると思ったけど、だいたいわかったよ」
「ふふ、流石はモモ。話が早くて助かるよ」
「ん? お姉ちゃんもしかして……ヴェリタスと組んで生徒会を襲撃するとか言わないよね……?」
「ミドも話が早いね。鏡は差押品保管所に保管されてるんだけど、そこで守ってるのが……メイド部なんだよね」
モモイはアリスとミドリの手をつかむと、そのまま入口へ向けてぐいと引っぱり歩き出す。
突然のことに二人はきょとんとしたが、意図を悟ったマキが素早く反応。廊下へ飛び出すように走り、出口の前で大きく両腕を広げて道を塞いだ。
「待って待って待って! 諦めるにはまだ早いぞ! G.Bibleが欲しいんでしょ!?」
「そりゃ欲しいよ! でもメイド部と戦うなんて冗談じゃない! 部活は守りたいけど、ミドリにユズ、そしてアリスのほうが圧倒的に大事! 危険すぎる!」
「C&Cが危険なのはわかってるって。それに無策で突っ込む訳ないでしょ? 目的は品を保管所から持ち帰ること。戦わなくってもいい。それに──」
悪戯めいた笑みを浮かべながらダンテへとくるりと振り返ったマキは、まるで最後の切り札を得るように、彼に懇願し始めた。
急なお願いに戸惑った彼だが、生徒の頼みを断るなど先生としてあるまじき行為。やれやれと天井に向けてため息を放つも、渋々その作戦に承諾することになる。
「あのモモチューブの映像がフェイクじゃないなら、恐らくだけど、このキヴォトスで先生に勝てる生徒なんて一人もいないはずだよ。で、実際のところどうなの?」
「……ハッ、聞いて驚け、その時は出来るだけ手加減してやったんだぜ。勿論、C&Cだかメイド部だか知らねえが、俺の敵じゃねえさ」
「おぉ~言うね先生!」
「ハレ、ちなみにあの情報は正しいんだよね?」
呼び出された彼女がキーボードをたたくと、モニターには C&C 部長のネルの姿が映し出された。
つい先日対峙した相手だ。動きの癖はすべて頭に入っているため、再戦となれば前より短い時間でケリをつけられるだろう。
それでも油断は禁物。反骨の気質に加えて部長という立場を背負う生徒だ。敗北を分析し、必ずや修正を加えてくると見ておくべきだ。
ダンテは鼻で笑いながらも、ネルの闘争心は評価に値すると心中で認めていた。できればいつか腰を据えて話してみたい──もっとも、ああいうタイプは往々にして孤高に陥りやすいのだが、仲間を大切にする側面をも持ち合わせている。精神が大人に近いと言えばそうだろう。
短気なのは玉に瑕。
だが、力と精神を両立させている生徒だ。
「うん、ネル先輩は今学園にはいないみたい。どうもエンジニア部で作ってもらった武器を試すために適当な悪の組織を潰しに行ってる最中なんだってさ。病み上がりなのに凄いよね」
「でも相手はC&C、準備は怠らないようにしないと。各所から協力を仰ぎたいところ。マキもコタマもそこら辺どうなの?」
「うーん……」
「ハイ! アリスに提案があります! この魔剣・パパーダをくれたあの方々ならきっと──」
ーー
ーー
「と、言うことで、ゲーム開発部が生徒会を襲撃するという情報を掴んだのだけど」
「あんなに可愛らしい集団が、生徒会を襲撃……? にわかには信じられませんね」
「純粋な子たちなの。でもだからこそ、時にはとんでもない悪戯をしたりもする」
昼下がりの屋上には陽光が降り注ぎ、コンクリートのタイルに二つの影が長く伸びていた。
一人は淡い色合いの髪を揺らし、格式高いメイド服をまとった優雅な佇まい。もう一人はセミナー会計の制服から引き締まった腿を大胆にのぞかせ、対照的な魅力を放っている。
「それに、今回はヴェリタスも絡んでるの。共通点は無さそうに見えるけど、大事な物の為には手段を選ばない……という点で、ゲーム開発部とよく似てるわ」
「ちなみに、ヴェリタス以上に情報戦が得意な部活というのは聞いたことがありませんが。そんな彼女達からどうやって襲撃の情報を?」
「たまたま廊下を歩いてたら大きな声で会話をしているんだもの。駄々洩れだったわよ」
「そうでしたか。まあ依頼である以上、私たちは受けるつもりでいますが……ひとつ問題があります」
「問題?」
屋上のフェンス越しから見る学内。平和な日々が跋扈するこの世界を脅かす……一筋の闇。早くその対処に乗り出したい彼女にとって、ヴェリタスとゲーム開発部の問題は頭痛の種であった。
ダンテから「先にヒマリを探す」という提案。あの先生自ら進言してくれたその言葉。いつも気だるそうに構える彼が、身を乗り出して問題を解決する姿勢を見せたのだ。
期待に応えたい──応えて、かっこいい姿、頼れる姿を見せたい。
捜査は滞り、進展もないまま時間だけが過ぎていく。焦燥感に駆られてはいるが、焦りは大きなミスを起こすと理解している彼女は、努めて冷静に振る舞うしか選択肢が無かった。
なのにまた問題と、思わずため息が漏れる。
「ええ、ネル先輩が姿を晦ましてしまって」
「ええ!? ネル先輩いないの!? もう怪我は治ってるでしょう!」
「それが……この前の敗北が効いたのか、エンジニア部に頭を下げて武器を作ってもらったそうで。適当な悪の組織を壊滅させる傍ら、試運転をするとどこかへ行ってしまいまして」
「うう……で、でもネル先輩がいなくてもC&Cならゲーム開発部くらい」
「勿論、問題ありません。こちらにはアスナ先輩もおりますから。ただ──最近は色々と心境の変化があったそうで、上の空気味ですが」
「心境の変化? 上の空気味?」
「ええ、ここだけの話ですが……」
アカネはそっとユウカの肩へ身を屈め、周囲に気配がないか数度だけ視線を巡らせる。そして、唇が触れそうなほど耳元へ近づけると、ごく控えめな声で囁きを落とした。
「あの先生いますよね? あくまでも私達C&Cから見た感じではありますが──アスナ先輩、先生に惚れ込んでいるのではないかと」
「え、え、え、ええええええええ!? あのアスナ先輩が!?」
「し、声が大きいです」
心臓が跳ね上がったユウカは、絵にかいたように取り乱した。
一ノ瀬アスナと言えば、誰にでも人懐っこく、天真爛漫で笑顔を絶やさない。かたや作戦ともなれば瞳を鋭利に細め、ターゲットをなぎ倒していく様はさながら歴戦の猛者。そんな二極化したあの先輩が、まさかの先生に……と、またもや彼女の中で渦巻く問題が一つ追加される。あくまでも個人的な問題だが。
「おや? もしかしてユウカも?」
「ど、ど、どどどどどうして!?」
「ふふ、大丈夫です。決して口外したりしませんので」
「とか言ってアスナ先輩の口外してるでしょ!?」
「あら? あくまでも作戦の瑕疵になりそうな部分を喋ったつもりですが? あくまでも憶測。確定情報は機密事項ですから。安心してください、ユウカのは機密事項ということで」
しまったと、頭を抱えながらしゃがみ込む。
「ふん、まぁいいわ。とりあえず、病み上がりで申し訳ないのだけどよろしく頼むわね!」
「うふふ、大丈夫です。決して口外しませんので。というよりも、ミレニアムの生徒の中では確定事項ではありますが」
「へ?」
「いや……その。バレてないとお思いだったのですか……。先生と話す時あれだけ楽しそうにしてらっしゃいますから。皆気づいていますよ。気を使って言わないだけで」