ダンテ先生概念   作:3ご

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DevilHunter VS Maid

「よし、差押品保管所までたどり着いた! 鏡はどこ!?」

「えーっと、どれだろう……?」

「うぅ、流石に探す時間まで計算に入れていませんでした。早く見つけないと……!」

 

 そんな三人の元に寄る一つの影。

 音もなく忍び寄る気配を察知した彼女たちは、それぞれの銃を構えて暗闇に銃口を向ける。

 今まさに引き金を引こうと指をかけたその時──仄かな明かりの下、見知った顔が浮かび上がってきた。

 

「ユズ! あ、手に持ってるそれって──!」

「うん、目的の鏡だよ」

 

 作戦でのユズの行動。

 セキュリティを乗っ取ったエンジニア部の手際により、ミレニアムタワーはひと時の間制御権を失うことになる。

 そこで正面もとい、表舞台で暴れまわるモモイとミドリ、そしてアリスは裏を搔い潜って舞台の正面から鏡を奪還するという演出を施していたのだ。

 その間、セキュリティが手薄になったタワーの排気ダクトを潜り抜けてユズは単独で潜入。徘徊している警備ロボットを段ボール一つで潜り抜き、たった一人で差押品保管所に辿り着いたという訳だ。

 もちろん、アリス達が作戦通りに奪還するのがセオリーではあるのだが、保険の為とゲーム開発部でもあまり目立たないユズには別動隊としての役割が与えられる。

 

「流石ユズです!」

「ふふ、じゃあ脱出しようか。みんなが来た所の反対側の通路を突っ切ろう。警備ロボットはうろついてないから大丈夫」

「やった! 流石にダンジョンを攻略した後で道を戻るなんてゲームやりたくないもんね!」

「お姉ちゃん真面目にやるの!」

 

 ユズの背後を三人が追う。

 いくつもの足音が折り重なるその一幕は、まるで映画の主人公……いや、ゲームの主人公になり切った感覚。

 アリスの瞳の中には、疾走するモモイとミドリ、そして先陣を切るユズの姿。窓越しに見えるミレニアムの街並みが照らす人々の営み。

 私たちは、世界から隔離された。

 どうしてだろうかと、彼女の中に疑問が湧き出る。この時のこの一幕が、アリスの中で何か……夢のような現実が覚める感覚。何度も何度も折り返され重ねられたひとこまは、やがて既視感へと昇華し彼女の頭に刻み込まれる。

 格子状の窓から差し込む光量はコントラストを鋭利にさせ、己を含めた4人の足音が奏でるリズムは胸の鼓動を押し上げる。

 耳元に溶け込む仲間の呼吸、スローモーションのように伸びる瞬間。──友達になったばかりの三人と肩を並べ、同じ扉へ向かって走る光景が、アリスの中に鮮烈な印象として焼き付いていく。

 

 楽しい。

 楽しい楽しい楽しい!!!

 

 真夜中に友人たちとこっそり夜の街を歩きまわる。危険だとわかっていても、恐ろしいと知っていても、闇の深い森へ踏み込む。学校をさぼって昼間から集まり、秘密のゲーム大会で盛り上がる。

 いけないことだと理解している──それでも仲間と一緒なら、不思議と怖さは影を潜める。

 学生として自由を闊歩出来る唯一のこしょこしょ話。他人から見ればただの悪さと言う者もいれば、粛清の対象になることもあるだろう。だが、今の彼女にとって、まるで自分の中には存在しなかったはずの一つの扉が開かれた──三人と一つになれた感覚が頭を駆け巡った。

 青春が何か、今のアリスにはまだ形を結ばない。けれどいつか振り返ったとき、これこそが輝く青春のひとこまだったと思える。そんな鮮烈な記憶の芽が、確かに彼女の胸の奥で芽吹き始めていた。

 

「このまま扉を突っ切れば──って待ったああああ!!」

 

 扉の向こうで破裂音が弾けた。鋭い金切り音が耳を刺し、四人の足がぴたりと止まる。次の瞬間、自動スライドドアがこちら側へ倒れ込み、濁った粉塵が渦を巻いた。

 

 ──逃げられると思うなよ。

 

 鋭い声が廊下の奥まで響き渡る。舞い上がった粉塵は静かに薄れ、その言葉の主を舞台に押し上げるかのように視界が開けていった。

 

「あ、あ、あれは──!」

「メイド服の上から羽織ったスカジャン……龍の刺繍……」

「C&Cのネル先輩!? どうしてここに!?」

 

 砕けた扉の破片が派手に飛び散った先には、割れた窓。隙間から吹く風は室内の粉塵を洗い飛ばし、彼女の風格を際立たせるように服の裾を靡かせる。

 鋭い目線の奥には血に染まりし深紅の瞳。口元は獲物を見つけた肉食獣のように弧を描く。

 ミレニアムで知らぬ者は一人もおらず、秘匿性が重要視されるC&Cの中で唯一名が通った最悪で最強の化身。

 

 ──美甘ネル。

 

 当然、ゲーム開発部の彼女達も例外ではない。彼女の通った道は蟻の一匹も痕跡も残らない程。そう謡われる彼女の振る舞いはネットの世界でも特殊で、一言チビとか子供用とか書き込みがされればあら不思議。IPアドレスを経由されてスカポンタンに怒られるのはあまりに有名な話──と、変な噂まで出回る程だ。だが、当のネル本人はそんなみみっちいことなど一度もしたことが無い。面と向かってチビなど言われた日には感情に任せて暴れまわることはあるが、ネットの書き込みなど最近ではレッドグレイブ関係のことでした憤ってないのだ。

 

「遠くから見てたぜ。あんたら、うちの部員達をずいぶんとコケにしてくれたな」

「コケ? コケとはどういう意味でしょうか? ニワトリのことでしょうか?」

 

 困り顔のアリスの返答に、ネルのこめかみ辺りに十字の欠陥が浮き出る。

 モモイは慌てながらアリスの口を手で塞ぐが、時既に遅し。軽薄な挑発だと受け取ったネルは片方の手に構えたサブマシンガンの銃口を彼女たちに向けながら……。

 

 ──機械仕掛けの右腕を腰まで下ろし、掌を広げた。

 

「へぇ、お前は……確かアリスと言ったな。さっきの一撃は見事だったぜ。アスナにアカネ、遠くで見張ってたカリンすら巻き添えにして戦闘不能にさせたんだ。その銃……いや、レールガンを容易く扱える技量、敵ながらあっぱれという言葉をくれてやる」

「違います、これは魔剣・パパーダです!」

「魔剣・パパーダ? ハハッ、確かにその威力はキヴォトスメイクライのあの伝説の魔剣に匹敵するだろうよ。だが──現実は……どうだろうな!!」

 

 重心が、下がる。

 銃を引く肩が反動になり、右足を大きく踏み出す力の流れは加速装置。同時に軸を中心に身体を大きく逆時計回りに捻らせながら、外に回った肩を最大限内側に捻ると、機械仕掛けの右腕はその脱力も相まってか鞭のようにしなる。

 空間を突き刺すように前方へと放たれた右腕の拳がいつの間にかアリスの懐まで延び、彼女は咄嗟にパパーダを盾に防御しようとするものの、威力を前面に受けてしまった反動で彼女の体は大きく吹き飛び、壁に背中を打ち付ける。

 

「ぐ……! 威力が桁違いです!! ですが、これなら──」

 

 パパーダの先端が稲妻のように弾ける。光の粒子が円環を築き銃口に収束すると同時に──閃光の刃が躊躇なく放たれた。

 来ると分かっていても、銃口の動作を見極めるのはどんなベテランのPMCであっても不可能に近い芸当。だが、彼女たちの相手は百戦錬磨、レッドグレイブに敗北を喫するまで不敗神話を誇っていたC&Cのトップだ。

 一度受けた、動作を見せた攻撃を見極めることなど造作もない。それが素人の攻撃なら猶更。

 

「──序曲(オーバーチュア)

 

 収束した光粒が弾丸となってネルへ突き刺さる刹那、彼女は機械仕掛けの右腕を掲げ、金属の指を扇状に開いて一撃を受け止めた。奔流は床を抉り、廊下の端まで火花を散らしながらも、ネルの視線は微動だにしない。すぐさま義手の駆動音が唸り、筋肉と連動した右腕が撓んで一気に解放──放射された衝撃波が窓ガラスを一斉に粉砕し、光の粒は霧散した。 

 

「そ、そんな……魔剣・パパーダが!!」

 

 呆然と立ち尽くすゲーム開発部の四人は、ネルの胆力と制圧力に言葉を失う。 

 義手の放熱フィンから白煙が立ち上り、ネルは腕を払うと拳を縦に構えて再び身構えた。 

 

「あいつらがそう名付けたんだ。この……なんだったか、デビルブレイカーシリーズの初手なんだとよ。面白れえだろ?」

 

 アリスは現実を飲み込めず、慌ててパパーダの再チャージを試みる。モモイ、ミドリ、ユズはそれに賭け、震える指で引き金を絞った。銃声が立て続けに響くが、抜きん出た技量の無い弾丸などネルには紙飛行機も同然。舞を見せ前進する彼女の義手に稲光が走り、床へ叩きつけた衝撃波が彼女の体を跳躍させ、常人では追えない加速を生み出す。 

 乱れ飛ぶ弾丸は空を切り、三人が次々と地に伏す。立つのはアリスただ一人、胸を締めつけるような静寂が廊下に落ちた。

 

「う、うぅ……」

 

 銃口をおでこに突き付けられたアリスは、初めてのピンチと恐怖が体をこわばらせた。

 

「んだよ、これでおしまいか? なぁ、もっと楽しませて──」

 

 ネルがそう言葉を言い終わる刹那──大きな影が一つ、彼女とアリスの間に割り入った。

 まさかの奇襲に身を屈め後方へと退避したネル。反撃しようと咄嗟に銃口を向けるが、影はいつの間にか地に伏せ両手を軸に地面からサブマシンガン本体を蹴り上げる。体勢の分が悪いと判断した彼女はさらに大きく後退する為に跳躍したが、影の追撃はそれだけに留まらずさらに追いつめる。

 

「まずい──!」

 

 影は左手で狙いを定め、右足をロケットのような加速で地面を蹴り飛ばした。

 弾丸のように放たれた体はネルの懐まで一気に間合いを詰めると同時に右足を大きく踏み出し、体の回転を利用し全体の力場を右腕に込める。

 質量も相まってか、風を置き去りにし、空気を切り裂くその拳の一撃に反応はしたももの、脳の伝達信号は行き届かず避けるまでの時間が残されていない。

 

「今までのあたしなら、対処は出来なかっただろうな。けど」

 

 ──力がある。

 ──あいつに「勝つ」為に得た力が!!!

 

 一か八かの賭けだ。

 空気から伝わる敵の攻撃はまさに一撃必殺。どのみちやられてしまう。

 ──ならば、取れる選択肢は一つ!

 

 機械仕掛けの右腕を出し、金属の指を扇状に開き──受け止めた。

 衝撃がぶつかり合い、風圧がスカジャンと……紫紺のコートを靡かせる。

 威力の吸収に全エネルギーを割り振った右腕からは白煙と稲妻が迸り、青白い光が影の顔を浮かび上がらせた。

 

 ──忘れるはずもない。

 ──忘れるはずがない。

 

 思わぬ乱入者にネルの口元はニヒルに弧を描き、鋭利な深紅の瞳は好戦的な振る舞いを見せる。

 不気味な銀の仮面は表情こそ分からないものの、そんなことはどうだっていい。

 こいつが何を考えているのか、何を企んでいるのかなんてくだらない一幕だ。己の目的には何の関係もない。

 ただ……もう一度戦って、得たばかりの力を試したい。

 ネルにとっては今回の事件などこの程度だ。ただの任務。つまらないいつもの任務。

 だから──。

 

「ハッ、なんだその腕は」

「んだよ、いきなりおしゃべりか。……ま、そんなことは」

 

 ──どうでもいいけどな!!!

 

 ネルは義手の衝撃波で彼を後ろへ滑らせると、掌を払うように合わせて構え直した。銃撃では歯が立たない。ならば接近戦に持ち込み、この新たな力で叩き伏せるしかない──そう判断する。

 義手を一振りすれば、放熱フィンから白煙が上がり、表面を稲光が奔る。あと数発が限界だろう。だが十分だ。奴を捕まえ、一撃で沈める。

 

「派手な登場だなレッドグレイブ。この私の前に再び現れたこと後悔させてやるよ」

 

 対峙する男は無言のまま同じく義手を振り、ネルの挑発に応じるように指先で「来い」と合図した。彼女は口元をさらに歪め、幼い悪戯心を宿した目で応える。薄い月明かりの下、二つの影が静かに距離を詰めていく。

 

「遊んでやるよお嬢ちゃん。かかってきな」

 

 

 

 

 

 

 

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