ダンテ先生概念   作:3ご

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彼女との一日

「本当に手伝いでいいのか? 任務くらい、別の奴に任せてもいいだろう」

「だーめっ! 皆最近色々あり過ぎて疲れてるんだから」

「そりゃお前も……まぁいいさ」

 

 捨てられた廃工場と言うべきか。ミレニアム郊外近くの閑散とした土地の中、二人は扉の前で息を整える。

 本当は遊びにでも誘って鬱憤晴らしでもしてもらおうと考えていたが、彼女は任務最優先。請け負った約束は反故には出来ないと突っ張られ、渋々今に至ることになった。

 制服からメイド服へ着替えた彼女の姿。相変わらず目のやり場に困る格好だが、同時に眼福でもあるため、無暗に突っ込んだりはせず、静観を決める。

 

「ここではとある超大型ロボットの密輸があるって情報があって、それを食い止めるって内容なの。公的機関からの要請だから情報は間違いないと思う。だから、本当はもっと火力が高い武器と人数が必要なんだけど……」

「時間が無い。だろ?」

「うん! 最悪止められなくても、痕跡と流通経路さえ確保出来ればいいの」

 

 彼女はそう言いながら、ライフルのマガジンを再度確認した後、大きく息を吸い込んだ。

 以前の任務……C&Cのメンバーと似た内容の任務をこなしたことがある。あの時は4人だったが、今回は二人。どこか胸の中に不安を抱えながらも、己を救出してくれた彼の力を借りでもしないと恐らく突破できない。だが、それで万が一にもご主人様が怪我でもして重体になれば、罪悪感は胸を締め付け己をさらに追い詰める。

 

「ご主人様、危なくなったらいつでも逃げていいからね?」

「誰に言ってやがる。ハッ、舐められたもんだぜ」

 

 スイーツの名前が彫られた白と黒の双銃を手元で回し、銃口を扉に向けるその姿は、まるで映画のワンシーン。

 だが、アスナにとってその銃は敗北の象徴とも言える。

 ここ最近、巷を騒がせているレッドグレイブというキャラクター。人気に火が付いたのか、銃のレプリカが量産され、今や学生にとっては流行の最先端。

 まさか己のご主人様が流行に敏感な人だとは思わず面を食らってしまったが、人にはそれぞれ好みがある。ずけずけと天然に言葉を出す彼女でも、触れたくないことだってあるのだ。

 

「えっと、まずはあの屋根の上に登って、敵の位置をきちんと把握するところからだね。兵器の受け渡し時間までは残り二時間。その内の30分は偵察に使って、残りは侵入経路と脱出経路の算出」

 

 アスナはスマートフォンを手に取り、指先で地図をなぞった。街の俯瞰図が光を反射して、かすかに彼女の頬を照らす。

 「ここが敵の待機エリアで、こっちが搬入口」そう説明を始めようとしたが、彼女の視線の先にいる男はまるで別世界の住人のようだった。

 ダンテは彼女の言葉を半分も聞いていない。

 双銃を指先で回し続けるその手つきは、まるで退屈をもてあそぶ子供のようで、それでいてどこか獣のような静けさがあった。

 

「一時間も二時間も待ってられるかよ。さっさと潰してスイーツでも食いに行こうぜ」

「すっごい自信だね!?」

 

 そうだ、この人は先生で、大人だ。

 アスナの胸の奥で、ひとつの線が結ばれる。

 きっと、子供の自分には思いつかないような完璧な作戦を頭の中で描いているに違いない。そう信じた。

 

 だって、扉の前で何やら構えている。足を少し開き、体重を軸足に乗せ、視線を一点に固定している。その動きがあまりに自然で、洗練されていて、見ているだけで頼もしさが溢れてくる。

 そして——助走を取り始めた。

 

 まさかと思う間もなく、ダンテは一直線に走り込み、勢いよく身体をひねって——回し蹴りを叩き込んだ。

 

 重厚な扉が鈍い音を響かせて弾け飛ぶ。何メートルも高い鉄の板がひしゃげ、衝撃で舞う粉塵の向こうに、何人もの不良生徒と、一台の大型ロボットが現れた。

 ダンテは土煙の中で肩をすくめ、アスナに顔を向ける。

 「これで偵察の必要はなくなったな」

 

 軽口のように聞こえるその一言が、かえって空気を震わせた。

 アスナは思わず首を傾げる。――おかしい、精密な作戦があったはずなのに。

 

 その時、敵が慌てて銃を乱射した。

 閃光と硝煙の中、反射的にアスナはダンテの胸へ飛び込む。瞬間、彼の腕が彼女の背を押し、近くの遮蔽物へ身を滑り込ませた。

 

 頬をかすめる弾丸の風。息を呑んで顔を上げると、目の前にはダンテの余裕に満ちた笑み。

 彼はまるで、この混乱すら計算のうちだと言わんばかりに、してやったりの表情を浮かべていた。

 

「そういえば聞いてなかったな。あのロボット……変な見た目のロボットはどうすればいい?」

「今聞くの!? ええっと、うーん……とりあえず壊せばいいかな」

「んだよ、んじゃ、ちゃちゃっとやっちまうか!!」

 

 ダンテはアスナを一句置き去りにして、遮蔽物を蹴り越え敵の正面へと降り立った。弾丸が降り注ぐ中、彼の姿はまるで嵐の目そのものだ。双銃の連射が金属音の鎖を織り、飛び交う弾丸同士が火花となって交差する。弾丸が弾丸を弾くその瞬間、空中で光が裂け、敵側の弾道は予期せぬ軌跡に逸れた。

 その隙を突くように、ダンテはさらに弾を叩き込む。雨のように降る鉛の洪水に、不良たちは次々と膝を折り、呻き声を残して地面に崩れ落ちた。血と砂塵が混じる匂い。驚愕と恐怖が混ざった叫びが辺りに響く。

 

 「なんだよあいつ!? 弾丸を弾丸で弾いて……!?」「ひぃ、こっち来るなーー!!」「まずい、ロボットを起動させるぞ!!」敵の動揺は露骨で、指揮系統など最初から存在していなかったかのように機能しない。

 左右へ瞬間的に体を滑らせるダンテの動きは、素早く、無駄がない。追いすがる者たちは反応が一拍遅れ、まるで獰猛な捕食者に遭遇したゲームのプレイヤーのように混乱し、弾丸の前に成す術もなく散っていく。改心させるどころか、その場で裁かれていく不良たち——それもまた、ひとつの教育の形なのかもしれない。

 アスナは震える手でスマートフォンを握りしめながら、しかし言葉には出来ない何かを胸に宿した。

 確かに、最初に出会った時、あまりの身体能力の高さに感極まった記憶がある。

 だがこれは──想像以上と言わざるを得ない。

 

「おっと、ロボットが動いちまったか。ま、ぶん殴れば停止するだろ」

 

 ダンテは鼻で笑い、床に転がっていた薬莢を踏み潰した。金属音が甲高く鳴り響く。

 目の前のロボットは、鋼鉄の塊を無理やり人型にしたような異形。

 脚部には戦車のような無骨なタイヤ、胴には冷却装置らしき管が幾重にも絡みつき、蒸気を吐き出していた。

 そして極めつけは――無意味に人の顔を模した仮面。

 無機質な鉄の表情が、赤く光るセンサーの瞳を細め、歪な笑みを浮かべる。

 

 ダンテが唇の端を歪めると同時に、床を蹴った。

 

 破裂音。

 まるで銃声のような踏み込みの衝撃がコンクリートを砕く。

 空気が爆ぜ、鉄骨が軋む。

 ロボットの関節がぎこちなく反応し、右腕を上げる──だが遅い。

 

 ダンテの体が残像を引きながら突進し、その拳が真正面から叩き込まれた。

 鈍い衝突音。

 鋼板がへこみ、亀裂が走る。

 ロボットの「顔」がわずかにへこみ、火花が散った。

 だが止まらない。ロボットは反撃とばかりに左腕を薙ぎ払う。

 

 「ハッ、遅ぇ!」

 

 ダンテはその腕の下を滑るように潜り抜け、拳を二度、三度と叩き込む。

 打撃のたびに鋼が裂け、火花と油が飛び散る。

 金属音が嵐のように工場内に響いた。

 拳と拳――いや、拳と鉄塊の殴り合い。

 ロボットの巨体が揺れ、バランスを崩したその瞬間、ダンテは足を踏み込み、腰をひねる。

 

 轟音。

 

 回し蹴りが炸裂し、空気が一瞬で爆ぜた。

 蹴りの軌道が残光のように尾を引き、ロボットの頭部を真正面から捉える。

 分厚い鋼がめり込み、形を保てず潰れる。

 装甲が剥がれ、内部の機構が悲鳴を上げるように高音を放つ。

 

 「ギギ……ガガガ……!」

 電子音が断末魔のように響き、ついには全身のライトが一斉に消えた。

 金属の巨体が膝を折り、重力に従って床へと沈む。

 粉塵が舞い上がり、視界が白く霞む。

 

 その中央で、ダンテは無言のまま拳を払った。

 焦げ跡と油が付着した拳を、軽く息で吹き飛ばし、くるりと銃を回して腰に戻す。

 

 アスナはその光景をただ呆然と見ていた。

 

 「え、えー……うそでしょ……」

 

 C&Cが複数人で挑むはずの任務を、たった一人で、数分足らずで制圧。

 床に膝をつき、尻もちをついたまま見上げるその瞳に、恐怖と憧れがないまぜになる。

 

 部長──美甘ネルでさえ、これほどの暴力を自在に操れはしない。

 キヴォトスには多くの猛者がいる。

 しかし、この男の強さはそのどれとも違う。

 圧倒的。破壊的。

 彼の動きのすべてが、まるで戦闘ではなく舞のようだった。

 

 アスナの喉が乾く。

 ただの拳が兵器を凌駕する──そんな現実を目の当たりにして、言葉という概念がどこかへ消えていった。

 

「じゃ、これで任務完了だな。って何惚けてる。回収部隊に連絡をすんだろ?」

 

 

 

 





やっと執筆に集中できる・・・!
大変でした。
人生大変な時ってありますよね?
乗り越えれました!
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