長い。長い戦いだった。
長い苦難の果てに俺は、何とか魔術適性検査を終え、解放される事になった。
もはや満身創痍である。
「……信じられない様な事ではありますが、リョウ様は精霊と契約していない可能性があります」
「そ、そうですか」
「ショックなのは分かります。私もリョウ様の様な方は初めてで……」
「いえ、まぁ結果が出た以上は受け止めましょう。魔術ばかりが戦う手段ではありませんしね」
「……まぁ、そうですね。魔術が使えてもそれがそのまま戦いに使えるという事もありませんから」
「はい」
「では、サクラ様の検査も続けて行いましょうか」
「分かりました。ほら、桜」
「うん」
桜は俺から水晶を受け取って、中を見た瞬間に、口を開いた。
「青と黄色の光が見える」
「まぁ! それは素晴らしいですね!」
「そうなんですか?」
「えぇ。青は水の精霊、黄色は光の精霊ですから。非常に珍しい精霊と契約しています」
「そうなんですね。凄いな。桜」
「そうかな。えへへ」
「あぁ。凄いぞ」
「じゃあ、これでお兄ちゃんと一緒に冒険出来る?」
「それとこれとは話が別だな」
「むー!」
怒った桜は水晶をテーブルの上に置き、右手でグーを作って俺を叩く。
が、特に痛みはなく可愛らしいだけであった。
「はい。確かに確認させていただきました。水と光の精霊ですね」
「ありがとうございます。次は身体能力検査でしたっけ?」
「そうですね。では、訓練施設へ行きましょうか」
とりあえず場所を移動するという事で、桜には落ち着いて貰い、オリビアさんの背中を追いながら入ってきた時とは別の扉から部屋を出る。
どうやら個室の外は屋外へ繋がっていたらしく、やや広い空き地の様な場所に出るのだった。
そこは周囲を建物に囲まれており、周囲の建物は冒険者組合の建物と思われる。
つまりは冒険者組合の人間以外からは見えない仕組みになっている場所……という事かな?
「では検査を行うのですが……私は見ての通りただの受付なので、身体能力検査は専門の方にお願いしております。今呼んできますね」
オリビアさんがそう言いながら、俺達が出て来た扉とは別の扉に向かって走ってゆき、中から一人の男を連れて来た。
……強い。
一目で分かった。
戦いの中で生きて来た者の気配を感じる。
「なんだオリビア。もう魔術検査は終わったのか?」
「そうだよ。ほら! 身体能力検査! リカルド君の仕事でしょ!」
「わーかってるって。そう引っ張るなよ」
欠伸をしながら現れたその人は、気だるげな空気を漂わせているが、歩き方はしっかりしているし、意識も周囲へしっかり向けられている様に見える。
だらしない姿を見せているのは油断を誘う為だろうか?
「……お兄ちゃん」
「あぁ。分かってるよ。油断して良い相手じゃない」
桜と話をしながら俺は先ほどオリビアさんとの触れ合いで感じたモノとは別の高揚感を感じながら、左手で腰に差した刀を握る。
「お待たせしました! コミネ リョウ様、コミネ サクラ様!」
「いえ」
「……お前、コミネ リョウっていったか?」
「ちょ、ちょっと! まだ登録は終わってないんだから、言葉遣いを」
「あー。悪い。ちょっと黙っててくれ。オリビア」
「黙ってろって!」
「良いから」
リカルドと呼ばれた人は無精ひげの生えた顎を触りながら、俺と桜をジッと見据える。
そして、オリビアさんに聞かせる様に言葉を零した。
「お嬢ちゃんの方は失格だ。まともに動けるようになるまで戦闘どころか町から出るな」
「なっ!」
「桜。落ち着いて」
「お兄ちゃん!!」
「良いから」
「そして、小僧。お前は個人戦闘力測定をしろ。異論はあるか」
「個人戦闘力?」
「冒険者ランクの話はオリビアから聞いてるだろ? それはそれとして、純粋な戦闘力だけで、ある程度依頼を緩和する事が出来る指標だ」
「例えば、冒険者ランクが最低で、戦闘力がSだった場合は?」
「条件付きだが、Sランクの依頼が受けられる」
「……ありがたい」
俺は意識を一気に戦闘状態へ移行し、正面に立つ男を倒すべき目標に定める。
服の上からでも分かる鍛えられた筋肉。
そして、油断なくギラりと輝く瞳は炎を宿した様に赤く燃えている。
「やる気だな。離れてろ。オリビア」
「え? えぇ」
「じゃあちょっとやってくるよ。桜」
「うん」
そして俺は鯉口を切り、いつでも抜刀出来る様にして軽く腰を落とした。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はリカルド。お前は」
「亮。小峰亮」
「リョウか。じゃあ行くぜ! リョウ!!」
リカルドさんは地面に足跡が残る程強く踏み込んで、次の瞬間には俺のすぐ目の前に移動し、剣を振り下ろし始めていた。
驚くような速さだ。
それほど早く動く様には見えなかったが……人は分からない物だ。
俺はリカルドさんの一撃を横に移動する事でかわし、刀を抜きながら首元を狙った。
無論斬るつもりはない。
寸止めをする予定だ。
しかし、直前までは本気で斬りに行く!
「エアブーストォ!」
「消えた……!?」
「こっちだ! リョウ!」
一瞬の間に目の前から姿を消したリカルドさんは次の瞬間には左側に移動しており、俺は背中から回転しながらリカルドさんの剣を刀で受け止める。
並の武器なら刀で切り裂く事も出来るだろうが、生憎と並の武器では無いらしく、刀は受け止めるだけで精一杯であった。
「これが噂に聞くヤマトの神刀か……! 良いモン使ってるな」
「そちらも、ただの武器では無いようですね」
「当然だァ! コイツはアーノルドっていう伝説のドワーフが作った伝説の品だからな!」
「なるほど」
俺はひとまず距離を取ろうとリカルドさんの剣を弾き飛ばし、後ろに跳んだ。
しかし、リカルドさんは再び地面を強く蹴る事で逃げる俺に追いつき、正面から剣を振り下ろしてきた。
「早い……!」
「逃げてばかりじゃ、評価できねぇぞ!」
「それも、そうですねっ!」
どの道、どこかで隙を作る必要がある。
そう考えた俺は左手を刀から外し、リカルドさんが振り下ろしてくる剣を見据えた。
それほど大きな剣ではない。一般的な成人男性が振り回せる程度の大きさだ。
ならば……!
俺は一歩、世界の中に踏み込んだ。
ゆっくりと流れてゆく世界の中で、左手で剣を横に押し込んでゆく。
そして、反発する力を素直に自分の体に乗せて、その力で右側へと移動しながら右手と右半身を引き、自然な突きの構えを取って行く。
おそらくリカルドさんが加速する為には足の踏み込みをしなければいけない。
だが、剣を振り下ろしている状況では前以外に体重をかける事は不可能だ。
故に、ここで仕留める。
俺はリカルドさんの剣を払い、左腕で目標を定めながら大きく引いた右手の刀を突き出した。
無論射抜きはしない。
ただ首の傍を通過させるだけだ。
万が一の事を考えて峰の方を首側にしておくことも忘れない。
「……っ!」
「これで、終わりです」
リカルドさんは剣を振り下ろした姿のまま俺の刀を首のすぐ近くに置いて硬直していた。
動いた所で首の傍にあるのは峰だから傷つく事は無いのだが、本能からか動く事が出来ないようだった。
「俺の、負けだな」
「……ありがとうございます」
俺は刀を鞘に納めると、リカルドさんに頭を下げた。
かつて俺が学んでいた道場で、武とは礼に始まり、礼に終わると学んでいたからだ。
「り、リカルド! 大丈夫なの!?」
「あぁ、傷はねぇよ。痛みもねぇ」
「良かった」
「お兄ちゃん。格好良かった」
「ありがとう。桜」
そして俺は、前の世界の常識は捨てた方が良いなと思いつつ、個人戦闘力Bランクという称号を受け取るのだった。