異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第100話『飲んだお酒の(こどものきらいな)匂い』

 朝方エルネスト家を訪ねたのだが、結局エドワルドさんやルーカス様に勧められるまま酒を飲み、気が付いたら昼過ぎになっていた。

 流石にゆっくりし過ぎたと、俺は客間を出てソラちゃん達が居る部屋へと向かう。

 そろそろ次の場所へ行こうとみんなに伝える為だ。

 

「みんな。待たせてごめん。こっちはどんな感じかな」

 

 ノックをしながら部屋の中に声をかけると、中からパタパタと走る音が聞こえて来て、俺は人が出てくるのを待った。

 そして、ソラちゃんが勢いよく出て来て、笑顔をすぐに凍り付かせる。

 

「リョウお兄ちゃん! って、臭い!」

「……っ!」

 

 扉の近くで待っていた俺は、桜の友達の様な存在という事で妹の様に思っていたソラちゃんから突如言葉で殴りつけられる。

 実際に痛みを感じる事はないが、心は打ちのめされていた。

 

「お兄ちゃん?」

「あらー。リョウさん、お酒飲んでたみたいだね」

「おさけー?」

「そう。大人の飲み物。でも、ソラちゃんはまだ子供だからキツイかな」

「そ、そんな事ないよ! だってソラちゃん大人だもん! おさけだって飲めるよー!」

「飲んじゃ駄目だよ。ソラちゃん」

 

 勢いのまま叫ぶソラちゃんを止めながら、どうしたものかと俺は考える。

 自分では感じないが、俺が飲んでいた酒はだいぶ匂う様だ。

 思えば、最初に飲んだ時、強い匂いがコップの周辺からしていたな。と思い出す。

 

 なら……どうする?

 一度家に帰ってシャワーを浴びて来ても良いが、酒を飲む事で生まれている匂いという事なら、洗い流してどうにかなる物でも無いだろう。

 俺の体の中から匂いがするワケだから。

 

「んー。分かった。じゃあお兄ちゃんは先に帰るから、みんなは気を付けて帰るんだよ。フィオナちゃんとリリィちゃんの言う事をちゃんと聞くんだぞ」

「いやいや! 小さい子とは離れてれば大丈夫だから! むしろリョウさんの方が心配だよ」

「うん。お酒いっぱい飲んでるのに、雪は危ない」

「ほら。リリィもこう言ってるし。私たちは何も気にしないし! 外なら余計に」

「……分かったよ。じゃあみんなが帰る準備出来たら帰ろうか。俺は少し頭を冷やすのに、外へ行ってるよ」

 

 俺はフィオナちゃんとリリィちゃんの好意に甘え、一緒に帰る事にした。

 しかし、今のままでは良くないので、少しでも匂いを減らそうと外へ向かう。

 

「……」

 

 まだ昼だというのに、雪を降らせ続ける雲があるからか、外はまだ薄暗い。

 しかし、空気はどこまでも冷たく……何故かいつもよりも透き通っている様な感じがした。

 

「そういえば、ジーナちゃんとミクちゃんはどうなったかな」

 

 一人、降り積もる雪を見ながら体の奥にある熱を冷やしていた俺は、ふと放置していた二人の事を思い出し、エルネスト家の庭を散策する。

 もう戦いの音はしていないから、戦いは終わっているか……もしくは別の場所へ移動していると思うのだが、どうだろうか。

 

 降り積もった雪を踏みしめながら歩き二人を探していた俺であるが、庭の一部で雪が消失している事に気づき、おそらくはここだと足を早めた。

 そして、地面の上で倒れて曇り空を眺めている二人を発見するのだった。

 

「ジーナちゃん! ミクちゃん! 大丈夫か!?」

「だいじょーぶ」

「私も、大丈夫です」

「とてもそうは見えないけど……」

 

 俺は二人の傍に駆け寄り、二人を抱き起した。

 

 が、ここで自分の匂いを思い出し、二人から離れようとした。

 しかし、どうやら二人は匂いを気にしていないらしく、文句は言われないのであった。

 

 それから何とか二人は起き上がる事が出来た様で、フラフラになりながらも俺の後ろに付いてきた。

 そして、玄関に今、ちょうど着いた桜たちと一緒に俺達はエルネスト家を後にして、次なる目的地へと向かう。

 次の目的地は、冒険者組合だ。

 

 まぁ、あんまり気乗りはしないけど、お世話になってるし、挨拶しないというワケにもいかないだろう。

 

 という訳で、雪が増え、人が減った大通りを歩き、冒険者組合と書かれた看板が白く染まっている建物までたどり着くのだった。

 

「お疲れ様ですー」

「おぅ、リョウか。お疲れ。今日はどうした? 依頼なら無いぞ」

「いえいえ。冬ごもりの前の挨拶に来たんですよ。組合長」

「そうか。冒険者にしては丁寧な奴だな。その様子じゃあ既にエルネスト様やセオスト様の所へは行ってきたみたいだな。関心感心」

「えぇ。随分とお酒を飲む事になりましたが」

「わはは。あの方たちらしい。おそらくだが、お前の飲んだ酒は相当いい酒だぞ」

「そうなんですね」

「今、お前が普通に歩いているのがその証拠さ。あー。しかし、こうしてお前がここに来たのならちょうどいい。少しばかり付き合え」

「分かりました」

 

 俺は話が長くなりそうだと、桜たちにまだ開いている食堂の方へ行ってて貰い、組合長と一緒に受付の奥へと進んだ。

 外からは見えないが、受付の方々がいる場所の奥には壁があり、その向こう側には組合長の部屋がある様だった。

 

「まぁ、座れ」

「はい」

「お前に、ずっと言いたかった事があってな」

「……」

 

 組合長は俺を長椅子に座らせ、自分はその正面に座る。

 そして、大きく息を吐き、俺をジッと見つめると勢いよく頭を下げた。

 

「セオストを助けてくれて、ありがとう!」

「っ!」

「と、いう事をお前に伝えたかったんだ。リョウ。わざわざこんな所まで呼び出して悪かったな」

「いえ……」

「まぁ、俺も一応冒険者のトップみたいな人間だからな。あんまり外で頭を下げるのは良くないんだが、今日はもう殆ど人も居ないし、個室だしな。別に良いだろう……って、何ビックリしてんだ。リョウ」

「あ、いえ。少々驚いてしまって……組合長って人にお礼を言うタイプの人だったんだなって」

「だいぶ失礼な奴だな。まぁ、気持ちは分かるが」

「申し訳ございません」

「気にするな。お前なんかは、育ちも良いし、頭も良いし、問題も起こさないしで言うこと無いんだが……他の連中はな。どうにも協調性のないアホの問題児ばっかりだからな」

「あ、あはは」

 

 俺は組合長の愚痴に、俺が見てきた事を思い出しながら曖昧に笑った。

 いや、まぁ。多分かなり真実に近い話なんだけれども。

 

「お前だって分かるだろ? リョウ。連中がいかにアホかって所が」

「いや、分からないとは言わないですけれども」

「そうだろう。そうだろう。いやーお前が分かってくれて嬉しいよ俺は!」

「そうですか?」

「あぁ。まったく。まったくそうだ! 連中ときたら、アホなのは仕方ないとしても、会議室を汚すなと言っても汚すし、食堂で騒ぐな! と言っても騒いで貴族の方々から文句を言われるし! 受付で無駄な話をして受付の業務を遅らせるし! まったく碌なもんじゃない!」

「……」

「それもこれも、奴だ! アレクシス! 奴が、やりたい放題、言いたい放題しているせいで、こんな事になってるんだ。どいつもこいつもアレクシスの真似ばかりしおって! リョウ! 知ってるか? アレクシスの奴が、貴族の依頼に『めんどくせぇな』なんて言って、断ろうとしたんだぞ! 貴族の依頼に!」

「ま、まぁ、アレクシスは自由ですからね」

「しかも適当に断っておいてくれ。なんて言って俺たちに丸投げしようとまでしたんだ! 信じられるか!? アレクシスを指名してきていたんだぞ! それなのに、あいつはぁー!」

「落ち着いてください。組合長。確かにアレクシスさんの行動には問題がありましたね」

「そうだろう。そうだろう。ったく、あいつ。孤児院の子供の誕生日パーティーがあるからとか何とか「それは仕方ないですね」え」

「子供の誕生日パーティーがあるのなら、仕事は出来ないでしょう? 俺だって桜たちの誕生日なら仕事を断りますよ」

「え? いや、え? 貴族からの指名だが」

「関係ありませんよ。桜たちとどこの誰とも知らない貴族。比べるまでも無いでしょう」

 

 ハッキリと組合長へ告げた俺の言葉に、組合長は両手を俺たちの間にあるテーブルに叩きつけて、苦しみの中から絞り出されるような声を出した。

 

「リョウ……お前もかァ……!」

 

 そして、俺は冒険者組合での挨拶を終わり、桜たちと共に次の場所を目指すのだった。

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