冒険者組合を出た俺たちは、最後の目的地である孤児院に向けて歩いていた。
おそらくは、あまり裕福な暮らしが出来ていない人たちが、通りの片隅で火を起こしながら温まっているのを見ると、何とも言えない気持ちになる。
何かをしたい気持ちにはなるが、俺に出来る事は、そう多くは無いのだ。
「……リョウくん。なんか悩んでる?」
「あー、まぁね。自分の不甲斐なさについて悩んでるかな」
「うーん? よくわかんない!」
「あぁ、まぁ、そうだよな」
俺はジーナちゃんの問いに少しばかり考えてから答えを返した。
「この辺りに住んでいる人たちは、たぶん生活がかなり苦しいと思うんだよ」
「ふんふん」
「でも、俺たちの家にある食料はそれほど多くないし、分ける事も難しいだろ? 何かあった時の為に予備は残しておきたいしさ」
「たしかにねー」
「だから、このまま何も出来ないってういうのは、なんか悔しいなーっていう気持ちだったんだ」
「ナルホド! ふんふん、ふんふん! なるほど! ジーナちゃん分かったよ!」
「うん、分かってくれて嬉しい……」
「じゃ、今から一緒に行こっか!」
「え? 行くって、どこに……っ!? これは、転移魔法!?」
ジーナちゃんは不意に俺とミクちゃんの手を掴むと転移魔法を発動させた。
俺は咄嗟に、フィオナちゃんとリリィちゃんに桜とココちゃんの事を頼み、ジーナちゃんが目指すどこかへと向かう。
そして、一瞬の間に、どこかの森へ降り立った俺は警戒しながら腰に差した刀に左手を添えるのだった。
いつでも抜ける様にと。
「ちょっと!? ジーナさん! これはいったいどういう事ですか!」
「どういう?」
「ここはどこなんですか! なんで私たちを」
「あー。もう。そんなわーわー騒がないでよ。さっきリョウくんが言ってたでしょ? あの辺りに住んでいる人は、あんまりお金持ってないから寒い中過ごすのは大変だーって」
「えぇ」
「だから、スタンロイツ帝国の近くにある森に来て、冬を過ごすのに最適な魔物を捕まえようって思ったの」
「……なるほど? それが、このデカブツか!」
「そう。なんかねー、氷原マンモスって言うらしいよ。スタンロイツも冬は寒いからさ。寒い場所にこの子のお肉を解体して置いておくんだ。そうすると春まで保存できるの」
「なるほどね」
「それにー。表現マンモスの体から取れる油は、魔力が空気に拡散して温まるから、長い間部屋が暖かいんだよってお姉ちゃんも言ってた」
「それはちょうど良いね」
俺は既に敵意をむき出しにして、こちらへ向かってくる巨大なマンモスを見ながら最低限の回避をしつつ、足を斬りつける。
そして、マンモスが体勢を崩した隙にマンモスへ飛び乗り、その首に神刀を突き刺した。
どんな生き物でも首を狙えた命を落とす。
それはこの世界に来てから得た知識であり、瞬さんと共に巨大生物の狩りをした経験が、より効率的な狩りの方法を俺に教えてくれた。
「こんなモンか」
「えー! もう倒しちゃったのー!?」
「は、はや……!」
「まぁ、この手の狩りはそろそろ慣れてきたからね」
「せっかくお仕事出来ると思ったのになぁー」
「まぁ、良いじゃないか。こうして無事に狩れたわけだし」
「まー確かに」
「それで? これからどうする?」
「じゃあ転移でまた戻る!」
「え? 私がここに来た意味って……」
ジーナちゃんの言葉に、ミクちゃんが軽くショックを受けた様な反応を示したが、ジーナちゃんは何も気にせず笑って流す。
そして、俺もひとまず桜たちが心配なため、なら早く戻ろうと提案するのだった。
「いや、待ってください。二人とも。このサイズのモノをあの場所に持っていくんですか?」
「うん。そうだよ」
「そうだよ。じゃありません。どう考えても通りの大きさはこのマンモスよりも遥かに小さかったんです。いくつかの家が倒壊しますよ」
「……それはまずいね」
「えー? でももう倒しちゃったし。どうする?」
「それは」
「……あー、なら、孤児院に持っていこうか」
「「孤児院?」」
「そう。結構庭が広い場所だから、このくらいのサイズなら、たぶん入ると思う……たぶん」
「うーん? まぁいっか。壊れちゃったらごめんなさいしよう! はい。転移!」
「ちょっと、待って!」
ミクちゃんの叫びも空しく、マンモスごと転移させられた俺たちは、セオストの空中へと不意に投げ出された。
そして、マンモスにしがみつきながら、空中を飛ぶ。
飛ばしているのは当然ジーナちゃんである。
「リョウくん! 孤児院って、どこー!?」
「あそこだよ! あの、俺たちが歩いていた通りの向こうにある大きな庭のある場所」
「あ! あそこかぁー。りょーかい! 降りてゆくよー!」
「うぉぁ!」
ジーナちゃんが降りると言った瞬間、マンモスと俺たちは勢いよく地面に向けて加速し始めた。
落下している。
間違いなく落下している!
このままだと孤児院が大きな被害を受けかねない!
「ジーナちゃん! 速度! 速度落として!!」
「大丈夫! だいじょうぶだよー!」
「全然大丈夫じゃないですよ! 災害を起こすつもりですか!?」
ミクちゃんは怒りながらマンモスの上に飛び乗って、立つ。
そして、右手をジーナちゃんに向けて勢いよく叫んだ。
「止めなさい! これをセオストへ落とす事は許しません!」
「そろそろかなぁー。はい。ストップぅー」
「わっ!? きゃあ!」
「ミクちゃん!」
孤児院のすぐ上空でジーナちゃんがマンモスを急に止めたため、ミクちゃんはそのまま前に転げ落ちてゆく。
俺はマンモスの体を捕まえていた右手に力を入れて、体をマンモスの体の上に引っ張り上げると、そのままマンモスから外へ転げ落ちてゆくミクちゃんへと飛び込んだ。
空中で捕まえて、抱きしめて、地面に背を向ける。
「あ! リョウくん!」
「ジーナちゃんはマンモスをゆっくりと下ろして、ゆっくりだよ! ゆっくり!」
「わ、わかってるよ!」
俺が落ちた事でジーナちゃんは焦った様に俺へ手を向けたが、その瞬間マンモスの体が揺れた。
そんな光景に俺は必死になってジーナちゃんへ声を掛け、そして、落ちる――!
「何をやってるんだ。お前らは」
「その子をこっちに投げろ。受け止めるぞ! リョウ!」
「っ! アレクシスさん! ヴィルヘルムさん! ミクちゃんを頼みます!」
俺は空中で聞こえた二人の声に、何とかミクちゃんを投げ渡して、俺自身は受け身を取りながら地面に転げ落ちた。
何とか衝撃を全て殺す事が出来た俺は服を払いながら、ミクちゃんの無事と、ゆっくりと降りてくるマンモスへと視線を移す。
「とりあえず、何とかなったな」
「何が何とかなった、だ。急にこんなデカい荷物持ってきやがって」
「申し訳ないです」
「それは構わないが、何に使うんだ? これは」
「あー、それなんですけど……!」
俺は事情を話そうと口を開いたが、俺の声をかき消す様ないくつかの声が建物の中から響いて飛び出してきた。
それはおそらく孤児院に居る子供達で……。
「わー! でっけぇ! 何!? アレクが取ってきたの!?」
「さっきまで一緒に遊んでたのに! アレクすげぇ!」
「いや、俺じゃねぇよ」
「じゃあヴィル兄ちゃん!?」
「俺でも無いよ。こっちにいるリョウって奴が取ってきたんだ」
ヴィルヘルムさんが俺を示した事で、子供たちの視線が俺に集まる。
そのキラキラとした目は、直視するには少しばかり気恥ずかしくて……俺は別の所へと視線を誘導するのだった。
「あぁ、そうだよ。ジーナちゃんやミクちゃんと一緒にね」
「わーすごい!」
「私たちと同じくらいの子なのに!」
子供たちは嬉しそうに、楽しそうにジーナちゃんとミクちゃんの所へと突撃するのだった。
俺はその隙にアレクシスさん達に事情を話し、孤児院で多くの人へ配る許可を貰うのだった。