外でやるべきことも全て終わり、俺たちは本格的な冬ごもりを始めた。
が、別に生活の流れが大きく変わる様な事もなく、いつもの様に朝起きて、軽い室内で出来る運動をしてから汗を流し、朝食を作って食べる。
それからみんなが起きてくるまでセオストの様子が分かる映写機をボーっと見る。
『セオストはすっかり雪で真っ白になってしまいましたねー』
『今年は例年よりも雪が多いという様な意見も聞きますが』
『まぁ皆さん去年の事はすっかり忘れてしまうので、毎年そう思っているんじゃないでしょうか』
『確かに。一年忙しいですからね。ふと落ち着いた時にそう思ってしまうんでしょうね』
『『あっはっは』』
そこまで面白いワケでは無いが、セオストを上空から映している番組は貴重で、思わずここをずっと見ていた。
そして、どうやらセオストはほぼ全域が雪で白く染まっている事が分かる。
一応一部溶けている場所もあるが、基本的には白いままである事から、殆どの人が家から出ていないのだろう。
大通りにはまだチラチラと人が歩いているが、一度止んだ雪も、また夜遅くから降り始めるというし、明日か明後日には人の気配も消えるのだろうなと思った。
……。
ふと気になったのだが、この番組を配信している人たちはいつまでセオストの上空から撮った映像を流し続けるのだろうか。
まさか、ずっと?
いや、流石にそれは無いか。
どこかのタイミングで止めるはず。
俺は、この冬ごもり中に一つ確認しなければいけない事が出来たなと頷くのだった。
「あれ? お兄ちゃんもう起きてるの? 早いねぇ」
「うん。まぁ、休みだけど生活時間とか変えたくなくてね」
「ホント、お兄ちゃんってば真面目。昨日なんてジーナちゃんが女の子同士で内緒のお話しよう! なんて言ってきてさ。結構遅くまでみんなで話してたんだから……ふぁああ」
「それはお疲れ様。でも、眠いならまだ寝てて良いのに」
「それは、そうなんだけど。お兄ちゃん一人で待ってるのも可哀想かなって」
「桜は本当に優しいなぁ」
俺はあくびをしながら笑う桜に近づいて、頭を撫でる。
それが心地よいらしく、桜は小さく笑いながら眠そうにしているのだった。
「でも、お兄ちゃんは桜がそう思ってくれるだけで嬉しいから、ほらこっちで一緒に寝よう」
「……うにゅ」
「ほら、抱っこするぞー」
俺はふらふらとしている桜を抱き上げて、そのまま映写機の前にある椅子へと向かう。
ふわふわの椅子はベッドとそれほど違いはなく、桜はそこで横になる事で気持ちよさそうにしていた。
「枕は使うか? 部屋から取ってくるけど」
「じゃあ、お兄ちゃん枕がいいー」
「固いけど、良いのか?」
「いーの」
桜はそのまま俺の足に頭を乗せて、すぐに小さな寝息を立て始めた。
流石に桜が寝ている横で映写機を見る気分にもなれず、俺は画面を消して、この冬に読もうと思っていた本を手に取った。
そして、暖かい空気の中で、ゆったりと本を読む。
秋までの俺では考えられないほどに、緩やかな空気だ。
そして、俺はそんな空気の中で自然と笑みを浮かべながら本を開いた。
本のタイトルは『誰でも出来る自宅の改造術』だ。
本当は冒険者として魔物の勉強とかをしようかと思ったんだが、昨日、衝撃的な光景を目撃したからな。
イエローチキンを我が家が絶滅させない様に、畜産を家で行う事が出来るのか確認しなくては。
(まず、家の基本から知りましょう。家というのは皆さんが住む場所ですが、上下の拡張は出来ても左右の拡張は難しいです。理由としては周囲にあなたの家以外の家があるからですね)
ふむ。
(家は多少空間を歪めて作っておりますが、あなたの家の歪みと隣の家の歪みが近づいた場合、家に出る影響は少なくありません。なるべく問題が起こらない様にしましょう)
なるほど。
今、この本を読んで、初めて知ったんだが……家の空間、歪んでたんだ。
いや、確かにここで生活していると距離感というか、空間がおかしいような気はしていたんだよな。
外から見た状態から考えると、もっと狭い筈なのに、随分と広く感じるな、と。
気のせいか、もしくは建築技術が凄いのかなと思っていたんだが……まさか空間が歪んでいたとは。
約一年この家に住んでいて、少しも気づかなかった。
衝撃の真実という奴だ。
なるほど。
こういう知識を得ていく事も、すぐに何かの役に立たなくても、ふとした時に役立つかもしれないし。
少しずつでも取り入れてゆきたいものだなと思う。
(しかし上下の拡張というのは、それほど簡単ではありません。上に伸ばすにしても、下に伸ばすにしても問題は色々とあります。その為、基本的には今ある空間を工夫して使う事が大切です)
まぁ、正論だな。
しかし、それでも拡張が必要な場合は……この辺りのページか。
(家を拡張する必要がある場合、その用途により様々な方法があります)
(何よりも大事な事は、自分が何故拡張を行う必要があるのか。その理由をしっかりと理解する事です。そうでなければ無意味な改造を行う可能性があります)
ふんふん。
用途、用途か。
まぁ、今この家で足りない物と言えば……イエローチキンを育てる為の部屋。
と、訓練用の部屋かなぁ。
冒険者組合にある様な本格的な物じゃなくても良いんだけど、家の中にいても軽い訓練が出来る場所は欲しいんだよな。
特に冬ごもりの時なんかは、外に出る事が出来ないし。
直接移動できる扉はあるけど、冬ごもりの間は組合の人が休みだから使えないし。
うーん。重要度で言えば、こっちの方が大事な気がしてきた。
最悪イエローチキンはどこかで広い土地を借りて畜産を始めれば良いんだろうし。
無理に家でやる必要はないもんな。
そう考えると、イエローチキンはまず魔物の生態を調べてからにするか。
畜産関係の本は無くても魔物の生態に関する本はあるし。
そもそもイエローチキンがどういう奴なのかを知らなければいけない。
中々遠い道のりだが……冬ごもりという長い時間を過ごすにはちょうど良さそうだな。
と俺は頷き、まずは自宅に作る訓練施設について考え始めた。
参考とするのは当然、冒険者組合にある訓練施設である。
まず、床が動いて走り続ける事が出来る魔導具だ。
あれは本当に便利で、家の中に居ても長距離移動を想定した訓練が出来る。
他には……プールか。
水泳が出来る場所は、欲しいな。
結局冒険者組合にあるプールは桜も遠慮してしまって行けなかったし。
家に作れば桜もプールで遊びたいと思うのでは無いだろうか。
あの時から家族も増えたし。
俺の訓練施設よりもこっちの方が重要だな。
という訳で、俺は自宅にプールを作る方法について調べ始めた。
(おぉ、あった! 意外と需要があるんだなぁ。自宅にプール)
まぁでも桜の様な恥ずかしがり屋の子が居る家なら、作りたいと思うかもしれないなと俺は考え直す。
そして、本の文字をなぞりながら丁寧に読み込んでゆくのだった。
(自宅にプールを作る場合、必要な物がいくつかあります)
(どの程度の広さのプールを作るかによりますが、水を貯めて置ける空間と、排水の魔導具、水を浄化する魔導具等も必要になる為、非常に高価です。これらの物を自作しようとすると、高い技術力と、高価な素材が必要となる為、専門の業者に依頼する方が良いでしょう)
ふむふむ。
と俺は本を読みながら頷くのだった。
しかし、スペース。スペースだ。
この家でプールを作るだけの広さを確保する事は難しいだろう。
作るとすれば……地下、とかだろうか?
いや、上に増築するという手もあるか。
その辺りは本をもっと読みこんでからだな。
それから。
俺の読書は昼過ぎまで続き、桜が目を覚ましたことで、家の改造計画から家族との時間に切り替えるのだった。