みんなでゲームを遊んだ翌日、事件が起きた。
昨日は皆、ゲームを遊び疲れたからか早く寝たらしく朝から起きてきていたのだが……いつまで経ってもミクちゃんが起きてこないのだ。
無論、ミクちゃんが非常に長く寝るタイプの人間。
という可能性もある……しかし、冬ごもりする前に何度か寝泊りもしていたが、特におかしな所はなく、むしろ朝起きるのが早い人間であった様に思う。
そもそも、だ。
起きるのが遅いとか、もうそういう話は無いのだ。
ミクちゃんが眠り始めて今日で二日目だ。
丸二日寝続ける人間も居るかもしれないが、ミクちゃんは違う。
それに、何かがあって長く眠り続ける様な事がある場合、ミクちゃんなら俺たちが心配するだろうからと先に話をしておくだろう。
つまり、現状ミクちゃんでも想定出来なかった何かが起きている可能性があるという事だ。
「みんな、準備は良いかな」
という訳で、俺達はミクちゃんの部屋に再び入ってみる事にした。
これでミクちゃんが起きていたら大惨事であるが、ノックをしても反応はない。
外から大声で呼んでみたが、反応はない。
ならば、もう突入するしかない。
という様な話だ。
一応戦闘も出来る様に準備はしてきたが……家は壊したくないものだ。
「じゃあ、中に入ろう」
俺は後ろにいるみんなに声をかけて、部屋の中に足を踏み入れた……瞬間に振り返り、叫んだ。
「フィオナちゃん! 桜とココちゃんを!」
「っ!?」
「リョウ君!」
「リョウさん!」
「ジーナちゃん! リリィちゃん! 来ちゃだめだ!」
俺は部屋の中に広がる暗闇に吸い込まれながらも、何とか扉を閉めようとした。
しかし、それも叶わず、俺を助けようとしたジーナちゃんとリリィちゃんが暗闇に落ちて行ってしまう。
これ以上は駄目だと俺はフィオナちゃんに叫んだ。
「扉を閉めるんだ!」
「っ!」
「……お兄ちゃん!」
闇に飲まれていく中、扉が勢いよく閉まり、桜とフィオナちゃんとココちゃんがこちらへ来なかった事だけは確認出来て、俺は微かに笑うのだった。
そして俺たちはしばし暗闇の中を落下し、下の方に明るい場所が視えてきた事で体勢を整えて衝撃を殺しながら地面に降り立つ。
「リリィちゃん。ジーナちゃん。大丈夫?」
「大丈夫」
「ジーナちゃんも無事着地!」
薄く笑うリリィちゃんとジーナちゃんの言葉に俺は一度頷き、軽く周囲を見渡した。
暗闇の世界を抜けて、降り立ったその場所は……どこまでも広がる青空と美しい花畑の世界であった。
色とりどりの自然が、視界いっぱいにある。
「……ジーナちゃん。もしかして、俺たちはどこかに転移したのかな?」
「んー。違うと思う。ちょっと分かりにくいけど、ここはおチビちゃんの部屋を拡張した世界だ」
「拡張って、昨日遊んだゲームみたいな?」
「うん。そんな感じ。何か変な魔導具に取り込まれちゃったみたい」
「無理矢理脱出する事は」
「出来るけど、たぶん家が壊れちゃうよ」
「じゃ、ギリギリまでソレは無しだね」
「うん」
「ちなみに、ジーナちゃんから見て、この世界がどうなってるとか、分かる?」
「んー。よく見えないから微妙」
「そっか」
俺はジーナちゃんに聞きながら状況を確認し、ひとまず進んでみる事にした。
このままここに居ても何かが変わるという事は無いだろうし。
もし変わるとすれば、それは向こうの都合で変わるだけだ。
それがこちらにとって良い事に繋がるという保証はない。
ならば、まず情報を手に入れる為にも、周囲を見て回る事は必要だろう。
「じゃあ、ひとまずこの世界を見て回ろうか」
「賛成」
「はーい」
「あ、そうそう。とりあえずここには俺とジーナちゃんしか居ないし。リリィちゃんも力を隠さなくて良いからね」
「え!?」
「え? なになに? 秘密の力ー!? カッコイイー!」
「分かってると思うけど、他の人に話しちゃ駄目だよ。ジーナちゃん」
「はぁーい! ダイジョウブです!! ジーナちゃん、誰にも話さない!」
キリっとした顔でジーナちゃんが頷いてくれ、俺は良かった良かったと歩き出そうとした。
しかし、そんな俺の服をリリィちゃんが掴む。
「ん? どうしたのリリィちゃん」
「い、いえ! その、私に隠された力なんて、ないですケレドモ」
「あー、まぁ確かに。隠された力っていう言い方は良くなかったね。あんまりやりたくない戦い方っていう奴なのかな」
「な、何を仰られているのか、サッパリ」
「ふむ。もう直接言うか。リリィちゃん。魔術を使っているより、近接戦闘をしている方が得意でしょ。得意な武器は刀かな。俺と同じだね」
「な、ななな! なな!?」
「たぶん、隠しているんだろうなって事は分かるんだけど、この世界がどういう世界か分からない以上、手を抜いたままじゃ危ないでしょ?」
「それは! そうなんですけど!」
「うん」
リリィちゃんは真剣な顔で俺を見上げると、必死に何かを訴えようとした。
そして、口を開き……言葉を紡ごうとするが、出来ず、何度か躊躇いと勇気を繰り返しながら、何とか言葉を吐き出した。
「リョウさんは……いつから、気づいていたんでしょうか」
「んー。結構最初の方からだね」
「そんな! 何か、私、失敗していたんでしょうか」
「失敗とかじゃないと思うよ。ただ、そうだね。歩き方とか、周りへの視線の向け方とか、立ち位置とかね。何気ない日常の動きが、そういう人の動きをしていたっていう話かな」
「な、なるほど……そこは意識してなかったです」
「まぁ、難しい話だろうしね。それに気づいている人は殆ど居ないと思うけど」
「そうなのでしょうか」
「うん。だって、ホワイトリリィが危険な依頼に行って、何とか帰ってきた。みたいな時にも、そういう助言は無かったんだろう?」
「……確かに、そうですね。もっと魔術師としてのアドバイスは色々と頂きましたが、近接戦闘に関するお話は無かったです」
「だからさ。多分気づいている人は、同じように戦っている人だけじゃないかな。ヤマトの人とかね」
「っ! や、ヤマトの人……!」
「どうしたの? リリィちゃん」
「いや、あの、私……! 実は!」
真っ青な顔で何かを叫ぼうとしているリリィちゃんを見て、俺は咄嗟にリリィちゃんの口を右手で塞いだ。
何となくだが、こんな追い詰められた状況で言わせてはいけないと思ったのだ。
「ごめんね。リリィちゃん。そんな追い詰める気持ちは無かったんだよ。ただ、俺たちに言えないからって実力を隠して危ない目に遭って欲しくなかったんだ。こんな事、言い訳にもならないけどね」
「……!」
黙ったまま首を横に振るリリィちゃんに少しだけ安堵しながら俺は再び口を開く。
リリィちゃんの秘密を暴いてしまった責任として、俺自身の秘密を打ち明ける為に。
俺はリリィちゃんの口を塞いでいた右手を下ろし、おふざけなど一切ない真剣な表情でリリィちゃんとジーナちゃんに告げた。
この世界に来てから隠してきた、俺の最大の秘密を。
「リリィちゃん」
「はい」
「ジーナちゃん」
「うん」
二人の名前を呼んでから、深く深呼吸をする。
かなり緊張するが、先ほどまでリリィちゃんが感じていた気持ちに比べれば大した事は無いだろう。
どのみち、いずれは話さなければいけない事だったのだから。
「こんな所で、リリィちゃんの秘密を暴いちゃったしさ。俺も自分の秘密を話そうかな」
「……」
「まぁ、秘密ってほど大げさな話じゃないんだけどさ。実は俺、ヤマトの人間じゃないんだよね」
「っ!? え!?」
驚き目を見開くリリィちゃんと、特に気にした様子のないジーナちゃん。
正反対の反応ではあるが、二人とも真剣に話を聞いてくれているのは分かった。
ありがたい話だ。
だからこそ、俺も誠実に接したい。
「騙して悪かったね。俺はこの世界の人間じゃないんだ」