「騙して悪かったね。俺はこの世界の人間じゃないんだ」
「……!」
「……なるほどね」
遂に、遂に言ってしまった!
ずっと隠していた秘密を。
この世界に来てすぐに生まれた勘違いからの嘘。
最初は何かあればすぐにどこかへ消えるからと適当に流してきたが……しっかりと向き合う時が来たのだ。
さて、何を言われるか。
それはまるで想像が出来ない事である。
「リョウさん!」
「……うん」
「え、えと。何を言えば良いか分からないんですが!」
「うん」
「今の話だと、桜様とはご兄弟では無い……という事なのでしょうか」
「血の繋がりという意味じゃ、俺と桜は兄妹じゃないね」
「……!」
「ただ、桜が俺の妹になった日から、何があろうと桜は俺の妹だよ。無論、桜が嫌になったら終わりだけどね」
「な、なるほど。そうだったのですね……」
理由は分からない。
分からないが、リリィちゃんは酷く安心した様な顔をしてホッと息を吐いた。
今の話に安心する要素があったか?
サッパリ分からない。
「えー、リリィちゃん?」
「あ、ごめんなさい。目上の方に敬語を使わないというのは非常に心が苦しかったのですが、リョウさんが普通の方で少し安心しました」
「え? そうなの? リョウ君は確かに別の世界から来たよ。って言ってたけど、別に偉い人じゃないよ。とは言ってなかったけど」
「え」
「むしろ、この世界じゃない別の世界って、神様の世界じゃないの?」
「……」
「あーあ。リリィちゃんってば、神様に対して普通の人―なんて言っちゃったのー」
「も、もももも! 申し訳ございません!! 考えてみれば当然の話でございました! 火吹き竜がヤマトを襲った事件の際に行方不明となってから、桜様はどこを探しても見つからず、行方不明という事になっておりましたが、あの状況、手を差し伸べられるとすれば、超常の力を持つ神々! あ、いえ! リョウ様という事だったのですね! その様な御方に私はなんという無礼を!」
「違う違う。別に神様とかじゃないから。桜を見つけたのは偶然だよ。助けたとかじゃないんだ。まぁ行き場のない桜を引き取ったという所だけは真実だけど」
「な、なるほど」
慌てるリリィちゃんを何とか落ち着かせながら、いたずらっ子のジーナちゃんを目で叱る。
ジーナちゃんも俺の視線を受けて、子供の様な笑みを浮かべたまま軽く頭を下げて謝るのだった。
まったく、とんだいたずらっ子だ。
しかし……今、俺の聞き間違いでなければ、桜様って言ったよな?
こっちの世界から来たって話は知ってたけど、もしかして偉い人の子供だったりするのだろうか。
んー。
こっちの世界での事は桜から聞いたことは無いから、想像でしかないが、ヤマトの……貴族の家の子かもしれない。
桜に直接聞いても良いけど、嫌な思い出だったら可哀想だし。
ちょうど目の前に事情を知ってそうな子が居るから、それとなく聞いてみるか。
「少し気になったんだけどさ。リリィちゃん」
「はい……?」
「さっき桜様って言ってたよね」
「あ! あっ!!?」
「っ」
「も、ももも、申し訳ございません。今の話は出来れば忘れていただけるとありがたいです……!」
「それは桜からそう言われたの?」
「えっ! あ、いや! その、わ、私が……ですね。その方が良いかなぁと思っているのですよ。あ、あはは」
乾いた笑いを上げるリリィちゃんを見ながら、俺は桜からの命令なんだろうなと察した。
やはり、桜はヤマトの中でそれなりの地位に居る人間だったのだろう。
しかし、今はヤマトに戻りたくない為、それを秘密にしていると。
なるほどな。
「教えてくれてありがとう。リリィちゃん」
「は、はい……!」
何とかなったという様な顔で安堵しながら胸を撫で下ろしているリリィちゃんを見ながら、俺は何とも複雑な気持ちになる。
なりながらも、一応ジーナちゃんの方へ視線を向けた。
普段は子供の様な言動が多いが、何だかんだで察しも良いし頭も良いジーナちゃんは俺の言いたい事を理解して頷いてくれる。
そして、ジーナちゃんは優しさからか、特に言う必要は無いだろうに、いつもの様な口調で語り始めた。
「じゃじゃじゃーん! ここでジーナちゃんから大発表~!」
「……?」
「ジーナちゃんは、実は……! 『魔法使い』なのでしたー!」
両手を上に広げ、楽しそうに、嬉しそうに話す。
無論、周りが想う以上にジーナちゃんは自分が魔法使いであるという事を気にしていないという事もあるだろうが。
リリィちゃんと俺が秘密を打ち明けた為、あまり暗くならない様に明るくしたのだろうとも思う。
何だかんだと言いつつも、ジーナちゃんは優しい子なのだ。
しかし、そんなジーナちゃんの秘密を聞いても、リリィちゃんはキョトンとしたまま首を傾げていた。
どうしたんだろうか。
いや、まさか……リリィちゃん、魔法使いが何のことか分かっていないのか?
セオストで会った人はみんな魔法使いと聞くだけで驚ていたのだけれど……って、ちょっと待てよ?
「ジーナちゃん。ジーナちゃん」
「え? なに? リョウ君」
「いや、ジーナちゃんが魔法使いだって話はもう前にしてるでしょ」
「……あ!!」
そう。
俺もすっかり忘れていたが、セオストにジーナちゃんとココちゃんが来てすぐに、ジーナちゃんが自分でバラしたのだ。
そして、その場にはリリィちゃんも当然ながら居たわけで……。
「あ、あっ、あうあぅあぅあー」
ジーナちゃんは顔を真っ赤にしながらふわふわと浮き始めてしまった。
相当に恥ずかしかったのだろう。
ここでリリィちゃんもジーナちゃんが何故こんな事を言ったのか察したらしく、ジーナちゃんをフォローする為の言葉を放ち始めた。
が、リリィちゃんは動揺しており、その言葉はあまりジーナちゃんを救う事が出来なかった。
「な、なんだってー! ジーナちゃんが、魔法使いだったなんてー」
「うわーーん! 全然ビックリしてないよぉー!」
「え、と。ど、どうしましょう。リョウさん」
「どうしようね。俺も良い案は浮かばないな」
「え、えー! そ、そうだ! ジーナさん! 私、魔法使いって名前は前に聞いたんですけど、どういう存在かよく分からないんですよね!」
「あー、そういえば俺もそうだなぁー。人から聞いた話はあるけど、直接魔法使いの子から聞いた話は殆ど無いなぁー」
「……ホント?」
暴走していたジーナちゃんが少しばかり落ち着いて、ふわふわと浮きながら俺達へと視線を落とす。
救いを求める子犬の様な表情だ。
俺とリリィちゃんは何度も頷いて、何とかジーナちゃんが落ち着くようにと祈るのだった。
そして、そんな俺たちの反応が良かったのか、ジーナちゃんは落ち着きを取り戻し、地面に降りてきてポツリ、ポツリと語り始める。
「ジーナちゃんもあんまり魔法使いってどういう人か分かって無いんだけど、お姉ちゃんが前に言ってたの。魔法使いは自由なんだって」
「自由?」
「そう。想いを、願いを、祈りを力に変える事が出来るから、憎しみや恨みを心に宿してはいけない。いつも空の様に透き通って、自由に飛び回れる心を持たないといけないって」
「……なるほど。考えた事を現実に出来てしまうからこその自制か」
「うん」
ジーナちゃんはメソメソとしていた顔を落ち着かせて、柔らかく落ち着いた表情で頷いた。
そのお姉さんがとても好きだったのだろう。
お姉さんの事を語る時のジーナちゃんは、安らいでいる様な雰囲気だった。
「だから、私は……心のままに生きるんだ。出会ってきた人たちにも、そう教わったから」
「そっか」
そして、俺たちは互いの秘密を共有し合い、いよいよこの謎世界へと挑むのだった。