回避するのが少々難しい流れの中で、切断の魔女こと、カーラさんと戦う事になった俺達であったが。
正直魔女という物を俺はなめていた様に思う。
「リョウ君!」
「っ!」
俺はジーナちゃんの声に反応し、咄嗟に地面へ伏せてソレをかわした。
少女が腕を振るうだけで、見えない何かが空間を走り、全てを両断してゆく。
切断の魔女とはよく言ったものだ。
見えない力は、その力の直線状にあるすべてを切り、それが木だろうが石だろうが、雲だろうが全てを『切断』してしまう。
瞬さんの天斬にもよく似ているが、違うのは対象が何であろうとも斬れるという事だろう。
魔術すらもあの力の前では全て無意味なのだ。
「どうしたもんかな!」
「諦めて。あなた達もここで幸せになれば良い」
「生憎と! 俺の幸せは外にあるもんで、ねっ!」
淡々と、決められた言葉を返す人形の様に、切断の魔女カーラは同じ言葉を繰り返す。
ここに居ろ、ミクちゃんと共にあれ、と。
外の世界には幸せなど無いのだと、冷たい目で告げるカーラちゃんに俺は冷や汗を流しながら戦い方を考えるのだった。
このまま戦っても、打開策は見えない。
何せ向こうは守りに徹していて、近づこうとする相手に切断の力を使い、遠ざけようとするだけなのだから。
これでは受けるのに失敗するとそのまま両断されてしまう訳だ。
「話を聞いてもらいたいんだけどさ! 君の力で両断されると、死んじゃうよ! それじゃミクちゃんのお友達にはなれないんじゃないかな!」
「大丈夫よ。この世界には生も死も存在しない。命が尽きたら蘇らせて、ミクの為に生きられる」
「それを! ミクちゃんが望むのかな!?」
「……何が、言いたいの」
「ミクちゃんはこんな所に閉じ込められて、嬉しくは無いんじゃないかって話だよ!」
「……! それは」
カーラさんの反応が鈍った事で、俺はここに勝機を見出した
俺は地面を転がる様にしながら動き、一応距離を取ってから声を上げる。
「ミクちゃんは、楽しそうだったぞ。冬ごもりを楽しみにしているって言ってた! 長期の休みは久しぶりだから、ゆっくりしたいとも言ってたな!」
「……ぐ、う、うぅ」
「そんなミクちゃんを閉じ込める事が正しい事なのか!? 違うだろう! 君はミクちゃんの幸せを願っている。ならば! ミクちゃんの意思に反した行動はどうかと思うんだけどね!」
「うるさい!」
放たれた力に俺は無意識の中、神刀を振るっていた。
よけるべきだったが、何故か俺の意識とは別に、神刀を振るわなくてはいけないという気持ちになったのだ。
そして、その結果……俺の前で神刀にぶつかった力は消失し、初めから何も無かったかの様に消えてゆく。
「……これはこの世界の力か、お前の力か」
俺は独り言を呟きながら、驚きに目を見開いているジーナちゃんを見る。
もしかしたら神刀の力かもしれないなと考えて、この世界を出たらジーナちゃんに頼んで実験してみようと心に記しておくのだった。
そして、魔女の力……魔法に対する防御策を手に入れた俺は地面を強く蹴り、カーラさんへと迫る。
カーラさんは俺を遠ざける為に切断の魔法を使うが、全て神刀の力で消し去る事が出来るのだった。
「聞いてくれ! 君の願いは!」
「私の願い……! 私の願いは」
カーラさんの視線が後ろにある木造の家に向かった。
俺はその反応で家の中にミクちゃんが居ると確信する。
「ジーナちゃん! リリィちゃん!」
「はい!」
「っ! 分かったよ!」
二人に合図を送りつつ、俺はカーラさんに接近して、神刀を突きつけながら体を家に押さえつけた。
向こうが力を使えば、即座に斬るという位置だ。
最悪相打ちが出来る。
「あなたは、どうしてここまでするの?」
「ミクちゃんは目の離せない子でね。困っている事があるのなら、助けたくなるんだよ」
「ふふ。なにそれ」
カーラさんは俺の言葉にクスクスと笑い、先ほどまでの険しい顔から、穏やかな優しい顔に変わる。
そして、目を伏せながら小さく言葉を紡いだ。
「ねぇ。あなたの名前を聞いても良い?」
「亮。小峰亮だ」
「そう。リョウさん……あなたから見て、ミクはどう? 楽しそう?」
「どうかな。分からない。でも……ジーナちゃんと喧嘩をするのも、家で美味しいものを食べるのも、温泉に入るのも、楽しそうにしている様に見える。勿論、桜やココちゃん、フィオナちゃんやリリィちゃんと過ごすのもね」
「……そうなんだ」
「それにさ。約束してるんだよ。この冬ごもりで一緒にゲームで遊ぼうって」
「げーむ?」
「そう。みんなで楽しく遊ぶ魔導具さ。ミクちゃんも遊ぶのは初めてだって、楽しみにしていたんだ」
「そうなのね」
「だから……」
「……ありがとう」
「え?」
「あなたの傍でなら安心出来そうだわ。ミクをお願い。あの子、すぐに無理をするから」
話をしている途中だったが、カーラさんは突如として何かを理解し、瞳を閉じてふわりと浮かび上がった。
そしてキラキラと光る粒子に包まれながら、微笑む。
「リョウさん。巻き込んでしまってごめんなさい。でも、あなたみたいな人が居るって分かって良かったわ」
「ちょっ!? カーラさん!?」
何が原因でこの事件が始まり、何が原因で変わろうとしているのか。
その理由もサッパリ分からないまま、カーラさんが光の中に消えると同時に、俺はまた暗闇の世界に投げ出され……。
気が付いた時には家の床に転がっていた。
訳も分からない内に、流れ流されて、戻ってきてしまったようだ。
俺はひとまず周囲を警戒しながら立ち上がり、荷物などからここがミクちゃんの部屋だと察した。
そして、ベッドでスヤスヤと眠っているミクちゃんと、その横で、ミクちゃんの体に触れているジーナちゃんとリリィちゃんを発見する。
「ひとまず戻っては来れたけど……って感じか?」
まだ目覚めていないミクちゃんを見て、俺は慎重にベッドへ近づいた。
が、そんな俺の足音にジーナちゃんとリリィちゃんが反応し、目を覚ます。
「あ、あり? ここは」
「ミクちゃんの部屋だよ」
「あ! そうだ! このお子ちゃまを目覚めさせなきゃいけないんだ! 起きろー!! 起きろー!!」
「……っ、だっ、いだだ! 何!? 何ですか!? って! 貴女! 人の部屋に入り込んで何をしてるんですか!」
ベッドに上り、ミクちゃんの上にのしかかったジーナちゃんが勢いよくミクちゃんの両頬を叩いた事で、ミクちゃんは目を覚まし、怒りと共にジーナちゃんへと魔術を放つ。
が、ジーナちゃんはそれをあっさり消すと、笑った。
「にひ」
「な、なんですか。その顔は」
「もー! みんなに心配かけて~! おしおきだー!」
「わっ、きゃはははは、あはははは、や、やめなさい! こんな!」
ジーナちゃんはミクちゃんを動けなくして、脇をくすぐり始めた。
俺はひとまず全部解決したとミクちゃんの部屋から出ていく事にする。
別に体は汚れていないが、酷く風呂に入りたい気分ではあった。
「じゃ、行こうか。リリィちゃん」
「……え? 大丈夫ですか? こちら、放置してしまって」
「大丈夫だよ。遊んでるだけだからね」
「なら、まぁ、良いですか」
俺はリリィちゃんと共に部屋を出て、ちょうど外で座り込んでいた桜たちに声をかける。
「終わったよ。桜」
「っ! お兄ちゃん! 良かった! 無事だったんだ」
「うん。結構ビックリしたけどね。何とか無事だったよ」
俺は抱き着いてくる桜とココちゃんを抱き返し、二人の背中の向こうで抱き合っているフィオナちゃんとリリィちゃんへ視線を向けた。
そして、視線がぶつかったリリィちゃんへ、笑みを浮かべながら頷く。
無論、さっきまでの事は内緒にしておくよ。という合図だ。
あの世界で起きた事、見た事知った事。
とりあえず黙っている方が良い事が多すぎて、俺は全てを頭の奥底に封印する事にするのだった。