ミクちゃんが眠ったまま起きなかった事件は、ひとまず解決した。
何だかんだ戦闘もそこまで大した事は無かった様に思う。
しかし、問題が一度起こった以上、原因を特定し、同じ問題が起こらない様に対策する必要があるだろう。
「という訳で、原因を調べようかと思ったんだけど……」
「原因はコレだよ! リョウ君! そうだよね? おチビちゃん」
「……はい。その通りでございます」
俺はジーナちゃんがポイっとテーブルの上に投げた本の様な魔道具を拾い、その裏面を見る。
何か情報があればと思ったのだが、どうやら使い方から何から全部書いてある様だった。
「えー。なになに? あなたの隠された力を爆発させる超絶睡眠学習法! この本型魔導具を枕元において、強くなりたいと心の中で願って眠るだけ! 明日になれば見違えるほど強くなっているでしょう! ※効果には個人差があります」
「こんなのどう考えても一般人向けでしょ! おチビちゃんは魔法使い並みに魔力があるんだから、魔導具が暴走する事なんて分かり切ってた事でしょ! それとも、分からなかったの!? 災害対策局の局長サン!!」
「大変申し訳ございませんでした……!」
しょんぼりしてしまったミクちゃんを見ながら、俺はふむと考える。
確かにジーナちゃんの言う通り、ミクちゃんなら魔導具の危険性はよく分かっていただろう。
しかし、それでも使ってしまった。
何故か。
「そうか。ジーナちゃんと戦ったからか」
「っ……!」
「ん? 何の話?」
「ミクちゃんがこの魔導具を使った理由さ。悔しかったんじゃないかな。ジーナちゃんと戦ってさ」
「あー」
「ち、違いますよ! そんなんじゃないです! 私は別にジーナさんと自分を比べてどうこうなんて考えてないんですよ! まったくの偶然です!」
なるほど。
どうやら俺の推理は当たってそうだ。
まぁ、ジーナちゃんも戦いの中でミクちゃんを挑発する事もあるだろうし、そうなればミクちゃんがそれを悔しく思っていてもおかしくはない。
無論表面上には出さないだろうし、それを言う事も無いだろうが……。
こういう魔導具を使う可能性はある。という事だ。
うーん。
何だろうね。困った時に自己解決出来るのは良い事なんだけど。
自己解決しか出来ないというのは問題だと思うんだよな。
結果として、今回自己解決しようとして、、解決出来ない別の問題を生んでしまったワケだし。
「困ったモンだね」
「……面目次第もありません」
「ぷぷぷ。怒られてるの~」
煽るジーナちゃんに、ミクちゃんは何も言えないまま俯いていた。
いつもなら言い返すのだろうけど、今回ばっかりは自分が悪いと思っているのだろう。
しかし、このままでは駄目だと思うのだ。
ミクちゃんは、ジーナちゃんに敗北しているという悔しさと、責任ある立場の人間なのに問題を起こしてしまったという負い目を抱えている状態なのだから。
今度は別の問題を起こす可能性がある。
なら……ここで説得するのが一番良いか。
「ミクちゃん」
「……はい」
「俺は、常々思ってるんだよ。家族は協力するべきだって」
「え、っと。そうですね。リョウさんのご家族を見ているとよく分かります」
「でしょ? だからさ。ミクちゃんも何か困った事があるなら、一人で解決出来ない事があるのなら、俺達に相談して欲しいんだ」
「っ!? そ、それって、私の事も家族だと思っていると……?」
「まぁ、そうだね。責任感だけでこんな事をやらかしてしまうミクちゃんは、よく見ておかないといけない妹だと思っているよ」
「い、いもうと……! お姉さんではなく」
「ほぅ。ミクちゃんの中では自分一人の考えで暴走して、危うく家族を傷つける可能性のあったミクちゃんこそがお姉さんに相応しいと、そう思っているのかな」
「……ナンデモアリマセン」
遠い空を見ながら固まってしまったミクちゃんを見て、俺はクスリと笑った。
そして、正面に座っているミクちゃんの頭を撫でながら続く言葉を紡いだ。
「だからさ。これからのミクちゃんには期待してるよ。って話」
「これから、ですか?」
「そう。例えばミクちゃんが力不足を感じて、一人では厳しいと思っているのなら、助けを求めて欲しいって話さ」
「……はい」
「俺は、ミクちゃんが苦難の状況に立たされているのなら、いくらでも力になるよ。例え相手がジーナちゃんでもね」
「えー! リョウ君ってば、私とおチビちゃんが喧嘩したらおチビちゃんの味方になるのー?」
「まぁ、一応ミクちゃんに加勢する前に状況の確認はするけどね。ただ……俺が見る限り大抵の問題はジーナちゃんが悪いからなぁ」
「むー! ジーナちゃんだって悪くない時あるもん!」
「その時はジーナちゃんの味方をするよ」
「おー! やったー!」
「ジーナちゃんが悪くない時は、ね」
俺は喜び飛び上がるジーナちゃんを見ながら言葉をかけたが、届いているかは分からない。
まぁ、嬉しそうならそれで良いんだけれども。
「リョウさんは、本当にそれで良いんですか?」
「あー。待って待って。一応どっちが悪いかの判断もするけど、年齢とかも考慮はするよ。ココちゃんとミクちゃんの喧嘩なら、割と無条件でココちゃんの味方になるかもしれないし」
「そうではなくて!」
「そうじゃない?」
「はい」
ミクちゃんは真剣な眼差しで俺を見つめながら、震える唇を動かした。
そして、迷いの中で何とか願いを口にする。
「例えば、私が世界と敵対するとして……その時でも、私の、味方になってくれるのですか?」
「当然じゃないか。家族ってそういう事だろ?」
家族と世界。
どちらを取るか、なんてずっと前に終わった話だ。
迷うまでもない。
悩むまでもない。
俺にとって家族こそが世界だ。
「世間の家族はそこまで重くないと思いますが」
「そりゃ随分と薄情な話だね」
「多分おかしいのはリョウさんだと思いますよ」
「……それでもさ。例え世界中が間違えていると言っても、俺は、俺だけは家族の味方でありたいんだ。一人で戦うのは寂しいからね」
「……そうですか」
ミクちゃんは視線をテーブルの上に落としながら、フッと笑った。
まるで遠い昔の思い出を振り払う様に。
憑き物が落ちた様な顔で微笑んだ。
「そういう事でしたら、よろしくお願いします。リョウさん」
「あぁ」
「んーもー! お兄ちゃん!」
「お、おぅ。どうしたんだ。桜」
「黙って聞いてれば! お兄ちゃんの家族はミクちゃんだけじゃないぞー! 私だって居るんだからね!」
「当然。分かってるよ桜」
俺は抱き着いてきた桜の背中を撫で、桜と同じ様に抱き着いてきたココちゃんも抱き返す。
「みんな、俺の大切な家族だよ」
「と、いう訳だから! 私もミクちゃんの家族だよ! 桜お姉ちゃんと呼ぶように!」
「ココも。かぞく」
「私たちも家族だからね! よろしくーミクちゃん様!」
「フィオナ。ちゃん様は失礼なのでは?」
「良いじゃん! 可愛いし!」
「そういう問題カナ……」
「そういう問題だよ!」
桜、フィオナちゃんとリリィちゃん、そしてココちゃん。
みんなの言葉にミクちゃんは目尻に涙を浮かべ……一筋の涙を流した。
堪えきれず溢れてしまった、という様な涙だ。
それだけ抱えていた物があったという事かもしれない。
ならば、兄として、これからはミクちゃんをよく見ておこうと俺は心に誓うのだった。
そして、それはそれとして。
「じゃあこの件はこれで終わり! という事で……!」
「という事で!?」
ワクワクとした顔のジーナちゃんが俺に嬉しそうな視線を向けてきた。
その視線に笑顔で返しながらテーブルの下に置いておいたゲームを取り出す。
「ゲームで遊ぼうか」
「いえーい!! ドラゴン! ドラゴン!」
「……」
「ドラゴン! ドラゴン」
「今日は疲れたからドラゴンは無しかな」
「えぇー!? ドラゴンが良い! ドラゴンが良い!!」
「はーい。みんな今日はあんまり疲れないゲームをやろうねー」
俺はジーナちゃんの言葉を軽く流し、みんなにそう声をかけるのだった。