第121話『年越し
ゲームばかりやっていたら、今年が終わりかけていた。
なんて、父さんか母さんが居たら怒るだろうか。
いや、たまには遊んで過ごすのも悪くないと笑うかもしれない。
どちらが真実か。それは分からないけれど、今俺は楽しくやっているよ。という事だけは伝えたいなと思うのだった。
「あー! もう間に合わないよぉー!」
「もう良いんじゃない? 飾り付けは全部やらなくても」
「えー。どうせだったら綺麗に飾ろうよー!」
ワイワイと桜たちが準備をしている年越しパーティの準備を見ながら、俺はキッチンでフィオナちゃんと共に食事の準備をしていた。
普段であれば、フィオナちゃんとリリィちゃん、桜に任せているのだが……今回は重労働が多いため、俺がリリィちゃんと桜の代わりにフィオナちゃんを手伝っているというワケだ。
「ケーキ作りというのは重労働な上に、戦場ですからね」
「確かにね」
大量に積みあがった食材と、フィオナちゃんの指示でかき混ぜたり、切ったり、運んだり。
鍛えていて良かったと思うことばかりだなと俺は心の中で頷いた。
「では、次に、この生クリームを、すくい上げてクリームがトロリと落ちて、落ちた跡がゆっくりと消えるまでかき混ぜて下さい」
「あぁ」
言われるままに生クリームをかき混ぜながら、豪華になってゆくリビングを見つめた。
遅れていると桜は言っているが、既に部屋の中は豪華で、楽しそうな空気に包まれている。
なんら問題は無いだろう。
が、まぁ、桜たちも理想があるんだろうし。俺はただ手伝うだけだ。
「出来たよ。フィオナちゃん」
「では次はこちらの生クリームをお願いします。次は……!」
そして、今は桜たちの準備より、フィオナちゃんの手伝いの方が重要度が高いから、こちらに全力で挑み続ける。
それから、正直魔物と戦っている時以上の疲労を上半身に抱えながら俺はフィオナちゃんの手伝いを終わらせた。
拳を握りしめると、震えるくらいの疲れが体にたまったが、そういうところはフィオナちゃんに見せず、笑顔でキッチンを立ち去る。
俺の手伝いは終わったが、フィオナちゃんの仕事はまだ終わらないのだ。
邪魔者になる前に立ち去るべきだろう。
という訳で、飾り付けの準備をしている桜たちの所へ来たわけだが……俺の手伝いは必要ないと断られてしまった。
寂しい話だ。
ゆっくり休んでいて欲しいと言われても、休んでいて嬉しい瞬間も無いからなぁ。
どうにかして手伝う方法は無いだろうかと俺は思案する。
「お兄ちゃん」
「ん? 何か手伝う事があるか?」
「ううん。何にも無いんだけど」
「そ、そうか……」
俺は心の中で落ち込みつつ、桜の話を聞く。
「それはそれとして、後は飾り付けるだけになって、高い場所の作業ばっかりで危ないから、ココちゃんと一緒に遊んでてよ」
「それは構わないが……ココちゃんは良いのか?」
「……」
「不満そうだけど」
「そりゃ手伝ってくれるっていうのは嬉しいけど、危ないじゃん?」
「なら、俺が手伝えばいいだろう。抱きかかえれば安全だし」
「まぁそれでも良いんだけど、結局お兄ちゃんも椅子に乗って作業するワケだし、余計に危ないんじゃない?」
「……そうだな」
「っ! お兄ちゃん、まけ?」
俺の服を掴みながら、訴える様な瞳で見上げてくるココちゃんに、俺は敗北を告げる。
桜は強いのだ。
俺程度では勝てない。
「申し訳ないココちゃん。俺は弱いんだ」
「……そうなんだ」
「うん」
「じゃあ、しょうがないね」
「という訳だから、二人はゲームしててね」
まるで邪魔者の様に追い出されてしまった俺とココちゃんは、一緒にゲームをやる事にする。
二人だし、ココちゃんのやりたいゲームをやろう、という事で『洞窟探検隊』というゲームで俺たちは遊ぶ事にするのだった。
「……」
しかし、こんな状況の中で楽しく遊べるはずもなく、ゲームを始めてからもココちゃんはどこか不満そうな顔で立ち尽くしていた。
このままでは良くないなと俺は考え、ひとまずココちゃんが楽しめる様にと一つの提案をする。
「ココちゃん」
「……なぁに?」
「少しだけお話しようか」
「うん」
俺は前の探検隊ゲームとは違い、薄暗い洞窟の中で座り、ココちゃんも俺の隣に座る。
落ち込んではいるが、話は聞いてくれるようだ。
「まぁ、なんていうかなぁ。俺もあんまり上手くは話せないんだけどさ」
「うん」
「桜も別に俺たちに意地悪をしようとした訳じゃなくて、ただ危ないかなって気を遣てくれたんだよな」
「……うん」
「まぁ、そんな事、俺に言われなくてもココちゃんは分かってるだろうけどさ」
「……うん」
小さくコクリと頷くココちゃんに、俺は小さく笑いかけながらその頭を撫でた。
怒っている訳じゃない。
ただ、ちょっと悲しかっただけなのだ。
「だからさ。俺たちは俺たちで何かパーティにプレゼントを用意していかないか?」
「プレゼント?」
「そう。プレゼント」
俺は取扱説明書を取り出して、このゲームの解説を読み上げる。
「この世界には、まだ人が足を踏み入れた事のない洞窟がある! 未知なる洞窟へ足を踏み入れた我々は、様々な鉱石を発見した。君たちには是非とも未発見の鉱石を集めてきてもらいたい!」
「……」
「そして、ここで発見した鉱石は図鑑に登録され、外の世界でも見ることが出来るんだ」
「……!」
ココちゃんが目を見開きながら俺を見つめる。
たぶん俺が話そうとしている事に気づいたのだろう。
頭の良い子だ。
「ここで、とびきり綺麗な宝石を見つけて、桜たちに見せてあげるんだ。きっとみんな喜ぶと思うよ」
「……ほんと?」
「あぁ。桜は昔からキラキラした物が大好きだからな」
「そうなんだ」
「フィオナちゃん達も、このゲームには興味あったみたいだし。キラキラした物が好きかもしれないね」
「みんな、キラキラしたものが、すき?」
先ほどよりも前向きな顔で、瞳をキラキラと輝かせているココちゃんを見ながら、俺は大きく頷いた。
そして、ココちゃんの手を取りながら立ち上がり、まだ暗い洞窟の奥を見据える。
「じゃあ、俺達でみんなをビックリさせようか」
「……うん!」
「まぁ、そんなに簡単じゃないと思うけど、ココちゃん。覚悟はいいかい?」
「だいじょうぶ。ココ、がんばる」
気合十分という事で両手の拳を握りながら頷くココちゃんに、俺は笑いかけてゲームを進める方法を確認するのだった。
「えー。このゲームのやり方だけど、まずはこっちのレーダーを使って、鉱石の場所を探る所から始まる」
「うん」
俺は右手で持ったレーダーのスイッチを入れて、レーダーから出ている光を地面に当てる。
「おぉ、何かがあるね」
「これが、こうせき?」
「そう。宝石かどうかは掘ってみてから分かる感じみたいだ。今は何の鉱石かまでは分からないみたいだね」
「わかった」
ココちゃんはレーダーに反応している場所の近くまで行き、次はどうすれば良いのかと目で俺に問うた。
「次はね。このつるはし……は危ないから、このスコップで地面を掘るんだ。そしたら鉱石が見つかるよ」
「おー」
俺は子供用のスコップを取り出して、それをココちゃんに渡した。
ココちゃんは受け取ったスコップで一生懸命地面を掘り進めるのだった。
この場所が本物の洞窟と同じくらい固いという訳では無いだろうが、それでも掘るという動作はかなり疲れるものだ。
俺も手伝おうかと思ったが、一生懸命掘っているココちゃんの邪魔をしようという気にもなれず、それとなく周囲を見渡しながら、宝石が見つかりそうな場所を見極めるべくジッと岩肌を見つめるのだった。
ココちゃんの努力が何かしらの形に結びつくようにと願いながら。