ミクちゃんからココちゃんに贈られた許可証は、そのままでは意味のない物らしく、ココちゃんはミクちゃんにやり方を聞きながら、使える様にしていた。
「ここに人差し指を当ててください。認証をします」
「にんしょう?」
「この許可証をココさん以外には使えなくするんです。そして、紛失した場合、ココさんに居場所を教える事が出来ます」
「場所を教えるだけー? 不便だなぁ」
「しょうがないでしょう。転移の魔術は高い魔力を使う……って! 何をやってるんですか!?」
ミクちゃんとココちゃんが紙の上に手を乗せて儀式をしている時、ジーナちゃんが二人の手の上から右手を乗せ、笑う。
「だいじょーぶだよ。魔術式を壊さなきゃ良いんでしょ。ラクショーラクショー」
「証明書を偽造する事は違法で……!」
「ジーナちゃんは誰かのルールになんか縛られないのだ。てい!」
気の抜けた様な掛け声と共に三人が触れている紙から光が放たれた。
しかし、それも一瞬の事で、すぐに部屋の中は先ほどまでの少し薄暗い世界へと戻る。
「はーい。かんせー!」
「あぁーあぁ、なんて事を……! 折角のプレゼントが」
「泣かないで、ミクちゃん」
「泣いてませんけど! けれども! なんて事をしてくれたんですか!」
「そんなに喜ばなくても」
「喜んでません!!」
ミクちゃんは怒りながら、ジーナちゃんを責める。
が、ジーナちゃんは気にした様子もなく、ケラケラと笑うのだった。
「気になるのなら、調べてみれば良いじゃん。おチビちゃんが異変を見つけられなかったら、これはちゃんとした物って事になるでしょ?」
「なんですか。そのとんでもない理屈は」
「良いから良いから」
ジーナちゃんに言われ、ミクちゃんは渋々紙のチェックを始めた。
そして、ミクちゃんが調べている間、ジーナちゃんがココちゃんに自分が使った魔法の説明をする。
「ココちゃん」
「うん」
「ジーナちゃんが使った魔法はね。この紙が無くなって困ったよーってなっても、近くにあるココちゃんの持ち物と一緒にココちゃんの手に戻ってくる魔法だよ。それと、無理矢理ココちゃんから取ろうとした人が痛い思いをする魔法」
「痛い思いって、どのくらいの感じなのかな。流石に血が出たりとかは良くないと思うけど」
「大丈夫です! 血は出ません! 怪我もしません! 痛いけど」
「なるほど」
何か拷問とかで使えそうな魔法だな、と思いながらも俺は頷いた。
そして、よく分からないのか首を傾げているココちゃんに、凄い魔法だよ。とだけ説明しておいた。
「すごい、魔法! ジーナちゃん、ありがとう」
「良いんだよー。これもココちゃんの安全を守るためだからね」
「助かるよ。ジーナちゃん」
「良いの良いの。なっはっはー。ジーナちゃんは親切だからさ。ね。おチビちゃん。どう? ねぇねぇ、どうどう?」
「っ……! まぁ、いいでしょう」
「良いでしょう? おかしいな。ジーナちゃんのお陰でココちゃんも、リョウ君も喜んだんだけど、変な事言って、ごめんなさい。じゃないのぉー?」
「……!」
明らかにイライラとしているミクちゃんを何とかなだめながら、俺は別の話題を立てようと、視線を動かす。
そして、待ってましたとばかりに手を挙げたリリィちゃんに話しかけるのだった。
「リリィちゃんも、何かプレゼントあるのかな!」
「あります。私は桜ちゃんと一緒にクッキーを作りました」
「おぉ、クッキー。良いね」
俺は本心から喜びながら、二人のクッキーが置ける様にテーブルの上の皿を少し動かす。
しかし、クッキーとは素晴らしいな。
この荒れた空気も変わるし、ケーキともぶつからないし。
この状況に最適のアイテムと思えた。
シンプルなのも良いね。
なんて、思っていたのだが、出てきた物は衝撃的な物だった。
「これ、ココ?」
「そうだよ。ココちゃん。こっちはお兄ちゃんで、これは私」
いたずらっぽく笑いながら桜がココちゃんの前に差し出したのは、ココちゃんや桜、そして俺の顔が描かれた小さなクッキーだった。
なんという技術力だ。
クッキーで人の顔が描けるとは……! 桜とリリィちゃんは天才か!
「すごい……!」
「へへへ。でしょー?」
「かなり頑張ったんだよね。サクラちゃん」
「そうそう。特に髪の毛の部分が難しくてさー。いっぱい失敗しちゃったんだよ」
「それでも諦めなかったんだから凄いよ」
「えへへ。頑張った甲斐がありますなー」
「そうだねぇ」
「じゃ、褒め褒めして貰えて十分満足なので、食べて食べて」
俺たちは桜に言われるまま、クッキーに手を伸ばそうとした。
が、しかし。
だがしかし、だ。
どれを食べれば良いのか分からない。
「……」
「あれ? みんな食べないの?」
「もったいない」
「それは嬉しいお言葉。でも良いんだよ。また作るからさ」
「うーん」
桜に促されても困った顔をしているココちゃんを見つつ、これは俺が先陣を切るべきか! と一つのクッキーに手を伸ばした。
そう! これだけ可愛らしいクッキーが並んでいる中、たった一つ、食べやすいクッキーがあるのだ。
それすなわち! 俺のクッキーである!
「じゃあ、俺はこれをいただこうかな」
「え!?」
「え?」
俺のクッキーを手にした瞬間、桜が驚いたような声を上げる。
そして、ココちゃんも驚いたように指でつまんだ俺の顔をしたクッキーを見ていた。
「え、っと……?」
「おにいちゃん、たべちゃうの……?」
「う、うん……そのつもりなんだけど」
「たべ、ちゃうの?」
ココちゃん、桜の視線が刺さる。
突き刺さる。
矢の様に速く、槍の様に鋭く俺の心に突き刺さった。
「あー、うん。じゃあこれは止めておこうかな」
俺はひとまず後で食べようと、皿の上にクッキーを置いた。
しかし、自分自身が食べられないとなると、一気にどうしようもなくなる。
何を食べれば良いのだ……!
選べるか……!
選べるわけがない……!
なら、どうする?
「んー。お兄ちゃん。あーん」
「ん? お、おぉ」
「おいしい?」
「あぁ、美味しいよ」
色々と葛藤していたら、不意に桜がクッキーを口の中に入れてきたため、それを味わいながら食べる。
そこまで甘くもなく、だが、食べやすくほのかな甘さが香る。
とても、美味しいクッキーだ。
「ふふ、ふふふ。お兄ちゃんが私の顔のクッキー食べておいしいって。桜を食べて美味しいって」
「誤解を招くような言い方は止めなさい」
喜んで、ふわふわと浮き上がりそうな勢いで揺れる桜を見ながら、一応注意するが、聞いているかは分からない。
というか、多分聞いていないだろう。
まぁ、それでも桜が嬉しいなら良いかと俺は流して、この良くない流れを変えるべく、俺のプレゼントを取り出そうとした。
「はーい。ケーキが出来ましたよー」
が、その前にフィオナちゃんから声がかかった為、持ち上げた体をそのまま立ち上がらせて、フィオナちゃんと共に切り分けられたケーキを運ぶ係をするのだった。
ひとまず、俺のプレゼントはこのケーキを食べてからだ。
「じゃあ人数分あるから、好きに選んで持って行ってねー」
「はーい」
「ジーナちゃんはー。どれにしようかなー」
「どれも大きさは変わらないのですから、好きにとれば良いでしょう」
「あー! それ! 今、ジーナちゃんが取ろうとしてたのにぃ!」
「早い者勝ちです。ふっ」
ケーキを食べる時になっても争っている二人を見ながら、俺も手前にあったケーキを取ろうとした。
しかし、横からにゅっと伸びてきた手が俺のケーキに一つのクッキーを置く。
「これ、ココのクッキー」
「うん」
「たべて?」
「……分かったよ」
首を傾げながら可愛らしくお願いするココちゃんに、俺は微笑みながら頷くのだった。
いくぞ……!