長かったゲームも終わり、俺たちは孤児院から自宅へと戻った。
今回のゲームで子供達も十分に満足したらしく、今年の休みはもう大丈夫だそうだ。
遊ぶにしても後は子供達だけで遊ぶという事だろう。
「じゃあリョウ。今度会うのは雪が消えてからかな」
「そうですね。ではまた」
「ありがとー! リョウ兄ちゃん!」
「たのしかった!」
「そっか。じゃあまた遊ぼうね」
俺は子供たちに手を振って別れ、自宅へと戻った。
桜たちはドタバタとリビングへと向かい、本を読んだり、編み物をしたりしているフィオナちゃんに楽しかった思い出を語っているのだった。
何だかんだ桜たちも楽しめた様だ。
今回のゲーム会は非常に良い会だったという事だろう。
「リョウさんもお疲れ様」
「うん。ありがとう。凄い楽しめたよ」
「それは良かったですねぇ」
フィオナちゃんからねぎらって貰い、一緒にお茶も入れて貰える。
久しぶりに緩やかな時間が流れている様な感覚があった。
「そう言えば、次はこれをやろう。みたいな予定あるんです?」
「特にコレっていう物は決めてないけど……まぁやるにしても家で、だね」
「なるほど」
「フィオナちゃんやリリィちゃん。それにミクちゃんは何かやりたい事は無いの?」
「私は何もありませんよ。家の中で出来ることなら」
「へー。おチビちゃんは引きこもりって奴なんだねー」
「なんですか! そのバカにした様な言い方は!」
「バカにした様な。じゃなくてバカにしてるんだよ。おチビちゃん」
「ムキー!」
アハハと言い合っているジーナちゃんとミクちゃんは流しつつ、フィオナちゃんとリリィちゃんへと視線を向ける。
まだまだ雪は解けない。
であるなら、何か遊ぶ事も、家で何かをする事も出来るだろう。
「私は、特にない、かな。フィオナは?」
「んー。私も特にないんだよねー。サクラちゃんとかココちゃんは何か無いの?」
「んーん」
「私も特にないかなー。結構遊んだし」
「そっかー」
フィオナちゃんはうぬぬと考えながら、左右に揺れ始めた。
かなり真剣に悩んでいる様だ。
まぁ、無いなら無いで良いんだけど。
「そこまで考えこまなくても……」
「あ! 思いついた!」
「うん?」
「みんなでさ! お風呂の改造をやろうよ! ほら、せっかく広いお風呂があるんだから、飾りつけしたり、便利な魔導具置いたりさ? 見た目と便利さを上げようと思うのです! そして、みんなでお風呂に入ろう!」
「……なるほど?」
俺は頷きながらリビングから離れようとした。
俺自身、そこまで風呂の見た目にこだわりがないというのと、こういう話は女の子の方がこだわるだろうし、楽しめるだろうと思ったからだ。
しかし、俺の腕をフィオナちゃんが掴んでしまう。
「どうしたの」
「いや、どっか行こうとしてたから」
「まぁ、俺はあんまりお風呂にこだわりが無いから。細かい事は任せるよ。聞いちゃいけない話とかもあるだろうしね」
「えー。私たちは別に気にしないけど」
「俺が気になっちゃうんだよ。女の子のお風呂事情を聞いてると恥ずかしいからね」
「まぁ、それもそっか」
フィオナちゃんはなるほどと頷きながら、パッと俺の手を放してくれた。
危ない危ない。
フィオナちゃんが話の分かる子で良かった。
女の子だけで楽しい話は、女の子だけで楽しむ方が良いだろう。
こういう場に俺が居ても話の進行を止めるだけだ。
「という訳だから、俺は部屋に帰るよ」
「えー、お兄ちゃん帰っちゃうの?」
「不満そうな声を出すんじゃありません。俺が居ると話せないこともあるだろう?」
「私はお兄ちゃんに隠す事なんて何もないよ!」
「桜が無くても他の子にはあるかもしれないでしょ?」
「あるの!?」
「聞くんじゃありません」
俺は桜の額にピシッと人差し指を当てて、行動を抑制する。
そして、むぐっと口を噤んだ桜に笑いかけ、その頭をそっと撫でた。
「じゃあお兄ちゃんは上に行ってるからな」
「はぁーい」
という訳で、俺は自室に移動し、今回のゲームで学びがあった事について考えようと一冊の本を手に取り、椅子に座って読もうとしたのだが……。
扉の方からノックの音が聞こえ、俺は顔をそちらに向けた。
「はい?」
「中に入っても良いでしょうか?」
「あぁ、ミクちゃん。構いませんよ」
「では失礼しますね」
ミクちゃんは部屋の中に入ってくると、しっとり微笑んだまま後ろ手で扉を閉める。
そして、何故か鍵も閉めた。
不穏だ。
「……」
「そう警戒しないで下さい」
「この状況で警戒するな。というのは無理があるでしょう」
「確かに。それもそうかもしれないですね」
ミクちゃんはクスっと笑ってから部屋の中を軽い足取りで歩く。
そのまま俺の正面にある長椅子に座ると、両手を組んでテーブルの上に置いた。
「さて。実はリョウさんにお話がありまして」
「まぁしょうでしょうね」
「はい。実はリョウさんに依頼したい事がありまして」
「冒険者として?」
「冒険者として」
「なるほど」
俺は本をテーブルに置き、姿勢を正して話を聞く。
ミクちゃんはそんな俺の姿にクスリと笑ってから話を続けた。
「セオストはずっと雪で覆われているので、分からないと思うのですが。実はですね、この辺りの時期は世界的に雪が多い時期でして、仕事はせず、家で家族と過ごすという様な日なのです」
「なるほど」
「ですから、どこかに侵入するのなら、これ以上ないほど良いタイミングというワケですね」
「……」
「なんですか。その顔は」
「いえ、確かミクちゃんは秩序とか正義とかの方に立っている方だと思っていたので、実は違ったんだなと考えてました」
「何を仰います。これも世界の平和を守る為ですよ」
「侵入された側は平和を脅かされてますがね。平和的な手段で入れないのですか?」
「難しいでしょう。いくら国連に加盟されているとはいえ、かの国は外からの侵入を拒み続けていますから」
「……かの国?」
「はい。ヴェルクモント王国という神秘が多く隠された国になります」
俺はミクちゃんの言葉に頷きながら、どこかで聞いたような名前だなと考えていた。
しかし、その記憶を掘り起こす事は出来ず、まぁ行ってみればわかるかと頷くのだった。
「良いですよ。俺も特にやる事があった訳では無いですからね」
「助かります」
「それで、行くのは俺達二人だけで良いんですか?」
「あー、まぁそうですね。誰にも知られずに侵入する必要があるので、人は少ない方が良いでしょう」
「ちなみに、どれくらい危険がありますか?」
「まぁ、それなりに」
ふむと考える。
まぁ、ある程度の危険があるという事なら、俺達だけで行った方が良いか。
隠密行動という事を考えるとジーナちゃんは難しいだろうしな。
「分かりました。じゃあ俺達で……「失礼しますっ!」ん?」
俺がミクちゃんに二人で行きましょうかと返そうとした時、勢いよく扉が開き、リリィちゃんが部屋の中に入ってきた。
そして、扉をすぐに閉めると、俺達を見つめながら再度口を開く。
「ヴェルクモント王国へと行くんですよね。であれば、私も付いてゆきたいです」
「……らしいですけど。どうしますか? ミクちゃん」
「私は構いませんが、危険な旅ですよ?」
「覚悟はあります」
ミクちゃんは少し困った様に俺へと視線を向けた。
まぁ、リリィちゃんは冒険者のランクDという事になっているし。
その情報を知っているであろうミクちゃんが不安そうな顔になるのも分かる。
だが……。
「リリィちゃんは問題ないよ。彼女は俺よりも強い」
「……っ!? 本当ですか?」
「まぁ、本気を出せば。という話ではあるけどね」
チラリとリリィちゃんんへ視線を向けて確認をする。
本気で戦うつもりはあるかい? と。
「っ! 正直、まだ本気で戦うのは怖いです。けど。やります。この子と」
「なら安心。だけど、どうする?」
一本のおそらくは、神刀を抱きしめて、強い瞳で俺たちを見つめるリリィちゃんに笑いかけ、俺は再びミクちゃんへと視線を移した。
ミクちゃんは分かりましたと小さく頷き、リリィちゃんを受け入れるのだった。