桜やフィオナちゃん達に少しばかり出かけてくると告げ、何となくメンバーから内容を察して貰い、俺たちは静かに旅立ちの準備を始めた。
ジーナちゃんは自分を指さしながら、自分も行くか? と聞いてきたが、今回はお断りした。
家を守ってて欲しいという風に言いながら。
我ながら悪い大人だ。
という訳でいよいよ準備も出来たという事で、俺たちが孤児院に行っている間にミクちゃんが準備していたというミクちゃんの部屋の転移魔術陣を使い、俺たちはヴェルクモント王国へと転移するのだった。
転移の魔術陣がミクちゃんの力で光り、俺たちは光に飲まれた次の瞬間にはどこかの森に立っていた。
足元にはそれなりに雪が積もっており、歩けないという訳では無いが、それなりに苦労する。
「ここは?」
「ヴェルクモント王国王都の北部にある森ですね。遥かな昔、ヴェルクモント王国の王女であったリヴィアナ姫様が多くの書籍を封印した封印書庫があります」
「封印書庫かぁ」
俺はなるほどと頷きながら周囲を伺う。
そしていくつかの気配がこちらに向かっている事に気づいた。
人間ではない。おそらく魔物だ。
「王都の近くに魔物の出る森があるんですね」
「はい。そうですね。それにもいくつか理由があるようです。おそらくは封印書庫を守る為に」
「ふむ?」
「まず、この場所ですが……王都の近くという事で、ヴェルクモント以外の国は多くの人間を送り込む事が難しいです。大人数で動けばバレますからね」
「そうですね」
「しかし、この森に生きる魔物は小さいながらも危険度の高い魔物ばかりです」
「……なるほど。つまり、ヴェルクモント王国に住まう人間以外は森の中を進むことは難しく。さらに凶悪な魔物が多く出現する為封印書庫へ行く事は不可能というワケですか」
「そういう事です」
俺はひとまず神刀を引き抜いて、近づいてきた魔物を切り捨てる。
そして、続く二匹目、三匹目も同様に斬り捨てた。
当然と言えば当然であるが、リリィちゃんとミクちゃんも対応出来ており、俺たちは何事もなく魔物の襲撃をかわすのだった。
危険だと言われても、例の新種のスライムや帝国付近で襲ってきた謎の魔導兵器の様な強さは無いらしい。
「ん。こんなモンかな」
「驚きました」
「そうですか? 正直そこまで強い魔物では無かったですけど」
「いえ、リョウさんの事ではなく、リリィさんの事です。先ほどの魔物はDランクでは対応出来ない魔物でした」
「……えと、はい」
「だから言ったでしょう? リリィちゃんは強いんですよ」
「どうやらその様ですね。ですが、これなら確かに心配は要らないですね」
ミクちゃんは嬉しそうに頷き、雪の中を北方へ向けて歩き始めるのだった。
おそらくは封印書庫があると思われる場所へ。
しかし、その道中は中々に厄介で、色々な魔物が様々な手段で俺たちに襲い掛かってくるのだった。
目には見えない蛇とか。
沼地から飛び出してくるカエルとか。
まぁ、俺やリリィちゃんは目じゃなくて気配を追っているから特に問題は無いけれど。
ミクちゃんは少し大変そうで。
俺とリリィちゃんは意識しながらミクちゃんを守る様に立ち回るのだった。
そして、何とか俺たちは古ぼけた石造りの建物にたどり着いた。
「アレですね。調べた通りです」
「あれが」
俺は何となく建物を遠くから眺めるが、それほど大きな建物には見えなかった。
しかし、まぁ、重要な本を封印しているという事なら、それほど大きい必要も無いかと思い直すのだった。
「では中に入りましょう」
「入り口は、あぁ、あちらですか」
「はい。ですが、入り口には鍵が掛かっていますから、それを開けてからですね」
ミクちゃんはそう言いながら入り口の前に立ち、懐から一つのメモ帳を取り出した。
そのメモは非常に分厚く、ミクちゃんは鍵とメモを見比べて、メモを指でなぞっていた。
その様子から、俺はこの鍵を開けるのは中々に時間が掛かるのではないかと推測する。
「あの、ミクちゃん?」
「はい。なんでしょうか」
「もしかして、なんですけど。その扉を開けるのは中々難しいのでは?」
「えー、いや、すぐに開けますよ! 大丈夫です! 任せて下さい!」
「なるほど」
俺は元気よく右手を上げてアピールするミクちゃんを見ながら、うんと頷いた。
そして、リリィちゃんに声をかける。
「リリィちゃん。俺、ちょっとご飯を取ってくるから。ここでミクちゃんの事を任せても良いかな」
「……はい」
「助かるよ。じゃ、なるべく大きな奴を捕まえてくるかな。何日かここに居る必要があるかもしれないから」
「そうですね」
「えぇ!? いや、大丈夫ですよ! 私、すぐに開けちゃいますからね!? 大丈夫ですからね!?」
「大丈夫ですよ。ミクさん。ゆっくりやりましょう」
「そうじゃなくて!」
俺はミクちゃんとリリィちゃんをそのままに森の深い場所へと進んでゆく。
さて。
今から食料となる獲物を捕まえる必要があるワケだが。
この森で何が食えるのか、それは分からない。
しかし、見るからに毒がありそうなカエルなんかは食べられないだろうし……と、そこまで考えて、俺はアッと思い出した事があり、背負っていたリュックから一冊の本を取り出した。
「こんな事もあろうかと持ってきて良かったな。『食べられる魔物大全。冒険者向け』」
俺はページをパラパラとめくりながら、通り過ぎる魔物を見て、見比べてゆく。
しかし、コレと言って、良い獲物は居ない様だった。
「んー。良い奴は居ないもんだなぁ。どうしたモンか……ん?」
食えそうな獲物が居ない事に、俺はため息を零しながら森の中を歩いていたのだが、不意に見えた影に安堵の息を漏らす。
どうやらデカい獲物が居る様だった。
本で確認してみれば、ジャイアントベアーという魔物らしい。
つまりはクマだな。
クマという事は食えるという事だ。
「これはちょうど良い」
俺は本を仕舞って、神刀を引き抜いた。
そして、クマの近くに寄って行ったのだが、何やら様子がおかしい。
どうやらジャイアントベアーは何かと戦っている様子なのだ。
「……」
俺は息を潜め、なるべく音を消しながら木の上に飛び乗った。
僅かに木が揺れて音がしたが、それも戦闘の音に紛れて聞こえる事は無いだろう。
そして、俺は大木の上部で身を隠しながら下で行われている戦闘を伺うのだった。
「リン、下がって! コイツ、普通じゃない」
「普通じゃないなら逃げようよ! モモちゃん!」
「逃げたら逃げたで背中からガブり、よ。どうやっても逃げられないわ」
「……っ!」
視線の下ではミクちゃんくらいの幼い少女が二人、デカいクマを前にして、魔術を使っていた。
いや、魔術かと言われると微妙だ。
何せ少女は、おそらく周囲にある植物を操る力だからだ。
冒険者の中で似たような力を使う魔術師を見たことがない。
そう考えると、ジーナちゃんと同じ様な魔法使いだと考える方が自然に思えた。
と、まぁ。そういう考察は後でやる事にしよう。
どのみち、少女が操る草木の力では、巨大なクマを押さえつける事が出来ていないのだ。
俺は木の枝から少女たちの前に飛び降りると、木の枝を引きちぎり、襲ってきたクマに神刀を走らせる。
「っ!?」
「え!?」
ジャイアントベアーは確かに少女の操る木の枝を引きちぎる程の力を持っていたが。
それで神刀の一撃が防げるほどではない。
生き物である以上、刀による攻撃は防げないし。
更に言うのであれば、魔物である以上魔力を神刀に斬られれば行動も出来ない。
この一撃は確実にクマを仕留める物であった。
俺の一撃によりクマが重い地響きを立てながら地面の上に倒れ、俺はひとまず少女たちの無事を確かめるべく振り返るのだった。
「大丈夫だったかい?」