ひとまずジャイアントベアーに襲われていた二人へ振り返り、無事かと問いかけたが……。
まぁ、ものの見事に警戒されていた。
当然と言えば当然だ。
雪の積もる真冬の森で、ジャイアントベアーに襲われていた所、突如として現れた男。
しかも可愛らしい二人の少女がピンチの時に都合よく表れた奴だ。
信用するよりも警戒すべき要素の方が多すぎる。
という訳で、俺はこれ以上少女達を追い詰めるのも可哀想だと考え、さっさと撤退する事にした。
ひとまず食料は手に入った訳だし、これ以上の探索は不要だからな。
「あー。突然悪かったね。俺はもう行くから、気を付けてね」
俺はジャイアントベアーの首を捕まえて、背負い投げの要領で背負うと、そのまま歩き出そうとした。
しかし、そんな俺の背にまだ幼さの残る声が飛んできた。
振り返れば、防寒の為に厚着をした栗色の髪の少女が俺をジッと見つめながら話しかけてきていた。
「ま、待って下さい!」
「え?」
「あなたは、いったい」
「俺は、まぁ、このジャイアントベアーを捕まえに来ただけだよ。食料にしようかと思って」
「食料? こんな真冬に、こんな森の奥で?」
「まぁ、色々と事情があってね」
流石に森の奥にある遺跡を盗掘にし来たとも言えず、俺は適当に誤魔化して伝えた。
しかし、その言葉に何か引っかかるものを感じたのか、少女の一人が鋭い目を俺に向けてきた。
そんな栗色の髪の少女と同じ様に厚い防寒着を着た黒髪の少女は俺の事を睨みつけたまま言葉を投げかけてくる。
「何を、隠してるの!?」
「いや、本当に何も隠してないんだ。本当にただ食料を探しに来ただけでね」
「嘘! 私たちを追って来たんでしょ!?」
「いや、本当にそれは無いんだ」
「じゃあ本当は何をしに来たのか言いなさいよ! 食料なんて言って、ここが街から遠いって事は私たちだってよく分かってるんだからね!」
「……」
どうしたものか。
少女の言う事はもっともな事ばかりで、俺は答えに困ってしまう。
しかし、このまま黙ったままという訳にもいかず、俺は覚悟を決めて軽い事情を話す事にした。
「あー、まぁ実はこの森の中にある古代遺跡に用事があってね。その探索をしているんだ」
「遺跡の、探索」
「そう。まぁ、俺は冒険者だからさ。今回は護衛の依頼でここに居るんだ。それで、まぁさっきも言ったけど、調査が長くなりそうでね。食料が足りなくなる前に狩りをしていたんだ」
「そう……でしたか。それは失礼しました」
「リン! そんな簡単に信じちゃ駄目だよ!」
「でも、モモちゃん。ジャイアントベアーを簡単に倒しちゃう人だよ? 本気になったら今の私たちなんて簡単に捕まえられるでしょう? でもただ話しているだけだし」
「それは、そうだけど、油断させる為かもしれないし」
「この状況で油断も何もないよ。私たちじゃ抵抗出来ないんだし」
「……わかってるわ」
栗色の髪をした少女の説得に、黒髪の少女が溜息を吐きながら頷いた。
どうやら敵意は抑えてくれたらしい。
が、まぁ、それはそれ。これはコレだ。
現状の俺は、ミクちゃんの依頼で厄介ごとに首を突っ込んでいる状態だ。
これを知られる訳にはいかない。
早々に話を終わらせ、痕跡を消してミクちゃん達の所へ戻るべきだ。
「良かった。じゃあ俺はそろそろ行くよ」
「あ、待って!」
「……っ! な、なにかな?」
「出会ったばかりでこんな事を言うのは申し訳ないのですが、実は相談したい事があるんです!」
「……分かった、聞こうか」
俺はジャイアントベアーをとりあえずその辺りに置き、少女たちの話を聞くべく向き直った。
ミクちゃん達の所まで連れて行く訳にはいかないし、どうせ聞くならここが良いだろう。
「い、良いんですか?」
「まぁ、こういうのもめぐり合わせだよ。折角だから聞かせて貰おうかな」
「ありがとうございます。優しいんですね」
「そういう訳じゃないよ。ただ、小さい子達を見捨てて生きられるほど強くないってだけさ」
俺は栗色の髪の少女に微笑んで、目の前でしゃがみ込んだ。
黒髪の少女には再び睨みつけられてしまったが、あまり気にしない事にする。
まだまだ幼い少女だ。知らん男と話をするのに、警戒するのは当然だろう。
あくまで、俺が彼女たちを狙って動いていたわけじゃないという所までは信用して貰えているが。
そこまでだからな。
俺がここから豹変する可能性というのは十分にある。
という訳で、俺は彼女たちから適度に距離を取って雪の上に座る事にした。というワケである。
まぁ、実際は座っていてもすぐに立てるし、神刀も抜けるんだけれども
「とりあえず、俺はこのままここで話を聞くよ。その方が安心だろう? 刀も、こうして地面に置いておこう」
俺は分かりやすく神刀を雪の上に置き、両手をあげてから自分の足の上に戻した。
武器を手放した。というアピールだ。
まぁ、抜こうと思えばすぐに抜けるワケだけれども。
とりあえず見た目的に安心させるのが一番だ、という訳だ。
「ありがとうございます」
「いや、構わないよ」
「では早速お話させていただきますね」
栗色の髪の少女はわざわざ俺の近くに寄ってくると、雪の上に正座して座り、口を開いた。
どうやら、この子は対等な立場という奴を望んでいるらしい。
少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「実は、ですね。私たちは『楽園』と呼ばれる組織に追われているんです」
「楽園? どこかの国。という訳では無いのかな」
「はい。国ではありません。光の魔術……いえ、聖女を信仰する集団です」
「聖女を信仰する人たちというと、光聖教の人たちってこと? 聖国とか」
「いえ。聖国の方々はむしろ私たちの味方です……とは言っても、全員が全員というワケではありませんが」
「……要するに、表立って行動はしていないけれど、聖女を狙っている人たちがいるのよ」
「それが、楽園」
「はい」
「どこか……というか誰かの保護下に入るという事は出来ないの? 信頼出来る人とか、組織とか」
「そういう方々も居るには居るのですが、私たちは世界中を旅していますから、一か所に留まるのは、中々難しいですね」
「そうか……それは難しいね」
「そうですね。本当はミクちゃんと連絡が取れるのが一番なのですが、秋のころからか何処に居るのか分からなくなって」
「ミクちゃん?」
「あぁ、申し訳ございません。昔からのお友達なんです。いつも、危ない時には匿って貰っていたのですが……」
「世界国家連合議会って所に居る子なんだけど、ある日突然居なくなっちゃったのよ。もしかしたら、楽園が何かしたのかもしれない……!」
「ミクちゃんが、そんな……!」
「分からないわ。世界国家連合議会だって安全じゃない。ユウキも言ってたでしょ? 連中の中には闇神教の関係者だって居るらしいって話なんだから……!」
深刻そうな顔で話をする少女たちを見ながら、俺はふむと考える。
これは何かの偶然だろうか。
もしくは意図的に仕組まれたものなのだろうか。
いや、偶然と考えるにはあまりにも出来過ぎている様に思う。
偶然、ミクちゃんが他国の森へ探索に来て、そんな森の中に偶然ミクちゃんを探している人が居る。
あるか? そんな偶然。
しかし……。
「それで、君たちはこの森に、そのミクちゃんが居ると思って探しに来た。って事かい?」
「いえ。ここに来たのはそういう理由では無いんです」
「ヴェルクモント王国は昔から『楽園』とか闇神教とは違う理由で聖女を大切にしている国だから、冬の間は森で隠れて、春になったら、王様に協力をお願いするつもりだったのよ」
「今代の聖女であるミラさんとは、お友達ですし。少しの間なら大丈夫かと思っていたのですが」
「さっき、貴方に助けられた通りの状況だったってわけよ」
ミラさん。
以前、俺の体を癒してくれた人か。
理屈は通っている。
特に違和感はない。
「……少し信じてみるか」
「えっと?」
「ちょっと二人に合わせたい人が居るんだ」
俺はイザという時には戦いになると覚悟しながらも、二人をミクちゃんの所へ案内する事にするのだった。