異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第146話『これから(ココちゃん)の新しい仕事』

 リリィちゃんに助けてもらいながら、何とかジャイアントベアーを解体した俺は、肉を全て書庫の中に運んでから、骨を煮込んでいる鍋の様子を見つつ、完全に必要なくなった骨を砕いていた。

 この作業は非常に楽だ。

 何も考えなくていい。

 

 骨を持ってきて、砕く。

 骨を持ってきて、砕く。

 ひたすらこれを繰り返すだけだ。

 

 なんて心が安らぐ作業だろうか。

 繊細な動作が一つも要らない所が特に素晴らしい。

 

「あ、私も手伝いますよ」

「いや、大丈夫だよ」

「え? でも、結構骨ありますよ? 一人で砕くのは大変じゃあ」

「まぁ、大変は大変だけどね。気持ちがスッキリするから。大丈夫なんだ」

「そ、そうですか。なら私は鍋の方を見てますね」

「あぁ。お願い」

 

 俺はリリィちゃんにニッコリと笑いながら骨を砕く。

 あぁ、何も考えずただ砕くのは何て心が安らぐのだろう。

 素敵だ。

 

「……リョウさん。楽しそうですね」

「まぁね。最高の気分だよ。リリィちゃんもやりたくなったらいつでも言ってね」

「いえ。お任せ出来るのなら、私は鍋を最高の状態にしたいので、こちらに集中します」

「そっか。それもまた良いね」

 

 まるで悟りを開きそうな心地で俺は骨を砕く。

 ん-。

 これ、アレだ。

 前の世界であった奴だ。

 宅配で荷物が届いた時に荷物の周りにあるぷちぷち。

 アレを潰している感覚に近い気がする。

 

 いや、流石に骨だから指で潰しているって訳じゃないけど。

 ちゃんと鈍器を使ってるけど。

 気持ちはぷちぷちを潰す遊びに近い。

 

 割とハマりそうな感覚だ。

 

 前にも何度か骨は砕いていたけど、どうして今回はこんなに楽しいのか。

 アレかな。コツを掴んで、骨を効率よく、力を使わずに砕ける様になったからかな。

 

 なんて考えながら、俺はひたすらに骨を砕くのだった。

 

 そして、どれだけの時間が経ったか。

 俺は積み上げていた骨を全て砕き、バケツの中に全て入れた。

 ほぼ粉。たまに欠片。という様な状態である。

 

「んー。終わりかな」

「お疲れ様です」

「ありがとう。そっちはどう?」

「はい。こっちは順調です。後少し煮込めば良い状態になると思います」

「それは良いね。でもどうする? 後は中でやる? それともここでやる?」

「んー。ここで調理する方が良いと思います。本に匂いが付いてしまったら大変なので」

「それはそうか」

 

 そんな適当な会話をしながら俺は砕いた骨の欠片を近くにある木々の根元にかける。

 これは、砕いた魔物の骨には魔力が多く残っており、これを木に栄養として与える事で、木の成長を助け、木の葉や樹液なんかを食べる小動物が栄養を大きく受け取り、更にその小動物を食べる肉食獣が。

 という様な流れでうまく自然界がまわるからだ。

 

 ちなみに冒険者としてとても大事な事なので、何よりも最初に教えられる。

 冒険者の教科書には最初の方に書かれている情報だ。

 

 これをやらないと巨大な魔力を持った魔物が生まれてしまう為、その保険という訳だ。

 そんなこんなで、冒険者として非常に大事な仕事を終わらせた俺はリリィちゃんの元へ戻った。

 しかし、そこでふと一つの疑問が生まれる。

 

「あれ? ちょっと疑問が生まれたんだけどさ」

「はい? なんでしょうか」

「いや、ほら。骨を砕いて森にまくのが冒険者として大事な事でしょ? だからみんなやってる」

「そうですね」

「でも、骨自体には魔力が多く含まれているんだから、それを砕いた後で、野菜とかを育ててる畑にまいた方が栄養がいっぱいある野菜が出来るんじゃないの?」

「それは確かにそうですね。でも」

「でも?」

「セオストまで持って帰るのは大変ですし。セオストにも大きな解体場があって、そこで大型の魔物を解体した後の骨が手に入りますから」

「あー、なるほど。そこまでの量は要らないって事かぁ」

「そうなりますね」

 

 ニコッと笑うリリィちゃんに、俺は頷きながら、名案が地に落ちた事を理解した。

 まぁ、俺が思い付く程度の事なら既に先人がやってるっていう話ではあるな。

 それは、そうだ。

 

「あぁ、でも、家で野菜を育てている冒険者さんは骨を砕いたものを持って帰っているみたいですね」

「そうなんだ」

「買うと高いですから」

「まぁ、冒険者なら現地で調達出来るもんなぁ」

「なので、全くないという訳では無いです」

「んー。そう考えると、ウチでも野菜を育ててみたくなるね。いや、ただの衝動なんだけどさ」

「野菜ですか」

「そう。何だかんだ冬の近くになると高いでしょ? それなら自宅で育ててみるのも良いかなって」

「んー」

「あぁ、でも、面倒が多いか。流石に。俺だっていつも見ている訳にはいかないし」

「あぁ、いえ。良いかもしれません」

「そう?」

 

 想像とは違い、肯定してくれるリリィちゃんに疑問を返しながら俺は何となく家で畑を作るイメージをした。

 場所はある。

 が、やはり人手が足りない様に思う。

 

「野菜を育てるとは言っても、本格的な農業を始める訳じゃないですよ。それに、ずっと家にいるココちゃんが野菜を育ててたら嬉しいかなって」

「あぁ。それはそうだね。それは確かに名案だ。良いね。最悪何も出来なくても買えば良いしね」

「はい。まぁ、どんな状態でも私とフィオナとサクラちゃんで調理しますし、それでも足りない分は買えば良いですし」

「うんうん! 素敵なアイディアだ。帰ったらココちゃんに相談してみようか。ココちゃんにお願いしたいって」

「良いと思います。きっと頼られたら嬉しいと思いますよ」

「ココちゃん、喜んでくれると良いな」

「そうですね」

 

 俺は何となくリリィちゃんの前に置かれた鍋を見ながら呟いた。

 ココちゃんの事はずっと気になっていたのだ。

 家の事はお願いしているが、いつも何かをやりたそうにしていた。

 

 食堂でのお手伝いを頼んでも火や刃物からは遠ざけるだろうし。それは家も同じだ。

 そうすると、どうしても皿洗いなどの仕事ばかりになってしまい、どこか不満そうであった。

 しかし、今回の仕事はどうだろう?

 

 俺たちも食べる野菜を育てる仕事だ。

 とても大切な仕事に思えるのではないだろうか。

 そして頑張って、得た達成感はきっと何物にも代えがたい物だろう。

 

「そうと決まれば、後で本を探してみようか。野菜を育てる方法。みたいなさ」

「ありますかね?」

「きっとあるよ。だって人の生活に繋がる本だよ? 民を思う王族なら書いているハズだよ」

「……そうですよね」

「あぁ。間違いない」

 

 俺は鍋の前で苦笑するリリィちゃんに笑みを返し、ミクちゃん達が調べものをしている封印書庫の方へと視線を投げた。

 まぁ、無いなら無いで、セオストに戻ってから調べれば良いか。

 なんて考えながら。

 

「じゃあ俺たちのやる事も決まったし、後はスープが出来るまでのんびり待とうか」

「そうですね。とは言っても、既に良い感じですよ?」

「お。本当だね」

 

 リリィちゃんが鍋をかき混ぜ、状態を見せてくれる。

 

「じゃあ、ここから今度は骨を取り出して、スープに色々な味を入れて調整してゆきます」

「了解」

「ではまた骨を砕く作業はお願いできますか?」

「任せてよ」

 

 リリィちゃんは鍋のスープをザルでこしてから、ザルを俺に渡してくれる。

 先ほど砕いた骨に比べれば量は大分少ないが、それでも骨の状態はハッキリと分かる。

 これをこのまま捨てては大惨事になるだろう。

 

 という訳で、俺はまた骨を砕く。

 砕く。

 砕く。

 

 ただひたすらに砕いてゆく。

 先ほどよりは柔らかいからか、そこまで喜びは無いが、辛くもない。

 まぁ、普通だな。という作業を続け、細かく砕いてから再び近くの木の根本に捨てに行くのだった。

 

 そして、俺の作業が終わる頃にはリリィちゃんの作業も終わっていたらしく、俺たちはスープを持ち、最後の後片付けをして地下世界へと向かう事にした。

 最後に痕跡を綺麗に消してから、扉を閉めて。

 

 これから長い読書の時間が始まる……かもしれない。

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