全ての準備が終わり、外界との出入口を塞いで、俺たちは封印書庫の中に引きこもって本を読み始めた。
一応俺は入り口の近くに椅子を置き、入り口の様子は常に伺っている。
空気を取り入れている場所には布を置き、それが揺れる事で無事空気を中に取り込んでいる事も確認済みだ。
ここから何らかの毒物や薬品なんかを流し込まれる可能性もあるが、その時は流石に匂いやら何やらで気づくと思う。
無味無臭の薬品であったとしても異常な眠気か何かを感じたら、即座に行動すれば良いだけだ。
だから、最悪の事態を想定して常に入り口近くにある脱出用の転移魔術式を意識の中に置いておいた。
それだけ準備をして、ようやく落ち着いた俺は、ゆっくりと手元の本にも意識を割いてゆく。
『植物の育成に関する研究』
魔力がより多く含まれている魔物の骨を砕き、畑にまいた場合、どの様な変化が起きたのか。
その適量は?
水に含ませる方法はどうだ?
等、魔物の再利用方法が研究され、それが書き記されているのだ。
この本は主に、植物に関する関係の本だ。
ちなみに、この本の著者でもあるテオドールという人は、他にも色々な書籍を残している様で、見える限り、十冊か二十冊くらいはありそうだった。
相当に優秀な人物であったらしく、研究は様々な方向、視点、考え方から行われており、その全てを理解する事は出来ないが、冒険者組合の図書館で読んだ物とさほど変わらないくらい有用な本だった。
このまま借りてゆきたいくらいの本であるが、流石に外へ持ちだしたらバレてしまう。
だから今はなるべく頭の中に刻んでいかなくては、と俺は真剣に本を読み進めるのだった。
本を読み始めてからどれくらいの時間が経っただろうか。
そろそろお腹も減ってきたし、ご飯にするかと本を閉じて立ち上がった俺であったが。
どうやらミクちゃん達はまだ本に集中しているらしく、動く気配がない。
無理に呼ぶのも良くないか、と俺は何も言わずそのままキッチンへ向かい料理の準備を始めるのだった。
今回は長い旅になる可能性が高かったという事で食料も多めに持ってきたから、調理は色々な物が出来る。
例えば、大量に持ってきた野菜と、ジャイアントベアーの肉、そしてパン。
これを挟んでジャイアントベアーサンドである。
手軽に出来るし、本を読みながら食べる事も出来るので、一石二鳥……と言いたいところだが、味は良く分からん。
とりあえず食べてみるか、と俺は一口食べてみて……どこか物足りなさを感じた。
しかし、問題はない。
リリィちゃんが付いてくるという事で、調味料も色々と用意してきたのだ。
これからジャイアントベアーサンドに最もふさわしい味付けを探して行こうじゃないか。
俺は、それから色々な調味料を混ぜたり、かけたり、まぶしたり、塗ったり。
量を調整しながら、それらしい味を見つけ出すべく、あれやこれやと試行錯誤を繰り返すのだった。
そして、その甲斐もあり、俺は一番うまいジャイアントベアーサンドを作り出す事に成功した。
まだ食事をしていないだろう、みんなの所へ持っていこうと皿の上に盛り付けたのだが……。
ここで俺はハッと気づく。
飲み物が無いじゃないかと。
いや、水を飲むという選択肢もあるが、それだとどこか面白くない。
どうせなら、こだわりにはこだわりを重ねたいものだ。
という訳で、俺は先ほど本棚で見つけた美味しい紅茶の淹れ方という本を持ってきて読みながら作業を進める。
この書籍の著者はなんと、この書庫を作ったというリヴィアナ姫様という方だ。
どうやらセシルという人の為に美味しいお茶の淹れ方を研究していたらしい。
本の中では試した事や、結果が色々と書かれており、それを読み込みながら駄目だった点と良かった点を目で追ってゆく。
そんな事をしているウチに、本はパラパラと次のページへ次のページへと進んでゆき、気が付いたら一番最後のページにたどり着いていた。
一番最後に載っている物は、完成と言っても問題ないほどにこだわりが多く書かれており、一応駄目な点も書かれているが、概ね満足の出来であった様だ。
ならば、と俺はその手順を見ながら紅茶の準備をして、ミクちゃん達四人分の紅茶を用意する。
そして、リヴィアナ姫様が完成させた最高の紅茶と、俺が導き出した最高のジャイアントベアーサンドを一緒に持って、ミクちゃん達の所へと向かうのだった。
「さ、みんな。そろそろご飯にしよう」
「ん? あ、そうですね。何だかお腹が減ってました」
「それだけ集中してたって事ね」
「あ、リョウさんが準備してくれたんですか!?」
「うん。ちょうどキリが良かったからね。作ってみたよ。口に合うかは分からないけど」
「ありがとうございますっ!」
リリィちゃんはペコペコと頭を下げながら、俺から皿を受け取り、ミクちゃん達の元へ届けてゆく。
ミクちゃん達も周囲に本を積み重ね過ぎていて、うまく身動きが出来ていなかったが、何とか受け取って近くに置くのだった。
「ミク、本を汚さないでよ?」
「汚すわけないじゃないですかっ!」
「そそっかしいからなぁ」
「言っておきますが、私は災害対策局の局長として立派に仕事をしているんですからね! 立派な大人という事です」
「ハイハイ。立派、立派」
「もー! またバカにして!」
ミクちゃんはプンプンと起こりながらジャイアントベアーサンドを手に取り、一口。
目を見開いて、俺を見た。
「なんですか!? これ、すっごい美味しいです!」
「それは良かった。研究した甲斐があったよ」
「あら。ホント。美味しいわ。リョウさんって、料理もうまいのね」
「ね。モモ、凄いね」
「こんなにおいしい料理が作れて、しかも強いんでしょ? 私たちの護衛として雇おうかしら!」
「ちょっとモモ。リョウさんはそうそう簡単に雇える冒険者じゃないんですよ」
「お金なら結構あるけど」
「そういう問題ではなく、色々な事情があってセオストを長期間離れる事が出来ないんです」
「へー。エドワルドさんみたいだね。ま、そういう事情があるならしょうがないか」
モモちゃんはケラケラと笑いながらあっさりと意見を変えた。
柔軟というか、考え方が柔らかいというか。
非常に接しやすい子みたいだ。
冗談だったのか、どこまで本気だったのか分からないが。
モモちゃんによる軽い勧誘があったので、一応営業的な事はしておく。
「ずっと一緒に旅をするとかは難しいかもしれないですけど、どこからどこまで移動するから護衛。みたいな感じで依頼してくれれば受けますよ。俺も依頼を貰えると助かりますからね」
「そうなんだ。じゃあ、今度お願いしようかな。ちょっと面倒な場所に行かないといけないからさ」
「面倒な場所?」
「そ。ヤマトっていう場所なんだけど、行く方法が中々大変でさ。西側から行くと山を超えないといけないんだけど、ここが結構危険でねぇー」
「ヤマトなら街道を真っすぐに南下すれば良いでしょう。二日もあれば着きますよ」
「そりゃミクはそうだろうけど。私やリンじゃ出てくる魔物に殺されちゃうわよ」
「……確かに」
「という訳で、出来ればセオストからヤマトまでの道のりと、ヤマトからセオストまでの道を護衛して欲しいんだけど、出来る!?」
「えぇ、構いませんよ」
「やりぃー!」
右手を軽く上げながら喜ぶモモちゃんは、控えめに喜んでいるリンちゃんと手を叩きながら笑う。
しかし、料理か。
俺一人だと不安も大きいが、俺はチラッと隣へ視線を送った。
視線の先に居るのは、リリィちゃんであり、リリィちゃんも俺を見ていたため、視線がぶつかる。
「っ!?」
「リリィちゃんもヤマト、興味ある?」
「……少しだけ」
「じゃあ一緒に依頼を受けてくれる?」
「……は、はい」
「モモちゃん」
「ん? どうしたの? リョウさん」
「その依頼だけど、ここに居るりりィちゃんも一緒に連れて行って良いかな。彼女、冒険者組合の食堂で働いているくらい料理が美味しくてね」
「へー! うんうん! 全然いいよ! むしろ女の人が居ると色々助かるから。ありがたい~」
「じゃあとりあえず決まり」
俺はちょうどよくヤマトへ行く切っ掛けが出来たと笑いながら頷くのだった。