世界には多くの謎があるが、その中で唯一解き明かしてはいけないとされているものがある。
それは『聖女』という存在に対する多くの謎だ。
そもそも聖女とは何故、どの様にして生まれるのか。
聖女の始まりとされるアメリア様は何者なのか。
聖女が生まれる意味とは何なのか。
上げればキリがないほどに、『聖女』という存在は謎に満ちている。
だが、調べてはいけない。
調べる事は禁じられている。
それも世界中、どこの国に居てもだ。
しかし、幸運な事にとでも言うべきだろうか。
私はヴェルクモント王国の王族として生まれた。
玉座に座る事は終ぞ無かったが、それでも先王の王弟の子だ。
何の権限もない者よりは多少自由に動けるし、調べる事も出来る。
という訳で、一応現王であるアルバートに許可を貰いつつも秘密裏に調べる事にした。
この時点で、この書籍は封印が確定しており、王族以外は閲覧出来ない状態となるだろう。
だが、知識は受け継ぐ事で初めて意味を持つ。
この書が、後の世界で王族や、知識を求める者の役に立つ事を願う。
前置きはこれくらいにして、最初に一番大事な事を書いておこう。
始まりの聖女アメリア様についてだ。
彼女は光の力に導かれ、光の魔術に目覚めた人だと聖国の連中が言っているが……違う。
彼女は魔法使いなのだ。
「え?」
「どうしました? リョウさん」
「あ、いや、別に大した事はないですよ」
「そうですか? それなら良いですけど」
「えぇ。本当に。本当に大した事は無いですから」
俺は再び本に視線を落とし、テオドール博士の書き記した一言を見た。
が、何度見ても当然ながら書いてある文字は変わらない。
『彼女は魔法使いなのだ』
魔法使いと言えば、あれだ。
ジーナちゃんの様な子の事だろう。
恐れられ、多くの人から遠ざけられている。
しかし、聖女とはそんなジーナちゃんの対極に居る様な存在の筈だ。
皆から崇められ、慕われ、望まれている。
いや、まさか最初からこんなとんでもない秘密が書かれているとは思わなかった。
……待てよ?
確か、そうだ。ミクちゃんが妙な事になった時、『切断の魔女』と呼ばれていた子が、アメリア様の名前を言っていた。
そして、それにジーナちゃんも答えていた。
という事は、ジーナちゃんや魔女の人たちにとっては誰もが知っている様な話だったという事か。
いや、知っていたからこそ、世界に疎まれている……という可能性もあるか。
何だか、この世界の闇に触れている様な感覚があるな。
しかし、俺がこんな秘密を知ってしまって良かったのか、少し不安でもある。
というか、遠くからミクちゃんがこちらをジーっと見ている。
「リョウさん?」
「な、何ですかね!?」
「……」
「どしたの? ミク」
「いえ。何か怪しいなと思いまして。妙な本でも読んでいるんじゃないかと気になってます」
「妙な本? そんな本、あるの?」
「分かりません。分かりませんが、気になるので、リョウさん。今読んでいる本を見せて貰いますよ!」
ミクちゃんはそういうと、ふわりと浮き上がって、俺の前に降り立った。
そして、右手を俺にスッと差し出す。
俺は特に反抗する気もなく、本を差し出した。
「何の本ですか? これは……っ! って、これは!?」
「何々? ヤバい本?」
「どうしたの? ミクちゃん」
「……?」
ミクちゃんの叫ぶ様な声に、ミクちゃんだけでなく、モモちゃんリンちゃん、リリィちゃんも何事かと俺の周りに集まってくるのだった。
そして、本の表紙を見て、皆微妙な反応をする。
あ、いや、リリィちゃんはあまり意味が分かっていない様な顔だ。
「リョウさん。この本で、何を見ましたか?」
「何を、って言われても、大したものは見てないですよ」
「ふぅん? まぁ、少し読んでみれば分かるんですけど……っ!」
「どうしたの? ミク」
「モモ。リョウさんは、アメリア様最大の秘密を知ってしまった様です」
「あらー」
「それは大変だね」
心底気の毒そうな顔でミクちゃんとモモちゃんとリンちゃんがため息を吐く。
やはり知ってはいけないタイプの秘密だったのか。
「これを知ってしまったからには……!」
「っ!」
俺はミクちゃんの言葉に一応構える。
ミクちゃんは依頼主ではあるが、ここで殺されるワケにはいかないのだ。
仕留めて、見つからない場所に埋め、桜たちと逃亡する。
行く先は、やはりヤマトか……。
俺は傍に置いてあった刀を持ち、鋭くミクちゃんを見据えた。
「仕方ありません。ここでリョウさんを処分します」
そして、刃を走らせてミクちゃんの首を狙う。
残念だ。
せっかく仲良くなれたのにな。
なんて思いながら刀を握っていた俺であったが、直後に聞こえた声に手の動きをピタッと止めた。
「なーんて、冗談でっ!? ひっ!」
「……なんだ、冗談か」
「え、え?」
「わ! ミク! 大丈夫!? アンタ!」
「だ、だいじょうぶだと、思うんですけど、モモ~、リン~、私の首、ちゃんと付いてますか?」
「えぇ、多分大丈夫」
「たぶんって、何なんですか!」
「じゃあ一応癒ししておくね」
「ありがとうございます~、リン~」
震えながら半泣きで地面に座り込み、リンちゃんに泣きつくミクちゃんを見て、失敗したかと俺は心の中で舌打ちをした。
いや、まさか冗談だったとは。
もう少し待ってから抜いた方が良かったな。
「あー、えっと、リョウさん?」
「……あぁ」
「一応、その武器を収めてくれると嬉しいんだけど。ミクの冗談がバカみたいで、全然面白くなかったのは謝らせるからさ。敵対しようとかそういう考えは無いんだ。ごめんね」
「いや、俺も早とちりで申し訳なかった」
「んもー! ミク! 冗談は通じる相手にやりなさいっていつも言ってるじゃない! どう見たってリョウさん真面目そうな人なんだから!」
「だって、だってぇ……」
「だってじゃないわよ。まったく。特にアメリア様の話題は繊細なんだから、余計な事言うんじゃないわよ!」
「ご、ごめんなさい~」
モモちゃんに怒られ、リンちゃんに撫でられ、ミクちゃんは大粒の涙を流しながら泣いていた。
その姿が、まるで子供を虐めているみたいに感じてしまい、俺は正座をして頭を下げる。
「申し訳なかった。俺の早とちりで怖い目に遭わせてしまって!」
「……うぅ、ぐすぐす」
「ほら、ミク! アンタがいつまでもメソメソしてるから、リョウさんから謝っちゃったじゃないの! アンタがやらかしただけなのに!」
「わ、分かってますよぉ。その、リョウさん。変な冗談言って、ごめんなさい。その、私、ちょっと調子に乗ってて」
「いや、いいさ。短い間だけど、仲良くやってたからな。ちょっと踏み込んだ冗談を言い合うのも分かる。俺が考え無しだっただけさ」
「いや!」
「はいはい。終わり終わり。終わんないわ。この会話」
「モモ……」
「リョウさんもミクも互いにごめんなさいした。じゃ、これで話は終わり! それで良いでしょ? いつまでも引きずりたいなら別だけどさ」
「そんなワケ無いですよ!」
「じゃ、ほら、いつもの」
「いつもの?」
「仲直りの握手って奴」
「あぁ」
俺はモモちゃんに言われたコトを実行するべく、ミクちゃんに手を差し出した。
そして、おずおずと手を差し出してくるミクちゃんと手を握り合い、仲直りをする。
それからはミクちゃんも元の場所に戻って作業を続け、俺もこれ以上の争いはごめんだと元あった場所に本を戻すのだった。
分厚い本の始まりしか読めなかったけど、これ以上先を読むのは余計に危険な気がしたからだ。
これ以上、トラブルを起こしたくないという気持ちもある。
「じゃあ、まぁ。あとはヤマトに関係する本でも読むかぁ」
と、俺は気分を入れ替えて本を探す為に書庫の中を歩き回るのだった。