第151話『
セオストの雪が解けるのに時間が掛かった為、俺たちは何だかんだと西側諸国に長居する事になった。
こちらの方はセオストほど雪が降らないらしく、歩くのに多少不便がある程度で、セオストの様な活動出来ないという様な事も無いようだった。
東と西で何故こうも降雪量が違うのか謎だ……。
気温もそれほど変わらない様に感じるのだが。
「それは多分、魔力濃度の違いでは無いでしょうか」
「魔力濃度の違い?」
「はい。セオストよりも西側諸国の方が魔力濃度が薄いのです」
「そうなんですか?」
「えぇ。こちらはセオストよりも人口密度が高く、多くの魔導具が周囲の魔力を使って動いていますからね。その分、魔力濃度も薄くなるんですよ」
「という事はセオストも同じ事をやれば?」
「まぁ、雪が減るとは思いますが……あまり推奨は出来ませんね。あの雪のお陰で冬の間は危険な魔物も活動を止めるという話がありますし」
「なるほど。それは確かに今のままの方が良さそうですね」
「はい。という訳で、セオストは西側諸国よりも雪が多い分長い雪の休憩時間を貰っているというわけですね」
「んー。今の話から考えると、今年は普段よりも魔力濃度が濃かったから、雪が多く積もっているという話なんですかね?」
「そうですね。おそらくは、例の新種の魔物が影響しているのではないかと」
「あぁ、なるほど。アイツが大量の魔力を抱え込んで死んだ後、その魔力が使われないまま残されたから」
「はい。人も自然も回収する事が出来ないまま、それが全て雪に変わったという事だと思います。たぶんですけどね。私は専門家では無いので。詳しい事は分からないです」
「大丈夫ですよ。正確な答えが欲しい。という話では無いですから」
俺はこれが世間話なのだと暗に告げてから次の話題に移った。
一応話は街や魔力の話に繋げて、だ。
「しかし、魔力が少ないと気候が安定するとか、魔物の被害が減るとか、よく分かりましたね。何か切っ掛けとかあったんですか?」
「キッカケと言えば、キッカケはありましたね」
「ほぅ?」
「べべリア聖国という国に、遥かな昔にアルマ様という方が作り出した聖剣がありまして、この聖剣は光を放っているのですが、その光が魔力によって生み出されているという事が長年の研究で分かったんですね。そして、それが魔物を遠ざけているのではないのかという事を発見した人が居るのですよ」
「なるほど。そういう経緯でしたか。凄い発見をする人も居たんですねぇ」
「えぇ。ですが、その当時は批判が凄くて、結局どういう方がその発見をしたのかについては今も分かっていないんです」
「あら」
「まぁ、その当時はアルマ様の加護により世界が守られていると信じられていましたからね。アルマ様の奇跡を否定する様な事はあまりよく思われなかったのでしょう」
「なるほど。まぁ、確かにそういう事もあるかもしれないですね」
前に生きていた世界で見た宗教のあれこれを思い出し、俺は神妙に頷いた。
どこの世界でも、どんな人でも、自分の信じている物が否定されたら悲しいからな。
「中々難しい問題ですね」
「えぇ。そういう事情もありますので、現代でも『聖女』という存在は神聖な物で、触れてはいけない物なんです」
「勉強になります」
唇の前で人差し指を立てながら警告をするミクちゃんに、俺は分かりましたと頭を下げた。
書庫で見つけた様な本に容易く手を出すな。という事だろう。
それに、聖女について深く入り込むなという事でもある。
「深入りしない様に気を付けますよ」
「その方がよろしいかと……まぁ、リョウさんは強いので、敵を払いのける事が出来るでしょうが、リョウさんの周りには多くの人が居ますからね」
「まぁ、まだ世界と戦争する気はないですからね」
「……えと?」
「どうしました?」
「いえ、あの、今……世界と戦争とかなんとか」
「あぁ。桜やココちゃんを傷つけられた場合ですよ。そうじゃなければ何もしません」
「でも、もし傷つけられた場合には……」
俺はミクちゃんの問いに笑顔で返した。
その反応にミクちゃんは震えるが、その後ろで西側諸国の街並みを見ながら笑顔を浮かべているリリィちゃんだって、多分俺とそう変わらない。
フィオナちゃんに何かあれば容易く世界に刃を向けるだろう。
大切な人を傷つけられれば誰だってそうなる。
当然の事だな。
「……リョウさんを怒らせない様に、サクラさん達は私もしっかり守りますね」
「まぁ、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。あの家にはジーナちゃんも居ますし」
「そ、そうですよね。でも神刀の使い手が世界の敵になると本当に厄介なので、何かあればすぐに言って下さいね! 何とかするので!」
「……」
俺はミクちゃんの言葉を聞いて、少しばかり考える。
そして、まだあわあわしているミクちゃんに問いかけるのだった。
「神刀の使い手は厄介って、前にも何かあったのですか?」
「まぁ、色々とありますよ。ヤマトの人たちは基本的にこちらへ干渉してくる事は無いのですが、こちらがヤマトへ干渉する事件は何度か起きてますから」
「……なるほど」
「ヤマトという国は、難しい国なんですよ。私も何度か国連に加入しませんか? と聞いているんですけど、必要ないと拒絶されてばかりで」
「ちなみに、国連に加入するとどういう利点があるんですか?」
「一番分かりやすい話で言うなら、加盟国同士での戦争が無くなります」
「……でも、ヤマトは西側諸国からも遠いんですよね? それだとあんまり利点には感じなそうですね」
「それはそうですけど! ヤマトに攻め込んでいる国はあるんですよ!?」
「しかし、それが問題にならないという事はそれだけ強いという事なんでしょう?」
「それはそうなんですけど、ほら、攻められたら報復で、こちらの国を攻めてくるじゃないですか」
「それはまぁ、当然ですね。何もせず放置出来る問題でも無いですし」
「でも、ヤマトの人たちは攻めてきた人たちを全滅させてしまうので、どの国に報復すれば良いか分からず、適当な国を襲うんです!」
「あー、なるほど。それで、国連に加盟して欲しいと」
「はい。そうなれば無用な争いは無くなりますから」
「……確かに」
俺は微妙な顔をして頷いた。
必死に訴えてくるミクちゃんにどう返事をすれば良いか分からず視線をさ迷わせる。
正直なところ、俺はヤマトという国の事をあまり知らないのだ。
だから、ここで色々話していても、どうにも答えに困る所がある。
「西側諸国の方に、ヤマトへ攻めない様に約束させるのはどうですか?」
「実はもうしているんです」
「その上で攻めている国があると?」
「はい。国だけでなく個人としても」
「……それは、まぁ、難しいですね」
本当に。
もうルールとして出来ているのなら、どうにもならないじゃないか。
どうしたもんかなぁ。
「リリィちゃんはどう思う?」
「うぇ!? わ、わたしですか!?」
「うん。リリィちゃんもヤマトの事は知ってるでしょ」
「ま、まぁ。少しなら」
「そんなリリィちゃんから見て、どうすればヤマトの問題が解決できると思う?」
「え、えと……ヤマトには姫巫女様というとても偉い方がいるので、その方を説得すれば、あるいは」
「姫巫女様か……ミクちゃんはあった事あります?」
「いえ。無いですね。西側諸国の人間は嫌われていますから。いつも姫巫女様にお仕えしているサムライの方とお話するだけです。あんまりお話は通じないんですけど」
虚空を見つめながら放つミクちゃんの言葉には、どこか重い空気があった。
悲しみを秘めている。
苦労人という言葉が良く似合うかもしれない。
「じゃあ、モモちゃん達と一緒にヤマトへ行くとき、姫巫女様に会えそうなら今の話をしてみますよ。国連に加盟するだけで他に何もやる事が無いのなら、その方が助かる子がいます。って事で」
「っ! ありがとうございます! 本当に何もする必要は無いので! ただ加盟するだけで良いので! 何かあった時の報復もこちらでするので! とお伝えください!!」
「分かりました」
俺は必死に叫ぶミクちゃんに苦笑しながら、一つの約束を胸にしまっておくのだった。