新年というか、新春というか分からないが、俺は冬ごもりが終わって初めて受ける冒険者組合の依頼について話を聞くべく冒険者組合の中で最も大きな会議室に向かった。
去年は入る事が無かった巨大会議室は、百人入れそうな程に大きくて、俺はその巨大さに圧倒されながらも会議室の中を歩いて空席を探す。
「おう。リョウ。お前も依頼受けるのか」
「えぇ、まぁ。ウチまで組合の人が来ましたし。折角なので出ますよ」
「ならほれ。横座れよ。前の方はランク低い冒険者に譲ってやれ。情報少ないと連中も不安だろうしな」
「分かりました。って、俺もまだEランクなんですけどね?」
「お前は早くランク上げろよ。図書館でとりあえず知識入れて、昇格試験でも受ければ良いだろ」
「試験ですか……考えておきますね」
「まぁ焦る事も無いだろうけどな。どうせ、お前の力量はみんな認めてるし」
「おいおい、俺はリョウがランク上げるのは反対だぜ? 去年のあれこれで、リョウの事を狙ってる奴も多いからな。そいつらの事を考えたら、リョウが何でも出来る様になるのはな」
俺を呼んでくれた冒険者仲間と隣同士で話をしていたら、その奧に座って来た別の冒険者仲間に話しかけられる。
そんな彼の言葉を聞いてか、前に座っていた冒険者仲間が振り返りながら口を開いた。
「おいおい。まだ女の子を囲い込むつもりか? リョウ」
「そんな話はしてないぞ」
「いや、今言ってただろ! リョウの事を狙ってる奴が多いって」
「女の話じゃねぇよ。冒険者の話だ」
「冒険者の女の子の話!?」
「話を聞け!」
騒ぎ始めた周りの仲間たちを見ながら、俺は介入するタイミングを見計らっていたが、それも難しい。
何せ、俺は双方が話している事の裏側が分からないのだから。
ただ黙って話の成り行きを見守る必要があるだろう。
「だー! 黙れ! お前ら!」
「む」
「なんだ」
「俺が言ったのはそういう恋愛的な話じゃねぇ。純粋に仕事としての話だ」
「仕事の話?」
「そうだ。世の中、リョウみたいに戦える奴ばっかりじゃねぇ。人によって得意不得意って奴があるからな」
「まぁ、それはそうだな」
「リョウみたいな化け物がそうそうホイホイいてたまるかって話でもあるがな」
「ん? なんだ。セオスト最強議論か? 俺は当然、エドワルド様を推すぜ!」
「なんの話だよ」
「え? セオストで一番ヤバい奴を決めるって話じゃねぇの?」
「ちげぇわ!」
何だか話が盛り上がり過ぎて、少し離れた所から話に参加する人も現れ始めた。
しかし、離れた場所から話に参加しているからか、どうも内容がズレている。
というか、最強がどうのと言い始めたら、最強はエルネストさんしか居ないだろう。
「じゃあ何の話してたんだよ」
「それを今、説明してたんだが……もう良い、サクッと直接的な言葉で言うがな。リョウが実質ソロで活動している以上、チームを組みたい奴はいるだろうな! っていう話をしてるんだよ!」
「あー」
「なるほどなー」
「それは、確かにそうだわ」
「ウチのチームだって貰えるもんなら貰いてぇからな」
「だが、俺らみたいな中堅がそう言ってられるのも、リョウよりも高ランクだからだ。リョウにもメリットがあるからな。しかし、リョウが高ランクを目指し始めたらそれも難しい」
「確かに」
「リョウ。さっき昇格試験を受けろ。なんて言ったが、やっぱりやめろ。俺らの為に」
「なんて自分勝手な話だ……」
俺は思わず笑いながら呟いてしまった
まぁ、でも俺としては別にどこのチームに入ろうと特に問題は無い訳だけれども。
資金が足りなければ何か追加で依頼をこなせば良いだけだし。
「しかし、リョウはホワイトリリィとチーム組んでるんじゃないのか?」
「そうですけど、たまに依頼を一緒にやっているくらいですね。昨年は二回くらい……? いや、三回ですかね、一緒に依頼を受けたのは」
「お前は別にホワイトリリィだけと組むってワケじゃないのか?」
「えぇ、まぁ。昨年もヴィルさんやアレクさんと組んで依頼をこなした事もありましたし、個別やちょっとした依頼でその時だけのチームを組む事もありましたよ」
「本当にか」
「そうですね」
「なんてこった!」
「今年イチのニュースが突然舞い込んできやがった!」
「おい! リョウ! ちょっと詳しく話をさせろよ!」
と、冒険者の仲間たちが盛り上がった頃に、やや大きな音を立てながら冒険者組合の人たちが入って来た。
そして、会議室の一番前のちょっと高い段の上に立って説明を始める。
「ご静粛に! ご静粛に!! 今から依頼の説明をします。毎年新年に行う定例の依頼ではありますが、知らない方も居る為、お静かにお願いします!」
「……話は後だ。静かにしてねぇとどやされる」
前に座っていた男の言葉に、俺と周りで騒いでいた全員が静かに頷き、俺たちは冒険者組合員さんの説明に意識を向ける事にした。
特に俺は初めての依頼だからな。よく注意して聞かないと。
「では今から説明を始めます! 最初に依頼の概要についてです!」
組合員さんは部屋を暗くすると、俺たちの正面、そして組合員さんの背後に映像を映して説明を続けた。
「今皆さんが御覧になっているのはセオスト周辺の地図です。北と南に伸びる街道。そして西側に広がる農園と牧場。東側には皆さんが主に仕事をされている森がありますね」
ふむふむ。
西側の農園はかなり大きいんだな。
いや、セオストに住む人間の食料を収穫しているのだから当然か。
しかし、まぁ広大な農地をどういう風に管理しているのかとか、生産量を安定させる方法とか。
気になる事は色々とあるな。
今度時間があったら見に行ってみるか。
「現在はまだ雪で森へ向かう事は出来ません。しかしこれからだんだんと雪が溶けてゆき、少しずつ活動許可範囲が広がってゆく事になります。範囲としてはこのような形で……地図に日数も記載していますので、よくご確認下さい」
壁に映し出された地図にはセオストから離れた場所にいくつか線が引かれていて、それぞれに日付が書いてある。
それぞれを覚える事は難しいが、映像の端に同じ地図が受付近くに貼ってあると記載があって少し安心した。
「ただし、こちらの活動許可範囲は皆さん以外の冒険者の方や、騎士向けの日程になります。皆さんへの依頼はここに書かれた日にちまでに、指定されたエリアの安全を確保する事です」
「安全と確保と言いましたが、対象範囲の魔物を殲滅しろという事ではありません。あくまで範囲内に居る危険な魔物の調査と可能であれば討伐という依頼になります」
「もし、自分たちで討伐する事が難しい魔物を発見した場合は、冒険者組合への連絡をお願いします。対象の魔物を討伐する事が可能な冒険者の方へ依頼をさせていただく事になります」
「あくまで依頼は調査であるという事を念頭に置いて依頼を受けて下さい。討伐は可能であれば、で問題ありません」
「我々からの注意事項は以上となります。では、これより森で生息する魔物と、冬ごもりの後によく出現する危険な魔物について紹介をさせていただきます」
俺は依頼の趣旨を理解して、ふむと頷いた。
もしかしたらゲームで鍛えた探索の技術を試せる機会かもしれないな。
と、少しだけワクワクした気持ちを抱えて、組合員さんの話す色々な魔物についての情報を頭の中に入れてゆくのだった。
雪の中でしか出てこない魔物は俺の知らない脅威が色々とあるようで、しっかり聞いておかなくてはと気合を入れる。
そして、長い説明の時間も終わり、俺はいよいよ新年はじめまして、になる組合からの依頼へと向かうのだった。