家の改築について、職人さんとも話がついたので、いよいよ見積りという話になったのだが。
その前に俺は一応聞いておこうと、気になっていた事を尋ねる。
「そういえば、あまり深く考えないまま家の改築依頼しちゃいましたけど。俺が住んでいる家って冒険者組合からの賃貸なんですよね。勝手に改造するのは、流石に不味いですよね……?」
「あぁ、それなら問題ねぇよ。冒険者用賃貸物件を改造する時は、俺らの方で事前に組合に聞いてるし。改築案が常識の範囲ならそのまま工事しても良い事になってるから」
「あ、そうなんですね。わざわざありがとうございます」
「まぁこれも仕事の内だよ。それに、お前さんの依頼はそこまで規模のデカいモンでもないしな。金額は高いが」
「そうなんですか?」
「あぁ。お前さんの依頼で高いのは簡易転移装置くらいさ。他はまぁ大した事無いな」
シミジミと語る職人さんに、俺は少しばかり興味が出て他の依頼について聞いてみる事にした。
他の冒険者がどういう依頼をしているのか気になるのだ。
「少しばかり伺いたいんですけど。他の冒険者はどういう改造案をお願いしてきたんでしょうか」
「んー。そうだなぁ。珍しい感じの依頼でいうと……家の中に迷路を作りたいなんて依頼があったな」
「迷路、ですか」
「そうだ。迷った時の訓練がしたいなんて言ってな。家の殆どを迷路に改造して、さらに毎日迷路が変化する様にしたよ。だいぶ難しい依頼だったな」
「な、なるほど」
「他だと、家で魔物を飼いたい。なんて奴もいてな。檻やら監視用の映写機やらなんやら。部屋も地下に作らねえといけないし。安全確認の確認証やら何やらで手続きが酷く面倒だったな」
「お疲れ様です」
「まぁ、そういう連中に比べればお前の所の仕事はだいぶ楽だよ。ただ上に伸ばして改築するだけだからな」
「確かにそう聞くとそうですね」
「という訳だ。まぁ見積りはすぐに出るだろうから、金額見て、納得出来たら仕事開始だ」
「分かりました」
俺は職人さんに一礼して、見積りを依頼する。
それから職人さんの言葉通り、見積りはすぐに出てきたので、俺は指定された額の半分を支払って、工事を始めてもらうのだった。
「確かに。思っていたよりもアッサリ出てきたな」
「まぁ貯蓄はもっとありますからね。最悪は色々と売れば良いですし」
「そりゃ冒険者稼業も順調で良さそうだ。これなら確かに金の心配はしなくても良さそうだな」
「はい」
「よし。じゃあ今日から工事は始めるが、俺らの事はあんまり気にしなくても良い。外から工事をやるからな。お前さんたちは普通に過ごしていてくれ。セキュリティも俺らを入れる必要はねぇぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ。その方がそっちも安心出来るだろうしな。俺らも変に疑われなくて良いんだよ。冒険者の家なんか高い物がゴロゴロしてるからな。盗まれただなんだってのはゴメンだ」
「なるほど」
「まぁ、最後に2階と3階を繋げる時だけはセキュリティを解除しないといかんが、部分解除も出来るし、その時は立ち合いも依頼するから問題はねぇだろう」
「わかりました。ではその辺りの作業をする時は俺も開けておきますね」
「おう。頼むぜ」
かくして職人さんとの話も終わり、改築を始めてもらう事になった。
とは言っても職人さんの言う通り、俺たちの生活は変わらないし、俺も日中は冒険者としての仕事をやっている。
帰ってくるたびに、家の上で何かやってるなぁーというのは見えるが、工事作業は周囲を分厚い布の様な物で覆って行っている為、よく分からないのだ。
「うーん。よく分からないね」
「お兄ちゃんも分からないんだ」
「まぁ、外からじゃ何も見えないからね」
「ふぅん。それじゃ本当に完成するまで何が出来るか分からないよーって感じなんだね」
「そうみたいだね。まぁ、それはそれで楽しみが出来る訳だけど」
「そうねー。ココちゃんもなんか落ち着かない感じ」
「まぁココちゃんは家に居るしね。余計に気になるのかもしれないね」
俺は食事の後片付けを桜としながら、世間話の流れで工事について話す。
キッチンから見えるリビングでは、ココちゃんが一生懸命家庭菜園に関する本を読んでいた。
どうやらココちゃんが冒険者組合の図書館で見つけてきた本らしい。
一緒にノートもテーブルに置いてあって、そこに一生懸命文字を書き写していた。
難しい言葉や表現は近くに居るミクちゃんやフィオナちゃんに聞いているらしい。
非常に心温まる光景だ。
素晴らしく感動的である。
「でも、まさか屋上で野菜を育てるなんて思わなかった。水漏れとか大丈夫なのかな?」
「その辺りはプロの方々だし大丈夫なんじゃないかな? 前にも似た様な工事した事ありそうだったし」
「そうなんだね。でも、屋上となると結構大きな畑になるかも?」
「あー。そうだね。この家が結構大きいからねぇ。かなり大きな畑になるんじゃないかな」
「なら、私も何か育てようかなぁ」
「良いんじゃない? ココちゃんもきっと良いよ。って言ってくれると思うよ」
「そうだね。じゃ、何を育てようかな。桜の木とかも良いかも」
「いや、流石に木はマズいんじゃないか……? やるなら家の外にしよう。ほら、庭は空いているわけだし」
「えー。屋上でお花見とか素敵だと思ったんだけど」
「お花見なら外でやれば良いでしょ。わざわざ危ない場所でやらないの」
「はぁーい」
どこまで本気だったか分からないが、桜はいたずらっぽく笑いながら反省しました。と口にした。
しかし、桜の提案ではないが、庭に桜の木を植えるのは良いかもしれない。
この世界のどこに桜の木があるのか、それは分からないが。
見つけたら許可を貰って、庭まで運ぶか。
いや、でも……桜の木は繊細だって言うしなぁ。どうなんだろう。
ジーナちゃんの転移魔術なら、出来るか……?
「いつかさ。みんなでお花見したいね」
「そうだなぁ。いつかやりたいね」
「ね。落ち着いた時にね」
桜と笑い合い、未来の約束をしてから俺は、リビングでお勉強をしているココちゃん達の元へ向かった。
「お勉強はどんな感じ? 良い感じ?」
「うん!」
「それは良かった」
俺はテーブルを挟んだココちゃんの反対側に座りながら、それとなくテーブルに置かれたノートを見る。
かなり大きなノートに、絵と共に多くのココちゃんなりの言葉が書き込まれ、勉強をかなり頑張っている事が伺えた。
「かなり頑張ってるね」
「そうなんですよ。ココちゃん、凄く頑張っていて。難しい本を自分なりに解釈してノートに書いているんです」
「……でも、分からないこと、いっぱい」
「前も言ったけど。最初はみんなそうだよ。色々お勉強してさ。ちょっとずつ学んで、成功したり失敗したりしてさ。色々試して貰えればって思うよ」
「うん。わかった」
「という訳で、改築が終わって、畑が終わったら一緒に見に行こうか。職人さんの話じゃあ半月もしたら工事が終わるって言ってたからさ」
「うん!」
「じゃあ、俺はその時までに畑の作り方を学んでおかないとね」
俺は頑張っているココちゃんの頭を撫でて、俺の勉強をしてみる事にした。
仕事の帰りに図書館で見つけた家庭菜園の方法。
の、畑を家の屋上に作る方法だ。
しかしこんなにも今の俺に丁度いい本がある事に驚くが、まぁセオストという場所を考えるとそれほど不思議では無いかもしれない。
土地も広くある訳じゃないし、冒険者もいつも仕事をやっている訳じゃない。
そういう状況で、ちょっとでも節約をしようと考えれば、まぁ人気の趣味になるのかもしれないな。
という訳で豊富に資料が手に入る環境の中、俺は本で畑を作る方法について調べ続けるのだった。
今更ながら土をどうやって運ぶかなとか、水回りとか。
まぁ職人さんがある程度、施設の中に組み込んでくれているとは思うが。
最悪は簡易転移装置で水を運ぶしかないなと俺は覚悟を決め、一応体も鍛えておくのだった。