冒険者組合からの新年初依頼である、セオスト近郊の森の安全確認依頼をこなしていた俺であったが、組合の人に呼ばれ帰りに冒険者組合の建物に寄る事になった。
「あのー。呼ばれました。小峰亮ですけど」
「あ! リョウさん! お待ちしておりました! ご指名の依頼が入ってまして」
「なるほど。では話をまずは聞きますか」
「はい。依頼主様は待合室でお待ちなので、0番へお願いします」
「0番ですか」
「……ここだけの話。かなりのVIPが来ているんですよ」
「いや、あの。俺……Eランク冒険者なんですけどね」
「その件も確かに伝えましたが、リョウさんが良いと」
俺は受付さんの言葉を聞いて微妙な気持ちになりつつ、特別室……通称0番待合室へと向かった。
特別室は、その名の通り、特別な依頼主用の待合室だ。
他の部屋より豪華になっていて、外部からの盗聴盗撮は一切出来ない。
更に言うのであれば、セオストに住まう貴族は冒険者組合の施設に来るのではなく、組合の人間を来させる為、待合室に居る特別な依頼主というのは自然と外から来た人間という事になるのだ。
面倒な事になった。
と顔には出さないまま俺は0番の待合室へと向かった。
入り口の所に立っていた騎士さんに話しかけ、依頼の確認に来たと身分証を見せる。
騎士さんはすぐに頷いてくれ、俺は中に入る事が出来た。
さて……どんな依頼主が来ている事やら。
「お待たせしました……!」
「あ、リョウさん! おひさー!」
「お久しぶりです」
「ん? あれ? モモちゃんとリンちゃんだったの!? 依頼主って!」
「えー。セオストに行ったら依頼するって言ったじゃーん」
「それはそうだけど。いや、VIPが来てるって聞いたから」
「いやいや。私たちって実は結構なVIPなんだよ?」
「そうなんだ」
俺は近くの椅子に座りながら、モモちゃんがケラケラ話しながら語る言葉を聞く。
「私たち、元勇者パーティだから」
「ふーん。そうなんだ」
「あだー! なんでそんな興味無さそうな感じなの!」
「いや、俺、こっちの方の事情はあんまりで」
俺は今一つモモちゃんの言う凄さが分からず淡白な反応をしてしまったのだが。
その反応を聞いて、モモちゃんがテーブルの上に身を投げる仕草をした。
「勇者というのは、かつて世界を救ったとされる方の称号なのです」
「それが、モモちゃん達。という話?」
「いえ。私たちではなく……勇者という称号を受け継いだのはユウキという子なのです。そして私たちはユウキちゃんの仲間という事で有名なんです」
「そうなんだ」
「図書館とかで調べたらいっぱい出てくるわよ。子供向けの絵本とかでも出てるし」
「そうですね。始まりの勇者トーマスさんから、色々な勇者様のお話がありますね」
「その勇者っていうのは、誰か王様とかが指名する感じなのかな?」
「違うわ。勇者の証っていう印みたいなのが手の甲に現れるのよ。ソレを持ってると勇者。今はユウキが持ってるわ」
「なるほど」
俺は何となく自分の手の甲を見ながら、勇者っぽい印をイメージした。
が、特にコレという物は浮かばず、ちょっとだけ実物を見てみたい気持ちになった。
「ユウキさんっていう人は、今もどこかに居るんだよね」
「もしかして興味出てきた?」
「うん。ちょっとその勇者の証っていう奴を見てみたくてね」
「まぁー機会があれば会えるかもだけど、あの子今引きこもってるから。会うのはちょっと難しいかもね」
「それは残念だなぁ」
「何か大きな事件でもあれば降りてくるかもだけど」
「降りてくる?」
「そ。勇者ユウキは、天空庭園って呼ばれる空飛ぶ島に引きこもってるのよ」
モモちゃんが上に指をさしながら言った言葉に、俺は思わず天井を見上げた。
しかしそこに何かがあるワケもなく、すぐに視線を落とす。
「空に、島が浮いてるってこと?」
「そ。ずーっと昔からね。あるみたいよ? なんでも神話の時代に人々が空で生活しようと浮かべたとか何とか」
「凄いモノもあるんだねぇ。いつか行ってみたいもんだけど」
「まぁ難しいんじゃない? 噂じゃあ空の向こうまで飛ぼうとしているオークがいるって話だから、そのオークと仲良くなれば、飛行機っていう魔導具に乗せてもらえるかもだけど」
「飛行機……!」
魔術やら魔法やら魔導具やら。
魔力に関する物ばかり存在している世界で聞くとは思わなかった言葉に俺は思わず目を見開いた。
空を飛ぶ機械があるとは……それもまた気になるな。
「世界は広いなぁ」
「そうねぇ。私たちも人間の世界をウロウロしてるけど、外の世界の方がもっと広いからね。いつか行ってみたいとは思うわ」
「どこまでも広がる草原とか。星々が流れ落ちる山とか。大量の水が流れ落ちる幻想的な世界とか。精霊が住まう森とか。色々ありますよね」
「それは、確かに俺も行ってみたいね」
「じゃ、いつか行ってみよう同盟~!」
モモちゃんが俺とリンちゃんの手を取って、重ね合わせる。
ニッコリと笑う姿は子供らしく、俺はその姿を微笑ましく思うのだった。
「と、勇者の話はこれくらいにして。仕事の話をしましょう!」
「そうだね。んっ! んん、いえ。そうですね」
「どうしたの。急に固くなっちゃって。封印書庫で気を遣わないでって言ったじゃない」
「いや、そうなんだけど。ほら、一応仕事の依頼主と冒険者だから」
「いいよ! そんなの! 堅苦しいと息苦しくなっちゃうし。気楽にいこ! 気楽にさ!」
「そう? じゃあ、俺も軽い感じで話すけど」
「ぐー! リンも良いよね?」
「はい。私もその方が助かります」
「分かったよ。じゃあ、こういう感じで」
俺は口調を柔らかくしながら続けて口を開く。
「それでモモちゃん達の依頼。ヤマトまでの護衛なんだけど。実は今別の依頼をやっててさ」
「あぁ。受付の人に聞いたわよ。大丈夫。そっちが終わってからで。どうせヤマトはまだ雪で行けないって話だし」
「それは良かった。じゃあまぁこっちの依頼が終わったらまた呼ぶ感じで良いかな?」
「それで大丈夫。あー、そうそう私たちが待ってる場所なんだけど」
「うん」
「いやー、実はどこも宿が開いてなくてさぁ。良い場所知らない? ミクがセオストに居るみたいだし、ミクの住んでる場所を教えてもらっても良いんだけど。勝手に住むから」
「あー。そうだね。それで良いならすぐに紹介するけど」
「やりぃ! 宿代浮いた~」
「ちょっとモモちゃん。駄目だよ。ちゃんとミクちゃんに許可取らないと。どうするの。ベッド一つに三人とかになったら」
「その時はー。まぁミクに床を譲ってあげれば良いんじゃない?」
「もー! 可哀想でしょ!」
「分かってるわよ。冗談冗談。まぁうまくやれば三人寝られるだろうし。ソファーとかなんかあるでしょ」
「あぁ、その事なら」
「ん?」
「たぶん心配は要らないんじゃないかな」
「あら。ミクってば結構大きな所に住んでるのかしら」
不思議そうにするモモちゃんに俺は苦笑しながら家に案内する事にした。
そして、ひとまず話し合いも終わったと、俺たちは待合室を出て外を歩く。
のだが、後ろに歩いているモモちゃんとリンちゃんに視線が集まっている事を察し、本当にVIPなんだなぁと改めて理解するのだった。
「すみません。お話伺ったので、このまま依頼主を送ってきます」
「分かりました。依頼はお受けするという事でよろしいでしょうか?」
流石というか何というか。
VIPの依頼に受けないという選択肢はない。
今受けるか、後で受けるかだ。
よくアレクさんが愚痴を言っていたが、その気持ちが良く分かる。
「はい。問題ないです」
「では、依頼主様はこちらでご案内しますね」
「あー。大丈夫よ。私たちミクの所に行くから」
「なるほど。ミク様の……ミク様の所!?」
受付さんが俺を見ながら、コイツ本気か? みたいな目で見てきたが、しょうがないだろ。頼まれたんだから。
という事で色々な意味の視線を受けながら、組合の施設を後にした。