異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第161話『家に生まれた場所(プール)

 分厚い壁で仕切られた場所。

 壁の割に薄い扉を開けた向こう側には信じられないくらい大きな空間が広がっていた。

 いや、拡張と言っても限度があるだろう。

 

「とんでもないですね。これは……」

「驚いたか?」

「驚いたなんてもんじゃないですよ。いや、家の敷地よりも広いんじゃないですか?」

「いや、お前さんが一番良い奴を買ってくれって言ったんだろうが。これが一番良い奴だよ」

「良い奴って、質とかじゃなくて広さの話だったんですね」

「まぁな。質って言っても、この手の空間系魔術は誰が作っても早々変わらねぇんだ。ほら、ゲームとか遊んだことないか? アレも拡張系の魔術使ってるんだぞ?」

「……そういえば、そうでしたね」

「まぁ、とは言ってもだ。ゲームはまた別の技術だけどな。精神だけを拡張した空間に入れるとか何とか。そういう技術だから」

「なるほど」

「という訳で、家に使える技術の一番高い奴がコレだ」

 

 俺は当たり前の様に告げられた職人さんの説明に言葉を失ってしまった。

 しかし、特に後悔はしていない。

 別に使った金もそこまで多くは無かったし。

 

「わ、すごい……! これが、ぷーる?」

「そう。まぁ、俺も色々と想定外なんだけど。これがプールだよ。じゃ一緒に中を見てみようか」

「うん!」

 

 嬉しそうに頷くココちゃんと共に俺はプール空間へと足を踏み入れた。

 しかし、感覚がおかしくなるな。どう考えてもウチの広さとは合ってないし。

 見た目もカラフルで、まるで遊園地である。

 

「じゃあ、順番に説明していくぞ」

「はい。お願いします」

「まず最初に、長距離プールだ。長い距離を泳ぐと聞いたからな。それなりの長さを用意した。3人が同時に泳げるようになってるぞ」

 

 説明を聞きながらプールの横を歩く。

 多分25メートル以上はありそうな気がする。

 学校のプールよりも大きいし……いや、ちょっと記憶が曖昧だけど。

 

「次に、子供用のプールという事で円形の浅いプールを用意しておいた。さっきの長距離は子供が入ると溺れるからな、気を付けろよ。兄ちゃんの胸くらいまでの深さがあるからな」

「それは確かに危ないですね」

「ただまぁ。万が一溺れた時の為の装置はある。ここにあるプールは全て溺れ感知センサーが付いていてな。誰かが溺れていると判断すると警報と動じに対象のプールの水を溺れない程度の量まで全て消す事が出来る」

「それは凄い……!」

「まぁ水の魔術で水を管理しているからこそ出来る事だな。技術とは素晴らしいものだ」

「そうですねぇ」

 

 ココちゃんが一人の時は危ないから遊ばない様に言っておこうかと思ったけれど、便利な装置があるそうで。

 これなら少し安心かなと、桜たちには話しておくことにした。

 俺たちがヤマトへ長い間行っている間に遊んでもらえればと思うからな。

 

「ちなみに、その溺れてる実験とかって出来るんですか? 装置のお試しとか」

「あぁ。出来るぞ。後で試してみるか?」

「是非お願いします」

 

 ひとまずこの後の予定を入れつつ、俺はまた職人さんに説明の続きをお願いするのだった。

 まだまだ奥には気になるプールがいくつかあるのだ。

 

「おう。じゃあ次だな。子供用のプールの向こうにあるのは円形の水流が流れているプールだ。常に水がグルグル回り続けている……という要望だったんだが、これで合ってるのか?」

 

 俺は職人さんの説明を聞きながら、大きなプールの中で水がゆっくりと流れているのを見て、頷く。

 

「合ってますよ。ちなみに、この水の流れなんですけど速さは調整出来るんですか?」

「出来るぞ。ただし、あんまり強くすると危ないからな。限度は設定してるぞ」

「そうですね。そこまで速くするつもりは無いですが、限度設定がされていれば安心ですね」

「まぁ、訓練用じゃなく遊び用って聞いてたからな」

 

 職人さんの気遣いに感謝しながら、俺は興味深そうに流れるプールを見ているココちゃんに話しかける。

 

「どう? ココちゃん。楽しそう?」

「うーん? よく分からない。水が流れてて、どうするの?」

「お風呂みたいにさ。中でプカプカ浮かんでさ。水が流れてるから、ふわふわ楽しい気持ちになるって感じかな」

「うーん?」

「まぁ、その内実際に遊んでみよう。百聞は一見に如かずってね」

 

 首を傾げて疑問符を浮かべているココちゃんの頭を撫でつつ、俺は説明を諦めた。

 正直な所、俺も子供の頃に遊んだだけで具体的にこういう面白い所があるとは言えないのだ。

 だから、俺もみんなと遊びながら楽しんでみようという所だ。

 

「プールの説明はこんな所だな。後は着替えの為の部屋やら、シャワー室やら……風呂場へ直接転移出来る扉も作っておいたぞ」

「色々とありがとうございます」

「いやいや。子供が遊ぶ場所と聞いたからな。俺らも楽しめたよ」

 

 プールの説明も終わり、俺たちはいよいよ今回の改装の本命に向かって移動を始めた。

 

 プールのあるエリアから外へ出て、屋上へと繋がる階段を上る。

 そして、五階こと屋上に足を踏み入れた俺たちは小さな部屋の中で左右を見渡した。

 

 そこは倉庫部屋の様に道具を置く事が出来たり、骨で出来た肥料を置く事も出来るようだった。

 

「ここは屋内に置いておかないといけない物を置いておく場所だ。棚は高さから幅まで調整できるから、適度に調整してくれ」

「はい。助かります」

「そして、収穫物に関してだが、簡易転移装置で地下の食料格納庫に繋がる様になっているから、それを使ってくれ」

「ありがとうございます」

 

 俺は棚や簡易転移装置を確認しながら頷く。

 確かに要望した通りの状態になっているようだ。

 

「うん。道具部屋の広さとしてはこんな広さで大丈夫かな? 時期ごとに違う物を置ける広さもあるし。丁度良さそうだ」

「だいじょうぶ、そう?」

「大丈夫だと思うよ。あまり使わない物は別の倉庫にしまっておくことも出来るしね」

「なるほど」

「あぁ、そのことだが、この倉庫を広げるのならプールで使ってる拡張魔術で簡単に出来るからな。また注文してくれや」

「後からでも追加出来るんですね」

「そういう風に作ったからな。いつでも言ってくれ」

「分かりました」

 

 倉庫の話も終わり、俺たちはいよいよ倉庫の中央にある扉の前へと向かった。

 そして、ココちゃんを前に連れて行って、扉を開ける様に促した。

 

「ココが、あけていいの?」

「勿論。ここから先はココちゃんの場所だからね。俺よりもココちゃんの方が相応しい場所だよ」

「……分かった」

 

 ココちゃんは扉の前で大きく深呼吸をして、覚悟を決めた顔になってから扉に手をかけてココちゃんの体ごと全身で大きくそれを横にスライドさせた。

 俺もココちゃんに合わせてココちゃんが持っている扉とは反対側の扉をスライドさせる。

 

 その結果、扉にしがみついたままココちゃんは、目の前に広がる光景を見る事になる。

 どこまでも遠くまで広がる農園の姿を……!

 

「……すごい」

「そうだね。まさかここまでとは」

「プールの時と同じだよ。空間を拡張しているからな。好きなだけ農地として使えるぞ」

「それは、そうだと思うんですけど、それにしてもプールの数倍くらい大きそうなんですけど」

「そりゃ適応範囲が大きいからな」

「どういうことです?」

「んー、とだな。例えばこの手の大きさのものを拡張すると部屋くらいの大きさしか大きく出来ないんだが、この部屋に使うと、手の大きさを拡張した時よりも大きくなるんだよ」

「うーん。倍率なのか、元の大きさによって増え方が変わるという事か……この辺りを調べている人は居たりしますか? 原理に興味があるんですが」

「あぁ、まぁ、学者の先生がその辺りは調べてるだろうから、そういう知り合いに聞いてみると良い」

「そうですね。そうしてみますね」

 

 俺は職人さんに頷きながら、ゆっくりと、恐る恐る物置から一歩を踏み出そうとしているココちゃんに視線を送るのだった。

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