異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第172話『氷の巨熊(スノーベアー)

 セオストでの新年祭りの為に、セオストには居ない魔物の素材を手に入れる必要がある為、スタンロイツ帝国へと来た、俺とジーナちゃんとリリィちゃんであった。

 が、正式なルートからスタンロイツ帝国へと入った際に、スタンロイツ帝国の皇帝がわざわざ会いに来て、そのまま一緒に魔物狩りをする事になってしまう。

 

 しかも皇帝陛下は護衛の騎士を連れて来ておらず、大丈夫だからと笑っていたが、俺とリリィちゃんは常に皇帝陛下の事を気にしながら森を探索する事になったのである。

 

 そして、森の中を探索していた俺たちは、雪の中に残った足跡から獲物の存在を確認し、気を張り詰めたまま森野奥へと意識を送っていた。

 

「どうやら魔物が近いようですね」

「ほう。どの様な魔物が居そうなのだ?」

「足跡から考えると、おそらくはスノーベアーですね」

「スノーベアーか。ふむ。奴は肉が旨い魔物だな。以前、スノーベアーを狩っているという者たちの村へ行った時に食べさせてもらったが、実に旨かった」

「あー、あったねぇ。そんな事も。エリク君ってば遠慮なく。なんて言いながら食べてさー」

「お前など、おかわり! 等と言って、三枚もステーキを食べていただろう。村人の貴重な食料をバクバクと遠慮なく食べおって」

「良いじゃん! 食べてくださいって言われたんだから!」

「中央の人間が来れば皆、そう言うさ。それに、あの時は援助の為の訪問だったから余計にな」

「ぐ、ぐぅー。で、でも、エリク君だって食べてたじゃん!」

「当然だろう? もてなしを受けてそれを断るなど、我らの為に用意してくれた彼らに対する侮辱だ」

「むー!」

「だから、まぁ。そういう意味では、お前のお陰で救われた部分もあるがな」

「どゆこと?」

「私が旨いと言って食べるのと、お前がバクバクと食べるのはまた意味が違うという事さ」

「うーん?」

「お前の行動には裏が無いからな。村人も嬉しかっただろうという話だ」

「よく分からないけど! ジーナちゃんのお陰で嬉しかった人が居たって事でしょ?」

「あぁ」

「なら、まぁいいや!」

 

 ジーナちゃんは腕を組んで悩んだ末に一つの解決策を出し、満足していた様だった。

 そして、大きく頷くと、俺とリリィちゃんの方を見て笑う。

 

「ねぇねぇ。リョウ君! 折角だからさ! お肉はここで食べようよ!」

「ジーナ。無茶を言うもんじゃない。何をしに来たのか忘れたのか? 魔物を狩って、持ち帰るためだろう?」

「必要なのはお肉じゃないから! ちょっとくらい大丈夫だよ! ね? リョウ君。良いでしょ!?」

「うーん」

「ね! 倒してすぐが本当に美味しいんだよ! ホント! ジーナちゃん嘘吐かない!」

「そんなに美味しいのなら、桜たちが食べられないのに、俺たちだけ食べるのは気が引けるな」

「あー! もうー! そうだったー! リョウ君はそういう人ー!」

 

 ジーナちゃんがショックを受けた様に空中を器用に転がる。

 何度見ても思うが、本当に魔法使いというのは凄いものだな。

 

「余所に行って、少しはまともになったのかと思えば、何も変わらんな。お前は。まったく」

 

 そして、そんなジーナちゃんを見て、皇帝陛下はクスリと笑うと、俺の方を見て微笑んだ。

 何だろうかと身構える前に言葉が飛んでくる。

 

「あー。リョウ殿。すまないが、ジーナの願いを叶えてやってくれないか?」

「それは……構いませんけれども」

「無論、君が先ほど言った他の者へも美味しい状態で届けたいという願いは可能な限り叶えるつもりだ」

「っ! その様な事が可能なのですか?」

「あぁ。スノーベアーの肉は凍らせる事で味をある程度保つ事が出来るからな。セオストに戻るくらいなら味の劣化はほぼしないだろう」

「それは……なるほど。しかし、冷凍させることは」

「それに関しては私に任せてくれ。得意なんだ。凍らせることはな」

 

 皇帝陛下はフッと笑うと指を近くの木の葉に向け、魔術を使うとその葉を一瞬で凍らせてしまうのだった。

 なるほど。そういう魔術もあるのか。

 俺は納得し、リリィちゃんがスノーベアーの解体方法も何となく分かるという事で、実際に狩ってから食べてみようという事になった。

 

 という訳で、サクサクと森の中を進み、雪に覆われた世界の中で、真っ白な体に赤い鮮血を纏わせた大型のクマに遭遇する。

 どうやら別の魔物と戦い、勝利してからそれを食べていた最中らしい。

 

「どうやらタイミングが少々悪かった様で……こちらをもう敵と見てますね」

「おや? 魔物とは出会った瞬間から人間を敵視しているのでは?」

「それはそうなんですけど。そういう生物的な本能からくる敵視ではなく……」

「ふむ?」

「単純に獲物を狙う敵としても認識されているという事ですね」

「なるほど……それはタイミングが悪かったな」

 

 俺は刀を抜きながらスノーベアーに向かって走り、意識をこちらに向けさせる。

 雪上での戦いだ。万が一という事もあるし、皇帝を巻き込んだと知られれば帝国に何を言われるか分かった物じゃない。

 最悪は犯罪者だ。

 

 だから……。

 

「リリィちゃん! そっちは頼む!」

「はい!」

 

 俺は後方をリリィちゃんとジーナちゃんに任せて、一人でスノーベアーを処理するつもりだった。

 しかし。

 

「一人で前に出すぎなのでは無いか?」

「っ!? 皇帝陛下!?」

「言っただろう? 私も運動をしに来たのだと」

 

 皇帝陛下は俺のやや後ろを走りながら手を前にかざして、先ほど見せた氷の魔術を使う。

 手の平から現れた氷の三角錐は勢いよくスノーベアーに向かって放たれるが、スノーベアーはそれを両手で叩き落して砕いてしまうのだった。

 

 俺は怒りを前面に出して、地面を踏み荒らすスノーベアーへと向かっていた足を横に向け、一定の距離を保ちながら、皇帝陛下と話をする。

 

「そうそう容易くはいかないか」

「皇帝陛下。前に出すぎないで下さいね!」

「しかし、前に出なければ、戦いにならんだろう」

「大丈夫ですよ! 先ほどの魔術を好機と思った時に使って下されば! 後は俺が前に出ます!」

「ほう。勇気があるな」

 

 皇帝陛下の言葉になんて事はないと返しながら、俺はいつ突っ込んできてもおかしくないスノーベアーへと向けて加速する。

 皇帝陛下には後方での援護を頼んだからか、ついてくる事はなく、俺は少し安堵しながらスノーベアーの間近へ接近し、振り下ろされる太い腕をギリギリの所でかわした。

 

 動き自体は既に見えているから、この程度は予想出来ているのだが、分からないのは、コイツが冷気を吐き出すという魔術みたいな事をしてくるという事だ。

 それだけは気を付けなくてはいけない。

 

 とは言っても。

 冷気を吐き出す前には予備動作があるらしいから、それを見極めれば良いだけなのだが。

 

 俺は、それが見えるよりも前に終わらせるべく、下から神刀を振り上げる。

 魔力を立つ神刀は容易くスノーベアーの右腕を切り飛ばすと、バランスを崩し、横から飛んできた氷の三角錐に貫かれて命を落とすのだった。

 

「終わったか」

「はい。後は解体するだけですね」

「何ともあっけない物だな。こんな物か」

「まぁ、そうですね。俺が知る限り、魔物狩りは一方的な戦いが多いですよ」

「そういう物か。やはり手慣れた冒険者は凄いのだな」

「あ、いえ。違います」

「うん?」

「こちらが一方的に倒せなければ、魔物に殺されるという意味です。一方的に」

「……なるほど。それは、恐ろしいな」

「はい。だから、魔物狩りはある程度緊張感が必要ですよ」

「うむ。よく覚えておこう」

 

 皇帝陛下は薄い笑みを浮かべたまま頷き、リリィちゃんとジーナちゃんもホッとした様な顔で合流した。

 何だかんだとドタバタしたが、ひとまず一匹目のスノーベアーは倒したし、ジーナちゃんの言う倒してすぐの肉を食べるべく、俺たちは準備をするのだった。

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