ひとまず肉を全て食べて、食後のお茶を飲みながら皇帝陛下の話を聞く。
「スノーベアーの肉が美味なのは、世界的にも有名な事でな。スノーベアーの肉を食べる為ならいくらでも金を払うという者はそれなりに居るのだ」
「まぁ確かに。味はかなり美味しかったですね」
「あぁ。そうだ。特に舌の上でとける様な感覚はスタンロイツに生息している魔物でしか味わう事が出来ないからな。より特別なモノという訳だ」
「なるほど」
「故に、スタンロイツにおいては魔物狩りが一つの産業となっていてな。私がジーナと共に食したのも、魔物狩りを専門で行う村であったのだよ」
「……あの、皇帝陛下」
「なんだ?」
「もしかして、なのですが……スノーベアーの肉を使った店をセオストで開いた場合、どうなるでしょうか」
「非常に人気が出るだろうな。行列が毎日出来るのではないか? 値段によるだろうがな」
「それはまぁ、そうですね」
俺はふむと頷いてからリリィちゃんを見た。
リリィちゃんはうんうんと頷いており、おそらくは祭りの屋台で出す事は出来るという意味だろう。
しかし、問題は保存関連だが。
「ちなみに、保存の為の魔術を教えていただく事は可能ですか? 皇帝陛下に何度もお願いするのは申し訳ないので」
「そういう事なら、ジーナに教えておこう。とは言っても以前に教えたハズだがな」
「そう言われると、覚えている様な気もする」
「覚えておけ。何でも出来る魔法少女。なのだろう?」
「はぁーい」
ジーナちゃんが頬を膨らませながら子供の様な返事をして、皇帝陛下はそんなジーナちゃんに笑う。
そして、俺たちは皇帝陛下から肉に関する情報を色々と聞き、続きの狩りを再開するのだった。
「では食事も終わりましたし。また狩りを始めましょうか」
「そうだな。肉を十分に食ったのだから。お前も仕事をしろよ。ジーナ」
「わーかってるって! ジーナちゃんにお任せだよ!」
「頼もしい話だね。じゃあリリィちゃんは申し訳ないけど、いつも通り後方からの援護をお願い」
「分かりました」
結局それから、スノーベアーを三匹ほど仕留め、持ち帰る事の出来る限界まで俺たちは狩りを続けた。
「長い間付き合っていただきありがとうございます。皇帝陛下」
「いや、構わないさ。十分良い運動になったよ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「うむ。またスタンロイツに来る事があったら呼んでくれ。君たちとの冒険は中々に楽しかった」
「その時が来ましたら、是非」
そして、皇帝陛下への挨拶も終わらせて、俺たちはジーナちゃんにセオストまで転移して貰う。
流石は転移魔法というべきか、一瞬でスタンロイツ帝国の領土からセオストに移動して、俺たちは何の苦労もなく再びセオストへと戻ってくるのだった。
しかし、流石に移動が早すぎたのかセオストの外壁に作られた門を守護する騎士には、驚かれてしまった。
そのあまりにも早い速度に、何かしらの不正が行われたのではないかと疑われたが、まぁそこは信頼と実績を積み重ねた冒険者である故、何とか見逃してもらう。
あまり、ジーナちゃんの転移魔法を多用するのも良くないかもしれないな。
もしくは移動が早い時の言い訳を用意しておくか。
「転移用の魔導具とかがあれば、疑われなくても良いのかもね」
「ありますよ。転移用の魔導具」
「本当に!?」
「はい。ポータルという名前の物が。ただし非常に高価で、使用には申請が必要になります」
「それは……あんまり現実的じゃないね」
「まぁ、そうですね。ですが、個人が持ち歩ける転移装置なんて出来たら世界に革命を起こせますよ」
「……そうか。まぁ、そうだよね」
個人がどんな場所へも一瞬で移動できるというのは、とんでもないリスクだろうからな。
国家の重要な人物が暗殺されやすくなるし、誘拐などの事件も容易く起こってしまう。
「……」
「どうしたんですか? リョウさん?」
「いや、転移の魔術やら魔法やらを使えばどこへでも移動出来るんだろう? そう考えたら、我が家は大丈夫かって不安になってさ」
「うーん。個人の家に転移して何か事件を起こしたという様な話は聞いたことが無いですが」
「でも無い訳じゃないと思うんだよ。事件を起こすのに大きな理由は要らないからさ」
「……それは、確かにそうですね」
「うーん。リョウ君はさ。要するに、誰かが家に転移してきて悪いことをするのが嫌って話がしたいんだよね」
「そうだね」
「じゃあ、ジーナちゃん考えてみようか」
「いいの?」
「うん。家でゴロゴロしてても暇だし。転移魔法、転移魔術へのカウンター魔法でしょ? 何か考えてみるよ」
「ありがたい。助かるよ」
「いいよ。ジーナちゃんも、みんなが傷つくのは嫌だしさ。世の中、悪いことを考える人はいっぱいいるからね」
「そうだね」
ジーナちゃんやリリィちゃんと話をしながら家に帰宅した俺は、ひとまずリビングを抜けてキッチンに入る。
どうやらリビングにもキッチンにも桜たちは居ない様で、出かけてるのか? と思いながら俺たちは地下の保管庫に移動するのだった。
「あ、お兄ちゃん。おかえり」
「なんだ。こっちに居たのか」
「うん。ほら、お菓子を作るのに、特別冷たい大きな冷凍保管庫を作ろうって話になって」
「あぁ。確かに、ある方が良いよね」
「お兄ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ。それでさ。保管庫の奥に拡張部屋を作ってそこを巨大な冷凍保管庫にしてたってワケなの」
「なるほど。それはちょうど良かったよ」
俺はリリィちゃんに背負って貰っていたバッグから冷凍状態で保管しておいた氷臓を取り出して見せる。
桜はそれを受け取って、うんと頷いた。
そして、冷凍保管庫の扉を開くと中に入っていくのだった。
しかし、お土産はそれだけでは無いため、俺たちも桜に続いて部屋の中に入った。
「うぉっ、結構中は寒いんだな」
「地下保管庫自体は温度調整してくれてるけど、ここは逆に温度調整してないんだ。ここで調理する事もあるからさ。何となくの温度を肌で知りたくて」
「なるほど」
「という訳で、この氷臓もここに保管しておきます。と」
「そういえば桜。向こうの保管庫じゃなくて、こっちの冷凍保管庫に入れておきたい食材があるんだけど」
「そうなの? どういう奴?」
「スノーベアーの肉なんだけど凍らせておくことで、美味しく食べられるみたいでさ」
「そうなんだ。適温はあるの? 凍らせるって言っても、色々温度はあるだろうし」
「その辺りはジーナちゃんが詳しいので、ジーナちゃんに説明をお願いしよう」
「はぁーい」
俺は冷凍室に肉を置いてから、説明をジーナちゃんにお願いして外に出た。
後の事は任せて欲しいと言われたからだ。
という訳で、簡易転移装置を使って人手が足りないという屋上までリリィちゃんと一緒に移動するのだった。
そして屋上の扉を開き、外に出た瞬間、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「これは……」
「なんでしょうか。これは……木?」
「たぶん……そうだと思うけど」
俺たちが立ち尽くしていた屋上の入り口からは多くの木々が生えている様子が見えた。
どれもしっかりとした幹であり、いくつかの木の実がなっているのも見えた。
「あ。リョウさん。おかえりー。もう魔物狩りは終わったの?」
「あ、モモちゃん。うん。こっちの仕事は終わったよ」
「流石はリョウさんだね。こっちはようやく木の成長が終わったくらいでさ」
「ようやくって、いや、出かける前には何も無かったけど、もうこんなに大きな木が出来たの?」
「それは、ほら。私ってば特別な存在なので」
「なるほど……」
俺はいたずらっぽく笑うモモちゃんに、笑い返しながら、出会った時の事を思い出していた。
そういえば、森で植物を操っていたなと。
「っ! もしかして! 二人とも手伝いに来てくれたの!?」
「まぁね。お邪魔じゃ無ければ」
「全然邪魔じゃないよ! 手伝ってくれたら嬉しいな! 私たち力仕事がそんなに得意じゃなくてさ!」
「良かった。じゃあお邪魔するね」
俺は屋上に足を踏み入れながら、作業内容を聞くのだった。