さて。
セオストで開かれる新年祭りの為に、魔物を狩り、カカオの木からチョコレートを作り。
チョコレートアイスを作り出す事に成功した。
現在、フィオナちゃん達はチョコレートアイスの量産を始めており、残された仕事は……店の場所確保である。
つまりは俺の仕事だ。
俺は祭りの管理運営を行っている冒険者組合の建物に向かいながら気合を入れる。
例えどの様な方法であろうとも、必ずいい場所を確保してみせると心に誓う。
「うん? リョウ。どうしたんだよ。何か依頼か?」
「いや、今日は祭りの出店の関係で来たんだ。店を出す場所を決めるって聞いてね」
「ま、まさか! お前も店を出すのか!?」
「あぁ」
「なんて野郎だ! 祭りはな! 底辺冒険者が、何とか金を稼ぐ為の場なんだぞ! 高位冒険者が荒らすな!」
「自分。Eランクなんで」
「さっさと昇格しろ!」
冒険者仲間に罵られながらも、俺は冒険者組合の受付で出店の場所決めに参加する事を伝える。
と、受付の人は酷く驚いたような顔をするのだった。
「え!? リョウさんも参加されるのですか!?」
「え、えぇ。マズかったですか?」
「いえ! マズいという事は無いのですが、少々驚いてしまいまして……」
「そ、そうですか」
「セオストの新年祭りは……まぁ、言っては何ですが、冬ごもりで貯蓄の減った冒険者の方がすぐに使えるお金を稼ぐ為に行う事が多くてですね……」
「そう。だから、素材は普通だが、味で勝負する。という店が多いのさ」
「っ! ヴィルさん!」
「やぁ。リョウ。お前も出店を出すんだって? ウチと勝負だな」
「え!? ヴィルヘルムさんも店を出すんですか!?」
「あぁ。子供達が今年は出店してみたいと言っていてね。いい機会だし店を出してみようかって話になったんだ」
「な、何ィー!?」
ヴィルヘルムさんが店を出すと言った瞬間、冒険者組合の中がザワザワと騒ぎ始める。
まぁ、気持ちは分かる。
俺ですら参加されるのは困ると言っていたのに、この冒険者組合でトップクラスの実力を持つヴィルヘルムさんが参加するというのだ。
悲鳴を上げたくなる気持ちも分かるという物だ。
しかし、まぁ参加する事が決まっている以上、騒いでいても仕方がないのだ。
やれる事をやるだけだ。
「では、ヴィルヘルムさんの所とはライバルですね」
「あぁ。楽しみだな。リョウ」
「えぇ。本当に」
「最悪だ。今年は雪が長くて苦しいってんのに、よりによってなんであの二人が参加するんだよ」
「し、しかし、出店はこっちの方が先なんだぜ。ぽっと出の店なんかに負けるかよ!」
「そうだ。俺達には長い時間かけて作り出した秘伝のタレがあるんだ! 負ける筈がない!」
「だ、そうですけど?」
俺は盛り上がる周囲の言葉を拾ってヴィルさんに問う。
ヴィルさんはフッと笑うと、周りの冒険者仲間に返す様に、少し大きな声で語り始めた。
「あぁ。そうだな。まぁ俺たちは素人だからな。ひとまず出来る事をやるだけさ。今、ちょうどアレクが南方の山脈から大鷲の卵をいくつか拾ってきてるんだ」
「大鷲の卵ォ!?」
ヴィルさんの言葉に受付の人が大きな声を上げながら立ち上がった。
そして驚愕に目を見開きながら、ヴィルさんに迫る。
「あ、あの、あの、伝説と名高い大鷲の卵ですか!? 一個手に入れるだけで豪邸を買えるとすら言われる程の! あの!」
「そう。その卵だよ。まぁ、子供が調理しやすい様に卵焼き、スクランブルエッグとかになると思うけどね」
「な、なんて贅沢な……!」
「だからさ。出来れば目立つ所に店を出したいんだ」
「それはそう! それは当然でしょう! 分かりました! 出来る限り良い場所にお店を決めましょう!」
「お、おいおい! 場所決めは話し合いだろ!? 一人だけ先に決めるのかよ!」
「仕方ないでしょう! 流石に! 大鷲の卵は!」
わぁわぁと盛り上がっている場を見て、このままではまずいと俺は声を上げる。
大鷲は確かに凄いかもしれないが、こっちだって負けてはいないのだ。
スタンロイツ帝国でしか手に入らない素材を使った逸品料理なのだから。
「ちょと待ってほしいですね。ヴィルさん」
「うん? どうした、リョウ。俺たちの料理に何か文句でもあるのか?」
「文句はないですよ。ただ、こっちも負けていないという事をお伝えしたく手ですね」
「ほう。じゃあ聞かせてもらおう。リョウがそれだけの自信をもって出す料理を」
「えぇ。良いでしょう。俺たちが出す料理は……! チョコレートアイスです!」
「チョコレート……アイス!?」
信じられないという様な顔で俺を見上げる受付さんに俺はニヤリと笑みを深めた。
そして、その反応は受付さんだけでなく周囲にも広がっていく。
「なるほど。アイスか。スタンロイツ帝国まで素材を取りに行くとは……やるな」
「無論。フィオナちゃん達が作りたいと願った料理ですからね」
「な、何ィー!? 作っているのはフィオナちゃん達だとぉー!? という事は食堂で働いている三人か!」
「リョウの奴! なんて羨ましい!」
「しかし、アイスを作る為には氷臓が必要だし。祭りで出す為にはそれなりの数が必要な筈だ……。ユキウサギでは無いな? 狙ったのはスノーベアーか、スノータイガーか」
「はい。スノーベアーを三匹程捕まえました」
「……それは、大丈夫か? 一応スノーベアーはスタンロイツ帝国の貴重な資金源の一つだろう。あまり乱獲すると、文句が来るぞ」
「あぁ、そこは大丈夫ですよ。スタンロイツ帝国の皇帝陛下と一緒に狩りをしていたので」
「それは、また凄い状況だな……。今度詳しく話を聞かせてくれ」
「はい。そうですね。俺もちょっと話したいので」
俺は困った様に笑うヴィルさんに苦笑で返しながら、頷いた。
しかし、そんな俺たちのノンビリとした空気は、受付から受付さんが身を乗り出す様な勢いで迫ってきた為、吹き飛ばされる事になる。
「す、すすす、スノーベアーを狩ったという事は肉は!? お肉はどうしたんですか!?」
「い、いや。まだどうするか決まってないですけど」
「でも三頭分ですよね!? リョウさんだけでは食べきれないのでは!? お店で、お店で売るんですよね!?」
「そこはまだ決まってないですよ。今はチョコレートアイスを大量に作っている所ですから」
「そ、そそ、それ! それもそうですよ! チョコレートアイス! チョコレート!? アイスはまだ分かりますが! チョコレートなんてどこで手に入れたんですか!? この辺りではチョコレートは買えないはずですよ!」
「いや、カカオの木から実を取ってチョコレートにしたんですよ」
「か、カカカカ、カカオの木から実を取ったぁ!? 山脈を超えたんですか!? 西南の果てにわざわざ行ってきたんですか!? な、なんて事!」
受付さんの興奮は止まらず、俺はどうした物かとヴィルさんに視線を向けたが、ヴィルさんは黙って首を振るだけだった。
どうやら少々やりすぎてしまったらしい。
場所を決める為の話し合いが行われる前に、冒険者組合の建物は混沌に落ちてしまった。
誰も彼も、自分も何も分からず騒ぐばかりだ。
「だ、駄目だ! 素材が強すぎる!」
「禁止! 禁止だろ! セオストで取れる食材以外は使うなよ!」
「だから高位冒険者は参加するなって言ったんだよ! 勝てるワケ無いだろ!」
「そんだけ良い素材使ってるなら端で良いだろ! 街の端に店を出せ!」
「いや、どうせどこに店を出しても客は来るんだから、俺はリョウの店の隣に店を出したいぞ! そこならついでに客が拾える!」
「天才か!」
「いや、しかし、リョウの店で食って終わりだろ!?」
「しかしリョウはデザートしか出さないんだろ? なら全然可能性あるじゃねぇか」
「さっき肉も出すって言ってたぞ!」
冒険者たちの騒ぎはいつまでも終わる気配を見せず、場は混乱したまま、ただ時間ばかりが過ぎていくのだった。
早く決めたいもんだ。