俺とヴィルさんが祭りに店を出すという事で、荒れた冒険者組合であるが。
ある人の登場により、場は沈静化していった。
そう。このセオストで知らない者のいない大物、エドワルド・エルネストさん……のお孫さんであるソラリア様である。
「なに大騒ぎしてるの? 今日は出店の場所を決める日だって聞いてたけど、違うの?」
「あぁ、ソラリア様。お騒がせしております」
「全然大丈夫ですよ。でも、大丈夫ですか? 今日決めて」
「それは勿論でございます! ただいま少々騒いでおりますが、すぐに落ち着きますので!」
「なら良かった」
ニコニコと受付さんに微笑むソラちゃんを何となく見ていた俺は、フッとこちらに顔を向けたソラちゃんと視線がぶつかった。
しかし、ぶつかったソラちゃんの顔は笑顔なのに、何故かプレッシャーを強く感じる物だった。
桜によく似ている。
何だろうか。
「リョウお兄ちゃん」
「あぁ、うん。久しぶりだね」
「……」
「えと、どうしたのかな?」
「私、聞いちゃったんだ」
「な、何をかな……?」
「リョウお兄ちゃん達、冬ごもりの間にアレク君たちと遊んだんだって?」
「あー、まぁ、そういう事もあったね」
俺がソラちゃんの問いを肯定した瞬間、ソラちゃんは頬を膨らませて不満を全身で示した。
そして、ジィーっという擬音が付きそうな程、強く俺を睨みつけると一歩俺に向かって足を踏み出す。
「あったね! じゃないよ! なんで私たちも誘ってくれなかったの!?」
「あ、いや、ほら。雪の中会いに行く事が出来なかったからさ」
「でもアレク君とは遊んでたんでしょ!? ズルいズルい! 私はレイちゃんと二人で毎日つまんなかったのに!」
「まぁまぁ」
「うー! 悔しい! 悔しい!」
はてさて、どうしたものか。
俺は地団駄を踏んでいるソラちゃんから視線をヴィルさんに移した。
が、ヴィルさんは黙って首を振る。
どうやら、うまく逃げる方法は無いらしい。
なら、しょうがないか。
「分かった。ソラちゃん」
「うん!?」
「ソラちゃんを誘わなかったのは悪かったよ。でも、その代わりってワケじゃないけどさ。最近面白い事を始めたんだよね」
「っ!? そうなの!?」
「うん。今回のお祭りが終わったら教えるよ」
「ふ、フーン。じゃあ、その内容次第で許してあげる」
「それは良かった……」
ソラちゃんが、凄く気になっています。という様な顔を抑え、何とか平静に保っているのを見ながら、俺はホッとため息を吐いた。
ひとまず嵐は去った……と思いたい。
が、油断していると再び大嵐になる可能性もある為、俺は慎重に事を進めようと心に誓うのだった。
そして、さらに話を逸らしてゆこうとソラちゃんに話しかける。
「そういえば、これからセオスト新年祭りの出店の場所を決めるって聞いたんだけど。ソラちゃんが場所を決めてくれるって話なのかな」
「ううん。違うよ。私は言い争いになった時、どっちの意見を採用するかって決める人」
「そうなんだ。大変な立場だね」
「まぁね。でもお爺様もルーカスおじ様も良い経験だからやってみろって言ってて。私がやる事になったんだ。ま! 私は大人だからね。しょうがないよ」
やれやれという様なポーズを取りながら話すソラちゃんに、話は逸らせたなと俺は喜びながら、うんうんと頷く。
そして、大人なソラちゃんをそのまま大会議室へと案内するのだった。
例の新年依頼で使った場所だ。
俺は、適当な場所に座りながら話を聞くべく壇上に立つソラちゃんを見る。
『えー。今年もセオスト新年祭りの季節が来ました。お店自体の組み立ては既に始まっていますので、お話合いが終わった後にはもう店舗の貸し出しが出来る筈です』
『例年では、優先店を除き、くじ引き等で判断していた……という話ではあったのですが』
『せっかくなので! 私はじゃんけん大会で場所を決めようと考えています!』
じゃんけん大会?
と、俺は周囲を一回見てからソラちゃんに視線を戻した。
この会場だけで百人近くいるのに、じゃんけんはちょっと時間が掛かり過ぎでは無いかと……。
しかし、ソラちゃんはそんな俺の考えを見通しているかの様にニコリと笑うと、右手を高く上げて合図をする。
『では、今座っている席の隣の方とじゃんけんをして、勝った方は前方へ、負けた方は後方へ移動をお願いします。じゃんけんのルールを知らない方は組合の職員さんに聞いてください』
『他、分からない事がありましたら、そちらも組合の職員さんに。ズルは駄目ですよ。皆さんしっかり見てますからね』
俺は冒険者組合の職員さんに案内されるまま隣に座っていた冒険者とじゃんけんをする事になった。
一応前の世界にあったじゃんけんとルールが一緒な事を確認して、じゃんけんに挑む。
「じゃんけんって、グーチョキパーをいっせいのせ、で出すアレですか?」
「はい。そうですよ。聖女セシル様が争いごとの時には、と人々にお伝えになった儀式です」
「……なるほど」
「はい」
「ちなみに、グーはチョキに勝って、チョキはパーに勝って、パーはグーに勝つ。で良いんですよね?」
俺は職員さんに手の形を示しながら、しっかりと確認して、じゃんけんが俺の知るじゃんけんと完全に一緒だと把握した。
それならばと俺は笑みを深める。
「なんだ、リョウ? じゃんけんは初めてか? 俺はこの儀式を何度もやってるからな。必勝法を知ってるんだぜ?」
「へぇ。そうなんですね」
「あぁ。良いか? リョウ。俺はグーを出すぜ! 良いか? グーだ」
冒険者仲間はニヤニヤと笑いながら握りしめた拳を見せてくる。
そしてこれ見よがしに、グーの形になった拳を前に出しながらじゃんけんを仕掛けてきた。
が、残念だが、全て見えている。
握りしめられた拳の内、二つの指が開かれようとしているのを。
そして、他の指は固く閉じられているのを。
そこまで見えているのなら、俺の出す選択肢は一つだ。
「ば、バカな!? 俺が裏を読まれただとぉ!?」
別に読み合いに勝ったワケではなく、単純に見て判断しただけなのだけれど、わざわざそれを教えてやる理由はない。
という事で、それからも俺はじゃんけん勝負に勝ち続け、遂には全勝という事で、ヴィルさんと対峙する事になった。
「流石だな。リョウ」
「運が良かっただけですよ」
「よく言うよ。見てるんだろ?」
「さて、何のことやら」
ヴィルさんの追求をのらりくらりとかわしつつ、俺は最後のじゃんけん勝負へと挑む。
いや、まぁ。正直なところ、ここで勝とうが負けようが、大通りの角にあるスペースの大きな店は四か所あるから確実に良い店は取れるのだけれど。
色々な事情があり、冒険者組合がある方……つまりは俺の家がある方が安心できる為、そちらを取りたい気持ちだ。
「……ふむ」
「どうしました? ヴィルさん」
「いや、一つ提案をしようと思ってな」
「提案?」
「そう。実は俺たちの欲しい角店は孤児院がある方の区画なんだ」
「っ! なるほど? 俺たちは冒険者組合側の店が欲しいですね」
「なら、争う理由は無いだろ? 祭りの実行委員長」
『は、はい? はいはい』
「じゃんけんしなくても話し合いで決着したから、このまま店決めに入っても良いかな?」
『え? まぁ良いけど、戦わないのー!? 決着見たかったのに!』
「無しだよ。ここでこれ以上精神を消耗させたくないんだ」
「そうそう。頼むよ。ソラちゃん」
『ま、二人がそう言うなら、分かったよ。じゃあお店を選んでください!』
壇上からつまんないなーと言っていたソラちゃんだが。予定も色々あるという事で納得してくれ。
俺もヴィルさんも望み通りの店を手に入れるのだった。
後は店の状態をフィオナちゃん達と確認しつつ、明日の祭りに向けてやることをやるだけだ。