異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第180話『苛烈な戦場(おまつり)へ』

 いよいよ始まったセオスト新年祭りであるが、まぁ当初の予測通り、開店から大盛況。大行列であった。

 最初は何人かが客寄せをしよう。なんて言っていたがとんでもない。

 呼び寄せるまでもなく、人は次から次へと襲い来るのだった。

 

 まるで魔物の襲来である。

 次から次へと途切れることなくやってくる客は。

 アイス、ステーキ、アイス、ステーキ、ステーキ、アイス。アイス、アイス、ステーキと呪文を呟きながら手を伸ばしてきていた。

 新種の魔法かもしれない。

 

 しかし、こちらも負けておらず、桜、フィオナちゃん、リリィちゃんは押し寄せる客の群れを難なく捌き、何も問題を起こさずに回して見せたのである。

 流石としか言いようが無いだろう。

 

 唯一ある問題としては、その様な環境では俺に出来る事など何もないという点である。

 絶体絶命を悟ったイエローチキンの様に、呆然と立ち尽くす事しか出来ないのであった。

 

 だが、いつまでも無用の銅像となっている訳にもいかない。

 俺は俺にしか出来ない仕事を探し、周囲を観察する。

 何か。何か無いか!?

 

「何キョロキョロしてるの? リョウ君」

「俺の仕事を探してるんだ!」

「別にやらなくても大丈夫だよ~。私もそっちで休んでて良いよーって言われたし」

 

 のほほんと、何処からか買ってきたであろうジュースを飲みながら語るジーナちゃんに俺は更に焦りを募らせてゆく。

 このままではいけないという気持ちが余計に強くなった。

 

 別にジーナちゃんが仕事もせず遊び歩ているなんて思った訳じゃない。

 ただ、ジーナちゃんと同じ様に、のほほんとしている程、心に余裕がないだけだ。

 

 という訳で、俺は出店の周りで仕事を探したのだが、生憎と良い仕事は無いのであった。

 絶望である。

 これで、俺も戦力外という事だ。

 

 これほど悲しい事があるだろうか。

 

「……」

「まぁまぁ、元気出しなよー。ほら、ジーナちゃんのジュース分けてあげるから」

「悪いね」

 

 ジーナちゃんから貰ったジュースはおそらく果汁のジュースでかなり甘いものだった。

 しかし、のどに張り付くような感覚はないし。かなり飲みやすいモノである。

 

「どう?」

「」あぁ、美味しかったよ

「~~! お兄ちゃん! こっち手伝って!」

 

 ジーナちゃんと出店の近くにある椅子に座ってぼんやりとしていたら、桜からの呼び出しである。

 おぉ、神はまだ居たのだな。

 俺は強い喜びを感じながら桜の傍に駆け寄っていった。

 

「何か仕事か? 桜」

「……暑いから、うちわ扇いで」

「おぉ、確かにそうだよな。気づかなくてごめんな」

 

 俺は鉄板の近くで頑張っている桜が涼しくなる様にと邪魔にならない程度にうちわを扇ぐ。

 そんな俺と桜をフィオナちゃんとリリィちゃんは楽しそうにクスクスと笑いながら見ているのだった。

 いや、すまないねぇ。役に立たないお兄ちゃんで……という感じだ。

 

「ふふ。サクラちゃん。あんまりイジメちゃ駄目だよ?」

「むー。分かってるモン」

 

 実に和やかな会話をするフィオナちゃんと桜を見ながら、俺は程度にうちわを扇いで風を送る。

 完全に涼しくする事は不可能だが、それなりに涼しく感じれば良いという様な考えだ。

 

 それから俺はしばらく、うちわを扇ぐ人になっていたのだが、何故か申し訳なさそうな顔をした桜にクビを宣告され、悲しみに震えながら再び銅像の場所へと戻るのだった。

 悲劇だ。

 

 ただ扇ぐだけでなく、もっと有能アピールをするべきだっただろうか?

 全ては今更な話であるが。

 

「おかーりー」

「あぁ、ただいま」

「はい。お仕事お疲れさまでしたーのお肉」

「あぁ、串焼きだね。美味しそうだ」

 

 ジーナちゃんから貰った串焼きは、かなり味付けが濃く、疲れた体にはちょうど良いモノだった。

 疲れが癒えていくようである。

 

 しかし、食べながら気づいた。

 そういえば桜たちはいつ休憩を取るのだろうかと。

 行列はいつまでも途切れる事はないし。どこかで休まないと倒れてしまうのではないか。

 

 そんな不安を感じながらいつ交代をお願いしようかと出店を見ていた俺は、いつの間にかココちゃんがサポート役として店の奥で立っている事に気づいた。

 そして、桜・フィオナちゃん・リリィちゃんが、ココちゃんのサポートを受けながら、ミクちゃん・モモちゃん・リンちゃんに人員を交代していく。

 実に鮮やかな流れ作業による人員交代作業だった。

 

 切り替わりの際に発生する人員の欠落を、ココちゃんのサポートによってカバーする事で実質遅れなしで対応してみせたのだ。

 もはやプロの店と言っても過言では無いだろう。

 

「お兄ちゃん!」

「あぁ、桜。お疲れ」

「うん。じゃあ、お祭りを見て回ろうよ!」

「そうだな」

 

 店の店員としては役に立てなかったが、桜と共に祭りを回る権利は貰えた様だった。

 という事で、久しぶりに兄と妹の二人で祭りを見て回る事にするのだった。

 

「色々なお店があるんだねぇ」

「そうみたいだね。そして、知り合いの店もだいぶ多いみたいだ」

 

「おーい! リョウ! 妹ちゃんとデートか!? デートにはやっぱりイエローチキンの肉だな!」

「聞いたことないぞ!」

 

「ふふ。お兄ちゃんは大人気だね」

「どうかな。桜が人気だから一緒に話しかけているだけという話もあるぞ?」

「そんな事ある?」

「そりゃあるさ。桜は可愛いし、働き者だし。みんな好きになるよ」

 

 俺はこちらの世界に来て、大きく成長した桜を見ながら笑う。

 こちらの世界に来て、そろそろ一年だ。

 もう一年というか、ようやく一年というか。たった一年というか。

 それは分からないが、桜はとても成長した。

 

 それは良い事なのだけれども、兄としては少しだけ複雑である。

 いつか大きな空の向こうへ旅立ってしまうのだろうから。

 でも、それが桜の幸せなのだから、兄としては祝福するべきだと思うのである。

 

「うん? あぁ、亮か。それと……そっちが前に言っていた妹か?」

「あ。瞬さん。お久しぶりです」

「あぁ、久しぶりだな」

「瞬さんも祭りの見学に?」

「あぁ。またセオストを離れる事になったからな。最後に楽しんでいるという訳だ」

「なるほど」

 

「ところで、今回の祭りでチョコレートアイスという甘味が売られているという話を聞いたのだが……店の場所は知っているか?」

「あぁ、それならウチの店ですよ。大通りと大通りがぶつかる十字路の角にあります」

「そうか! お前の店か! なるほど。では味も期待できそうだな。俺はこれで失礼するぞ」

「あ、はい。美味しいので、是非味わってみてください!」

「あぁ!」

 

 瞬さんは見た事が無いほどに楽しそうな様子で人込みの中を速足で去って行った。

 甘味が好きなのだろうか。

 あまりイメージとは合わないけれど。

 

「……と、どうしたんだ? 桜」

「ううん。知らない人だったからビックリしちゃっただけ」

 

 そして、俺は去っていった瞬さんの事を目で追いながらも、俺の背中に張り付いた桜へと言葉を向ける。

 桜はまるで昔の様な人見知りに戻ってしまったかの様に、瞬さんから隠れているのだった。

 どうしたのだろうか。

 

「そっか。まぁ、そういう事もあるよな」

「……」

「桜?」

「あの、ね。お兄ちゃん」

「うん」

「ヤマトに行っても、必ず帰ってきてね」

「まぁ、ヤマトまでの行き帰りを護衛するって依頼だから、必ず帰ってくるよ」

「絶対だよ。必ずだからね!」

「あ、あぁ」

 

 俺は桜に強く迫られながら、分かったよと頷いて、不安そうな桜の頭を撫でる。

 が、しかし。

 桜の不安は消えないらしく、俺に寄り掛かりながら辛そうな顔でため息を吐くのだった。

 

「桜。心配しなくても、お兄ちゃんは桜のお兄ちゃんだからな。桜が独り立ちするまで、傍にいるよ」

「……ぷー」

「うん!? なんで、そこで不機嫌になるんだ!? 桜!」

「お兄ちゃんの事なんか、知らない!」

「桜ー!?」

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