昨晩は、女性陣が盛り上がり続け、俺はそれを黙って聞きながら、適度な所で明日も早いからと言い、眠って貰った。
いや、まぁテントに入ってからもコソコソ話す様な声は聞こえていたからすぐに寝たという様な事もないのだろうけど。
それでも体を横にしているだけ、座っているよりは幾分か体力も復活するだろうと思う。
どうなるかは分からないけど。
と、考えながら俺は朝日を全身で浴びつつ、体を起こし伸びをするのだった。
昨晩は襲撃もなく、俺も浅い仮眠ながらしっかりと眠る事が出来たので、それなりに体力も回復した。
ヤマトがどれくらい魔物を狩っているか分からないが、おそらくはセオストとヤマトの中間あたりが一番危険地帯となるだろう。
「だからまぁ、今くらいは楽しんでいる方が良いだろうなぁ」
「はい。私もそう思います」
「……まぁ、リリィちゃんも昨晩は大変お楽しみでしたけどね」
「え!? いや! アレは! その! そういう事では無くてですね!」
「うんうん。分かっておるよ。まぁ、しょうがないよね。という様な気持ちでもあるよ」
「そ、そうなんです。分かって下さいますか」
「男も何人か集まれば可愛い女の子の話くらいはするし。女の子も同じだって事だね。分かるよ」
「違うんですよ! 亮さん!」
必死に叫ぶリリィちゃんに、ハハハと返しながら俺は昨晩の夕食を再利用した朝食の準備をしつつ、片付けられる部分は片付けてゆく。
モモちゃん達が起きて、朝食を食べ次第、いつでも出かけられる様に準備をする為だ。
「ふぁぁあ。おはよう。二人とも早いわねぇ」
「まぁ、依頼主様より遅く起きる事は無いですよ」
「あらま。だいぶお堅い口調になっちゃって。昨晩はちょっと遊びすぎちゃった?」
「いや、別にそういう訳じゃないよ。ちょっと冗談っぽく言っただけ」
「まぁ。なんて素晴らしい冒険者様なのでしょう! 感動だわ。それで? 冒険者さん。ワタクシの朝食はどこかしら」
「昨晩の残りスープがございますよ。お嬢様」
「なんてこと!? 昨晩の残りスープだなんて! また食べられるなんて感動だわ!」
「それは良かった。ヤマトに着くまでは毎朝、毎晩食べられますから。楽しんでください」
「……ホントに?」
「うん。コレが一番栄養も取れるし、食べやすいからね。調理、管理しやすいっていうメリットもある」
「はー。そうなんだぁ。長距離の旅はオススメしないって言われた理由がよく分かったわ。いくら美味しくても、毎日はシンドイわねー」
「も、申し訳ございません!」
「あ、いや。リリィさんを責めてる訳じゃないから。仕方ないって事くらい私でも分かるわ」
モモちゃんはスープを飲み干すと、ホッと一息ついてから、笑う。
少なくない時間を同じ家で過ごしてきたから何となく分かるが、安心しているという様な顔だった。
「じゃ、そろそろリンを起こしてくるわ」
「え、いや。無理に起こさなくても」
「そんな事言ってると、お昼過ぎまで出発出来なくなるわよ。あの子。朝に弱いんだから」
「あ、そうなんだ」
俺は初めて知った事実になるほどと頷いた。
初めて会った封印書庫の時は離れた場所で寝起きしていたし。
そもそも昼も夜も分からない場所で本を読み続ける生活だった。
家に来てからはそれぞれの個室で寝起きしていたしな。
もしかしたらその時はモモちゃんがリンちゃんを起こしていたのかもしれない。
なんて考えながらリリィちゃんへと視線を向けた。
「リリィちゃんは朝、強いの?」
「はい。ヤマトに居た時から朝は修行の時間でしたから、寝ている子は起きられる様に指導されます」
「そうなんだ」
「はい。ですので、皆、だんだんと早起きになっていきました」
「なるほどね」
何となく、ヤマトは厳しそうな場所なんだなぁと思ったが。
俺も子供の時から早起きを心掛けていたから、あんまり変わらないかと苦笑するのだった。
そして、ヤマトの話が出たついでにちょっとだけリリィちゃんに聞いてみる。
「そういえばさ。リリィちゃんはヤマトに行っても大丈夫なの?」
「大丈夫、というのは……」
「ほら。リリィちゃん。神刀の事も隠してるし。例のお兄さんの事もあるし。ヤマトには行きたくないんじゃないかって思っててさ」
「……いえ。行きたくない訳じゃないんです」
「うん」
「ただ、私はヤマトから逃げ出した身なので、今更何をしに来たのかと言われる可能性はあるかと考えています」
「でも、家族が居るんでしょ?」
「それは、そうなのですが……私は落ちこぼれですから」
落ちこぼれだろうと何であろうと、家族は家族だろう。
と、俺は考える訳だが、どこの家もそうだとは限らないし、口にはしない。
何よりも落ち込んでいるリリィちゃんの顔を見ると、適当な事も言えない物だ。
だから……。
「まぁ、何があってもさ」
「……?」
「セオストには俺達の家があるから。何かあれば、帰れる場所はあるよ」
「……そうですね」
リリィちゃんは少しだけ安心した様な顔で右手をキュッと握りしめて見つめていた。
決意を形にして示す様に。
「あー、ちなみに何だけどさ。リリィちゃんのご家族ってどういう人達なのかな。勿論答えたくないなら答えなくて良いんだけど!」
「ふふ。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。普通の人たちですから」
「そうなんだ」
「はい。ヤマトにおいて、普通の両親でした。娘が神刀に選ばれたと聞いて、十二刀衆になれるかもしれない。という夢を抱いた普通の親」
「……」
「兄様も。妹には負けられないと、毎日修行をしていました。でも、優しくて。分からない事は何でも教えてくれるし、困った事があれば何でも手伝ってくれる。良い兄でした。いつか共に十二刀衆になろう。なんて夢を語っていました」
しかし、そんな家を出て、今リリィちゃんはセオストに住んでいる。
ヤマトへ帰る事も、こんな機会が無ければしなかった。
それが酷く歪で、俺は何があったのかと気になってしまうのだった。
「両親も兄様もとても良い人たちで……もし、私が落ちこぼれで無ければきっと、今でも普通に暮らしていたのだと思います」
「……そっか」
諦めた様な、儚い笑みを浮かべるリリィちゃんに、俺は何もいう事が出来ず、ただ頷いた。
まぁ、頷く事しか出来ないだろう。
ヤマトの事情に詳しくない俺では適当な事しか言えない。
が、しかし。
リリィちゃんの様な強い子でも落ちこぼれてしまうとは……。
ヤマトはどれだけ化け物だらけの恐ろしい場所なのだろうか。
俺もヤマトでは慎重に立ち回らないと、命を落とすだけでは終わらない可能性もある。
「……ヤマト、か」
「……? 亮さん?」
「あ、いや。ごめん。ヤマトは怖い場所だなって思っててさ」
「そうでも無いですよ。国は巫女姫様によって管理されてますし。亮さんは強いですから。何かあっても大丈夫ですよ」
ニコリと笑いながら微妙に不穏な事実を伝えてくれるリリィちゃんに俺は苦笑を返す。
いや、リリィちゃんが落ちこぼれなら、俺もおそらく落ちこぼれになると思うのだけれど。
そんな落ちこぼれでも強いから大丈夫というのは、不安しかない言葉なのだ。
本当に慎重に行動しなくてはな。
俺は再度、強く心に誓いテントから出てきたモモちゃんとリンちゃんに視線を向けた。
眠そうにしているリンちゃんは、確かに朝がだいぶ弱そうに見えて、モモちゃんは苦労したという様な顔をしていた。
俺たちはひとまずリンちゃんの朝ごはんを用意して、半分眠っている様なリンちゃんがノンビリと朝食を食べているのを見ながら、テントの片付けや出かける最終準備を行ってゆくのだった。
ヤマトへ向かう旅の二日目が始まろうとしていた。