モモちゃんとリンちゃんを送り届ける為にヤマトへ来た俺であったが、ヤマトへ入国する手続きをしている間に、謎の侍……北条孝文さんに襲われてしまう。
しかも、神刀を使う彼は恐ろしい程の強敵で……俺は全身に傷を負ったまま戦う事になったのであった。
「では行くぞ! 浜風!」
「……!」
俺は迫りくる北条孝文さんの体を観察しながら、左右に動いて、狙いを外させようとした。
しかし、流石は基本を極めている男、当たり前の様に俺の動きに付いてきて……っ、いや。待て! これは!
迫りくる北条孝文さんを見ていた俺は、ある奇妙な事に気づいた。
左右に現れた北条孝文さんの姿が俺を追って、全く同じ様に動いたのだ。
無論、基本の通りに動いているから。
完璧な動きだから。というのが理由かもしれない、が……もしかしたら、何か他にも理由があるのかもしれない。
と、考えた俺は北条孝文さんの中の一人に向かって神刀を突きだした。
右半身を軽く引いてからの、予備動作の無しで起こした突きの一撃だ。
北条孝文さんは酷く驚いた様に体を無理にひねってかわした後、後方に飛び去った。
そして、数多く見えた分身たちも全く同じ動きをして後方に下がる。
なるほど。
どうやら、あの神刀の力は自分とまったく同じ動きをする分身を生み出す能力らしい。
実体はあるが、独自に動く事は出来ない。
ならば……!
俺はまだ動揺が消えていないのか、動けずにいる北条孝文さんに向かって神刀を構えながら走り出した。
そして、何とか神刀を構えなおして気持ちを取り戻そうとしている北条孝文さんに接近し、神刀の力で現れた分身の中から中央にいた相手に向かって突撃する。
つばぜり合いながら、押し込んでゆく。
「こ、この……!?」
「持ち主が動けないと、分身も動けないんだろう?」
「な! 浜風の弱点を!」
「それに!」
俺はつばぜり合いの中で、左に北条孝文さんの神刀をずらしながら右の方へと抜けてゆく。
北条孝文さんは自ら踏み込んだ力のまま前に倒れてゆき、俺はそんな北条孝文さんの首に神刀を置いて勝利を宣言するのだった。
「戦いが正直すぎるのも、問題かな」
「くっ……! 俺の負けか!」
「運が良かったよ」
俺は神刀を鞘に納めて、地面に両手を付いていた北条孝文さんに手を差し出した。
北条孝文さんはもう満足したのか嘆息しながら俺の手を取り、立ち上がるのだった。
「リョウさん!」
「ん? あぁ、ごめんリンちゃん。突然変な事になっちゃって」
「それは良いです。が、傷を治しませんと」
「治すって言われても……包帯はバッグの中に」
入ってるよと言おうとして、俺は目の前の光景に目を見開いた。
先ほどまで負っていた傷は淡い光が体を包むのと同時に癒されてゆき、気が付いた時には見えていた全ての傷が消えていた。
以前同じ様な物を見た事がある。
瞬さんと一緒に旅をしていた、ミラさんという子と同じ力だ。
まさかリンちゃんも同じ力を持っていたとは。
「む? その力。もしやセシル様と同じ力の持ち主か」
そして、リンちゃんの力に北条孝文さんが反応した為、俺はリンちゃんを守る様に前に出て、モモちゃんもリンちゃんの近くに駆け寄ってきて、リンちゃんを守る様に抱きしめた。
しかし、どうやら北条孝文さんに敵意は無いらしく、俺達の反応を見て、勢いよく手を横に振りながら否定の言葉を並べる。
「あ、いや! 誤解をさせたのなら申し訳ない! 別にそちらのお嬢さんをどうこうしようという気はないのだ」
「そうでしたか」
「あぁ。浜風にかけて。悪意はないと誓おう!」
キリっとした顔で言い放った言葉は、まぁ確かに信用できるものだった。
侍が刀に誓うというのだ、問題は無いだろう。
という訳で、俺はモモちゃんにコクリと頷いてから北条孝文さんへの警戒を解いた。
「いや、すまないな。どうも戦い以外の事はさほど得意ではなく。たまにこうして誤解させてしまうのだ」
「まぁ、少しわかる様な気がしますよ」
「そうか? わはは! いやはや。困ったものだな!」
笑いごとでは無いと思うのだけれど。
まぁ、本人が良いなら良いかと俺は軽く流す。
そして、どうやら北条孝文さんとの戦いで良い感じに時間が過ぎていたらしく、俺たちは入国審査の書類は問題なかったと門にいた人に言われるのだった。
ただ、なんだろうな。
文官さんだという人からは、お前も蛮族か。みたいな目で見られてしまい、非常に遺憾である。
いや、俺は仕掛けられただけなのだけれども!
そんな戦い好きみたいな目で見られるのは何か違うのでは無いだろうか!?
なんて、微妙な気持ちを抱えながら俺はモモちゃん達と共に門を超え、ヤマトの国内に入る。
とはいってもまだまだ町は遠そうだし、門の外と変わらない、微妙にしか整備されていない街道を歩いている訳だが。
「でも、リョウさんのお陰ですんなり入れたね」
「やっぱり強い人が居ると、こういう時も困らないんですね」
「……いや、関係ないからね。俺が戦ったのと、入国の審査は、関係ないから」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。というか、見てたでしょ? 俺が書類出している所」
「はい。でも、その後に入国審査として戦ったんですよね?」
「アレはあの人の趣味だよ。趣味。別に入国審査には関係ないの」
「趣味……! 趣味で戦ってたんですね」
「いやーそれは凄いわ。趣味であれだけの戦いをするなんて、これが英雄って事なのね」
「いや、俺じゃ無くてだね」
説明しながらも、どこか言葉が途中で叩き落されているのか、消えてしまっている様な感覚だ。
俺はどうにか説明できないかと、考えながら歩いていたが、どうにもいい案が浮かばない。
そして、悩んでいる間に、街へついてしまい……さらに事態は悪化してゆくのだった。
「やや? 見ない顔だな? 貴様! どこの者だ!」
「……セオストの冒険者ですけど」
「セオストの冒険者が神刀を持って、侍の真似事をしているだとぉ!? 生意気な! 俺が貴様の力を見てやろう!」
「いや、戦うつもりは無いんですが」
「えぇい! 怯えたか! 臆病者め! 良いから抜けぇい! 侍ならば逃げるな!」
「はぁ……わかりましたよ。後悔しないで下さいよ」
先ほど戦った北条孝文さんとは違い我流というか野良剣道というか。
とにかく独自の構えで神刀ではない刀を抜く男に俺は自らの神刀を抜いた。
そして、正面から雄たけびと共に突っ込んでくる男の刀をかわし、懐に入り込んでから素手で刀を打ち落とす。
「「おぉ~!?」」
「クマ狩り大二郎を神刀も使わずに倒したぞ」
「セオストのサムライ。やるなぁ」
「次は俺だ! 俺が勝負するぞ!」
「おぉっ! 良いぞー! 行け!」
「俺様は、山駆けの俊太郎。いざ、尋常に勝負! 勝負ぅ!」
「いやーしかし、流石に小刀であの達人に挑むのは無理があるのではないか?」
「分からんぞ? 速さは俊太郎も中々のモノだからな。それに見てみろ! 俊太郎の奴、足で引っ掻き回す気だ」
周囲を走り回り、両手に持った小刀で背後に回り込む度に攻撃してくる男に、俺は面倒さを感じながらわざと隙を作った。
無防備に背中を晒して、立ち尽くす。
男は俺の隙を見つけたと叫びながら突っ込んできた為、俺はその一撃をよけながら飛び込んだ姿のまま隙だらけの背中に右手で一撃入れ、地面に倒すのだった。
「なんとぉ!? 俊太郎も一撃で!」
「これがセオストの冒険者か!」
「しかし、侍を名乗りながら、刀を使わぬとは!」
「刀を使うまでの相手ではないという事だ! おい! 次の挑戦者はいないのか!」
「ならば俺が相手をしよう! では次は俺だー! セオストの冒険者!」
倒しても、倒しても現れる男たちを見ながら、俺はいつまで続くんだとため息を吐いた。