異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第186話『特異な国(ヤマト)

 セオストを出てヤマトに来るまでは、戦闘らしい戦闘も殆ど無かったというのに。

 ヤマトに入ってからは、人と出会う度に戦いを仕掛けられ、俺は何とか全員を叩きのめして、町の中央を走る道にあった茶屋の外椅子に腰掛けた。

 

 前の世界で見た時代劇の様な街並みの中で、着物を着た人たちが行き交い、目の前には叩きのめした侍たちが倒れている。

 数人、どころではない。

 十数人が地面に倒れ、戦いの感想を言い、周囲の人間と笑い合っていた。

 何なら、酒を持ってきて飲み始める者まで見える。

 

 どういう国なんだ。ここは。

 

 もしかして、桜が気を付けて欲しいと言っていたのはこの事なのか?

 この事を桜は知っていて、俺に警告してくれていたのか。

 ごめんよ。桜……。お兄ちゃん鈍くて分かってなかったよ。

 せっかく警告してくれてたのにな。

 

「やぁ、お疲れさんだね。旅人さん。はい。お茶だよ」

「あぁ、ありがとうございます」

 

 なんて、セオストにいる桜に謝っていたら、後ろから話しかけられ、茶屋の店員さんからお茶を貰った。

 って、いや。貰った、じゃない。払う物は払わないと。

 

「代金を支払いますよ。いくらですか? まだ換金してなくて、セオストのお金しか無いんですが」

「要らないよ。良い物を見せて貰ったからね」

「なるほど……?」

「あぁ、ほら。ちょっと前までこの辺りは雪で閉ざされてたからね。ずっと退屈だったのさ。それで、久しぶりに熱くなる様な戦いが見られたからね。そのお礼」

「そうでしたか」

 

 俺は店員さんの言葉に納得しながら、貰ったお茶を飲む。

 ホッと一息ついている間に、店員さんは店の奥に引っ込み、代わりでは無いが、リリィちゃんたちがこちらに向かってきていた。

 俺はモヤモヤと感じていた事をリリィちゃんに問いかける。

 

「いや、本当に、どうなってるのかな。この国は。リリィちゃんを責めてる訳じゃないんだけどさ」

「そ、そうですね」

「大人気だね。リョウさん」

「嫌な人気だよ。本当に」

「これは、あくまで私の想像なのですが」

「うん」

「おそらくは異国の方なのに神刀を持っているのが珍しいのではないかと」

「珍しいから、戦ってみるか。ってこと?」

「はい。おそらくは」

 

 リリィちゃんの言葉に俺は、思わず天を仰いでしまった。

 とんでもない国に来てしまったと。

 

 しかもリリィちゃんの言葉が正しいとすると、これからも俺は襲われる事になるというのだ。

 とんでもない話である。

 

「あー、多分それだけじゃないと思うよ。お兄さん方」

「そうなんですか?」

「あぁ。少なくともアタシからはそう見えるね。連中はさ。お兄さんが強そうだから挑んでいるのさ」

「……」

 

 嫌な話題が帰って来たなと、俺は店員さんの話を聞きながら思う。

 そして、それとなくモモちゃんやリンちゃんに目線を向けると、やはりというか、キラキラとした目を俺に向けていた。

 最悪だ。ヤマトへ入国する前後にしていた話がそのまま帰って来たじゃないか。

 

「やっぱりそういう事だったんですね。リョウさん」

「誤解だよ」

「でもお姉さんもリョウさんが強いからって言ってたじゃない」

「気のせいだよ。俺みたいな普通の冒険者がそんなに強い訳無いだろう?」

「しかし北条家は十二刀衆に選ばれるくらいの名門なので、北条孝文さんもかなり強い方かと」

「くっ」

 

「あら。お兄さん。北条孝文さんに勝ったのかい? それは凄いわねぇ。どう? お姉さんと付き合ってみない?」

「突然どうしたんですか」

「突然も何も。ヤマトにおいては、力こそが全てなのよ。強い人に恋するのは当然でしょう?」

「何とも複雑な気持ちですが」

「それは大変ね。でも気にしなくても良いわ。その内、気にならなくなるから」

 

 突如として腕を掴んできた店員さんに俺は距離を取りながら警戒するが、どうやら近づいてきているのは店員さんだけでは無かったらしい。

 俺が北条孝文さんに勝ったという話は町の中で加速的に広まり、女性方が集まってきていた。

 先ほどまでの男衆とは違い、実力行使が出来ない分厄介だ。

 

 俺はリリィちゃんに合図をして、リンちゃんをお願いすると、モモちゃんを抱えて、真っすぐに茶屋の屋根に飛び上がった。

 そしてそのまま屋根の上を走ってゆく。

 下の道を走る女性方もそれなりに早いが、鍛えている分だけこちらの方が早く、俺はモモちゃんを抱えたまま町を脱出するのだった。

 

「ふぅ……酷い目にあった」

「ね。結構面白かったわよね」

 

 モモちゃんの鬼畜発言を聞きながら、やや遅れてやってきたリリィちゃんと合流しつつ人のいない場所でこれからについて話す。

 今回の依頼はヤマトへの行き帰りを依頼されているのだが、ヤマト国内での動きは聞いていないのだ。

 

「じゃあ無事にヤマトの内部に入った訳だけど、これからどうする?」

「とりあえず城下町のフソウっていう所に行きたいのだけれど」

「城下町か。どの辺りかな」

「国の中心部ですので、南西の方ですね」

 

 リリィちゃんの言葉になるほどと頷きながら南西の方を見た。

 まだ何も見えないが、城下町である以上、城があるのだろうと思う。

 

 なら、歩いていけばいずれ城が見えてくるか、と俺はモモちゃん達と歩き出そうとした。

 しかし、それに待ったをかけたのはリリィちゃんであった。

 

「あ! と、リョウさん!」

「ん? どうしたの? リリィちゃん」

「いえ。その。フソウまではかなり距離がありますので、どこかで宿を取った方が良いかと」

「ここからフソウまで行く途中に町はあるのかな」

「あー、いえ、そのー」

 

 リリィちゃんがチラチラと後ろを振り返りながら言葉を濁した事で、何となく俺は事情を察した。

 つまりはそういう事だ。

 フソウまでの道のりに町はなく、あるとすれば先ほど立ち寄った町だけだと。

 

 いや、もしかしたらあるのかもしれない。

 が、少なくとも今日中にたどり着く事は出来ないという様な事なのだろう。

 何たる悲劇だ。

 

「あー。そういう感じかー。じゃあ良いんじゃない? まだ旅の途中だしさ。テントで寝起きすれば」

「良いのかい?」

「もちろん。またあの町に戻ると騒動が起こりそうだし。それなら静かな場所で寝る方が良いもの。ね? リン」

「そうだね。私もテントの方が良いと思います。食料はまだありますし。無理に宿を取る必要も無いかと」

「……ありがとう。二人とも」

 

 俺は優しい雇い主に感謝しつつ、フソウへ向かって進み始めた。

 そして、適当な所でテントを張り、夕食の準備をする。

 一応国内である為、たき火をしても大丈夫かリリィちゃんに確認したが、どうやら問題はないらしい。

 

 という訳で、近くに森も無さそうだし、燃料も無いという事でここまで使ってこなかった固形燃料を使いつつ夕食を作る。

 だが、久しぶりに固形燃料を使ったからか、量が分からず、夕食が終わってからも燃え続け。

 いよいよ寝るという様な時間になっても燃えていた為、俺はとりあえず火が消えるまで番をする事になった。

 

 ごうごうと燃える火は、まだまだ寝かせる気はないぞ。と言っている様で。

 疲れた俺は、背の低い草が生える野の上で横になって火を見つめるのだった。

 

 流石に今日は疲れたから、なるべく早く眠りたいのだけれど。

 火はやはり、いつまでも燃えていて、その勢いが落ちる事はない。

 

 こう考えると、やはり自然のたき火をやった方が楽だなと思えた。

 要らなくなれば消せるし。

 

「……ふぁあ」

 

 しかし、眠い。

 ヤマトの国内であるから襲撃も心配ないだろうし、少しくらいは……。

 

「っ!」

 

 目を閉じて、半分眠りの世界に入っていた俺は、少し離れた場所に気配を感じて、飛び起きた。

 左手で神刀を掴みながら構える。

 

 が、しかし。

 現れたのは一人の女性と……桜によく似た少女であった。

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