楓ちゃんやセシルさんと出会ってから色々な事があった。
まぁ、うん。本当に色々な事があった。
そこで言われた話であるが、これからは少し落ち着いて街を歩こうと思う。
そう。俺は別に殺気を周囲に向けながら歩いている訳ではないのだ。
ただ、危険が近づいてくると妹たちが危ないから、警戒しているだけで。
別に戦闘狂だとか、戦いが好きだとか、そういう事は無いのだ。
まぁ、強くなりたいなとは思うし、強くなる為には戦いが大事だと思うが。
それは別に戦いが好きという事にはならないだろう?
と、まぁ。それは良いか。
今はもう別の方、というか元の話に戻っている様だし。
「じゃあ、どうすれば冒険できるのじゃ!」
「護衛を連れて行っていただければ?」
「それじゃ! 冒険じゃないのじゃ!」
「そう言われましてもねぇ。姫様の安全は何よりも大事な物ですから」
「むー!」
抱えた腕の中で不満がありますとアピールする楓ちゃんを見ながら俺は考える。
桜によく似ているからか、放っておく事は出来なかった。
「うーん。楓ちゃんは冒険がしたいんですよね?」
「そうじゃ! 亮! 今すぐわらわをヤマトの外へ連れて行ってくれ!」
「おい小僧。滅多な事はするなよ? 命が惜しいのならな」
「落ち着いてください。無茶な事はしませんから。ただ、俺に一ついい考えがあります」
「話だけは聞こう」
「何か名案があるのか? 亮」
「いや、別に名案という訳じゃないですが……冒険がしたいという事なら、冒険をすれば良いと思うんですよね」
「どういう事じゃ?」
「意味が分からないぞ」
「あー、何といいますか。体験会をしてみれば良いと思うんですよ」
「「体験会?」」
「そうです。冒険入門でも何でも良いんですけど」
俺はコホンと軽く咳ばらいをしてから話を続けた。
別にそう難しい事を言おうってワケじゃない。
「まず、前提なんですけど。最初から楓ちゃんの要望を全部受け取るのは難しいと思うんです」
「だろうな」
「むー! わらわの味方ではないのか!? 亮!」
「落ち着いて下さい。交渉っていうのは、全部は要求せず、少しずつすり合わせてゆくモノなんですよ。大人の楓ちゃんなら分かりますよね?」
「そ、それはまぁ……当然じゃろう!?」
「ですよね? なので、まずはヤマトの近くで冒険を始めましょう。という話なんです」
「ほぅ?」
楓ちゃんは興味深そうに反応を示し、くるっと俺の方に向いて首を傾げた。
俺は楓ちゃんの興味が消えない様に気を付けながら、話を続ける。
「少しずつ、ゆっくりと楓ちゃんがしっかり者だって事を証明していけばいいんです。今はまだそれが足りない」
「むー。面倒じゃのう」
「面倒でも、嫌でも、必要であればやるのが『立派な大人』なんですが……いや、まぁ。楓ちゃんがまだ子供だというのなら、無理強いは出来ないですね」
「そ、そんなワケ……なかろう。わらわはもう大人じゃ。だから……多少嫌でも? やってみせるとも」
「素晴らしい。やはり大人の女性は違いますね」
「であろう!?」
俺は上手くいったなと考えながらうんうんと頷いた。
まぁ、現状の楓ちゃんは自分でもよく分かっていない混乱状態な訳だが。
後々、何だかんだ満足したなという結果に導けば問題は無いだろう。
「それで? 具体的にはどうするんだ。小僧」
「護衛の人は姿を消して、森で冒険をします」
「それじゃ今までと変わらねぇんじゃねぇか?」
「いえ。俺が目に見える護衛として近くに行くので、多少の無茶が出来るのと、護衛の人が本当にギリギリまで手を出さないという状況が作れます」
「ふむ」
「ギリギリまで手を出さないのなら、楓ちゃんも適度な緊張を味わえますし。護衛の人も護衛として見守れるので問題は無いでしょう?」
「助けるタイミングは?」
「無論。護衛の人が助けられる限界で。俺の事は気にせずにどうぞ」
「なるほど。悪くない提案だな」
「ほ、本当か!? 雷蔵!」
「えぇ。我らとしても、姫様がどこかで爆発して暴走するのが怖いですからね。いつも見ている事は出来ないですし」
「そうですね。それは私も気になる所です」
「せ、セシル様まで! わらわはそんな暴走せんわ!」
「しかし、閉じ込めておくというのも精神的に良くないでしょう? ならば、こういう催しも良いかと思いました」
「ううむ、そう言われると返答に困ってしまうのう」
楓ちゃんは周囲の反応に戸惑いつつも、控えめに頷く。
その反応に俺はひとまず心の中で安堵するのだった。
そんなこんなで話し合いは終わったと思うのだが……。
終わった以上、現状として一番必要な事に時間を割いてゆきたいと思う。
そう。現在、世界は夜なのだ。
良い子は眠る時間である。
良い子でなくても、眠る時間である。
話が終わったのなら、俺も眠りたいのだ。
今日は酷く疲れたし。
「あー、申し訳ないんですけど」
「なんじゃ?」
「いえ。そろそろ眠ろうかと思いまして。続きは明日以降にお願いしたいなと」
「もうそんな時間か。仕方ない。雷蔵。野営の準備を」
「ハッ!」
当然の様に、男へ命令をした楓ちゃんは、セシル様の方を見ながらどう寝るかなんて話をしている。
「セシル様、わらわ、亮の並びで良いじゃろ」
「私は構いませんけど、亮さんはよろしいのでしょうか?」
「亮? 問題なかろう?」
「え? いや、楓ちゃん達もここで寝るんですか? 家で寝た方が良いのでは?」
「なんじゃ! 亮が言ったんじゃろ!? 少しずつ冒険をしていけば良いと! だからまずはここで最初の冒険じゃ!」
「それは、まぁ。良いんですけど。俺の事は信用しても大丈夫なんですか? 今更ですけど」
「んー。問題なかろ」
「あら。楓ちゃんがこんなに早く懐くなんて、凄いですねぇ。亮さん」
「いや、俺は何もしてないんですけど」
確かに子供と話すのは慣れているが、それにしたって懐き過ぎである。
何となく流してきてしまったが、異常といえば、異常事態だった。
「んー。何となく。なんじゃが」
「はい」
「亮と一緒に居ると、懐かしい気持ちになるんじゃ」
「懐かしい気持ち、ですか」
「うん。母様たちがまだいた頃みたいな。懐かしい感じ」
「……なるほど」
母様たちが居た頃。
という事は、既に両親が居ないという事だろうか。
もしかしたら兄弟も……。
事件か、事故か。はたまた病気か分からないが、まだ幼い少女が家族を失って独りぼっちというのは寂しいだろう。
俺は、少しでも楓ちゃんの孤独が薄くなる様にと、俯く楓ちゃんを抱きしめた。
桜が寂しそうにしている時と同じ様に。
「……亮。ありがとう」
「この程度は何でもないですよ。俺は楓ちゃんのお兄ちゃんみたいな存在ですからね」
「ふふ。そこは兄だぞ。では無いのか?」
「流石に。楓ちゃんの兄を名乗るにはまだまだ乗り越えなくてはいけない壁が多そうだ」
「ふふふ。なんじゃそれは。そんなモノ。ありはしないよ」
楓ちゃんは楽しそうに、嬉しそうに俺に寄り掛かった。
そして、セシルさんも、楓ちゃんを優しい目で見つめており、俺たちはいつの間にか出来ていた豪華なテントの中で眠りにつくのだった。
楓ちゃんが寂しくない様に、手を繋いだまま。
雷蔵さんが見張りをしてくれるという事で、俺はぐっすりと眠りについたのだが。
朝、リリィちゃんの絶叫で目を覚ます事になる。
「な、なななな、何をしているんですか!? 亮さん!!」
「ん? なんだ。もう朝か……」
「なんだ、もう朝か。じゃないですよ! 亮さんの隣で眠っている方は!」
「あぁ。ヤマトの巫女姫様、楓ちゃんだ」
「あぁ……」
リリィちゃんはあまりの事態に意識を失って……しまう事は無かったが、頭を押さえながらふらついてしまうのだった。