巫女姫様こと、楓ちゃんが起きるまでキャンプ地で待っていた俺達であるが、楓ちゃんとセシル様の起床は昼過ぎとなった。
まぁ、昨晩はだいぶ遅くまで起きていたから、当然といえば当然である。
「ふぁあ。おはよう。亮」
「えぇ。おはようございます」
「なんじゃ? 起きたら知らん者たちがおるではないか。亮の仲間か?」
「いや、俺の仲間というか。俺の依頼主です」
「依頼主?」
楓ちゃんの疑問に応える様にモモちゃんが前に出てニコリと微笑んでから頭を軽く下げた。
「ヴェルクモント王国のミラさんより姫巫女様が困っているという話を聞いて、来ました。モモとリンです」
「モモとリンって……! 勇者たちと共に七つの大災害に立ち向かった! あの!?」
「はい。ミラさんから神樹が弱っているという話を聞いて、再び元気を取り戻すべく、ご協力させていただければ」
「おぉ! ミラから聞いて来てくれたのじゃな!? それはありがたい! では早速、神樹の元へ」
「楓ちゃん」
「なんじゃ? セシル様」
「わざわざ遠くから来て下さったお客様をまた遠い場所へ連れて行くのは可哀想ではありませんか?」
「はっ!? た、確かに! これは申し訳ない事をしたのじゃ。モモ、リン」
「いえいえ! 気にしないで下さい。私たち昨日の夜もぐっすり寝てましたから」
「いや! そういう訳にもいかんじゃろう! まずはフソウの城に来てくれ。神樹の状況も話したいしの」
「……まぁ、そういう事なら、行きましょうか。フソウのお城も見てみたいですし」
「城は綺麗じゃぞ! それに大きくて広い! みなで行こう!」
モモちゃんの返事に大変喜ばれた楓ちゃんは、先頭に立って歩き始めようとする。
しかし、楓ちゃんは起きたばかりでまだ朝ご飯も食べていないし。歩き始める準備もしていないだろう。
という事で、俺は呼び止めようとしたのだが、その前にセシルさんが動いた。
「楓ちゃん。まだ皆さんも準備出来てないですよ」
「はっ! そ、そうじゃな!」
「少し落ち着きましょう。朝ごはんだって食べてないでしょう?」
「う、うむ……そうじゃな。しかし、今から準備するのも大変じゃろう」
「そこは問題ありませ。既に獲物は捕まえています」
「おー。流石は雷蔵じゃの。仕事が早い」
「まぁ、天才ですからね。当然でしょう」
ごく自然にセシルさんと楓ちゃんの会話に入った雷蔵さんだが、確かにいつの間にかテントの傍にデカい魔物が倒れている。
おそらくは運んできたのだろうけど、まったく気づかなかった。
魔術師なのだろうか。
いや、手品師かもしれない。
「え? あれ? あの人だれ……?」
「わ、気が付いたら一人増えてます!」
「あの人は忍衆の雷蔵さんですね」
「忍び?」
「聞いたことがあります。忍者! 忍者ですよね!? ドロンと現れて、ドロンと消えると」
「あぁー私も聞いた事あるわ。へぇー。あれが忍者なんだ」
忍者だった。
いや、確かに言われると納得するような所もあるけれど。
そうか……忍者か。
俺は雷蔵さんの職業というか、立ち位置というか。
存在に納得しつつ、どうせ昼ご飯を食べるなら一緒に食べましょうと提案した。
向こうには大量の肉があるが、野菜やらスープやらは無いように見えるし。
子供がいるのなら、栄養のバランスは大事だろう。
「一緒に食事? どうします? 姫巫女様」
「わらわは一緒で良いぞ! 一人で食べるより、皆で食べた方が楽しいからの!」
「じゃあ一緒に食べましょうか」
俺は楽しそうな楓ちゃんに答えつつ、リリィちゃんや、せっかくなので、モモちゃんリンちゃんとも食事の準備をする。
しかし、モモちゃんリンちゃんが参加するのなら、俺は重労働の方にするかと、重い鉄板を用意して火の準備を始める事にした。
「おぉー、本格的じゃのう」
「あら。こちらの方が美味しそうな物が出来そうですね」
「いや、別に俺は特別な焼き方とかする気は無いですよ。ただ、味付けて軽く調理するだけで」
「十分では無いか! わらわ達は骨のついた肉を焼いて食べるだけだぞ!」
「それは……なかなか野性的ですね。いや、好きな様に食べるのが一番だとは思うんですけれども」
「別に好きで骨肉を食べてる訳じゃないのじゃ!」
「そうなんですか?」
俺は楓ちゃんの魂の叫びに返しつつ、巨大なたき火を作ろうとしている雷蔵さん達の方を見た。
太い木々を組み合わせて……キャンプファイヤーの様な物を作っている。
そして、木々の骨組みにいくつか肉を置くような場所を設置していた。
おそらくは豪快にアレで焼くのだろう。
味付けは……しているのかは分からない。
「えー、っと、どうしますか? 何か多めに肉貰えるみたいなんで、楓ちゃん達の分も焼けますけど」
「欲しいのじゃ!」
「……でも、雷蔵さん達も焼いてくれるみたいですよ」
「そ、それは……うーむ。困ったのう」
楓ちゃんは雷蔵さん達の方を見て、俺の方を見て、うーんと悩む。
まぁ、両方を食べるというのはだいぶ無理があるからな。
しょうがない所もあるだろう。
なら、ここは兄として悩みを解決しなければいけないかな。
という訳で、俺は巨大キャンプファイヤーを作っている雷蔵さんの所へ向かい、勝負を仕掛ける事にした。
「雷蔵さん」
「どうした。小僧。もう飯の支度が出来たのか?」
「あ、いえ。これからなんですが、実は雷蔵さんに勝負を挑みたいと思いまして」
「あん? 前も言ったが、俺様は最強だ。戦う必要なんざねぇんだよ。やりたいのなら瞬や時道辺りに挑め。ヤマトの侍は奴らが一番上だ」
「あ、いえ。そっちじゃなくて、料理で勝負がしたいんです」
「料理で勝負だと? どういう事だ」
「そこまで凄い話でも無いんですけど。俺も姫巫女様に自慢の料理を食べていただきたいと思いまして。ただ……ほら、姫巫女様はまだ子供でお体も小さい。そうなると満足に食べていただけないでしょう?」
「ふむ。確かにな。それで勝負という訳か。俺の料理とお前の料理、姫巫女様がうまいと感じた方を食べていただくと」
「そういう話です」
「フン。まぁ良いだろう。この天才が負ける筈も無いだろうがな! そうと決まれば! おい! 一番良い所の肉を小僧にくれてやれ!」
「良いんですか!?」
「当たり前だ。姫巫女様が試食するんだぞ。品質の悪い物など与える訳がないだろう。腹を壊したらどうする」
「それは、まぁ。確かにそうですね。でも、ありがとうございます」
「気にするな。最終的に姫巫女様が一番うまい物を食べられる。これが最も重要だ。至高の料理を作ってこい。実力以上の最高をな」
「はい」
思っていたよりも、雷蔵さんは姫巫女様を中心に考えて居るんだなと思いつつ、俺は一番良い肉を貰って楓ちゃんの近くに戻った。
そして、名案を思い付いたと言って放置したままであった楓ちゃんに状況を知らせる。
「良い流れになりました」
「ほぅ!」
「俺と雷蔵さんでそれぞれ肉料理を作りますので、それを楓ちゃんに試食していただいて、より美味しい方を完食していただければ。無論両方食べても問題ないです」
「ふむふむ。それは最高じゃの!」
「という訳なので、俺も全力でうまい料理を作ります」
「おぉー! 楽しみじゃのう!」
ワクワクとした楽しそうな顔で笑う楓ちゃんに頷きつつ、俺は調理の準備を始めた。
やるからにはしっかりやる。
しっかりと下味をつける所から始めてゆく。
旅に調味料を持っていく冒険者はよっぽどの料理好きくらいだ。というのは聞いた話だが。
何だかんだ。最低限はみんな持って行ってるし。
俺も出来る分は持っていく。
旨い料理を食べた方が気分も良くなるし、良い事ばかりだ。
と、料理の良さを思いながら、次なる工程に俺は進んでゆくのだった。