異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第193話『ステーキ対決(さいこうの料理)

 この世界に来てから約一年。

 冒険者として活動しながら、鍛えてきたのは料理の腕だ。

 

 まぁ、料理の腕! なんて大袈裟な事を言っても、やっているのは味付けやら焼き方やらを工夫するくらいなのだが。

 それだけでも味は劇的に変わるのだから、これは努力と言っても良いだろう。

 

 そう。料理は剣術と同じ。

 基礎をしっかりとすれば、ある程度良いモノになるのだ。

 プロの腕まで到達する為には、もっと厳しい鍛錬が必要であるが。

 そこはまぁ、追々頑張っていけば良い所である。

 

 という訳で、ステーキ改二式が完成した為、俺は焼けた肉を丁寧に皿に乗せ、別に作ったソースを上からかけてゆく。

 まぁ正直な所、普通に旅をしている間はこんな事しないのだが、今回は特別だ。

 勝負がどうこうというよりも、純粋に美味しいモノを楓ちゃんに食べてもらいたい気持ちである為、出来る工夫は全てやる。

 

「はい。出来ました」

「おぉー! こ、これが! すごいー! 美味しそうな匂いがするぞ!」

「では、後は楓ちゃんの好きなタイミングで」

「分かったぞ! 食べるのは雷蔵の肉が出来てからじゃな!」

 

 楓ちゃんはすぐにでも食べたそうな顔を引き締めて、真剣な表情で肉を焼いている雷蔵さんの方を見た。

 雷蔵さんは尋常じゃない集中力で骨を握りながら火の中で肉を回して焼いている。

 とんでもない熱さだろうに、何も気にした様子を見せず焼き続けているのだった。

 

 そして、俺の料理が完成してから少しして雷蔵さんがまずは楓ちゃんの肉を持って来た。

 ついでに俺たちの肉も持ってきてくれる辺り流石である。

 一緒に食べると嬉しいという楓ちゃんの言葉を実行する為だろう。

 俺も雷蔵さんに負けず、全員分を用意して、皿を渡してゆく。

 

 という訳で、俺は雷蔵さんの持って来た肉を楓ちゃんと一緒に食べたのだが……!

 衝撃。そう、まさに衝撃であった。

 

 旨い!

 ビックリするほど旨いのだ。

 あまりにも完璧な焼き加減と、肉の柔らかさ。

 

 ただ焼くという行為だけでここまで到達するとは……!

 肉の旨さを完璧に全て引き出していると言っても過言ではないだろう。

 

 問題があるとすれば、肉の味しかしないから、多分全部食べたら次は良いかな!? という気持ちになるという所だろうか。

 美味しい肉は何度食べても旨い。とは言うけれど。

 流石に肉の味オンリーで食べ続けるのは難しい所がある。

 

 特にコレは技術が完璧すぎて、どこ食べてもほぼ同じ味がする、というのも問題な気がする。

 いや、人力でそれをやってる事には恐怖を覚えるのだけど。

 

「さて。お前の肉を食ってみるか」

 

 そして、俺が雷蔵さんの肉に驚いている間に、雷蔵さんも俺の用意した肉を箸で食べる。

 一応、ナイフとフォークは用意したのだけれど、ヤマト組は全員箸で食べる様だった。

 こういうところは俺が昔住んでいた所とよく似ているんだよな。

 

「む!? こ、これは!?」

「おぉー! すごい! 美味しいのじゃ!」

「えぇ、スープにもよく合いますし。とても美味しいと思います」

「……良かった」

 

「どういう事だ。小僧。家で作る物ならいざ知らず、どうやって出先でこんな物が作れる」

「調味料を持ってきてるからですね」

「調味料だと……?」

「はい。旅をする日数によって、量を決めて運んでるんです。最悪塩とコショウがあれば、味はそれなりに整いますし」

「ふむふむ」

「なるほど。セオストの方では調味料を小瓶に入れているんですね」

「ヤマトの方は違うんですか?」

「ヤマトの民はあまり遠くへ行きませんからね。大きな入れ物に入れて台所に置いておくのが基本ですね」

「出かける時も家で作ってから出かけるしな。最悪走れば隣町くらいまで余裕でたどり着ける。俺でなくてもな」

「なるほど」

 

 文化の違いかぁ。と思いながら、俺はひとまず持ってきていた小瓶をいくつか雷蔵さんに渡すのだった。

 正直なところ、今回の勝負は俺の負けだし。

 いや、目新しい物を食べたという事で、楓ちゃんの評価は高いだろうけど、美味しいのは明らかに雷蔵さんだった。

 

「良いのか?」

「えぇ。良いものを食べさせてもらいましたし。余分に持ってきた小瓶なので、是非使ってください」

「助かる。これで俺の肉はさらに上の領域へ行ける」

「でしょうね」

 

 味付けなしで、相当にうまい料理を作っているのだ。

 味を付け始めたら上に行くのは当然と言えば当然である。

 

 よくもまぁ、何もなしでここまでやってきた物だ。

 天才という言葉にも頷いてしまう。

 

 しかもここから雷蔵さんの料理はさらに進化してゆくのだろう。

 実に良い事だと思う。

 

 という訳で俺は、肉を食べて疲れた体を癒してくれる野菜のスープを飲みながらホッと一息ついた。

 が、ここである事に気づく。

 

 そう。楓ちゃんのスープが減っていないのだ。

 

「あら? そのスープは楓ちゃんのスープですよ?」

「そ、そうじゃったか! それは気づかなかったのぅ!」

「美味しいですから、是非」

「わ、分かっておるわ。今からな。今から飲むからな」

 

 楓ちゃんは飲むからと言いつつ、スープを横によける。

 そして、セシルさんが飲み終わったのを確認してからセシルさんの器と交換しようとしていた。

 

「楓ちゃん」

「っ! な、なんじゃ!」

「ちゃんと飲まないと駄目ですよ。野菜のスープ」

「わ、分かっておるわ。言われなければ今飲んだのにのー」

 

 楓ちゃんは唇を尖らせながら言い訳を始める。

 良くないなぁ。

 実に良くない姿だ。

 

 教育上よくないと俺の中のお兄ちゃん魂が叫んでいる。

 しかし、いきなり本人を責めるのも問題があるかと思い、ひとまずセシルさんに聞いてみる事にした。

 

「セシルさん。楓ちゃんについてなんですけど」

「はい」

「野菜は」

「そうですね。あまり好きでは無い様で」

「やはり」

 

「ち、違うんじゃ! 食べようと思えば食べられるんじゃよ? ただ、そのな? あるじゃろ。色々」

「色々?」

「色々じゃ! いろいろ!」

 

 楓ちゃんは色々と言葉を並べようとしているが、どうにも難しいらしく、「その」とか「あの」と言いながら困っている様だった。

 まぁ、そうだね。

 

「別に、どうしても野菜を食べなきゃいけないって事じゃないと思うんですよね。俺は」

「そ、そうなのか?」

「あら。亮さんはそういうお立場なのですね」

「まぁ、いやいや食べても、良い事なんて殆ど無いですしね。栄養は取れますけど。栄養って体だけじゃなくて、心の栄養もあると思うんですよ」

「確かに、そうですね」

「でも、まぁ。だからこそ。という訳じゃないですが……こんなに美味しい物を食べないというのも勿体ないなと思う訳ですよ」

 

 俺は、自分用に取っておいた野菜のスープを飲む。

 味はおそらくコンソメスープという奴な気がする。

 おそらく。多分。

 

 少なくとも前に家で食べた時はこういう味で、コンソメスープだとフィオナちゃんが言っていた。

 だから、これはコンソメスープだ。

 

「リリィちゃんやモモちゃん、リンちゃんが頑張って作ってくれた料理という事もありますしね。だから、食べないのは、勿体ないんじゃないかなという気持ちなワケです」

「……ぐ、ぐぅ」

「食事は、味とかもそうですけど、どういう場所で、どういう人と、どういう気持ちで食べたかというのも大事だと俺は思いますよ。だから、イヤイヤ食べても、作った人も悲しいですし。思い出も、やはり嫌な物になってしまいますからね」

「た、食べる! 食べれば良いんじゃろ!?」

「無理はしなくても良いんですよ。楓ちゃん」

「無理なぞしておらんわ! 大人として! 客人が作ってくれた物を食べないというのは、どうかと思っただけじゃ!」

「なるほど」

 

 俺は楓ちゃんの言葉に頷いて、それ以上何も言わずただ見守った。

 楓ちゃんは恐る恐るスープに口を付け、やはり苦手だ。という様な顔はしたが、頑張って飲み、美味しかったとリリィちゃん達に告げるのだった。

 

 無理をしているのは分かったが、それを突っ込むほど俺も野暮じゃない。

 楓ちゃんの頑張りをただ見守るのだった。

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